2005/12/01

平成17年12月号

派遣?請負?

書類上、形式的には請負(委託)契約であるにもかかわらず、実態は労働者派遣であるものを「偽装請負」と言い、違法です。
その理由は、労働者派遣法等に定められた派遣元(受託者)・派遣先(発注者)の様々な責任が曖昧になり、労働者の雇用や安全衛生面など基本的な労働条件が十分に確保されないという事が起こりがちだからです。
請負とは、「労働の結果としての仕事の完成を目的とするもの(民法)」ですが、派遣との違いは、発注者と受託者の労働者との間に指揮命令関係が生じないということがポイントです。自分の使用者からではなく、発注者から直接、業務の指示や命令をされるといった場合には、偽装請負である可能性が高いと言えます。
偽装請負の代表的なパターンは、「代表型」、「形式だけ責任者型」、「使用者不明型」、「一人請負型」の4つです。
「代表型」とは、請負と言いながら、発注者が業務の細かい指示を労働者に出したり、出退勤・勤務時間の管理を行ったりしています。これが最も多いパターンです。
「形式だけ責任者型」とは、現場に形式的に責任者を置いていますが、その責任者は、発注者の指示を個々の労働者に伝えるだけで、発注者が指示をしているのと実態は同じです。単純な業務に多いパターンです。
「使用者不明型」とは、業者Aが業者Bに仕事を発注し、Bは別の業者Cに請けた仕事をそのまま出します。Cに雇用されている労働者がAの現場に行って、AやBの指示によって仕事をします。つまり、労働者が誰に雇われているのか良く分からないというパターンです。
「一人請負型」とは、実態として、業者Aから業者Bで働くように労働者を斡旋します。ところが、Bはその労働者と労働契約を結ばず、個人事業主として請負契約を結び業務の指示、命令をして働かせるというパターンです。
請負で働かせる場合、雇用形態について疑問を持ったときは、私共社会保険労務士にご相談ください。

名刺大の小冊子でできること

名刺大の小冊子に、経営理念をまとめている会社があります。毎年1月1日に発行して、社員全員胸ポケットに入れています。取引先や出入り業者の方にお配りすることもあります。
小冊子は、社長の思いに始まり、社長の使命宣言、経営理念、経営ビジョン(我が社のあるべき姿・我が社の目標)、会社の使命・目的、信条(クレド)、事業領域、価値観、教育理念(職業観・人生観・人間観)、人事理念、会社の行動指針、日常の心構え、営業の心得、今年の合言葉で終わります。
社長の思いでは、社長の事業に賭ける思いを率直に綴っています。以下に引用します。
「私は28歳で職業として○○に出会い、今年で15年になります。この15年間、1つの○○で数多くの人々と出逢いをもちました。1つの○○を通じて、お付き合いをいただき、なおかつ学ばせていただけることに感謝の気持ちでいっぱいであります。」「私は、○○を伝統文化の一つととらえ、社会に広めてゆきたいと思います。」
社長の使命宣言は5つありますが、3番目に「適正な利益をいただき、社員の豊かさと、より良い商品開発・設備投資にむけ、お客様に還元します。」を挙げ、売上至上主義ではなく適正利益第一主義を宣言しています。
経営理念は、「CREAN&HEART 信頼と真心をおとどけしよう」です。社長の思いを凝縮したものです。
事業領域では、「私たちは、○○地区を事業展開地域と考えています。私たちは、毎日・または週3便お届けする新鮮な○○とともに、お店で必要な外食産業用資材を多品種・小ロットで必要な分量のみお届けします・弊社がお店のバックヤードとなります。私たちのネットワークが、お客様をきめ細かくサポートできることを目指します。」と、営業地域・業務内容を明確にしています。この事業領域で、従業員が目指すべきこと、判断基準を具体化しています。
価値観の冒頭では、「私たちは、法令・倫理を犯してまで、利益を追求することはいたしません。」と法令遵守を強調しています。
今年の合言葉は、「守る」です。以下に引用します。
「やらなければならないことは必ずやる。そして、必ずやらせる。やってはいけないことは、絶対やってはいけない。絶対やらせてはいけない。」
名刺大の小冊子でできることは、成果主義賃金制度やコンピテンシーよりも、ずっと大きいかもしれません。

【トピック】
●時間単位の有休 制度化へ
有給休暇を時間単位で取得できるようにするための改正法が2007年の通常国会に上程され、2008年にも導入されることになりそうだ。時間単位の取得日数に上限を設けるなどして、1日単位での取得ができなくなることのないよう検討する。なお、国家公務員は現在すでに時間単位での有休休暇制度を導入している。

●短時間労働者の残業に割増賃金
厚労省は、短時間労働者が契約時間を超えて労働した場合、それが法定時間以内でも割増賃金(5?10%程度)を支払わなければならないとする仕組みを導入する方針だ。労働契約法の制定とあわせ、2007年通常国会への上程を目指す。ただし、今後経営者側の反発は必至。

2005/11/01

平成17年11月号

求人セット型訓練

独立行政法人雇用・能力開発機構が、採用コストを抑えて適材適所の雇用を実現するために「求人セット型訓練」を行っています。
求人セット型訓練とは、履歴書や面接ではわからないその人の適性や能力を見極めるため、職場実習(公共職業訓練として実施)を行った後に採用する制度です。
求人セット型訓練のポイントは、
1 賃金等の支払いは不要
2 訓練委託費をお支払い
3 事業所の保険料負担なし
です。
1.賃金の支払いは不要とは、訓練生へは失業給付の基本手当に加え、受講手当、事業所までの通所手当が支給される場合があるということです。2.訓練委託費をお支払いとは、職場実習を行う企業に対して、訓練生一人当たり月額25,305円(税込)をお支払いするということです。3.事業所の保険料負担なしとは、訓練生は、万が一の事故に備えて、労働者災害補償保険に加入(雇用・能力開発機構負担)しているということです。
求人セット型訓練を利用するには、1.人材を求める事業所が採用に先立ち、人材ニーズに応じた職業訓練コースを設定、2.ハローワークを通じて応募する求職者を選考、3.事業所内で標準3ヵ月の職場実習を実施、4.訓練修了後採否を決定という手続きを経る必要があります。
これまで、製造業では、プラスティック成形金型製作・機械設計・バッグデザイン企画・CAD製図・鋼板切断加工、情報通信業ではプログラマー・デジタル機器設計・WEBデザイナー・ソフトウェア開発・モバイル機器設計、サービス業ではインテリアデザイン・企画開発デザイン、その他では経理実務などで実績があります。
一度ご活用を検討してみてはいかがでしょうか?


