2008/12/27

2009.1月の事務所便り

 経営承継円滑化法の施行で事業承継がスムーズに

◆経営のバトンタッチが進めやすくなる
2008年10月1日より、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律が施行されました。この法律は文字通り、経営のバトンタッチを円滑に進められるように中小企業をバックアップする主旨で制定されたものです。これにより中小企業の事業承継は、かなり進めやすくなると考えられます。

◆新法の内容は
毎年、中小企業の多くが後継者の不在を理由に廃業し、多くの雇用が失われていると言われています。それらの対策として、後継者が事業を承継しやすくすることが目的です。
内容は大きく3つに分けられます。
(1)遺留分に関する民法の特例
(2)金融支援措置
(3)相続税の課税についての措置
(1)は、一定の要件を満たす後継者が、遺留分権利者との合意があることなどを前提に、後継者に生前贈与された自社株式を遺留分の対象から除外し、相続による自社株式の分散を防止できるものです。また、後継者に生前贈与された自社株の評価額をあらかじめ固定し、後継者の努力による株式価値上昇分を遺留分の計算に含めなくてもよくなります。これらは、2009年3月1日からの施行となっています。
(2)は、経営者の死亡等に伴い必要な資金の調達を支援するため、中小企業信用保険法に規定する通常の保証枠とは別に、事業承継資金の借入れを受けることや、低金利での貸付けを受けることができます。
(3)は、相続税の課税について、自社株式の80%を納税猶予するなどの措置が検討されています。(3)については2009年度の改正で創設し、2008年10月1日に遡っての適用が予定されています。

◆企業の存続と雇用の安定化を
当然、適用のためには様々な条件を満たし、経済産業大臣の認定を受けることが必要となります。また、認定の有効期限は5年間で、その間雇用の8割を維持することなどの条件が定められています。
今回の事業承継円滑化法が機能すれば、中小企業の廃業を防ぎ、多くの中小企業労働者の雇用を守ることになります。多くの労働者の雇用を守り、雇用を安定化するという観点において、社会的にも、とても意義のある法律だと言えるのではないでしょうか。


 国民年金の適用年齢を見直し!?

◆年金保険料はいつからいつまで払うのか
2009年度における財政再計算に向けて、社会保障審議会年金部会は国民年金の適用年齢の見直しを検討しています。「20歳~60歳が適用」ですっかり定着している国民年金ですが、どのように見直されているのでしょうか。

◆学生から取る保険料
現在国民年金の適用年齢は20歳からですが、現状では、22歳程度までは大学生等の学生の割合が多く、生産活動に従事しているとは言い難い状況です。それを反映してか国民年金の保険料納付率は、20歳代が最も低く、年齢階層が上がるに従って高くなる傾向にあります。これらの事情を踏まえて、「学生から保険料を取ること自体がおかしく、適用年齢を引き上げるべき」、「より年金制度に関心を持つ世代に適用範囲をシフトさせれば、納付率の向上が期待できる」、「保険料の徴収は稼得と連動させるべき」といった意見があります。
 
◆見直し案と検討事項
見直す際に考えられる選択肢としては…
(1)適用年齢を25~65歳とする。(40年加入は堅持)
(2)適用年齢を20(または18)~65歳とし、その間で40年納付すればよいこととする。
(3)適用年齢を20~65歳とし、うち20~25歳は一律納付猶予の期間とする(任意で保険料を納付した場合には保険料納付期間として取り扱う)。60~65歳については当面は任意加入とすることも検討する。
(1)の場合、20~24歳については障害年金が給付されなくなるので、別途その期間中について障害者の所得保障のための措置(福祉手当の創設)を講じる必要があると考えられます。(2)の案は、個々の被保険者が保険料を納めていない期間について、「納付しなくてもよい期間(強制徴収不可)」と「納付すべきなのに納付していない期間(強制徴収がありうる期間)」との区別をどのようにつけるのか、検討の必要がありそうです。最後に(3)の案は、40年間という現行加入期間を超える期間の年金額への反映について、対処する必要があります。
適用年齢の問題とは別に、国民年金保険料の徴収時効を現行の2年から5年程度に延長することや、基礎年金の支給を受けられるようになるために必要な保険料を支払ったとみなされる期間(受給資格期間)を、現行の25年から10年程度に短縮することなどについても検討されています。
国民年金法の成立は昭和34年、当時とは全く様相の異なる現代社会にマッチした、柔軟な年金制度改革の実施が、待ち望まれます。そのための論議は、選挙の争点とするなどにより、国民全体で広く考えていくことも望ましいのではないでしょうか。


 裁判員制度による休みは有給?無給?

◆企業としての対応が迫られている
2009年5月から始まる裁判員制度、一般市民が司法に参加するこの制度は、平日に裁判に参加することになり、勤労者は仕事を休む必要が出てきます。裁判員に選ばれた人の所属する企業では、その休みへの対応が迫られています。

◆裁判員制度とは
裁判員制度は、一般市民が刑事裁判に参加することにより、裁判が身近で分かりやすいものとなり、司法に対する信頼の向上につながることが期待されています。一般市民が裁判に参加する制度は、アメリカやイギリス、フランス、ドイツ等でも行われています。
日本の裁判員制度では、まず、地方裁判所ごとに裁判員候補者名簿が作られます。選ばれた候補者へ、調査票と共に候補者となったことが通知されます。2009年5月以降、事件ごとに初公判の6週間前までに、くじで候補者が選ばれて呼び出され、最終的にその中から6名が裁判員として選ばれ裁判に参加します。
辞退については、70歳以上の人や学生、重い病気やケガで参加できない人などは1年間を通じて辞退できます。ただし、仕事を理由とした辞退については、単なる「仕事が忙しい」という理由では原則辞退できません。
 
◆有給・無給は各企業の判断による
裁判員制度に基づいて裁判に参加することは、いわゆる労働基準法の「公の職務の執行」に当たるため、その時間は保障されねばなりません。多くの就業規則ではその旨の規定がありますが、裁判員の仕事に従事するための休暇制度を設けることは義務付けられていません。したがって、有給か無給かについては、各企業の判断に委ねられることになります。
有給の場合は、裁判員としての日当と会社の給与を、両方受け取れることになります。また、無給の場合は、裁判員としての裁判への参加意欲が減退することが危惧されます。
裁判所としては、裁判員が仕事を休みやすい環境作りが急務であることから、「裁判員としての仕事を行うための特別な有給休暇制度を作っていただくことが重要であり、法務省、検察庁、弁護士会とも連携し、各種経済団体、企業等に対し、休暇制度の導入の検討をお願いしている」と、ホームページ上などで説明しています。
正社員はもちろん、派遣社員にも「裁判員休暇」を与える企業や、配偶者が裁判員に選ばれた際に、有給で育児・介護休暇を取得できる制度を導入する企業など、積極的に制度に協力する企業も見受けられます。今後、制度が定着するには、企業側のこのような協力が重要な要素となってくることでしょう。


 「5歳児健診」 就学前から母子を支援へ

◆5歳児検診を実施する自治体が増えている
母子健康法では、1歳半と3歳の乳幼児に対し、身体、精神の発達状況などを確認する健診の実施を自治体に義務付けていますが、それに加え5歳児を対象にした健診を独自に実施する自治体が増えています。

◆5歳児健診実施の狙い
5歳児健診を独自で取り組む自治体の狙いは、学校などでの集団活動の中においていじめにつながる恐れがある「軽度発達障害の子ども」を早期に発見することにより、小学校入学までに障害に応じて支援することが大きな目的です。
1歳半と3歳の乳幼児に対しての健診は、母子保健法により義務化されているのに対し、小学校に入る前の就学時健診は学校保健法が定めており、視・聴力や歯、脊柱の異常の有無などをチェックします。5歳児健診はその間を埋める健診とも言われています。
主に身体の発育チェックが中心とされている1歳半と3歳の乳幼児の健診は、精神的な成長の差が見えにくい時期でもあり、発達障害の発見は難しいと考えられています。これに対して、年中児を対象として行う5歳児健診は、集団に入ってからの様子を加味して判断ができることと、就学までに少なくとも1年の期間あり、その間に周囲の理解、本人への療育、就学援助などを行う余地があるという、絶妙な時期に行うことになります。

◆サポート体制を整えることも大きな課題
このような目的を踏まえ、5歳児健診の取組みを行っている自治体が増えています。早くから子どもの生活改善に乗り出すことができ、保護者の不安を解消したりすることで得られる便益を考えると、医療政策の中では高い効果が得られるものとして考えられています。また、地域の小児科医師の協力を得られれば比較的小額の財政負担で実施できるメリットもあります。
今後ますます5歳児健診を実施する自治体が増えてくると思われます。5歳児健診を受診することにより発達障害児を早期発見することだけでなく、その保護者をサポートする体制を整えていくことも、重要なポイントになってくるのではないでしょうか。


 30歳代後半フリーター支援

◆30歳代後半のフリーター支援策が本格運用
厚生労働省が検討していた30歳代後半のフリーター支援策が12月から動き出します。
試験雇用していた企業に補助金を支給するほか、企業が試験雇用後に正社員として雇えば奨励金を支給します。これまで30歳代前半までの支援策はありましたが、新たな試みである30歳代後半のフリーター支援が注目されています。

◆試験雇用に補助金を支給
厚生労働省は、2008年11月19日に開いた労働政策審議会の職業安定分科会に施策の概要を報告しました。具体的には、30歳代後半のフリーターを試験的に雇用した場合に企業に対して月額4万円を3カ月間支給します。その後、雇い入れた30歳代後半のフリーターを正社員にすれば大企業向けに30万円を、早期離職者が多い中小企業向けには15万円上乗せし45万円を奨励金として支給します。これらの支援策に伴い、全国のハローワークでは、30歳代後半フリーターの就職支援を狙い、ハローワークの相談員を約70人増加する動きもとられています。
総務省の労働力調査によると、2005年以降の35歳~44歳のフリーターが増加の傾向にあると報告されています。その増加傾向の理由として、1993年から2004年にかけての就職氷河期と呼ばれる時期に就職できず、フリーターの道を選んだ者が多かったためだと言われています。そして今、その世代が30歳代後半を迎え、フリーターが高齢化しているという問題が起こっています。これらの高齢化に対応するために、今回の30歳代後半のフリーター支援策が打ち出されました。
 
