「労働時間削減」に関する各企業の取組事例
◆ワークライフバランスの実現に向けて
近年、企業にとって「ワークライフバランス」(仕事と生活の調和)の実現が大きな課題となっていますが、厚生労働省では、昨年12月に「仕事と生活の調和の実現に向けた取組事例」と題する、「所定外労働時間の削減」や「年次有給休暇の取得促進」などに関する企業(主に中小企業)の取組事例を公表しました。
ここでは、この取組事例の中から、所定外労働時間の削減に関する事例をご紹介しますので、参考にしてみてはいかがでしょうか?
◆所定外労働時間の削減の事例
(1)所定の曜日を「ノー残業デー」とし、所定終業時刻の30分後に強制的に施錠するなど、取組を徹底した。(建設業)
(2)管理者・従業員双方による業務計画等の見直しを行い、時間外労働の必要性の有無の確認、事前の時間外労働申請の徹底を周知した。(建設業)
(3)業務改善に伴う超過勤務時間の減少による賃金の低下に対処するため、賃金の改定を行うとともに、一定の限度時間を超えた超過勤務があった従業員に対して、上司とともに「超過原因」を分析し、「改善方法」を考えさせるようにした。(製造業)
(4)業務に必要な知識を電子掲示板で可視化することで、業務に関する情報の共有化を図り、業務分担による情報の偏りをなくし、所定外労働の削減に努めた。(情報通信業)
(5)終業時刻の前後にまたがって開催していた定例の会議の所要時間を2時間から1時間半に短縮し、開始時刻も繰り上げ、終業時刻内に会議が終了するよう改善したほか、子育て中の従業員に時間外労働をさせないために午後4時から勤務する短時間勤務者を採用した。(卸売・小売業)
(6)所定外労働時間の状況と削減目標について、社長以下管理職のミーティングや朝礼にて報告を行い、部署ごとに上長から従業員に伝えるようにした。(卸売・小売業)
(7)各従業員の業務量を平準化させるため、業務量の多い従業員に対して、他の従業員を応援に向かわせるなどして、業務分担や人員配置の両面から所定外労働を必要としない業務体制になるように改善し、残業時間削減に結びつけた。(医療・福祉)
(8)残業を行う場合、所属長の承認をもらう申請書提出制度を導入したところ、時間外労働の集中部署、職種等が明確になり、業務配分や要員の見直しを的確に行うことができ、時間外労働の削減へとつながった。(医療・福祉)
「うつ病」をめぐる最近の裁判例
◆建設会社社員の躁うつ病発症(11月9日広島地裁判決)
建設会社勤務の男性は、1995年10月に、勤務する会社が他の建設会社と共同で受注した発電所の桟橋工事の工事事務所長に就任しましたが、仕事のストレスから、1997年に2度にわたり自殺(未遂)を図りました。その後、躁うつ病と診断されました。
この男性は、労働基準監督署が休業補償給付を支給しなかったのは不当であるとして、不支給処分の取消しを広島地裁に求めていました。
判決で裁判長は「それまでに精神科への受診歴もないことを考えると、病気と業務との因果関係を肯定できる」とし、男性の主張を認め、国に処分の取消しを命じました。
◆通信会社社員のうつ病による自殺(12月14日名古屋地裁判決)
音響機器メーカーから出向して通信会社の業務に従事していた男性社員は、1994年11月頃にうつ病を発症しました。そして、2001年4月に関連会社に移籍して物流部門に異動した直後(2002年12月)に自殺しました。
この男性の妻は、夫が自殺したのは過労が原因で労災であるとして、遺族補償年金の不支給処分取消しを名古屋地裁に求めていました。
判決で裁判長は、専門知識のない携帯電話の基地局開局業務で月100時間以上の時間外労働をしたとして「質的にも量的にも大きな負担で、うつ病を発症させる危険性を十分有していた」とし、業務上のストレスが続き、約8年間うつ病は一度も治癒することなく、症状の悪化を繰り返し次第に慢性化したと判断して、男性の妻の主張を全面的に認め、国の処分を取り消しました。
◆小学校教諭のうつ病による自殺(12月15日静岡地裁判決)
静岡県内にある市立小学校教諭だった女性は、2004年に教員として採用され担任を受け持っていましたが、児童の問題行動(授業中に暴れる等)に悩み、約2カ月でうつ病を発症しました。そして、同年の9月下旬に自殺しました。
この女性の両親は、娘が自殺したのは仕事上のストレスによるうつ病が原因であると主張し、「公務災害ではない」との判断を下した地方公務員災害補償基金(静岡支部)の認定を取り消すよう静岡地裁に求めていました。
判決で裁判長は、「採用直後に担任したクラスで児童の問題行動が相次ぎ、強い心理的負荷を受けた」と指摘し、同僚からの適切な支援も得られず精神状態を悪化させたのが自殺の原因であると判断し、両親の訴えを認めて基金の認定を取り消しました。
若手社会人の「節約」に関する意識は?