年金書類、事前送付サービス始まる

社会保険庁は10月から、厚生年金や国民年金の加入者が年金を受け取る年齢になる直前に年金の請求書類を送付するサービスを始めました。これまでは加入者が自分で気をつけて請求手続に出向く必要があり、不親切との批判が強かったので、従来に比べると利便性は大きく向上するでしょう。

◆60歳から年金を受けることができる人が対象
年金の裁定請求書類は一定の加入期間を満たし、60歳から厚生年金を受け取ることができる人を対象に加入者が60歳になる3ヵ月前に郵送します。書類にはあらかじめ氏名や基礎年金番号、過去の加入履歴などが印刷されており、加入者は説明書に沿って必要事項を記入し、社会保険事務所に持参すれば年金の請求手続ができます。受け付けは60歳の誕生日の前日からです。

◆60歳から受け取れない人には
60歳からは年金を受け取れない人や加入期間が足りない人には、60歳になる3ヵ月前に年金請求の手続きや年金加入期間などを記載した案内はがきを送付します。共済年金に加入していた期間などは、共済組合等から社会保険庁に情報提供されていない場合があり、加入期間として合算されていないこともあるので注意が必要です。
また、共済組合の期間しかない人には、65歳前に各共済組合から年金の裁定請求書が送付されるため社会保険庁からは事前送付は行いません。
65歳から国民年金だけを受け取る人や、年金を受け取る権利があり、まだ請求し忘れている人に対しては65歳の誕生日の3ヵ月前に書類を送付するサービスも同時に始めました。


【トピック】
●民間給与 7年連続ダウン
昨年1年間に民間企業で働く人が得た平均給与額は438万8,000円で、前年を5万1,000円下回っていることが明らかになった。減少は7年連続。内訳は給料・手当が370万1,000円、賞与が68万7,000円。男女別では、男性が540万9,000円、女性が273万6,000円。

2005/10/01

平成17年10月号

接待ゴルフも仕事のうち?

最近では不況の影響で接待ゴルフも減っているといわれますが、週末の接待ゴルフは休日が
つぶれる上に、得意先とのプレーは気を遣うことも多く大変のようです。会社が代休や休日出勤手当の対象としてくれるならいいのですが、社員が要求した場合に認められるでしょうか?
◆休日の接待ゴルフは労働時間ではない
休日の接待ゴルフは、原則として労働時間とはなりません。接待ゴルフの参加が業務の遂行に必要な行為であっても、それはあくまでも付随的なものであり、業務遂行そのものではないため、休日労働と認められることはまずないでしょう。これは、相手に招待された場合だけでなく、業務命令で参加した場合や、会社がゴルフの費用や旅費を負担して休日にゴルフコンペを開催した場合も同様です。
◆例外的に認められる場合もある
接待ゴルフが勤務として認められるためには、いくつかの条件が必要となります。上司の特別な命令があり、そこで具体的で重要な商談を行うなどの業務を伴い、プレー代も会社が負担する場合です。取引先との価格の折衝など重要な交渉の細部を詰めながらプレーするといった場合に勤務となり得る場合があります。
また、ゴルフコンペの準備、進行、接待、送迎など幹事役を上司の業務命令で行った場合は、それが主たる業務である場合は休日労働扱いとなり、会社が休日割増賃金を支払うことが必要となることもあります。
◆ゴルフ後の宴会は?
ゴルフ後の宴会も通常は、勤務とは認定されないでしょう。ゴルフが実際には重要な交渉で、その後の宴会が事実上の「会議」となるというような特別な事情がない限り、ゴルフの後の宴会も業務と認められることはないでしょう。


社員旅行に行かなければ積立金は?

社員の交流を図ったり、結束を強めたりする目的で、毎年、社員旅行に出かける会社も多いと思います。社員旅行のために、月々の給料から天引きで積立てをしている会社もあるでしょうが、もし社員旅行に行かなかった社員から積立金の返還を求められた場合、積立金は返さなければならないのでしょうか?
◆請求があれば返金すべき
労働基準法に社内預金に関する規定があり、利用目的を旅行に限定している場合でも、会社が社員から徴収し、管理する資金という点では、社員旅行の積立金も社内預金の一種と見られています。そのため、社員から要求があった場合、会社は遅滞なく返金する必要があります。
ただし、直前のキャンセルなどで宿泊施設のキャンセル料が発生した場合などは、その社員に現金で請求することができます。
◆給料から天引きする場合
積立金を給料から天引きする場合には、会社には労働者の過半数で組織する労働組合か労働者の過半数を代表する者と労使協定を締結する必要があります。もし、労使協定なしに天引きすれば、違法な社内預金となるため、法定利率を付け、社員の不利益にならないように返金しなければなりません。
◆親睦会費の積立金は
親睦会費などの名目で積立てをしている場合、あらかじめ規約で「旅行に参加しなかった場合、積立金は返還しない」旨を定めておけば、原則返金する必要はありません。規約に定めていない場合には、旅行の準備などの活動経費を差し引いた分を欠席した社員に返却しないと民法上の不当利得に当たる可能性もあるので注意が必要です。
親睦会費か社内預金かは、名称ではなく実態に即して判断されます。親睦会費と称していても会の実態がなかったり、親睦会は存在していても活動の実態がなく社員旅行目的の積立てを行っていたりすれば社内預金と解され、返還の請求があれば返金しなければなりません。


【トピック】
●製造業への派遣事業所を集団指導/大阪労働局
 大阪労働局は29日、派遣・業務請負の適正化に向け、製造業務への労働者派遣を行う191の事業所に対して集団指導を行った結果を発表した。83の事業所で問題点が発見され、改善を指導。製造業務への労働者派遣と業務請負の両方を行っている28の事業所で、契約上は請負としながら、実際には指揮命令を伴う労働者派遣を行っていた。

●労災未加入事業主の罰則強化
 厚生労働省は11月から、業務上のけがや病気を補償する労災保険に未加入の事業主に対し、罰則を強化する。労働基準監督署の加入指導を受けても保険料を払わない事業所で労災が起きた場合、労働者への保険給付額の4割を強制徴収していたものを全額徴収に改めるほか、指導を受けていなくても、一定期間以上、加入手続きをしなければ強制徴収の対象とする。厚労省は未加入事業所は全国で約54万に上るとみており、罰則強化で減少を狙う。