◆厳しさ続く雇用状況
経験を積まずに長い間フリーターを続けていると、書類段階で見限られ、採用面接までたどりつけない事例も多く年長フリーターの就職活動の厳しさを指摘する声もあります。そのうえ、昨今の景気悪化により、非正規社員である派遣社員や契約社員の早期での雇用打ち止めや雇用契約解消、新卒内定者の取り消し、さらには大企業でのリストラの動きも始まっています。それらの雇用状況の悪化の動きを見ていると、今回12月から動き出す30歳代後半のフリーター対策支援策にもかかわらず、30歳代フリーターらの正規社員への道は、さらに険しくなる恐れがあるかもしれません。景気悪化で雇用状況が思わしくない今、政府の効果的な雇用政策への取組みが、早急に求められるでしょう。


 バリアフリー化、使える公的助成

◆バリアフリー改修とは
高齢者や障害者が、自宅で安心して快適な生活を送るために浴室に手すりを取り付けたり、部屋の段差をなくしたりと、自宅の不便さを改善することをバリアフリー改修と言います。このバリアフリー改修に対して、様々な公的助成・支援制度が拡充されています。

◆様々な公的支援
バリアフリー改修で緊急を要するのは、日常生活での支援が必要となる要支援・要介護認定を受けたときです。介護保険には、要支援・要介護認定者に対し、手すり設置、段差解消などの住宅改修工事に上限20万円(自己負担1割)の助成金を支給する制度があります。それに上乗せする形で独自の支援制度を設けている自治体も多く見られます。
ある自治体では、要介護認定者が自宅に階段昇降機を設置する場合に助成する制度を設けたり、65歳以上であれば要支援・要介護認定がなくても基本的なバリアフリー化の住宅改修に20万円まで助成金を支給したりしています。

◆税制上でも優遇される
バリアフリー改修には公的な助成金や自治体で支援する制度だけでなく、税制上で優遇される制度も整えられています。
50歳以上もしくは要支援・要介護認定を受けた人、または65歳以上の親と同居する人などがバリアフリー化の住宅改修のために融資を受けた場合、住宅ローン残高(上限1,000万円)に対し、バリアフリー工事相当部分(上限200万円)で2%、その他の工事費で1%を、所得税額から5年間控除を受けることができます。その他にも、2007年4月1日から2010年3月31日までの間に65歳以上もしくは要支援・要介護認定を受けた人が2007年1月1日以前から住んでいる自宅を30万円以上かけてバリアフリー改修を行った場合、改修工事が完了した翌年の固定資産税が3分の1に減額されます。
蓄えが乏しく毎月の収入が年金だけで、住宅改修費用はとてもまかなえないという60歳以上の人は、住宅金融支援機構の高齢者向け返済特例制度を活用することができます。自宅を担保に入れることで毎月の返済は利子分だけですみ、元金は融資を受けた人が亡くなった際に返済する仕組みとなっています。融資額は最大で1,000万円となっています。
しかし、こうしたバリアフリー改修に対しての公的な助成・支援制度は、適用対象となる年齢や工事内容などの条件が一律でないという面で注意する必要もあります。バリアフリー改修をすると決めたら、まず自分の住んでいる自治体の高齢者福祉担当窓口に足を運ぶか電話で相談するなどして、どのような支援制度を受けることができるかを確認し、そのうえで改修工事を実施することが望ましいと言えるでしょう。


 景気悪化・大不況に伴う企業の動向と政府の対策

◆非正社員の失業、給与の減少…
景気悪化に伴う未曾有の大不況が大きな社会問題となっており、マスコミ等でも連日報道されています。
不況を理由として企業が実施するリストラによる非正社員の失業者が、今年10月から来年3月までに、全国で477件、合計で約3万人に上るとの推計結果が、厚生労働省から発表されました。自動車などの輸出産業の減産を反映し、製造業における派遣労働者が全体の約65%を占めています。そして、非正社員だけでなく、正社員のリストラや退職勧奨、賃金減額なども行われるなど、深刻な問題となっています。
また、同省から10月の毎月勤労統計調査(従業員5人以上)が発表されましたが、それによると、海外需要の低迷により輸出企業などの残業時間が短くなったことなどが影響して、現金給与総額が1人平均27万4,751円(前年同月比0.1%減)と10カ月ぶりに減少したそうです。製造業では、7カ月連続で残業時間が減少しています。

◆政府による対策は?
景気悪化により新卒者の内定取消が相次いでいる問題に関しては、内定取消を行った企業名を公表し、また、内定が取り消された学生を雇用した企業に1人数十万~100万円程度の奨励金を支給するとする雇用対策案が発表されています。詳細についてはまだ決まっていないようですが、厚生労働省では、来春ごろまでに実施したい考えです。
また、同省は、労働者派遣契約の中途解除に係る指導・対応に関して、都道府県労働局長あてに通達(職発第1128002号)を11月下旬に出しました。「事業主が講ずべき措置に関する指針」に基づく徹底した指導を要請し、派遣先に対象労働者の直接雇用を求めていくとする内容となっています。

◆雇止め非正規労働者の失業手当受給要件を緩和へ
雇用保険関連では、雇止めされた非正規労働者などが失業手当を受給するために必要な雇用保険の加入要件について、現行の「1年以上の雇用見込み」から「6カ月以上」に短縮する方針が明らかになりました。また、失業手当の給付日数も60日程度上乗せされるようです。厚生労働省では、来年1月の通常国会に雇用保険法の改正案を提出し、2009年度から実施する意向です。

◆政府による新たな雇用対策
上記に記載した対策も含め、政府(新たな雇用対策に関する関係閣僚会合)は、12月9日に「新たな雇用対策について」と題する、今後実施していく施策を発表しています。詳細は下記の首相官邸ホームページをご参照ください。 
http://www.kantei.go.jp/jp/kakugikettei/2008/1209koyou.pdf


 ついに「改正労働基準法」が可決・成立!

◆審議入りから1年8カ月の難産
平成19年3月の閣議決定を経て長らく国会審議入りしていた「改正労働基準法案」が、1年8カ月を経て、ようやく成立しました。
本法の施行は平成22年4月とまだ先ですが、「月の時間外労働が一定時間を超えた場合の賃金割増率のアップ」と「労使協定締結による5日以内の時間単位での年次有給休暇制度の創設」が大きな柱である本改正は、今後の労務管理実務に大きな影響を与えるものです。
ここでは、それらの内容を確認しておきます。

◆改正労働基準法の内容(1)
本改正の1つ目の柱は、「月の時間外労働が一定時間を超えた場合の賃金割増率のアップ」です。月の時間外労働時間が45時間を超え60時間までの場合の割増賃金率については、2割5分以上の率で、労使協定で定める率とし(努力義務)、60時間を超えた場合の割増賃金については5割増とする、という内容です。
上記の「60時間」の部分については、当初の案では「80時間」とされていましたが、野党などの強い反対により、審議のうえ修正されました。

◆改正労働基準法の内容(2)
本改正のもう1つの柱は、「労使協定締結による5日以内の時間単位での年次有給休暇制度の創設」です。労働者の過半数で組織する労働組合(労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者)との労使協定で「時間単位で有給休暇を与える労働者の範囲」、「時間を単位として与えることができる有給休暇の日数(5日以内)」などを定めることにより、従来よりも細かい単位で有給休暇を取得できるとする内容です。
時間単位で細かく取得できるようにすることにより、近年落ち込んでいる有給休暇取得率アップにつなげることが、本改正の目的です。

◆施行日と中小企業への猶予
改正法の施行日は「平成22年4月1日」と定められており、企業においては就業規則の整備や労使協定の締結などの対応が必要となりますが、割増率のアップの規定については、「中小事業主の事業については、当分の間、適用しない」とされています。
なお、ここでいう「中小事業主」とは、「その資本金の額又は出資の総額が3億円(小売業又はサービス業を主たる事業とする事業主については5,000万円、卸売業を主たる事業とする事業主については1億円)以下である事業主及びその常時使用する労働者の数が300人(小売業を主たる事業とする事業主については50人、卸売業又はサービス業を主たる事業とする事業主については100人)以下である事業主を」をいいます。


 障害者雇用をめぐる現状と不況による影響

◆障害者雇用率が過去最高に
平成20年の民間企業における障害者雇用率が1.59%(今年6月1日時点。前年比0.04ポイント増)となり、過去最高を更新したと、厚生労働省から発表されました。
雇用されている障害者数は約32万6,000人(同2万3,000人増)で、法定雇用率を満たしている企業は44.9%(同1.1ポイント増)です。産業別の実雇用率では、「医療・福祉」「電気・ガス・熱供給・水道」などで高く、「情報通信」「教育・学習支援」などで低くなっています。また、特例子会社の認定企業は242社でした。
また、ハローワークにおける障害者の就職件数については、平成13年度の27,072件以降、年々増加し、平成18年度には43,987件(前年度比13.1%増)と初めて4万件を突破し、平成19年度はこれをさらに3.6%上回り、45,565件と過去最高の就職件数となっています。

◆障害者雇用における「特例子会社」とは?
障害者雇用促進法で定める障害者雇用義務は、個々の事業主に課せられているため、子会社で雇用した障害者の数は親会社の雇用率には反映されません。しかし、障害者の雇用に特別の配慮をした子会社を設立し、一定の要件を満たしたうえで厚生労働大臣の認定を受けた場合には、子会社の労働者は親会社の労働者とみなされ、親会社が雇用する労働者数に加えることができます。この子会社を「特例子会社」といいます。

◆不況による影響は?
ここ最近の景気の悪化・不況により、障害者雇用への影響が出ている業種もあるようです。
売上の落ち込みが特に激しく、多くの企業が減産の方針を明らかにしている自動車業界では、障害者を雇用して部品の下請作業などを行っている「作業所」や「就労支援施設」において、受注カットなどが目に見えて増えているようです。これにより、労働者の収入が減少しているケースが多く見受けられ、労働者に不安を与えています。

◆初めて障害者を雇用した企業に奨励金支給へ
厚生労働省では、現在、障害者のさらなる就労促進を目的として、初めて障害者を雇用した中小企業(従業員56~300人)に奨励金を支給する制度の創設を検討しているそうです。一企業について数十万円~100万円程度を支給するとするもので、同省は、早ければ今年度中に実施したい考えです。
制度創設により、障害者雇用に良い影響を与えられるでしょうか。


 労働時間に関する相談内容の傾向は?