◆「節約」をどのように考えているか?
株式会社マイナビでは、昨年11月に「若手社会人の消費活動調査」を初めて実施し、その結果を発表しました。最近の若手の社会人が「節約」についてどのように考えているのか、興味深い内容となっています。
なお、調査対象は、同社のポータルサイト(マイナビニュース)の会員となっている入社1~5年目の社会人548人(男性:230人、女性:318人)です。
◆給料をどのように使う?
まず、給料の使い方に関して、「計画的にお金を使う方」であるか「思いつきでお金を使う方」であるか、自分がどちらに当てはまるかを尋ねたところ、65.5%の人が「計画的にお金を使う」と回答しました。
そして、「普段から心がけて節約をしていますか?」との質問に対しては、69.5%の人が「節約している」と回答し、比較的堅実な若手社会人が多いことがわかりました。
◆どのようにして出費を抑えている?
どのように出費を抑えているかという質問(複数回答)に対しては、次の通りの結果となっています。
男性では、「食費」(79.5%)がトップで、「飲み会などの交際費」(38.4%)、「洋服や小物などのオシャレ費」(32.2%)、「水道・光熱費」(32.2%)と続き、女性では、同じく「食費」(76.6%)がトップで、「洋服や小物などのオシャレ費」(51.9%)、「飲み会などの交際費」(33.6%)の順となっています。
◆毎月いくら貯金している?
毎月の貯金額については「5~6万円未満」(12.2%)という回答が最も多く、以下、「2~3万円未満」(10.8%)、「4~5万円未満」(10.6%)、「1~2万円未満」(10.6%)と続いています。
なお、「毎月貯金はしていない」という回答は5.7%ありました。
「希望者全員の65歳までの雇用」義務化に向けた動き
◆非常に注目すべき内容
年明けの1月6日に、厚生労働省の労働政策審議会から、「今後の高年齢者雇用対策について」と題する、希望者全員の65歳までの雇用確保措置等を求める内容の文書が発表されました。
今後、わが国の高齢者雇用対策はどのように動いていくのか、非常に注目すべき内容が含まれています。
◆高年齢者雇用の状況
厚生労働省が昨年10月に発表した「平成 23 年 高年齢者の雇用状況集計結果」によれば、現在の法律で定めている、高年齢者を65歳まで雇用するための高年齢者雇用確保措置(「定年の廃止」「定年の引上げ」「継続雇用制度の導入」のいずれか)を「実施済み」の企業の割合は95.7%(前年比0.9ポイント減)となっています。
また、希望者全員が65歳以上まで働ける企業の割合は47.9%(同1.7ポイント増)、同じく70歳まで働ける企業の割合は17.6%(同0.5ポイント増)となっています。
◆「無年金・無収入」となる者の防止
現行の年金制度に基づき、平成25年以降は、公的年金(報酬比例部分)の支給開始年齢が段階的に65歳まで引き上げられることが決まっていることから、現状の高年齢者雇用確保措置のままでは、「無年金・無収入」となる者が生じる可能性があります。
そこで、昨年9月から、厚生労働省内に設置された専門部会において、「雇用」と「年金」が確実に接続するよう、希望者全員の65歳までの雇用確保措置等について検討がなされており、今回の文書発表となりました。
◆2013年度から施行となるか?
この文書中に含まれる「希望者全員の65歳までの雇用確保措置」が実施されるとなると、企業にとっては非常に大きな負担となります。
早ければ、今年の通常国会に改正法案が提出され、2013年度から施行されるとも報道されています。中小企業には猶予期間が設けられるとも言われていますが、いずれにしても、今後の動きに注目しておく必要があるでしょう。
元本割れが急増する「確定拠出年金」の問題点
◆2年半ぶりの高水準
確定拠出年金の加入者のうち、元本割れとなっている人の割合が約6割(2011年9月末時点)に上ることが明らかになりました。
半年前の約4割から急増しており、半期ベースでは2年半ぶりの高水準となっています。
◆確定拠出年金の仕組みは?