2005/09/01

平成17年9月号

子育て支援による人材確保

次世代育成支援対策推進法(次世代法)が施行されて、半年になります。
次世代法は企業や自治体に対し、2015年3月までの10年間で積極的な子育て支援に取り組むことを求めています。
300人超の従業員を雇用する企業は育児支援への取組みを「一般事業主行動計画」としてまとめ、各都道府県労働局へ届け出る義務があります。
「一般事業主行動計画」を策定するメリットは、2つあります。第一に、安定的な女性の働き手の確保です。女性の働き手の多くは、家庭で育児や介護の問題を抱えています。育児支援に積極的に取り組む企業は、女性にとって魅力的です。第二に、認定マークの取得があります。認定マークの取得は、企業イメージの向上にも役立つからです。認定マークを受けるためには、男性の育児休業取得者1人以上、女性の育児休業取得率70%以上といった基準を一定期間内(2年から5年)に満たすことが要件になっています。認定マークを取得すれば、自社の広告や商品に使用できます。
全国中小企業団体中央会が今年1月に実施したアンケートによると、次世代法の対象になっていない300人以下の中小企業でも、仕事と育児の両立支援に取り組んでいます。例えば、1.保育園の運営や保育所費用の3分の1を補助するなどの育児支援、2.労働時間の短縮や週2日出勤などの労働日数の短縮、3.看護休暇制度を高校生以下にまで拡充するなどの子育て時間の捻出への協力、4.育児休業中の書籍の購入費用支援などの職場復帰支援、5.男性社員の育児休業取得の奨励などの男性の育児への参画支援です。小回りが利く中小企業こそ、従業員一人ひとりの要望に沿ったきめ細かな支援への取組みが可能になります。
「一般事業主行動計画」策定にかかわる相談窓口としては、厚生労働省が指定した「次世代育成対策推進センター」や各都道府県の労働局があります。 
人余りから、一転して団塊の世代の大量定年退職と少子化への取組みが問題になっています。まずは、次世代法に詳しい身近な社会保険労務士にご相談されてはいかがでしょうか。


ゆとり教育と労働時間の削減

大阪労働局の割増賃金の遡及是正支払件数等の推移を見ると、ここ数年で割増賃金支払額が急増しています。
平成14年度の是正支払い件数が52件で、割増賃金支払額は約8億4,000万円。平成15年度には、102件と倍増し、割増賃金支払額は約4倍の約21億1,000万円になりました。そして、平成16年度では、件数に関しては横ばいなものの(98件)、割増賃金支払額は約1.8倍に増え、37億4,000万円でした。
割増賃金支払額は、本来企業が従業員に支払うべきであった時間外勤務手当・休日出勤手当の未払い額の支払いを命じるものです。サービス残業は従業員にただ働きを強いるものであり、未払い残業代をさかのぼって是正するのは労働局として当然の指導でしょう。
OECD(経済協力機構)の統計によると、1979年から1983年にかけてすべての国で平均労働時間が減少しました。ところが、1983年から1999年にかけてで比較すると、統計がわかっている16ヵ国のうち6ヵ国で、その16年間に平均労働時間が増加しているのです。(アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリアなどのアングロ・サクソン諸国、およびギリシアとスウェーデン)。この背景には、サッチャー革命やレーガノミックスによる政策の優先課題が完全雇用から国際競争力に変化したことがあります。製造業の統計を見ると、1980年代に平均労働時間は減少から増加に転じています。
逆に、戦後驚異的な復興を遂げ繁栄を誇った日本とドイツは、1990年代半ばまで労働時間が減少しました。例えば、1950年のドイツ人はアメリカ人よりも年間380時間多く働いていました。しかし、1996年の労働時間をみると、ドイツ人はアメリカ人よりも447時間少ないのです。その結果、現在のドイツは景気停滞と失業に苦しんでいます。労働時間とドイツ経済は正の相関関係にあるといえます。働き者の国が栄え、怠け者の国は滅びるという簡単な道理がうかがえます。
数学教育に力を入れたインドが21世紀のIT産業をリードする一方で、詰め込み教育からゆとり教育に転じた日本では、高校生の学習時間が先進国で1、2を競う短さとなり、ニート問題に苦悩しています。
労働時間の削減が、企業の活力と日本の競争力を殺してしまわなければいいのですが。

【トピック】

●国民年金保険料のカード払いが可能になる
社会保険庁は国民年金保険料の納付率を高めるために、2006年度からクレジットカードによる納付を可能にする。カード払いにすることで、一度の手続きで毎月カード会社からの請求が届くことになり、納付率の向上が見込めるとしている。なお、同庁は2004年度に63.6%だった
納付率を2007年度に80%にすることを目標としている。

●育児休業取得で100万円の助成
厚労省は、育児休業を取得させた企業に100万円の助成金を支給する方針を決めた。支給要件は、
・従業員が100人未満の中小企業であること
・初めての取得者であること(2人目は60万円、3人目以降はなし)
・就業規則に育児休業の規定を設けていること
・半年以上の休業の後、職場復帰したこと
など。来年度予算で概算要求し、5年間の時限措置とする。

2005/07/29

平成17年8月号

労働基準監督署の臨検に必要なもの

労働基準監督官が事業場に立入調査をすることを「臨検」といいます。臨検には、1労期監督・2申告監督・3再監督の3種類があります。労働安全衛生法関係の臨検は予告なしの抜き打ちが多く、労働基準法の関係は帳簿の確認や聞き取りが必要なので、大抵は予告があります。
では、労働基準法関係では、どのような書類の確認が行われるでしょうか。以下は、実際の臨検で提出が求められたものです。できれば、今からでも整備しておくことをお勧めします。
1就業規則(別規程もすべて)
2時間外休日労働に関する協定届(控)
3時間外休日労働に関する協定書(写)
4のほか労働基準法に関する協定書(写)、協定届(控)
5労働時間管理の為に作成している書類(賃金台帳と突合せができるもの)
6賃金台帳(直近3箇月分)
7年次有給休暇管理台帳
8衛生委員会の議事録
9衛生管理体制(衛生管理者・産業医等)に関する選任報告書(控)
10健康診断の個人票
11健康診断結果報告書(控)
12労働条件の明示の為、採用時に労働者に交付しているもの(労働条件通知書等の)サンプル
13会社の概要のわかるもの(パンフレット等)
14会社の組織図