◆「労働時間相談ダイヤル」の実施
長時間労働の解消を図るため、厚生労働省は11月を「労働時間適正キャンペーン期間」と銘打って、その一環として、11月22日に各都道府県労働局において無料の「労働時間相談ダイヤル」を実施しました。同省からその結果が発表されましたが、全国から寄せられた相談件数は、1日だけで879件だったそうです。相談内容については、「賃金不払残業」に関するものが400件(45.5%)、「長時間労働」に関するものが320件(36.4%)、「労働基準法上の管理監督者の取扱いに関するもの」が22件(2.5%)で、本人からの相談が502件(57.1%)、本人の家族からの相談が304件(34.6%)だったそうです。
◆「賃金不払い残業」「長時間労働」が深刻な問題
「賃金不払残業」に関しては、「残業手当が一切支払われない」というものが176件、「残業手当が一律カットされる」というものが58件、「残業手当が定額払い」というものが53件あり、「長時間労働」に関しては、1カ月の総残業時間について、「100時間を超える」というものが137件、「80時間以上100時間未満」というものが59件もありました。
◆具体的な相談内容
相談ダイヤルに寄せられた具体的な相談内容には、以下のようなものがあったそうです。
・金融・広告業で勤務する労働者からの相談。毎日22時~23時まで働いており、1カ月の残業時間は100時間を超えている。過労で倒れて点滴を受けたこともある。健康診断も忙しくて受診できなかった。
・事務職として勤務。残業時間は自己申告制でタイムカードはない。実際には60時間くらい残業しているが、上司から過少申告を指示されており、4~5時間程度しか申告できない。
・サービス業の会社で支店長として勤務。支店長といっても、人事労務管理に関するものを含め権限らしいものはほとんどなかった。人員が不足していたため毎月100時間以上の残業を余儀なくさせられていたが、会社では管理監督者として扱われ残業手当は一切支払われなかった。
・労働者の家族からの相談。息子が飲食店で働いている。所定労働時間は10時から23時までとなっているが、実際には9時までに出勤しないと遅刻とされ、また、休憩時間も昼に15分程度の食事をする時間のみである。休日も月4日程度しかなく、残業手当、休日手当は支払われていない。息子は精神不安定になっているようで、心配である。
・労働者の家族からの相談。息子が工場で機械操作の仕事をしているが、労働時間が3時から19時までで、休憩もほとんどなく、今月は休日も1日しか取れていない。残業手当と深夜手当はまったく支払われていない。以前過労で倒れたことや、疲れて機械に巻き込まれて入院したこともあるので、息子の身体がとにかく心配である。

2008/11/26

12月の事務所便り

「保険治療」or「自費治療」で悩む歯の治療

◆どちらを選択するか?
歯科医にかかると必ず悩むのが、治療法の選び方です。健康保険を使って安く済ませるか、自腹を切ってでも高額の治療を受けるか。使用する材料や手間のかけ方などでかかる費用は大きく違ってきますが、自分に最適な治療法を選ぶのは想像以上に難しいものです。

◆保険治療と自費治療に大きな差
歯科で治療する場合、健康保険の適用を受ける範囲の治療にとどめるか、保険の適用を受けない自費治療にするか、患者は判断を求められます。健康保険が適用されれば患者は3割の負担で済みますが、自費治療を選ぶと患者が全額負担しなければなりません。どちらかの治療しか扱わない歯科医もあり、実際に足を運ぶ前に治療方針を決めなければならない場合もあります。
虫歯治療の後などに行う詰め物の場合、自費治療の負担額は保険が適用される場合の50倍(それぞれの最高額を比較)に達するケースもあるようです。重度の歯周病などでも差は30倍近くになるケースもあり、かなり大きな差といえます。差が大きい理由は、治療で使用する材料が異なるほか、治療時間の長短で手間のかけ方に差が出るからです。

◆すべての治療法を検討する
治療法を選ぶ際には、「自分が取り得るすべての治療法を歯科医から聞き出すこと」が重要だと言えるでしょう。歯科はその専門性の高さから、医師が治療法について詳細な説明をしないケースも多くあります。しかし、考えられるすべての治療法について、治療方法とその効果、費用等が明らかになれば、患者が自らの予算を頭に入れて、どの水準まで歯の機能回復や生活の質の向上を目指すかを決めることができます。
治療法の選び方で機能回復にどれだけ差が出るかは、治療内容ごとに異なります。あまり差がないのであれば、自己負担が少ない保険治療を選ぶのも選択肢の1つです。逆に自費治療のほうが飛躍的に機能回復できる分野もあります。

◆セカンドオピニオンも取り入れる
最近は歯科医療の分野でも、今かかっている医師とは別の医師に意見を求める「セカンドオピニオン」の考え方が広まってきています。治療法について迷いが生じたら、多少費用がかかっても、別の歯科医の判断を聞いてみることも有効です。
また、患者が最良の判断をするために、専門性の高い歯科においても「インフォームド・コンセント」の重要性がますます高まっているのではないでしょうか。そして、歯科医からより詳しい治療内容の情報を入手し、予算と折り合いのつく範囲内で賢く治療を受けることが重要です。


なかなか進まない企業による
「外国人雇用状況」の届出

◆改正法の施行から1年が経過
外国人労働者の雇用改善等を目指した「改正雇用対策法」の施行から1年が経過しました。外国人の就労実態を把握しようと、企業に外国人労働者の雇用状況(就職・離職)の届出が義務付けられましたが、煩雑さなどを理由にあまり浸透していないのが現状です。新制度が外国人の雇用改善や不法就労防止に結びつくのか、早くも実効性が問われ始めています。

◆3割強の低い補足率
厚生労働省は9月上旬、新制度になって初めて、全国のハローワークが受理した外国人雇用の届出状況(6月末時点)を公表しました。直接雇用している外国人労働者数は全国で33万8,813人と、任意提出だった2007年に比べて約4割増えたとみられています。出身国別では中国が44.2%(約15万人)でトップ、次いでブラジルの20.9%、フィリピンの8.3%となっています。
改正雇用対策法施行(2007年10月1日)までの雇用に関しては今年10月1日までが届出猶予期間であり、発表された数字は途中集計のもので、まだ届出されていない人数は、かなり多いものと思われます。法務省入国管理局や厚生労働省のデータなどから推計すると、外国人労働者数は約100万人とも言われており、仮に100万人とすれば捕捉率は3割強にすぎません。
 
◆企業の対応に温度差
一部の外国人労働者は、不法な低賃金で、劣悪な環境の下で働いていると指摘されています。改正雇用対策法のねらいは、事業主に雇用条件の改善を促すとともに、雇用状況の届出を法的に義務付けて、把握した数値などを今後の施策に活用していくことです。
ただ、企業の対応には温度差があり、厚生労働省では届出が進まないことに頭を悩ませている状況です。各企業からは、「届出を義務付けたことで現場の作業が煩雑になった」という声があがっています。国も現場の負担を軽減するよう取り組んではいますが、届出には外国人の氏名や在留期限、在留資格などの記入が必要で、実際には事業主の負担が大きいと言わざるを得ません。

◆不法就労防止・再就職支援に向けて
国は事業主からの届出を活用して、不法就労の防止や離職した外国人の再就職支援などを図りたい考えです。しかし、企業の対応がばらついたまま届出数が伸びなければ、適切な対策を打ち出せないおそれもあります。不法就労などの問題があるケースほど届出しにくいという側面もあり、厳格に提出を義務付けることが必要である半面、事業主の協力が得られない中での中途半端な対策は、外国人への真の就職支援につながらないのではないでしょうか。
今後の届出の進捗状況を見極めたうえで、届出制度とその内容について具体的な見直しが必要になるかもしれません。


駐車違反の反則金を「社員の自己負担」にできる?

◆営業マンが駐車違反
営業マンが社用車での営業中に駐車違反で摘発されてしまいました。その会社では“経費節減”と称し駐車料金を支給していないため、やむなく路上駐車したのです。「反則金は自分で払うように」と上司はこの営業マンに言いましたが、問題はないのでしょうか。

◆改正道路交通法のポイント
改正道路交通法の施行により、2006年6月から駐車違反取締りの民間委託が始まり、同時に短時間の放置車両も摘発対象となりました。短時間駐車を繰り返す営業車の違反が取り締まられるケースも増えているようです。また、介護ヘルパーや訪問看護師などが利用者を車で訪ねた際に、駐車許可証を掲示していたにもかかわらず厳しく取り締まられてしまうケースなども増加しているようです。
上記改正では、単なる取締りの強化だけでなく、放置車両における「使用者責任」の拡充も大きなポイントとなっています。違反を摘発しても運転者が出頭せず、車両所有者の会社も「誰が運転していたかわからない」などと釈明する例が増えていました。このため、いわゆる「逃げ得」をなくすために、運転者が出頭しない場合、使用者に放置違反金の支払いを課すことになったのです。
上記の例の場合、運転手である営業マンが出頭しなければ会社に放置違反金が課され、その支払いを拒めば当該車両の車検が受けられなくなります。