確定拠出年金は、毎月一定金額を個人ごとの口座に積み立て、その元本と運用益が老後の年金原資となる制度であり、「企業型」と「個人型」とがあります。
企業型の場合は、企業が毎月決まった拠出額を従業員の口座に振り込み、従業員自らがその運用方法を決定します。なお、2012年1月からは「マッチング拠出」の導入により、従業員による拠出も可能となっています。
個人型の場合は、自営業者や勤務先に企業年金制度がない会社員が個人で加入して掛金を拠出し、運用を行います。
◆世界的な株安が大きく影響
元本割れに陥る人が急増している背景には、世界的な株安の問題があります。
格付投資情報センター(R&I)が、確定拠出年金の運営管理を手掛ける金融機関3社の協力を得て、加入期間半年以上の加入者(3社合計で約140万人。国内の加入者数全体の3割強)の運用実態を調べたところ、通算利回り(年率換算)がマイナスとなり元本割れの人は全体の57.8%となりました。
◆将来の受給額減少につながる
確定拠出年金は、確定給付年金とは異なり、企業が不足分の補填を行わないため、運用低迷が加入者の将来の受給額減少に直結します。
確定拠出年金を導入している企業では、運用利回り平均2.2%を目標として掲げていますが、マイナス1.9%(昨年9月末時点)にとどまっています。
とは言っても、税制優遇などの点でメリットが大きいこともあり、確定拠出年金に代わる有効な手段がないのも現実です。
今後についても運用低迷が予想されるため、新興国株を運用商品に追加したり、年金運用研修を強化したりするなどの対策が必要だと言われています。
うつ病などの精神障害に関する労災認定の新基準
◆迅速な審査の必要性
近年、精神障害による労災請求件数が増加し、各事案の審査に平均約8.6カ月を要していたことから、迅速な審査を行う必要性が指摘されていました。
厚生労働省では、平成22年10月から「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会」を開催し、昨年12月に「心理的負荷による精神障害の労災認定基準」を発表しました。
◆新しい認定基準のポイントは?
この新しい認定基準のポイントは、次の通りです。
(1)わかりやすい心理的負荷評価表(ストレスの強度の評価表)を定めた。
(2)いじめやセクハラのように出来事が繰り返されるものについては、その開始時からのすべての行為を対象として心理的負荷を評価することにした。
(3)これまですべての事案について必要としていた精神科医の合議による判定を、判断が難しい事案のみに限定した。
厚生労働省では、今後はこの新しい基準に基づいて審査の迅速化を図り、精神障害の労災請求事案については「6カ月以内」の決定を目指すとしています。
また、わかりやすくなった新基準を周知することにより、業務によって精神障害を発病した人の認定の促進も図るとしています。
◆セクハラ事案について
なお、セクハラが原因で精神障害を発病したとして労災請求がなされた場合の心理的負荷の評価については、次の事項に留意するとしています。
(1)セクハラ被害者は、「勤務を継続したい」とか、「セクハラ行為者からのセクハラの被害をできるだけ軽くしたい」との心理などから、やむを得ず行為者に迎合するようなメール等を送ることや、行為者の誘いを受け入れることがあるが、これらの事実がセクハラを受けたことを単純に否定する理由にはならない。
(2)被害者は、被害を受けてからすぐに相談行動をとらないことがあるが、この事実が、心理的負荷が弱いと単純に判断する理由にはならない。
(3)被害者は、医療機関でもセクハラを受けたということをすぐに話せないこともあるが、初診時にセクハラの事実を申し立てていないことが、心理的負荷が弱いと単純に判断する理由にはならない。
(4)行為者が上司であり被害者が部下である場合、行為者が正規職員であり被害者が非正規労働者である場合等、行為者が雇用関係上被害者に対して優越的な立場にある事実は心理的負荷を強める要素となり得る。
通勤手当の非課税限度額の見直し
◆特例の廃止
給与所得者で、通勤距離が片道15キロメートル以上の人が自動車などを使用して通勤している場合に受ける通勤手当について、距離比例額にかかわらず運賃相当額(最高限度:月額10万円)まで非課税扱いとする特例が、廃止されました。
◆非課税限度額
自動車などで通勤している人の1カ月当たりの非課税限度額は、片道の通勤距離に応じて次のように定められています。
2キロメートル未満は「全額課税」、2キロメートル以上10キロメートル未満は「4,100円」、10キロメートル以上15キロメートル未満は「6,500円」、15キロメートル以上25キロメートル未満は「11,300円」、25キロメートル以上35キロメートル未満は「16,100円」、35キロメートル以上45キロメートル未満は「20,900円」、45キロメートル以上は「24,500円」です。
◆見直しの内容