養育期間標準報酬月額特例制度

3歳未満の子を養育している期間、申出手続(従業員の申出により、事業主が社会保険事務所に提出)をしておけば、標準報酬月額が下がった場合でも、年金額の計算については子が生まれる前の高い標準報酬月額(従前標準報酬月額)で計算するという制度です。
この申出は、子が3歳に達するまでの間で、子が生まれたとき、育児休業等が終わったとき、転職したとき等に行います。つまり、このようなときに申出手続をしておけば、その後に標準報酬月額が下がったときに適用されるのです。
たとえば、3歳未満の子がいる社員について
1意識的に残業をしないようにしているので残業代が少なくなった
2引越しによって通勤定期代が下がった
3 管理職になった関係で残業代がでなくなり、結果的に給与が下がった
4 転勤により手当が無くなり給与が下がった
5 妻が働くことになり配偶者手当がなくなり給与が下がった
など、標準報酬月額が下がる可能性のある場合はいろいろ考えられます。
これらの場合、申出をしておけば、将来の年金計算だけは養育期間前の標準報酬月額が適用にされるのです。
しかも、この制度は、専業主婦の妻がいる場合の夫にも適用され、また共働きの場合には夫婦そろって適用されるという点は要チェックです。
逆に、この制度を会社がよく理解し、社員に周知しておかないと、その対象になるはずだった元社員から「手続きミスだ!本来もらえるべきだった年金額との差額を払ってくれ!」などということを言われる日が来ないとも限らないのです。

【トピック】

●サラリーマンの給与所得控除を縮小
政府税制調査会は「個人所得課税に関する論点整理」をまとめ、この中でサラリーマンに対する個人所得課税のあり方についての方向性を
明らかにした。サラリーマンの給与所得控除を縮小する代わりに、確定申告をすることで交通費や語学学校の授業料などを必要経費として課税対象所得から控除する。また、育児をしている世帯には税額控除をするなどもあわせて検討している。消費税の改正と平行して議論を進め、数年内での実現を目指す。

●精神障害による労災が過去最多
厚労省は2004年度の労災補償状況を発表した。これによると、うつ病などの精神障害による労災請求が524件(前年度比77件増)、労災認定は130件(同22件増)でそれぞれ過去最多を更新した。労災認定のうち、3分の1にあたる45件は自殺・自殺未遂で、これも過去最多。認定の内訳は急性ストレス障害と心的外傷後ストレス障害が計71件、うつ病が59件。
業種では製造業が最も多く33件、職種ではシステムエンジニアなどの専門技術職が最も多く43件だった。年齢別では30代が53件、40代が31件で働き盛りでの発症が目立つ。

2005/07/01

平成17年7月分

労働基準監督署の監督指導

労働基準監督官が事業場に立入調査をすることを「臨検」といいます。労働基準法第101条では、労働基準監督官が事業場等に臨検を行い、帳簿や書類の提出を求め、または使用者や従業員に対して尋問を行う権限をもつことが定められています。
臨検には、1定期監督、2申告監督、3再監督の3種類があります。1の定期監督とは、労働基準監督署が計画を定め、その定期的な計画に基づく監督です。2の申告監督とは、労働基準監督署に対し、従業員等から法令違反の申告があった場合に実施されるものです。3の再監督とは、定期監督等のその後の実施状況を確認するためのものです。最近増加しているのは、2の申告監督です。
ところで、労働基準法第102条は刑罰法規であり、ここでは労働基準監督官は司法警察官の職務を行うことが定められています。ですから、労働基準監督官の監督指導に従わない悪質な場合は、送検・起訴に及ぶことも可能なのです。
因みに、労働安全衛生法関係の臨検は予告なしの抜き打ちが多いのに対し、労働基準法関係は、帳簿の確認や聞き取りが必要なために大抵予告があります。
臨検で問題があった場合は、「是正勧告書」か「指導票」が交付されます。是正報告書には、法令違反事項と是正期日が記載されており、期日までに是正して、是正報告書を提出しなければなりません。一方の指導票は、法令違反ではないが労務管理や労働安全衛生法上改善すべき点があると判断された場合に交付されます。これも期日までに報告しなければなりません。
是正監督・指導を無視する場合や虚偽の報告をする場合は、改善の意思がない悪質な事業主と判断されて、送検されることもあります。労働基準監督官の監督・指導は、真摯に受け止めるべきでしょう。
  
JISQ15001

個人情報保護法が完全施行されてから、個人情報漏洩に関する報道が続いています。去る5月24日には、大手情報通信会社による全社員(1万1,835人)の個人情報の紛失が公表されました。
同社によると、4月下旬、社員1人が自宅で作業を続けるため、会社のパソコンから上司の許可を得ずに、社員の所属や役職など約20項目の情報をUSBメモリーにコピーし、持ち帰りました。しかし、帰宅途中にこのUSBメモリーを入れた鞄を紛失してしまったとのことです。同社では、無断で社内情報を持ち出すことを禁じていました。同社は以前にも、運営する不動産売買の情報サイトの顧客4,312人分の個人情報を外部に流出させています。サイト運営を委託した企業の社員が、顧客情報を記録したパソコンを入れた鞄を通勤中の電車の網棚に置き忘れたとのことです。かつて委託企業が犯したミスを、今回は本社の社員が犯したことになります。
個人情報漏洩事件では、悪意・出来心による場合よりも、今回のような不注意やスキル不足、無知による場合が圧倒的に多いと言われています。
個人情報保護に関する第三者認証のわかりやすい仕組みとして、プライバシーマークがあります。プライバシーマーク制度とは、JIS規格のQ15001「個人情報保護に関するコンプライアンス・プログラムの要求事項」に準拠して個人情報の取扱いを適切に行っている民間事業者に対し、プライバシーマークの使用を認める制度です。JISQ15001の要求事項では、個人情報に関するリスク(個人情報への不正アクセス、個人情報の紛失、破壊、改ざんおよび漏洩など)に対して、合理的な安全対策を講じなければならないとしています。これは、経済的に実行可能な最良の技術の適用に配慮する必要があるということです。その会社にとって経済的に実行可能な最良の技術とは、客観的に定められているわけではなく、社長がセキュリティレベルを決定しています。つまり、プライバシーマークを取得していても、一定の基準をクリアしているだけで、漏洩事件を起こす可能性は十分にあるのです。実際に、上述したような漏洩事故が起きています。  
今回、個人情報を紛失した大手通信会社では、指紋認証装置を使った入退室管理を実施していました。しかし、たった1人の社員の行動が元となり、会社に対する信頼を失墜させることになってしまったのです。結局は、人の問題ということでしょうか。

【トピック】
●厚労省が厚生年金への未加入企業の求人紹介停止
厚労省は、全国のハローワークで、厚生年金未加入企業が求人を希望しても、同年金への加入指導に応じない場合には求人紹介を停止する措置を始めた。この措置では、厚生年金に未加入の場合、まずはハローワーク窓口で加入を促す。これに応じない場合、求人票へ社保未加入の旨の明記をするとともに社会保険庁事務所からの指導を要請、改善がなければ、求人を停止する。