◆問われる企業の使用者責任
企業は、民法の規定により、従業員に対する使用者責任を負っています。すなわち、従業員が不法行為をしないように指導する義務と、不法行為があった場合に代わりに責任を負う義務があるのです。
違法駐車の場合、本来は運転者に支払義務がありますが、上記の例の場合、会社が駐車料金を支給していないため、運転者の不法行為を助長していたとも言えます。また、従業員に駐車場代を負担させていたこと自体も問題と言えます。会社が仕事に必要な措置を講じていなかったと解釈できるからです。この場合は、会社が反則金の一部ないし全額を負担しなければならない可能性が高くなってきます。
上記の例では、会社が反則金を負担し、そのうえで従業員が違法駐車をしないように駐車場を確保したり、駐車料金を支給したりする仕組みが求められるでしょう。従業員が違反しないルール作りをすることこそが、会社に求められていると言えるのではないでしょうか。


養育費を受け取れない母子世帯の自立支援策

◆養育費が受け取れない
離婚した夫から子供の養育費を受け取れない母子世帯を減らすことを目的として厚生労働省が設置した「養育費相談支援センター」(http://www1.odn.ne.jp/fpic/youikuhi/)の事業開始から、今年の10月で1年を迎えました。
同センターには相談は多く寄せられているものの、その効果は小さいとの指摘があります。離婚母子世帯のうち養育費を受け取っているのは約2割にすぎない現状を改善するためには、次の一手が必要なようです。

◆「誰にも養育費の相談をせず」が約43%
厚生労働省の全国母子世帯等調査(2006年度)によると、離婚時に養育費の取決めをしている母子世帯は38.8%だそうです。しかし、「現在も養育費を受けている」のはそのうちの約半数の19.0%にとどまっています。
母子世帯の平均年収は213万円と全世帯の平均年収564万円を大きく下回り、生活に困窮する家庭が多いのが現状です。養育費の取決めをしない理由として、47.0%が「相手に支払う意思や能力がないと思った」と回答し、23.7%が「相手とかかわりたくない」と答えています。また、42.9%は離婚の際、養育費について「誰にも相談していない」と答えています。養育費問題についての知識が少ないことの表れと言えそうです。

◆「養育費相談支援センター」の役割
養育費相談支援センターは、養育費に関する問題を含め、母子世帯の自立支援策の一環として厚生労働省が設けた組織で、全国の母子家庭等就業・自立支援センターや自治体などで行う養育費相談の中心的存在となっています。
相談は電話と電子メールに限られますが、開設以来、「離婚した夫から養育費の支払いがない」などの声が次々と寄せられ、その数は2008年8月末で約2,700件に上っているそうです。
 
◆貧弱な支援体制に課題
同センターの問題点は、来所相談を受け付けず、相談員に弁護士がいないなど限界があることです。弁護士の不在は、仲介に直接乗り出せないことを意味し、可能なのは助言にとどまります。相談の追跡調査もしていないため、実際に養育費を受け取れたという報告も少ないようです。今後の対策として考えられるのは、欧米各国のように、国や自治体による立替払いや徴収代行制度を設けることや、不払いに対してある程度の罰則を設けることではないでしょうか。政府には、これらの新たな施策についての検討と同時に、「養育費の支払いは離婚した親の当然の義務であること」を広める啓発活動なども望みたいところです。


ますます深刻化する「消された年金問題」

◆次々見つかる標準報酬月額の改ざん
厚生年金の計算をする際に使われる「標準報酬月額」の改ざんが発覚した、いわゆる「消された年金問題」ですが、その広がりが深刻化しています。
政府の発表によると、標準報酬月額のコンピュータ記録1億5,000万件のうち、5等級以上も下げられた記録が75万件に上ることが判明しました。厚生労働省は、処理が不適切だった可能性の高い約6万9,000件を優先的に調べるようですが、実態の把握は困難であり、被害者の救済にも時間がかかりそうです。

◆記録改ざんの背景は
標準報酬月額は、厚生年金の支給額を決めるときの基準となる毎月の報酬であり、1~30の等級に分かれ、どの等級に該当するかで支払う保険料が決まってきます。この標準報酬月額に対して、事業主が過去に遡って報酬を減らしたり、加入期間を短くしたりするのが改ざん行為の代表例です。これらは、社会保険事務所職員と経営状態の苦しい事業主が相談し、改ざんしたケースも多いといわれています。
この背景には、社会保険事務所における内部事情があります。事業主が保険料を滞納すると社会保険事務所の徴収成績は下がってしまいます。担当職員が徴収成績を上げるための効果的な手法として、「本来納めるべき保険料よりも少なく払ってもらう」という働きかけを事業主に対して行っていた可能性が高いようです。
社会保険事務所の上司の指示により組織的に改ざんしたケースや、自然に職員の間に広まっていったケースなどもあると見られています。

◆被害者の救済が急務
最も問題となるのは、被害者の救済です。例えば、標準報酬を30等級(62万円)から25等級(47万円)に下げられたまま40年間にわたって保険料を納付すると、老後にもらえる年金が概算で月3~5万円程度減ってしまうことになります。多くの場合、事業主は報酬を引き下げたことを従業員には隠しており、受給年齢に達するまで年金が減ることに気が付かないことが想定されます。社会保険庁では、戸別訪問などを始めているようですが、すべての受給者の確認作業が終わるのはまだまだ先となってしまいます。
この問題に関して、報酬の記録を確認したい場合は、社会保険事務所に行くか、社会保険庁の「年金個人情報提供サービス」(http://www.sia.go.jp/sodan/nenkin/simulate/)で照会するなどの対策を取るとよいでしょう。


未払い残業代の支払い等を求める
労働審判や民事訴訟

◆サービス残業への是正指導が過去最多に
従業員に残業代を支払わなかったとして労働基準監督署から是正指導を受け、結果的に1社で100万円以上の未払い残業代を支払った企業の数が2007年度に1,728社(前年度比約3%増)となり、厚生労働省が集計を開始した2001年度以来、最多を更新したことが明らかになりました。また、支払総額も計272億4,261万円(同約20%増)となっており、同じく過去最高を更新しています。
同省では、「労働者やその家族の方などから、各労働局、労働基準監督署に対して長時間労働、賃金不払残業に関する相談が多数寄せられており、これらに対して重点的に監督指導を実施した結果である」と分析しています。
このようにサービス残業は依然として増加傾向にあるようで、最近では「名ばかり管理職」「偽装請負」に関する問題などもあり、労働者や退職者が未払い残業代の支払いや地位の確認などを求めて労働審判や民事訴訟などを提起するケースも増えています。
以下では最近の事例を見てみましょう。

◆グッドウィルの元支店長らが労働審判申立て
今年の7月末に廃業した日雇い派遣大手「グッドウィル」の元支店長ら19人(25歳~49歳のいずれも男性)は、自分たちは「名ばかり管理職」として扱われていたなどとして、同社を相手に未払い残業代(合計約6,721万円)の支払いを求める労働審判を、東京地裁に申し立てたそうです。請求している未払い残業代は1人あたり約120万円~635万円です。
また、4人については、廃業に伴って解雇が行われた際に十分な退職金の積み増しや再就職先のあっせんが行われなかったとして、解雇の違法性についても争うとのことです。

◆元自転車便スタッフが正社員地位確認の民事訴訟提起
バイク便大手である「ソクハイ」の元自転車便スタッフの男性(31歳)は、個人事業主として運送請負契約を締結して業務を行っていたが、会社の指示に従って運送を行うなど自由裁量はほとんどなく、実態は正社員と変わらなかったとして、同社を相手に「正社員としての地位確認」と「約360万円の損害賠償」を求める訴訟を東京地裁に提起しました。
男性は営業所長として採用面接やスタッフの教育なども行っていたようであり、「同社に指示監督されており。偽装請負状態だった」と主張しているそうです。


業績悪化に伴う内定取消は
どのような場合に認められる?

◆業績悪化に伴う内定取消が増加
米国のサブプライムローン問題に端を発した世界的な金融危機に伴う急激な株価下落や景気悪化の影響による企業の業績悪化・業務縮小・事業撤退などを理由として、来春就職予定の学生の内定が取り消されるケースが相次いでいるそうです。業種は、不動産、住宅販売、建設、生命保険、ホテル、情報通信、システム開発、専門商社など多岐にわたっています。
大学側では「企業の業績悪化が深刻化してくるとさらに内定取消が増加するのでは」「実際にはもっと多くの学生の内定が取り消されているかもしれない」「この時期にこんなに内定取消が相次ぐことはここ数年間なかった」などといった不安の声もあがっているようで、また、2010年春に卒業・就職予定の現在の大学3年生の就職活動にも影響が出てきそうです。
企業・大学・学生いずれにとっても非常に深刻な問題である内定取消は、どのような場合に認められるのでしょうか。

◆裁判所の考え方は?
内定取消は、一般的に「客観的にみて内定を取り消してもやむを得ない事情がある場合」にのみ許され、単なる業績悪化だけを理由として簡単に認められるものではないとされています。
裁判例(大日本印刷事件:最判昭和54年7月20日)では、会社が応募者に「採用内定通知」を発して、応募者がこれに応じる旨の「誓約書」を提出した場合には、入社日を「採用内定通知」に記載された時期とし、「誓約書」に記載された採用内定取消事由が発生したときは当該契約を解約できるとの解約権が留保された労働契約が成立していると考えられる、としています。
さらにこの留保解約権については、内定の当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取り消すことが客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られる、としています。

◆「整理解雇の4要件」との関係
また、経営悪化を理由とする採用内定取消の場合について、いわゆる「整理解雇の4要件」の考え方に沿った判断を下した事例がありあます(インフォミックス事件:東京地決平9年10月31日)。
この事案では、(1)人員削減の必要性、(2)採用内定取消の回避の努力、(3)人選の合理性は認められるが、(4)手続きの面において十分な説明が欠けていたとして、採用内定の取消が無効と判断されています。したがって、採用内定を取り消すべきかどうかは、上記の4要件の考え方に沿って慎重に考えなければなりません。