これまで、通勤距離が片道15キロメートル以上で自動車などを使用している人の距離比例額よりも、交通機関を利用した場合の1カ月当たりの合理的な運賃等の額に相当する金額(運賃相当額)が高額の場合には、特例により運賃相当額を非課税扱いとされてきました。
しかし、バランス等の観点から、平成24年1月1日以後に支払われた給与については、距離比例額までが非課税扱いとなり、運賃相当額と距離比例額の差額については給与所得として源泉所得税の課税対象となりました。
◆適用は平成24年1月支給の給与分から
今回の改正は、平成24年1月1日以降に支給する給与分から適用されますので、マイカー通勤をしているにもかかわらず運賃相当額の支給を続けた場合には、年末に不足分を徴収しなくてはならなくなる可能性があります。
給与計算事務を行う方は、対象者の通勤方法や手当がどのようになっているのかを再度確認し、間違いのないように気を付ける必要があります。
再就職氷河期! 転職活動で苦戦する40代の現状
◆「バブル入社組」の40代の現実
不景気が続く中、リストラを余儀なくされた方々は、再就職活動で苦戦を強いられているようです。特に「バブル入社組」と言われる40代は、「再就職氷河期」に戸惑っているようです。
◆広がるリストラの対象年齢
総務省発表の「2010年労働力調査」によれば、「会社倒産・事業所閉鎖」「人員整理・勧奨退職」により離職した人の数は、30代で約16万人、40代で約18万人、50代で約18万人となっています。
2000年頃までは、リストラ対象の中心は50代でしたが、最近は、20~30代にまで対象年齢が広がっているため、特に40代の方々は苦戦しているようです。
40代が転職市場で特に苦戦する理由として、次のことが挙げられています。
(1)ポスト不足により管理職への昇格が遅れがちであった。
(2)「バブル入社」でキャリアが十分に身に付いていない場合がある。
(3)体力面や環境適応能力面で20~30代の若手に負けてしまう。
◆どのぐらいで再就職が決まっているか
40代は、子供の教育費などがかさむことが多いため、「とにかく早く再就職先を決めたい」という思いが強いようです。
しかし、離職後「半年以内」に再就職先が決まる人はわずか3割程度で、「1年以内」に決まる人が9割程度といった状況のようです。
◆再就職活動中に必要な心構え
就職活動が長期化すると、家庭内・夫婦仲が険悪になるケースが多く、厚生労働省の機関である人材銀行の専門員は、「家族も心配しているのですから、求職活動の状況を隠さずに話すなど、コミュニケーションを大切にしたほうがよいでしょう。平日はいつでも面接に応じられるように準備を行い、週末はすべてを忘れて過ごすなどのリズムも大切です」と助言しています。
また、別の専門家は、「グローバル化などの環境変化にもアンテナを張りめぐらしつつ、自分のキャリアを微調整し、必要な能力を高めていくような仕事習慣や生活習慣を維持していけば、リストラに強くなれます」と話しています。
「人材への投資」を「企業の収益」に
◆好業績企業の秘訣は?
長引く不況や円高など、企業を取り巻く環境が非常に厳しい中、好業績を維持している企業の秘訣は「人材の育成」や「人材の上手な活用」にあるようです。
新聞報道によれば、2012年3月期まで5期連続(5期以上も含む)で経常増益を予想する3月期決算の上場企業を調査したところ、小売業やネット関連事業など、内需型企業を中心に32社が並んだそうです。
事業が国内中心であるため海外景気の影響を受けにくいメリットもありますが、それだけではなく、これら好業績企業の多くが、「待遇」や「人づくり」の面で独自の手法を確立し、人材活性化を果たしているようです。
◆パート社員の戦力化を果たしたスーパー
関東を中心に営業展開する食品スーパーでは、1万人以上いるパート社員の戦力化を図ったことが、企業成長の原動力となったそうです。
例えば、従来は正社員が行っていた業務(価格設定、商品発注など)をパート社員に移管し、また、地域トップ水準の給料を確保してパート社員の士気を高めたそうです。これにより、店舗に常駐する正社員を削減することができたとのことです。
なお、上記の連続増益が見込まれる32社の過去5年の人件費をみると、毎年平均で2.9%増加しており、全上場企業の平均で0.8%減っているのとは対照的に、人材投資・待遇確保に意欲的であることがわかりました。
◆企業にとっての課題は?
人材への投資を企業の収益に繋げる仕組みは企業によって様々ですが、ある専門家は「仕事を通じて自らが成長できる道筋を企業が示すことが人材活性化には不可欠である」と語っています。
不景気による市場の縮小を乗り切るため、人件費削減で利益を確保するケースもありますが、収入増を伴わなければ持続的な成長を望むことはできません。
限られた経営資源をもとに人材に投資し、次の収益拡大に繋げられるかが、これからの企業にとっての課題となっているようです。