●来年度から徴収一元化を一部実施する見込
厚労省は労働保険と社会保険の徴収一元化の実施に先駆けて、早ければ来年度にも保険料滞納・未払い対策を一元化する方針を固めた。労働保険を滞納した企業への督促は年間約36万件(2003年度、年3回分の合計)、厚生年金の滞納は現在(2002年5月)約14万事業所に上る。現在は労働局・社保事務所それぞれで対応しているが、最も手間がかかり、切迫しているこの問題でとりあえず一元化を実施し、次段階へのステップとする構えだ。

2005/06/01

平成17年6月号

成果型退職金制度をご存知ですか

従来の一般的な退職金制度は、退社時の賃金と勤続年数をもとに計算されました。支払い総額は退職時の基本給に、勤続年数が長くなるほど有利となる係数を掛け合わせて算出されます。つまり、一人ひとりの仕事の成果よりも長く勤め上げたことを評価する退職金の仕組みといえます。
しかし、バブル崩壊の影響等により売上が停滞ぎみの企業にとっては、どの社員にも同じように高水準の退職金を約束するのは負担である、と考えるようになってきました。
そこで「成果型退職金制度」が最近になって急速に広がり、厚生労働省によるとすでに大企業の36%が当制度を採用し、今年も大手企業の導入が続いています。
◆成果型退職金制度とは
成果型退職金とは、社員の能力や貢献度、勤続年数を点数に換算し、それをもとに退職時の一時金を算出する方法です。これは、ポイント制退職金とも呼ばれており、毎年の点数を累積し、退社時に一定の係数をかけたものが支払額になります。
◆成果型退職金制度の特徴
成果型退職金は基本給と連動せず、勤続年数による係数の傾斜は緩やかになっています。毎年の成果や役職を反映してポイントを積み上げるため、同じ勤続年数であってもより上の等級に格付けされた者、または早く昇格した者が退職金の額も多くなり、その意味で能力主義賃金を反映したものであるといえます。そのため、企業によっては、仕事で高い成果を上げることで退職金も増える、と強調して社員のやる気を促そうとしています。
◆成果型退職金制度のメリット
成果型退職金制度は、企業からみて以下のようなメリットがあります。
1 昇給による退職金の自然増加を回避することができるため、人件費の削減につなげることができる
2 企業への貢献度を反映させた制度であるため、社員の意欲・モラールの向上が期待できる
3 人材流動化に対応しやすいため、中途入社員にとって不利にならない
◆成果型退職金制度を導入する際の留意点
成果型退職金は「成果を上げた人には報いる」のが前提であるため、毎年の査定を公平に運用できるかが重要になります。評価結果に社員が納得できなければ、不満や不公平感が高まって士気に悪影響を及ぼすことにもなりかねません。そのため、管理職に対して人事評価の研修を実施する企業もあります。

高年齢者雇用安定法

高年齢者雇用安定法が改正されました。65歳未満の定年を定めている事業主は、その雇用する高年齢者の65歳までの安定した雇用を確保するため、1定年年齢の引上げ、2継続雇用制度の導入、3定年の定めの廃止のいずれかの措置(高年齢者雇用確保措置)を講じなければなりません。
この高年齢者雇用確保措置の年齢は、年金(定額部分)の支給開始年齢の引上げスケジュールに合わせ、平成25(2013)年4月1日までに、62歳から65歳まで段階的に引き上げられます。ただし、事業主は労使協定により、2の継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準を定め、当該基準に基づく制度を導入したときは、2の措置を講じたものとみなされます。
高年齢者雇用確保措置のうち継続雇用制度には、勤務延長制度と再雇用制度があります。勤務延長制度とは、定年年齢が設定されたまま、その定年年齢に到達した者を退職させることなく引き続き雇用する制度です。一方、再雇用制度とは、定年年齢に達した者をいったん退職させた後再び雇用する制度です。
継続雇用制度の雇用条件については、高年齢者の安定した雇用の確保が図られたものであれば、必ずしも労働者の希望に合致した職種・労働条件による雇用でなくてもよいとされています。また、常用雇用のみならず、短時間勤務や隔日勤務なども含まれます。
また、継続雇用制度の対象者に係る「基準」については、労使協定で基準を定めることとされました。これは、継続雇用の対象者の選定にあたって、企業によって必要とする能力や経験等が様々であると考えられ、労使間で十分に話し合い、その企業に最もふさわしい基準を労使納得の上で策定するという仕組みを作ることが適当だからです。
ただし、労使で十分に協議の上、定められたものであっても、事業主が恣意的に継続雇用を排除しようとするなど、本改正や他の労働関連法規に反する、あるいは公序良俗に反するものは認められません。
 継続雇用制度の対象者に係る望ましい「基準」は、1意欲、能力等をできる限り具体的に測るものであること(具体性)、2必要とされる能力等が客観的に示されており、該当可能性を予見が可能であること(客観性)の2つの観点に留意して策定されたものとされています。ちなみに、望ましい例とは具体的には、1社内技能検定レベルAレベル、2営業経験が豊富な者(全国の営業所を3カ所以上経験)、3過去3年間の勤務評定がC(平均)以上の者(勤務評定が開示されている企業の場合)などが挙げられます。
基準にかかる経過措置として、事業主が労使協定のために努力したにもかかわらず協議が調わないときは、大企業の事業主は平成21年3月31日まで、中小企業の事業主(常時雇用する労働者の数が300人以下である事業主のことをいう)は平成23年3月31日までの間は、就業規則等により継続雇用制度の対象となる高年齢者にかかる基準を定め、当該基準に基づく制度を導入できることとしています。