深刻な「下請けいじめ」「下請けたたき」の実態&対策

◆急増する「下請けいじめ」
東京都は、2008年4月から10月の間に「財団法人 東京都中小企業振興公社」に寄せられた下請け取引に関する相談件数(親事業者と下請け企業に関する禁止事項を定めている「下請代金支払遅延等防止法」に抵触する可能性のあるもの)が214件となり、2007年度の通年実績(80件)の約2.7倍に達したと発表しました。景気の後退を背景として不当な事例が増加しているとみられ、過去最高のハイペースで推移しています。
相談の内容は、「売上金回収時に一方的に値引きを迫られた」などといった代金回収に関するものや、「予告なしに突然取引中止を告げられた」などといった取引契約に関するものが多いそうです。
以前から「下請けいじめ」は問題となっており、中小企業庁は「下請代金支払遅延等防止法」に基づいて下請け取引が適正かどうかを調査して改善指導を行っていますが、これまでに他にも様々な対策を打ち出しています。

◆原油高対策としての下請け取引適正化
中小企業庁では原油高となっていた今年8月に、下請け取引の適正化を促進するための対策を発表しました。これは、原油高を理由とする価格転嫁が難しい中小企業が多いため、大企業による不当な下請け取引の強要を防ぐのが狙いでした。
具体策としては、原油高の影響が大きいと考えられる建設・自動車などの業種を中心として、代金の支払遅延など問題のある行為があるとみられる大企業から事情聴取を行い、特別立入検査も行うとするもので、8月下旬から実施されています。

◆「下請けたたき」通報制度
また、厚生労働省では今年の7月に、労働基準監督署が賃金不払い等を把握した場合、その原因がいわゆる「下請けたたき」であると認められるときには、公正取引委員会や経済産業省に通報する制度をつくるとの方針を発表しました。同省では、中小企業の労働者保護のためには下請け問題への対策が必要と判断したものです。
また、同省では、同省が発注する公共工事について、元請業者と下請業者との間に契約等に関してトラブル(原価割れ受注を強要された、割引困難な長期手形を交付された等)があった場合の下請け業者のための相談窓口(「下請けに関する相談窓口」http://www.mhlw.go.jp/sinsei/chotatu/dl/02.pdf)を設けています。


苦しさを増す介護事業者の支援策

◆苦しい経営実態
厚生労働省は、「平成20年介護事業経営実態調査」を発表し、介護施設の苦しい経営実態が明らかになりました。
前回調査(2005年)と比較すると、利益率(収入に対する利益の割合)が、例えばデイケアでは18.9%から4.5%に、特別養護老人ホームでは13.6%から3.4%に大きく下がるなど、15種のうち11種で低下しています。また事業規模別では、事業規模の小さいところほど経営が厳しくなっているようです。

◆2009年4月から介護報酬引上げ
上記のような現状から、政府・与党は、介護労働者の待遇改善を図るため、2009年4月から介護報酬(介護事業者に支払われるサービスの公定価格)を3%引き上げることを決定し、先ごろ発表した「新総合経済対策」(追加経済対策)に盛り込みました。介護報酬は3年に1度改定されることになっていますが、プラス改定は2000年度の介護保険制度発足以来初となります(2003年はマイナス2.3%、2006年はマイナス2.4%といずれも引下げ)。
報酬引上げは保険料アップにも繋がります。本来であれば来年度から月300円程度上昇する計算になるそうですが、急激な保険料負担増を回避するため政府が肩代わり(国費から1,200億円を投入)する方針で、2009年度の介護保険料は全国平均で1人あたり月150~200円程度(3~5%程度)の引上げとなる見通しです。

◆自治体で独自の対策も
東京都杉並区では、介護事業者向けの緊急融資を行うと発表しました。同区内の通所介護施設や特別養護老人ホームを運営している介護保険事業者に対して、介護報酬3カ月分以内(最高300万円)を無利子で融資する制度を今年の12月に創設し、経営が悪化している介護事業者を支援していくそうです。融資期間は6年で、用途は運転資金に限定されています。対象は従業員300人以下の社会福祉法人とNPO法人です。

2008/10/29

11月の事務所便り

医療費抑制の切り札「ジェネリック医薬品」とは?

◆医療費抑制の切り札となるか?
高齢化で医療費がどんどん増えている現在、日本の医療保険制度は財政的に厳しい状態にあります。そんな中、医療費抑制のための切り札的存在として期待されているのが、成分や効き目が同じで価格が安い「ジェネリック医薬品」です。最近テレビCMなどでよく耳にするようになりましたが、いったいどんなものなのでしょうか。

◆ジェネリック医薬品の特徴
新薬として最初に発売された薬(先発医薬品)は、特許に守られ、開発メーカーが独占的に製造・販売することができます。しかし、20~25年の特許が切れると、他のメーカーも同じ成分、同じ効果を持つ薬を製造できるようになります。これが「ジェネリック医薬品(後発品)」で、「先発品と同じ有効成分を同じ量含み、同等の効果が得られる医薬品」と定義されています。新薬に比べて開発コストが小さいため、価格は新薬の3~8割も安くなります。先発品の欠点を補い、工夫しているものも少なくありません。
しかしながら、厚生労働省によると、ジェネリック医薬品のシェアは2006年時点で数量ベース約17%にとどまっており、30%~60%にもなる欧米各国に比べ極めて低いのが実情です。その理由として、医師がジェネリック医薬品の審査や品質への不安を感じていることや、患者が新薬での処方を希望することが多いことなどが挙げられます。

◆ジェネリック医薬品普及の動き
医療費抑制策の中で、ジェネリック医薬品の普及が期待されています。シェアが30%になれば医療費は4,300億円削減できると推計されており、政府の「骨太方針2007」では、2012年度までにシェア30%達成が目標に掲げられています。
ジェネリック医薬品普及促進策として注目されるのが、処方せんの様式変更です。2006年4月、処方せんに「後発薬への変更可」という欄が設けられ、医師が署名押印すれば薬局側がジェネリック医薬品への代替調剤ができるようになりました。さらに、今年4月からは、この欄が「変更不可」に変更されており、よほどの理由で変更を認めないケースを除けば、ジェネリック医薬品の普及が促進されるのではないかと期待されています。
このほか、薬局が調剤する処方せんの3割超を後発品に変更した場合、薬局側の報酬に加算がなされるようになりました。薬剤師が患者にジェネリック医薬品への変更を促すことで、普及の促進を図るものです。
医療費抑制のためには、ジェネリック医薬品の普及は不可欠です。適正使用のための環境作りに対して、国にはさらなる努力が求められます。

厚生年金・健康保険の未加入事業所が10万超に

◆前年同時期と比べて約3,000カ所増加
厚生年金や健康保険に加入義務があるのに加入していない事業所が、今年3月末の時点で約10万カ所(前年同時期比約3,000カ所増)あることが、社会保険庁の調べで判明しました。未加入のままでは、従業員が将来年金を受け取ることができなかったり、医療費の自己負担額が増えたりするおそれがあります。

◆未加入事業所の実態は?
今回、社会保険庁が雇用保険などのデータをもとに、未加入が疑われる事業所を抽出して調べたところ、3月末時点で10万470カ所が政府管掌健康保険に未加入でした。そのほとんどが厚生年金保険にも未加入です。従業員規模が小さいほど未加入の事業所が多い傾向がみられ、未加入事業所のうち、従業員数が5人未満の事業所は約8万2,000カ所、5~9人の事業所は1万4,000カ所と、大半を占めました。
なお、2007年3月末に政管健保と厚生年金に未加入とされたのは約9万7,000カ所でした。1年間でこのうち2万4,000カ所が加入するなどして、未加入は約7万3,000カ所になったのですが、今回の調査で新たに約2万7,000カ所が未加入であることが判明し、未加入事業所は差し引き3,000カ所増えています。

◆未加入をなくすためには調査・把握が必要
社会保険庁が未加入事業所対策に力を入れ始めたのは、2004年度以降のことで、それ以前は実態の調査も行わず、加入の呼びかけにも消極的でした。現在は、まずは文書や電話で加入を促し、従わない場合には社会保険事務所への呼出しや戸別訪問で加入を求めています。それでも応じなければ、従業員数が多い事業所から順に、職権による立入り検査で強制加入手続に移ります。
中小企業には、新規開業や廃業、休眠会社も多いため、実態を十分に把握するのは困難です。また、今回の調査で把握できなかったものも含めれば、相当多くの未加入事業所があることも予想されます。
今後、加入率を上げられるかどうかは不透明です。2007年度に強制加入手続で加入したのは73カ所(被保険者数483人)であり、今後の加入促進策による加入率上昇が期待されます。まずは未加入事業所の徹底的な調査と把握、そしてその後の粘り強い働きかけが必要でしょう。

外国人の派遣社員が労災事故に遭ったら?

◆10年で倍増した外国人労働者
厚生労働省の推計によれば、外国人労働者数は2006年に約75万5,000人となり、10年前の約2倍に増えています。このほか、約17万人の不法残留(オーバーステイ)の外国人労働者がいるとみられています。
政府は、原則として外国人の単純労働を認めていませんが、一部の日系人などは例外とされているほか、研修生名目の外国人などが単純労働に携わっています。
今、自動車関連部品の下請けメーカーで、日系人の派遣社員がプレス機械で指を切断する事故に遭ったとしましょう。この場合、外国人でも労災保険を受けたり、損害賠償をメーカーに請求したりできるのでしょうか。

◆労災保険は適用、損害賠償は?
労働基準法は、国籍を理由に労働条件を差別することを禁止しています。そのため、外国人労働者であっても、当然に労災保険法は適用されます。
損害賠償については、実質的に指導を監督し、安全配慮を怠った派遣先のメーカーに請求することになるでしょう。通常、後遺症が残るようなケガの損害額は、一般的に67歳まで働いた場合に見込まれる収入額をもとに逸失利益を計算して算出します。家族とともに定住している場合など、合法的な外国人労働者の逸失利益は日本人と同様に算定し、慰謝料についても、後遺症の等級認定や入通院費などをもとに、日本人と同じ基準で算定するのが一般的です。

◆不法就労だった場合は?
しかし、もしも不法就労であった場合には、損害賠償額が日本人より少なくなる可能性があります。在留期間を過ぎていたパキスタン人が労災事故で後遺障害を負って損害賠償を求めた訴訟で、最高裁は、不法就労の場合は長期的に日本で就労できないとし、事故後に退社してから3年間は日本の収入基準で計算し、それ以降はパキスタンの収入基準で計算するのが合理的としました(改進社事件:最三小判平9.1.28)。パキスタンの収入は日本の5分の1以下とされ、結果、賠償額は日本人に比べると少額になりました。
不法就労の外国人への賠償額が通常の日本人より少ないという判決には、危険な仕事を不法滞在の外国人にやらせることを助長するのでは、という懸念もあります。こうした懸念への対策として、不法就労者自体を減らすことが必要です。そのためには、不法就労者の雇用について、罰則をより厳罰化することなども選択肢の1つとして考えられるべきではないでしょうか。

借金を抱え賃金債権を譲渡した社員にどう対応する?