2005/05/01

平成17年5月号

労働保険の強制加入の強化

厚生労働省は2005年度から、労働保険(雇用保険と労災保険の総称)に加入していない事業所を強制的に加入させる「職権適用」の強化を決めました。
労働保険は、パート、アルバイトを含む労働者を1人でも雇っていれば、その事業主は加入手続きを行い、労働保険料を納付しなければならないことになっています。
保険料の負担は、労災保険料が全額事業主負担で、雇用保険料は労使折半での負担ですが、コスト負担を嫌うことや事業主の認識不足から、労働保険の加入手続きをしていない中小・零細企業が少なくないという現状があります。
◆事業主が労働保険の加入手続きを怠っていた場合
事業主が労働保険の加入手続きを怠っていた場合であっても、社員が失業や事故にあった際には一定の給付を受けることが可能です。
ただし、故意または重大な過失により加入を怠っていた事業主に対しては、2年間さかのぼった保険料の徴収に加え、罰則として10%の追徴や労災保険給付に要した実際の費用の一部を請求されることになります。
◆未加入事業所の洗い出し
厚生労働省では、現在約2,000人が労働保険の加入促進や徴収業務にあたっていますが、新たに100人の非常勤職員を各地の労働局に配置して、未加入事業所の洗い出しを強化する方針です。
新たに配置される100人には、制度に詳しい社会保険労務士などを「適用指導員」として採用し、地域の業界団体などと協力して未加入事業所の把握や加入指導にあたることになります。
◆それでも加入を拒み続けた場合
度重なる指導や立入検査にもかかわらず、加入を拒み続けた場合には、従業員20人以上の事業所を中心に「職権適用」を発動し、職権で加入手続きをさせて保険料を徴収する方針です。
さらに、2005年10月からは労災保険の未加入に対する事実上の罰則も強化されます。加入指導に応じない悪質な事業所で労災事故が発生した場合には、現状では労災保険給付額の4割を徴収していますが、これを全額負担に改めるということです。
例えば、死亡事故の場合の遺族補償一時金は、賃金の1000日分が支給されますが、この全額負担となると、賃金が10,000円の労働者の場合で1,000万円を負担することになってしまうのです。
※ この「職権適用」の流れは労働保険だけでなく、厚生年金保険の未加入問題についても検討されています。社員にとって老後の生活がかかっている年金問題だけに、より厳しい処置が予想されます。

次世代法の行動計画は策定されましたか?

平成17年4月1日から、次世代育成支援対策推進法に基づく一般事業主行動計画の策定届の受付が、各都道府県労働局で開始されました。
平成15年7月に成立した「次世代育成支援対策推進法」は平成17年から10年間の時限立法のため、1つの行動計画が終了した後も、平成27年3月31日までは次の行動計画を策定する必要があります。
子育てと仕事の両立に必要な環境を整備することで、労働者のモラール上昇による生産力の向上や、出産・育児を理由とする退職者の減少による優秀な人材の確保、定着にもつながります。
◆「一般事業主行動計画」届出の義務
「次世代法」では、次代の社会を担う子どもが健やかに生まれ、育成される環境整備を行う「次世代育成支援対策」を進めるため、事業主に「一般事業主行動計画」を策定し、届け出ることを義務づけています。301人以上の労働者を雇用する事業主は、「行動計画」を策定し、平成17年4月1日以降、速やかに届け出なければなりません。なお、300人以下の事業主に対しては、努力義務となっています。
◆「一般事業主行動計画」とは
労働者が仕事と子育てを両立させ、現在の少子化の流れを変えるために「次世代法」に基づいて事業主が策定する行動計画のことです。1計画期間、2目標、3目標を達成するための対策とその実施時期の3つを定める必要があり、それぞれ下の?)??)の要件があります。
?)一定の目標が達成されるための期間としては2?5年が望ましい
?)アンケート調査等により、労働者のニーズを踏まえた目標で、その達成状況を客観的に判断できるようなもの
?)目標を達成するための対策としていつ、どのようなことに取り組むのか
具体的な内容については、厚生労働省のHPから「行動計画策定指針」が公表されていますので、確認してください。
また、行動計画を策定し届け出た後、一定の認定基準を満たした場合は、都道府県労働局長に申請を行い、認定を受けると、表示(マーク)を広告・商品等につけることができ、企業のイメージUPにつながります。
◆企業の取り組み
「次世代法」の4月施行にあわせて、N社やF社などの大手情報企業が社員の子育て支援策の拡充に乗り出しています。N社は社員が育児のために親の近くに転居する費用などの補助制度を導入し、F社は育児休暇の期間を1年半に延長しています。これらは、子育てと仕事の両立を支援する目的だけではなく、少子化が進むなかで女性戦力を有効に活用するための制度充実を目指しているといえます。

2005/04/01

平成17年4月号

平成17年4月からの年金制度

国民年金未納者数が、平成15年度末で445万人に達し、平成13年からの2年間で120万人近くの増加となったことが発表されました。自営業者の人達が加入する国民年金は、保険料を自分で納めなければならず、給料から天引きされるサラリーマンや公務員などに比べて未納が起こりやすい状況にあります。社会保険庁では、これまで3年ごとに未納者数を公表してきましたが、今後は毎年公表する方針を固めました。
このような未納問題および少子高齢化が急速に進行する中で、将来にわたり「維持可能」で「安心」な年金制度とするための改正が進められています。
◆国民年金保険料の引き上げ
現在の国民年金保険料1万3,300円が、毎年280円ずつ引き上げられ、平成29年度以降には月額1万6,900円で固定されることになります。
国民年金保険料は口座振替にすることができます。また、1年分を前納すると、現金払いよりも530円の割引があります。
◆第3号被保険者の救済
第2号被保険者との結婚により被扶養配偶者となった場合、第3号被保険者となります。平成15年3月までは、本人が市区町村の国民年金課で手続きをする必要がありましたが、手続きを忘れていた場合は未納扱いとなり、遅れて手続きをした場合でも、過去2年分までしかさかのぼることができませんでした。
しかし、今回の改正により、住所地の社会保険事務所に届出を行えば、過去2年以前の期間についても第3号被保険者期間として取り扱うことができるようになりました。
◆在職老齢厚生年金の一律2割カットの廃止
今までの制度では、60歳を超えて年金を受給しながら就労している場合、60歳台前半の方は、年金額の2割が自動的にカットされていました。高齢者の就労意欲を阻害する要因として議論されてきましたが、今回の改正により、一律2割カットが廃止され、年金額と賃金の額に応じた支給停止のみとする仕組みに変更されることになりました。
◆納付猶予制度の新設
現行の免除制度では、低所得者の若者が所得の高い親と同居している場合等は、保険料免除の対象にはなりませんでしたが、今回の改正により、本人および配偶者の前年の所得が一定以下であれば、申請を行うことで保険料の納付を猶予することができるようになり、10年以内であれば猶予した保険料を追納することができるようになりました。ただし、あくまで猶予であるため、年金の受給資格期間には算入されますが、年金額の計算には反映されません。

残業代未払い問題 
   
“人材派遣会社S社が2年間の未払い残業代など計約2億8,000万円を支払った”、“家電量販店大手のB社が社員を管理職扱いし、残業代1億2,700万円の不払いで社長ら書類送検”など、最近の新聞等でも多くの残業代未払い問題が取り上げられています。
◆労働基準監督署の調査
労働基準法や労働安全衛生法などの法令違反の発見と、その違反事項の是正を目的に、労働基準監督署の労働基準監督官が事業場へ立ち入り調査を行っています。
この調査で特にチェックされる項目として、時間外・休日労働協定の提出、割増賃金の適正な支払い、就業規則の作成・届出、労働条件の書面による明示、定期健康診断の実施、18歳未満労働者の年齢証明の備えつけ等があります。
労働基準監督官には、事業場への立ち入り権限や帳簿書類の提出を求める権限、使用者および労働者に対して尋問を行う権限があります。
労働基準法等については、法令違反をしたからといってすぐに罰則を科されるということはほとんどありません。法令違反が、深刻で重大な問題を引き起こさないうちに、労働基準監督署が監督を行い、調査、是正を求めるという監督制度となっています。
◆適正な残業代の支払い
労働基準監督署の調査で残業代の未払い等が発覚すると、過去2年間さかのぼって支払うことはもちろん、予想外の出費で会社の経営にも悪影響を及ぼしかねません。また、会社が大きくなればなるほど、新聞等に取り上げられ、会社の社会的信用が失墜し、その回復には多大な労力が必要となってしまいます。
出勤簿やタイムカードが実態どおりに記録されているか、割増賃金の計算であれば、時間外労働が1.25倍、休日労働が1.35倍、深夜労働が0.25倍の法定以上で計算され、給与締めごとに適正に支払われているか、36協定(時間外・休日労働に関する協定書)は毎年提出されているか等を再度確認し、いつ調査が入っても証明できるよう、日頃から整備しておくことが重要です。

労働基準監督署の調査は、無作為・定期的に対象になる場合もありますが、社員からの「情報提供・申告」による場合も多くあります。労働の対価としての給与は、社員から見ても、わかりやすい給与体系にしておくことが大切なポイントです。

2005/03/01

平成17年3月号

平成17年4月より雇用保険率が変わります

雇用保険率が平成17年4月1日より「1000分の2」引き上げられます。同時に、今まで使用されていた「一般保険料額表」が廃止されることになります。毎月の給与計算等で「一般保険料額表」を使用されていた事業場は、平成17年4月以降は、それぞれ被保険者の方の賃金総額に雇用保険の被保険者負担率を乗じて計算した額を控除することになりますので、ご注意ください。
【平成17年4月以降の雇用保険率】
事業区分  雇用保険料率 事業主負担 被保険者負担
一般事業  19.5/1000   11.5/1000  8.0/1000
建設の事業 22.5/1000   13.5/1000  9.0/1000
農林水産清
酒製造の事業 21.5/1000   12.5/1000 9.0/1000

◆雇用保険料の納付方法
雇用保険の保険料は、労災保険と合わせて労働保険料として年に一度年度更新を行い、毎年4月1日から5月20日までに1年分を納付することになります。労働保険事務組合に委託している場合や、一定の額を超えた場合には分割して納付することもできます。
◆原則として、代表者や取締役は加入できません
法人の代表者や取締役は原則として雇用保険に加入できません。ただし、取締役であっても、同時に部長や工場長など労働者としての役割が強く、雇用関係が認められる場合に加入できることもあります。
また、労災保険についても中小企業の事業主等は特別加入できる場合があります。
◆高年齢者保険料免除とは
4月1日において満64歳以上の労働者については、一般保険料のうち雇用保険に相当する保険料が事業主負担、被保険者負担ともに免除されます。4月1日には社員の年齢を確認し、対象者が在籍している場合には、雇用保険分は控除しないようにしなければなりません。

3月より介護保険料率が変わります

政府管掌健康保険の介護保険料率は、平成17年3月分保険料(平成17年5月2日納付期限分)から、1.25%(現在は1.11%)となります。【労使折半となります。】
給与計算等におきましては、通常4月分より変更になります。尚、同月控除をされている事業所様は注意してください。
これにより、40歳から64歳までの政府管掌健康保険料率は、健康保険の保険料率(8.2%)と合わせて、9.45%(現在は9.31%)となります。
なお、厚生年金保険にかかる保険料率には変更はありません。

2007年問題

「2007年問題」とは、日本の経済成長を支えてきた団塊世代が定年退職を迎えることで、人材・オフィス・税収・退職金支払・消費など日本経済に様々な形で大きな影響を与えるとされている問題のことです。その中でも特に、近年の不況で新規採用を抑えるなどして行ってきた雇用調整により、技術やノウハウを継承すべき人材が育っていないという点について、経済産業省も対策を検討しています。
◆団塊世代とは
厳密には1947年から1949年の3年間に生まれた人たちのことを指します。国勢調査では、この3年間に生まれた人たちだけで600万人を超え、全人口の5.4%を占めています。
財務省の報告によると、団塊世代を含む1945年から1950年生まれが定年により順次退職した場合、2010年に最大110万人の労働力人口が失われ、実質GDP(国内総生産)で最大16兆円のマイナスになるとしています。
◆「人材投資促進税制」が導入
団塊世代の定年退職による人材の激減は、雇用の需給バランスを一転させます。それに今後一段と進む少子化も含めて、社員の確保そのものに加え、いかに優秀な人材に育て上げるかが2007年以降の重要な課題となります。
そこで、人材の確保・育成を図り、人材の国際競争力をつけるための対策として、2005年度より「人材投資促進税制」が導入されることになりました。
◆「人材投資促進税制」とは
2005年度から3年間の時限措置として導入されるもので、企業が社員の研修に要した費用の一部を法人税から控除するというものです。
具体的には、05年度の教育訓練費が過去2年間の平均教育訓練費を超えた場合に、その25%(法人税の10%が上限)が法人税額より控除されることになるもので、中小企業には別途、特例制度が設けられています。
教育訓練費として対象となるものは、講師・指導員等の経費、教材費、外部施設使用料、研修参加費、研修委託費などです。社員の教育・育成を行いながら、法人税が控除されることにより、結果的には増加した教育訓練費より控除額の方が上回ることも可能となります。
企業としては、2007年問題を視野に入れ、人材投資促進税制を有効に活用して、若手社員の育成、熟練従業員による技術・知識のマニュアル化、中途社員の即戦力化に向けた取り組み等をこの機会に行い、各人材に対して各々の仕事の効率を高めさせる必要があると思われます。