◆消費者金融から会社に電話が…
個人的に消費者金融から借金をしていた社員が、返済が滞ったことから3カ月程度の自己の賃金債権を譲渡したらしく、消費者金融から会社に債権(賃金)の支払いを求める電話がかかってくるようになった――。
社員が消費者金融に賃金債権を譲渡したとはいえ、労働基準法には「賃金は、直接労働者に支払わなければならない」という直接払いの原則があります。このようなケースでは、どのように対応したらよいのでしょうか。

◆裁判所の命令があれば有効
社会保険関係の法律では、一般に保険給付の受給権の譲渡を禁止しており、また、労働基準法では、労働者が使用者に対して有する災害補償を受ける権利については譲渡を禁止しています。しかし、賃金については特に規定はありません。したがって、賃金に関しては、譲渡は可能とも考えられます。
しかし、使用者に対し立場の弱い労働者を保護するため、労働基準法では賃金の支払いに関する「直接払いの原則」が定められています。過去の裁判等では、たとえ債権譲渡をしたとしても労働基準法の直接払いの原則を優先するとする裁判例が多く(電電公社小倉電話局事件:最判昭43.3.12等)、賃金を金融業者に支払うことはできないと考えるのが一般的です。
ただし、民事執行手続により裁判所が差押えを命じた場合は、雇用主は差押命令に応じなければなりません。これは一見、直接払いの原則に反するようにも見えますが問題ありません。借金返済が滞った場合だけでなく、国や地方への税金の滞納も同様です。

◆生活者保護のために差押金額を制限
しかし、給与全額を差し押さえられてしまうと、その社員は生活できません。このため、債務者保護の観点から、差押金額は原則、賃金から所得税・地方税・社会保険料等を控除した手取り賃金額をベースに、賃金の4分の1までとされています。
標準的な世帯所得を超える高給をもらう人については、政令で定める額を超える部分の全額を差し押さえることができます。標準的な家庭に必要な生活費として33万円を想定し、33万円が4分の3に相当する44万円で線引きをし、手取り額が44万円を超えていれば、33万円を残してそれ以上の部分はすべて差し押さえられます。
企業としては、法律に基づく強制執行手続の場合を除き、やはり生活者(労働者)保護の精神を念頭に置いて、労働法規に則り慎重に対応することが肝要です。

年金改革に「第3の案」が浮上 その特徴は?

◆年金制度改革の検討に本格着手
厚生労働省は、年金制度改革の検討に本格的に着手しました。基礎年金の受給額が少ない低年金者対策をめぐり、「全額税方式化」と「最低年金創設」が検討されていますが、第3の案として「保険料軽減・税支援方式」とも言うべき案が浮上してきました。
いずれの案を導入するとしても問題点があるようです。これら3種の案のそれぞれの特徴についてみてみましょう。

◆「全額税方式化」と「最低年金創設」
現状では、基礎年金額が満額(6万6,000円)を下回る低年金となるケースが多いのが実情です。そこで、「財源を全額税で補う税方式化」が検討されています。これは、働き方などに関係なく基礎年金部分を税で支給し、社会全体で支える方式です。未納問題等は完全に解消できる代わりに、少なくみても9兆円以上の財源が必要となります。また、企業の保険料負担がなくなる分をどう扱うかも課題です。
税方式のような劇的な転換を望まない場合の案が、「最低年金創設」です。これは、現行の社会保険方式を維持しつつ、加入期間にかかわらず給付時に税で加算する最低年金制度を創設しようとするものです。年収200万円以下の高齢者世帯に月5万円の最低年金を保障する場合、約1兆円の財源が必要と試算されています。問題点として、「保険料の負担者に給付」の原則が、加入期間によらず最低年金を支給することにより崩れてしまい、負担の公平性が損なわれるほか、加入期間に関係なく最低年金を受け取れることで未納問題が拡大するおそれがあることなどが、問題点として挙げられます。

◆「保険料軽減・税支援方式」の内容は?
これら2案に対し、厚生労働省が第3の案として新たに提示した「保険料軽減・税支援方式」は、国民年金の定額保険料を所得に応じて軽減し、軽減分を国が税で補って全額払ったとみなすやり方です。少額であっても40年間払い続ければ、基礎年金を満額受け取ることができます。追加する財源としては、現行の免除制度利用者に単純に保険料軽減を適用するだけでも1兆7,000万円程度が見込まれています。また、納付者が増える可能性はありますが、未納問題の根本的な解決とはなりにくく、低所得層の保険料を軽減するにあたり、軽減割合を決める自営業者の所得把握に難点があるなどの課題もあります。

「名ばかり管理職」排除通達について

◆管理監督者の範囲の明確化
厚生労働省は、「名ばかり管理職」問題を解決するため、労働基準法上の管理監督者に該当するかどうかの判断基準を示した「多店舗展開する小売業、飲食業等の店舗における管理監督者の範囲の適正化について」(平成20年9月9日付け基発第0909001号)と題する通達を、9月9日に出しました。この通達が出された背景には、店長に対する残業代支払いを大手外食チェーン等に命じる判決が相次ぐ中、裁判例を参考に法律の運用を見直す必要に迫られたことがあります。

◆9月9日付け通達の内容は?
上記の通達では、多店舗展開する小売業や飲食業を対象に、管理監督者性を否定する重要な要素を挙げています。具体的には、(1)アルバイト・パート等の採用に責任がないこと、(2)部下の人事考課が職務内容に含まれないこと、(3)遅刻や早退の際には減給等の不利益な取扱いをされること、(4)賃金額が当該企業の他の一般労働者の賃金総額と同程度以下であること、といった項目が列挙されています。

◆通達のより正確な理解のために
しかし、上記通達については、連合と日本労働弁護団が「管理監督者の基準の緩和につながりかねない」として同省に見直しを要請していた。そこで、業界団体等が誤った解釈をしないよう、厚生労働省は10月3日に新たに「多店舗展開する小売業、飲食業等の店舗における管理監督者の範囲の適正化を図るための周知等に当たって留意すべき事項について」(平成20年10月3日付け基監発第1003001号)を出しました。
この通達では、9月9日付けの通達の趣旨・内容が正確に理解されるように懇切丁寧な説明を行うよう求めており、次のポイントを指摘しています。
(1)店舗の店長等について、管理監督者の範囲の適正化を図る目的で発出されたものであること
(2)昭和22年9月13日付け通達で示された管理監督者の基本的な判断基準を変更したり緩めたりしたものではないこと
(3)判断要素は否定的な要素を整理したものであり、これらにひとつでも該当する場合には、管理監督者に該当しない可能性が大きいと考えられること
(4)通達に該当しない場合は、実態を踏まえ、慎重に判断すべきものであること
また、同省ホームページ上では9月9日付け通達に関するQ&Aも公開されました。通達の説明や周知徹底のために再度念が押されるということは、「名ばかり管理職」問題に対して国が本気で対応し始めたことの表れと言えるでしょう。企業では、この問題に対して速やかな対応策を取ることが求められます。

あなたの年金は大丈夫? 厚生年金記録の改ざん問題

◆標準報酬月額の改ざん事実が明らかに
厚生年金の標準報酬月額(月収水準)の記録が大量に改ざんされていた問題に関して、次々と事実が明らかになっています。当初、「社会保険庁による改ざんへの関与の疑いが高い」と言われていましたが、関係者(社会保険事務所職員や事業主など)の証言により、組織的な関与があったことはほぼ間違いないと見られています。

◆なぜ改ざんが行われたのか?
記録の改ざんは、経営状態の悪い事業主にとっては保険料負担が軽くなる(またはなくなる)というメリットがあり、社会保険事務所の職員にとっては保険料の徴収実績を上げることができるというメリットがあります。方法としては、社会保険事務所職員が標準報酬月額の引下げを事業所に指導したり(または事業所に無断で標準報酬月額を引き下げたり)、保険料を滞納している事業所に「全喪届」の届出を勧めたりといったものです。
ひどいケースでは標準報酬月額が5等級以上も引き下げられていたようであり、これらの改ざんにより、年金額が本来より減額されて支給されているケースがすでに出てきているようです。

◆何件の改ざんが行われたのか?
舛添厚生労働大臣は、9月中旬に「改ざんされた可能性の高い記録が6万9,000件あると」表明していました。その後、10月初旬に、これまで社会保険庁が説明していたよりもはるかに大きな規模による改ざんが行われていた事実が明らかになっています。
改ざん事例の総数は100万件を超えるのではというマスコミ報道もなされていますが、実際の改ざん件数が何件あるのかは、依然として不明のままです。

◆自分の年金記録を確認するには
同大臣は、厚生年金の記録改ざんに関する直属の調査チームを設置する方針です。調査チームは弁護士などの外部有識者などで構成され、関与が確認された社会保険庁職員やその管理職には「厳正な処分を行う」と明言しています。また、社会保険庁の職員や事業主などからの情報提供を求める方針も示し、年金受給者への個別訪問なども行っていくとしています。
全容解明はまだまだ先のことになりそうですが、心当たりがある場合(勤務していた事業所の経営状態が悪かった場合や倒産があった場合)には、まずは自分の年金記録を確認してみる必要があります。確認の方法としては、社会保険事務所で「被保険者記録照会回答票(資格画面)」を出してもらうか、インターネットの年金記録照会(社保庁ホームページにある「年金個人情報提供サービス」)を利用するかのどちらかが一般的です。

労働者派遣に関する新たな動き ~2009年問題、日雇い派遣~

◆「2009年問題」対応で厚生労働省が通達
厚生労働省は9月26日、物の製造業において派遣社員を3年間の期限を超えて働かせる脱法行為を規制するため、「いわゆる『2009年問題』への対応について」(職発第0926001号、平成20年9月26日)と題する行政通達を出しました。この通達では、派遣可能期間に係る基本的な考え方や対応方法、労働局における周知啓発、指導等の取扱いなどが示されています。
派遣契約の終了後にいったん契約社員などに変更してから、再度派遣社員として雇用すること(いわゆる「クーリング期間」の悪用)が以前から行われており、問題視されていました。このような「脱法行為」を禁止するというのが今回の通達の主な目的のようです。同通達では、今後、「指揮命令が必要な場合は『直接雇用』に、必要ない場合は『請負』に」と指導していますので、特に製造業を営む企業においては慎重な対応が必要になります。

◆フルキャストに再度の事業停止命令
東京労働局は、日雇い派遣大手である「フルキャスト」に対して、違法派遣(労働者派遣法で禁止されている建設業・警備業や港湾作業への労働者派遣)を行っていたことにより事業停止命令を受けていた期間(昨年8月10日から1~2カ月)中も派遣を続けていたなどとして、昨年8月に続く2度目の事業停止命令を出しました。今回は、同社の全支店で10月10日からから1カ月の処分ということです。

◆大手が日雇い派遣から完全撤退へ
上記処分(事業停止命令)の影響もあり、同社は、2009年9月末までに日雇い派遣から完全撤退することを表明しました。日雇い派遣が働く貧困層(ワーキングプア)の温床であるとの批判が高まっており、また、厚生労働省が日雇い派遣を原則禁止とするために労働者派遣法を改正する方針を示しているためと見られます。
このような動きにより、日雇い派遣を利用してきた企業には大きな影響がありそうです。日雇い派遣最大手だった「グッドウィル」がすでに7月末で廃業しており、フルキャストの撤退により、ついに大手日雇い派遣業者は消滅してしまいます。
これまで日雇い派遣に依存してきた中小企業(特に、運送業者や量販店など)などは、今後は労働力を直接確保することが必要になるため、新たに求人広告などの手間や経費が必要となり、経営を圧迫しかねない状況です。

広がりをみせる「在宅勤務制度」の導入状況

◆テレワーク(在宅勤務制度)利用者は3年で65%増
テレワークの利用者(ITを活用して、場所と時間を自由に使った柔軟な働き方を週8時間以上利用する人)の数は、2002年には408万人(雇用型:311万人、自営型:97万人)でしたが、2005年には674万人(雇用型:506万人、自営型:168万人)となり、3年で約65%増加しています(国土交通省・社団法人日本テレワーク協会調べ)。
政府は、「テレワーク推進に関する関係省庁連絡会議」を設置し、昨年5月には「テレワーク人口倍増アクションプラン」を発表するなど、力を入れ始めています。2010年までには2005年比でテレワーク人口比率を倍増させ、就業者人口に占める割合を2割程度にしたい考えです。

◆テレワーク活用のメリット
テレワーク活用のねらい・メリットとして、政府は以下のことを挙げています。
(1)「ワーク・ライフ・バランス」社会の実現
(2)次世代を担う子供を育てる環境の実現
(3)人口構造激変時代の企業活力・国際競争力の確保
(4)場所にとらわれない就労・起業による地域活性化
(5)交通代替によるCO2の削減

◆中央省庁や大手民間企業の取組み
特許庁は、2009年度から在宅勤務制度を導入する方針を明らかにしました。対象者は特許審査を担当する審査官などで、併せてフレックスタイム制の導入も検討するとしています。中央省庁では、すでに総務省などでも在宅勤務制度を採用しています。
民間企業でも大手企業を中心に、導入(または検討)されています。NECは、通信回線を使って在宅勤務を可能にするテレワークの全社的な導入について検討すると今春に発表しました。有能な人材が不足気味のIT業界において、仕事と育児・家事などのバランスが取れるように配慮して、将来的な人材確保につなげるのがねらいのようです。NTT東日本でも、在宅勤務制度の全社導入を検討しています。今年5月に在宅勤務のトライアルを開始し、約200名が応募したそうです。制度の詳細は、検証結果に基づいて決定していくようです。

◆「在宅勤務ガイドライン」を改訂
厚生労働省は今年7月下旬に、「情報通信機器を活用した在宅勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」(平成16年3月発表)を改訂しました。在宅勤務の普及に伴い、より詳細な解釈が求められている状況に対応するものであり、「労働基準関係法令の適用及びその注意点」などが盛り込まれています。導入を検討している企業にとって注目すべきガイドラインです。

厚生労働省「サービス残業解消指針」の内容

◆なくならないサービス残業
サービス残業があったとして2006年度に労働基準監督署から是正指導を受け、支払額が合計100万円以上となった企業は1,679社に上り、対象労働者数は182,561人となっています。支払われた残業代は総額で227億円1,485万円(企業平均1,353万円、労働者平均12万円)です。

◆指針パンフレットをホームページに掲載
サービス残業を放置することは、内部告発等をきかっけに労働基準監督署の是正指導等を受け、不払賃金を支払わなければならないリスクを抱えていることになります。
厚生労働省は、「賃金不払残業の解消を図るために講ずべき措置等に関する指針」(2003年5月策定)について、よりわかりやすく解説したパンフレットのホームページへの掲載を10月から開始しました。同指針は、賃金不払い残業(サービス残業)は重大な労働基準法違反であるとの考えのもと、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置等に加え、各企業における労使が労働時間の管理の適正化と賃金不払残業の解消のために講ずべき事項を示」すことを目的としています。ここでは、同指針に記載されている内容を改めて見てみましょう。

◆指針が示すサービス残業解消のために取り組むべき事項
(1)「労働時間適正把握基準」の順守
使用者は、「労働時間適正把握基準」を遵守することが必要です。また、労働組合(労働者)も、労働者に対して同基準を周知することが重要であるとしています。
(2)意識・職場風土の改革
サービス残業の背景に、「サービス残業もやむを得ない」という労使双方の意識(職場風土)がある場合には、これをなくすための取組みを行うことが望まれるとしています。
(3)適正に労働時間の管理を行うためのシステムの整備
サービス残業の実態を把握したうえで、関係者が行うべき事項や手順等を具体的に示したマニュアルの作成等により、「労働時間適正把握基準」に従って労働時間を適正に把握するシステムの確立が重要だとしています。また、サービス残業の温床となっている業務体制や業務指示のあり方にまで踏み込んだ見直しも必要であり、「サービス残業是正」という観点を考慮した人事考課の実施等により、適正な労働時間管理を意識した人事労務管理が望まれています。
(4)労働時間を適正に把握するための責任体制の明確化とチェック体制の整備
事業場ごとに、労働時間管理についての責任者を明確にしておくことが必要であるとされています。また、労働時間管理とは別に、相談窓口を設置するなどしてサービス残業の実態を積極的に把握する体制の確立が重要であり、実態を把握した場合には、労働組合(労働者)としての必要な対応を行うことが望まれるとしています。

2008/09/25

10月の事務所便り


平均寿命と「三大疾患」の関係

男女ともに過去最高に
女性は前年よりも0.18歳延びて85.99歳、男性は0.19歳延びて79.19歳。日本人の平均寿命が、男女ともに過去最高を更新したことが、厚生労働省が発表した平成19年版「簡易生命表」で明らかになりました。

世界トップクラスの平均寿命
平成19年版「簡易生命表」は、平成19年における死亡状況が今後変化しないと仮定したときに、各年齢の者が1年以内に死亡する確率や平均してあと何年生きられるかという期待値などを指標によって表したものです。そのうち、0歳の平均余命は「平均寿命」として捉えられ、保健福祉水準を総合的に示す指標として活用されます。
平成19年に生まれた赤ちゃんのうち、65歳まで生きる割合の推計は、女性で93.3%、男性で86.4%。75歳以上では、女性で85.8%、男性で70.8%。さらに90歳以上となると、女性で44.5%、男性で21.0%となります。
日本人の平均寿命は、世界トップクラスです。女性の平均寿命は23年連続で世界一となりました。また、男性も、今回2006年の2位からは後退したものの、3位となっています。
国際的にみると、女性の2位は香港の85.4歳(2007年)、3位はフランスの84.1歳(2006年)です。また、男性の1位はアイスランドの79.4歳(2007年)、2位は香港の79.3歳(2007年)となっています。

三大疾患との関連は
厚生労働省の人口動態・保健統計課は、「日本人の三大疾患である、がん、心臓病、脳卒中の患者の治療成績が上がったことで平均寿命が延びた」と分析しており、今後もこの傾向が続くとしています。
厚生労働省では、特定の死因が克服された場合の平均寿命の延びも試算しています。がんが根治できるようになったり、発症しなくなったりした場合、女性で3.01歳、男性で4.04歳、平均寿命が延びるとされています。同じように、心疾患が克服された場合の延びは、女性が1.65歳、男性が1.55歳、脳血管疾患では女性1.15歳、男性1.06歳となっています。また、三大死因のすべてが克服された場合、女性は7.12歳、男性は8.25歳、平均寿命が延びることも判明しています。
地方の医師や小児科医などの不足に悩む我が国において、順調に三大疾患の治療成績が上がっている現在の医療体制をいかにして維持し、さらに充実させていくのか、今後も注視する必要があるでしょう。




小中学生の学力低下と教育格差

「全国学力テスト」の実施結果
文部科学省が、小学6年生と中学3年生の原則全員を対象に、昨年に引き続き4月に実施した「全国学力・学習状況調査」(全国学力テスト)。これは、全国的な義務教育の機会均等と、その水準の維持向上を目的として実施されています。
この度、その結果が公表されました。今、小中学生の教育はどのような課題を抱えているのでしょうか。