2005/02/01

平成17年2月号

65歳までの雇用確保義務付け

昨年6月に高年齢者雇用安定法が改正され、厚生年金の支給開始年齢が65歳に引き上げられたことに合わせて、雇用と年金の間に収入の空白期間が生じないよう、定年の引き上げや継続雇用制度の導入により、65歳までの雇用確保が企業に義務づけられることになりました。この改正法は平成18年4月1日より施行されるため、現在50歳代の社員を雇用している企業は、早急に対策をとる必要があります。
◆改正高年齢者雇用安定法の概要
(1)高齢者の雇用確保については、以下の1~3のいずれかの措置をとる義務があります。
1 65歳までの定年の引き上げ
2 継続雇用制度の導入
3 定年制の廃止
(2)高年齢者等の再就職の促進
1 募集および採用についての理由の提示
2 求職活動支援書の作成
3 シルバー人材センター等の業務の特例
◆定年の段階的引き上げ
概要の(1)の1定年の引き上げ、2継続雇用制度の導入にかかる年齢については、企業の負担を抑える意味で、以下のように段階的に引き上げられます。
期      間
定年年齢
平成18年4月?平成19年3月 62歳以上
平成19年4月?平成22年3月 63歳以上
平成22年4月?平成25年3月 64歳以上
平成25年4月?   65歳以上
◆65歳までの雇用確保の検討
概要の(1)の1?3のうち、どの措置をとればいいのかについては、各企業や社員の規模、雇用している高年齢の社員の人数によっても変わってきます。1や3については就業規則で定めることができますが、それまでの雇用契約が継続することになるため、賃金などの労働条件の変更が難しくなります。
また、2については60歳定年を残すことが可能で、対象者の基準を労使協定で合意するため、臨機応変に労働条件を見直すことができます。

育児・介護休業法が改正

育児・介護休業法の改正案が昨年12月1日に成立し、平成17年4月1日より施行となります。
主な改正点として、現行1年までの育児休業期間を最長1年半までに延長することや、子供の看護休暇が社員の権利として盛り込まれました。
また、現行では対象外となっているアルバイトや契約社員などの有期の社員に対しても、一定の要件を満たした場合には育児休業および介護休業を取得できるようになりました。
子を持ち、働く女性にとっては朗報ですが、その一方、働きたくても子供を預ける保育所が不足しているという現状があります。育児休業を半年間延長することだけでは十分とは言えず、本改正においてもなお多くの課題が残されています。
◆育児休業期間の延長
子が1歳を超えても休業が必要と認められる一定の場合にあっては、子が1歳6カ月に達するまでの休業が可能となりました。
現行の育児休業を取得し、子が1歳の時点で、「保育所に入れない」等の特別な事情がある場合に改めて1歳6カ月を限度として育児休業を取得することができるもので、1歳を超えての育児休業については再度、2週間前までに休業申出の手続きを行う必要があります。
◆子の看護休暇の義務化
現行では努力義務でしかなかった“子の看護休暇”が社員の権利として認められることとなり、要件を充たした社員からの請求があれば、経営者は拒むことができません(アルバイトや契約社員などの有期雇用者も対象となります)。
・対象となる子→小学校就学の始期に達するまでの子
・取得日数→一年度につき5日まで
◆有期雇用者への育児・介護休業の適用
アルバイトやパート、契約社員などの有期雇用者でも、以下のいずれかの要件を充たす場合には育児休業、介護休業の適用対象に加えられることとなりました。
・申出の時点で、1年以上継続して雇用されていること
・子が1歳に達する日を超えて雇用が継続することが見込まれること(ただし、子が1歳に達する日からさらに1年を経過する日までに雇用関係が終了することが、申出の時点で明らかである者を除く)

2005/01/01

平成17年1月号

保険料の節約法

年金改正で2004年10月より会社員の厚生年金保険料が年収の13.934%に上がりました。保険料率は毎年上がり続け、2017年には18.3%になります。
 日本経団連の試算では、保険料が15%になると資本金500万円以上1,000万円未満の中小企業の最終利益は全体で赤字になるとのことです。
このように、負担増ははっきりしているのに、年金の将来像は明確ではないのです。なんとかならないのか、防衛策に走る企業も出てきました。
 そのひとつが、確定拠出年金(日本版401K)の活用です。
 確定拠出年金の非課税限度額が1万円増えて、月4万6,000円になりました。掛金を増やして給与を減らせば、給与に比例して上がる厚生年金の保険料は抑えられます。
 ある会社では、月給から確定拠出年金の掛金にいくら回すかを自分で決められる制度にしたところ、若手社員のほとんどが上限いっぱいまで増額して、同社の担当者を驚かせました。
 ところで、従来の確定拠出金の限度額を前払い一時金として給与に上乗せして支払ってきた会社では、「前払い退職金は給与とみなす」という厚生労働省の通知によって、保険料節約の意味がなくなってしまいました。 
 このため、同社も、支出を抑えるために、前払い退職金分を確定拠出年金の掛金に切り替えたのです。
 また、事業協同組合を活用した保険料の節約策もあります。これは、システムエンジニアなどの技術者が共同で仕事を受注するための事業協同組合です。組合に派遣社員として働いていた技術者を移し、身分を会社員から個人事業主に変えることで、本来ならば派遣社員の厚生年金保険料の半分は雇い主である派遣会社の負担となるところが、国民年金に移ることになり、派遣会社は保険料を負担しなくてよいことになります。国民年金の方が、会社負担も個人負担も軽いのです。
企業や従業員が、覚悟を決めて負担を受け入れようとする年金制度になればいいのですが、当分この動きは止まりそうにありません。

生命保険の手数料


 私たちが普段意識しない手数料として、生命保険の付加保険料があります。
 生命保険料は、大きく分けて「純保険料」と「付加保険料」の2つがあります。
 純保険料は、万一の際の保障や満期の満期保険料に充てられるもので、純保険料は、予定死亡率等により厳密に計算されているものです。たとえば、不幸が起きて、それが契約の直後であっても、高額の保険金を遺族は受け取ることができます。貯蓄だと毎月積み立てても、当初受け取れるのは少額です。この点が保険と貯蓄との大きな違いです。
 一方、手数料である付加保険料は、保険会社の社員の給料や資料代・運営費などの経費に用いられます。もちろん、付加保険料の一部は保険会社の利益になります。
 では、この手数料である付加保険料は、実際どれくらいの額なのでしょうか?
 保険会社には、手数料を公表する義務はなく、むしろ、安い商品を開発して宣伝したくても、他社の保険料をパンフレットに掲載するなどの比較行為が法律で禁止されています。公表はしたくてもできないというのが実状なのです。
元外資系保険会社の社長で保険数理の専門家である野上憲一氏によると、手数料は保険料総額の50%から60%になるといいます。つまりこれは、自分の支払っている保険料の半分が、実は保険会社の運営費に消えているということです。
 逆に言えば、それだけコストをかけないと保険事業は成り立たないということなのかもしれません。
しかし、公的年金運営であれだけ社会保険庁および厚生労働省を批判した人たちが、保険料の半分しか純保険料として活用されていないという事実に無関心なのは不思議です。
 私たちは、保険料の使われ方にも注目するべきでしょう。