応用力に課題あり
全国学力テストでは、国語と算数/数学について、基礎知識を問う「A問題」と、応用力を測る「B問題」が出題されています。平均正答率は、A問題で60~70%台、B問題では50~60%台と、昨年に比べ約8~16ポイント低下しました。科目別で平均正答率が最も高かったのは中学3年の「国語A問題」の74.1%、最も低かったのは中学3年の「数学B問題」の50.0%でした。正答率は全科目で昨年より下がっています。
「B問題」の正答率の落込みから、応用力に課題があることがみてとれます。文部科学省では、「正答率の経年比較はできないが、今回は問題がやや難しかったために下がった」と説明しており、「知識を活用する力に課題があるほか、知識の定着にも一部課題がある」としています。

地域別学力格差/公・私立間格差の存在
公立校のみ、都道府県別の正答率も集計されています。最も差が開いた「数学A問題」では、最も高い福井県の72.1%に対し、最も低い沖縄県では49.6%にとどまっており、学力格差が懸念されます。
また、昨年上位だった県は、今回も高い正答率を記録しました。その反面、昨年下位だった県では今回も正答率が低く、多くの都道府県の成績が前回と同様の傾向を示したことから、「学力格差の固定化」を指摘する声も出ています。下位の地域の中には、テストと同時に実施したアンケートで、学習意欲の低さや生活の乱れが明らかになった都道府県もあり、今後の取組みが注目されます。
また、国私立校は国語、算数/数学とも「A問題」で8割前後、「B問題」で6~8割の正答率となり、いずれも公立校の平均を大幅に上回る結果となりました。

調査結果を生かして今後の教育の充実を
今回のテストには、小学校の99.4%、中学校の96.4%が参加し、計約223万8,000人が受けました。この膨大なデータを積極的に公開・活用していくことが望まれます。この調査結果を今後の教育の充実にいかに活かしていけるかが、何より重要なテーマとなります。




電子マネーの現状と今後の方向性

電子マネーの魅力
小売店・鉄道・インターネット通販など、様々な場面で手早く支払処理を行うことができるのが魅力の「電子マネー」。目新しさやポイント付与などの魅力により普及が急速に進み、今や利用者は数千万人規模、対応する交通機関や店舗は日増しに増えています。

電子マネーとは?
電子マネーとは、貨幣価値をデジタルデータで表現したものです。お金の電子情報を蓄積したICチップを搭載したカード・携帯電話を支払い時に読取端末にかざすことで、通貨の代わりに仮想のお金として使用することができます。事前にカードや携帯電話に入金しておいて利用する「プリペイド(前払い)型」と、支払い後にクレジットカードで使用料金を決済する「ポストペイ型」に大別されます。
近年では、カード媒体を使わずに、残高情報を専用サーバーで管理し、プリペイド番号の入力により決済を行う「サーバー管理型電子マネー」も普及してきています。

急速な普及の要因は?
電子マネーの普及規模は、プリペイド型の発行枚数が9,000万枚近く、ポストペイ型の会員数が関西圏の私鉄・地下鉄の「ピタパ」を含め約1,400万人といわれています。
電子マネーがこれほど普及した要因はいくつか考えられますが、小銭のやり取りをせずに素早く支払いを終えられる利点が認識されたことが大きいと思われます。比較的安価で安定したIC技術が確立したことに加え、早い段階でコンビニに端末が設置され、利便性が向上したことも大きなポイントです。

今後の方向性
普及が目覚ましい電子マネーですが、規格が乱立しているうえ、共用端末の普及が進んでおらず、今後の課題といえます。また、法整備に向けた動きも注目されます。
特に重要なのは、補償や保護の問題です。現在、ポストペイ型は一般のクレジットカードと同じ補償サービスを受けることができます。プリペイド型は、未使用残高の半額を国に供託しているため、発行企業が倒産しても少なくとも半額は保護されます。ただし、サーバー管理型電子マネーは対象外です。また、ポイントについては法的には保護されていません。
これらの問題に関し、金融庁では、電子マネーやポイントの利用者保護に関する法整備を検討しています。サーバー管理型電子マネーやポイントを規制の対象とするか、プリペイド型電子マネーの利用者保護を強化するかなどが焦点になりそうです。




「最低賃金」時給700円台に突入へ

2008年度の引上げ額の目安は?
原則としてすべての労働者に適用される「最低賃金」。その額は都道府県ごとに決められており、現在の全国平均額は687円です。
2008年度の引上げ額の目安を議論していた中央最低賃金審議会(厚生労働相の諮問機関)は、全国平均で時給を15円程度引き上げることを決定しました。この結果、全国平均の最低賃金額は、初めて700円を超えることになる見通しです。

都道府県別最低賃金額の引上げと生活保護政策
今回の最低賃金額の引上げに関する議論では、7月に施行された改正最低賃金法の趣旨を、引上げ額にどう反映するかが焦点となりました。同改正法では、生活保護並みの時給を求めています。地域によっては最低賃金が生活保護費を下回り、「働く意欲をそぎかねない」との批判が強かったため、現時点で生じている生活保護との大幅な差を解消することになりました。
地域ごとの引上げ額は、中央最低賃金審議会が定めた目安を受けて、都道府県ごとに正式な金額が決定され、10月中に適用される予定です。これに加えて、最低賃金額が生活保護を下回っている12の都道府県については、生活保護との差を「原則2年(引上げ額が例を見ないほど大幅な場合は3年)」で解消することを求められました。
例えば、生活保護との差が時給80円あるとされる東京都の場合、3年で差を埋めるとすると1年当たり25円超の引上げが必要となるなど、逆転解消のためには前年度以上の大幅な引上げが必要となります。

引上げ反対の声も
最低賃金額の大幅な引上げは、低所得者の生活の下支えとなります。しかし、原油や食料の価格高騰の影響などで物価も上昇しているため、消費拡大効果は限定的とみられています。
人件費の増加は中小企業の存続に関わるとして、最低賃金額の大幅引上げに反対する声もあります。最悪の場合は中小企業の倒産を誘発し、かえって中小企業の雇用に悪影響を与えることも懸念されています。生産性向上や価格転嫁が進まなければ、中小・零細企業の雇用には悪影響を与えます。
生活保護との差を解消するため、来年度以降も最低賃金額は2ケタの引上げとなる予定ですが、今後の経済・雇用情勢によっては、方向性が変わる可能性もあるかもしれません。




非正社員雇用の現状は?

非正社員雇用が頭打ち
景気停滞局面の中、拡大が続いてきた派遣やパート・アルバイトなどの非正社員の雇用に、頭打ち感が強まってきました。企業は中長期的な人材確保のための正社員採用には積極的ですが、非正社員については絞り込む傾向が強くなっているようです。

非正社員の雇用の現状
総務省「労働力調査」で、雇用者数の内訳をみてみましょう。
正社員などの「常用雇用」は今年6月まで3年4カ月連続で前年同月実績を上回りました。しかし、その一方で、日雇いを除く1年以内の有期雇用を示す「臨時雇用」は、今年に入り6カ月連続でマイナスとなっています。これは、原材料の高騰や米国経済の低迷など経営環境の急速な悪化を受け、派遣社員や期間従業員の数が減らされたことによるものと考えられます。昨年の10月まで1.4倍台を維持していたパートの有効求人倍率は今年6月には1.25倍(季節調整値)にまで低下し、約6年ぶりの低さとなっています。
アルバイトも頭打ち傾向です。求人広告などから集計された6月の全国平均時給は968円で、前年同月を2%下回りました。人手不足を反映して上昇が続いてきたアルバイトの時給ですが、これで3カ月連続でのマイナスです。

人材派遣業界の現状
また、人材派遣業界も転機を迎えています。人材派遣業界は、固定費の増加を避けたい企業の需要拡大により急成長を続けてきましたが、日本人材派遣協会が107社を対象に集計している人材派遣の平均実稼動者数は今年4~6月で前年同期比1%増にとどまり、比較可能な2003年以降で最も低い伸びとなりました。

柔軟な雇用環境の確保が大切
正社員採用については、「団塊の世代」の大量退職が始まり、長期的にも少子化の影響で人手不足が続くことが予想されることから、中長期的な人材確保のため、企業は積極的な姿勢を維持しています。
一方で、非正社員については、改正パートタイム労働法の施行や日雇い派遣の原則禁止といった規制強化の動きも重しとなり、雇用が頭打ちになっていると考えられます。非正社員の待遇改善はもちろん大切ですが、待遇改善を目指す法律がかえって企業の慎重姿勢を強めてしまうことのないよう、柔軟な雇用環境を確保していくことが大切であるといえます。




働きながら年金を満額もらうには?

在職老齢年金制度
厚生年金は働きながら受け取ることもできますが、「在職老齢年金制度」により、賃金・年金額に応じて受給額が減額されてしまいます。これには釈然としない人も多いようですね。
厚生年金を満額受け取って働くにはどうすればよいか、対策を考えてみます。

対策その1:個人事業主になる
在職老齢年金の仕組みでは、給料と年金を組み合わせた収入が多い人について、厚生年金の支給額が減額されます。ポイントは、これらの計算対象となる収入とは、あくまで「給料と賞与」である、ということです。
減額制度は、厚生年金に加入し続けて働く人が対象です。個人事業主として独立すれば、雇われて給料をもらうことはないので厚生年金から外れ、支給される年金が減額されることも年金保険料を負担する必要もなくなります。また、勤めていた会社で働き続ける場合でも、個人事業主として業務委託契約を結べば、満額もらうことができることがあります。

対策その2:厚生年金に加入しなくても済む形態で働く
独立できるだけの専門的知識と技能がない場合、最も現実的なのは、厚生年金に加入しなくても済む、非正規のパートやアルバイトとして働くことでしょう。原則、勤務日数か勤務時間のどちらかが正社員の4分の3未満であれば、厚生年金の加入義務はありません。
また、従業員5人未満の個人事業所に就職することも1つの方法です。業種にもよりますが、勤務先の事業所が厚生年金に加入しなくてもよいので、働く人も減額の仕組みから外れます。

気をつけたいポイント
厚生年金に加入せずに働く場合、落とし穴もあります。妻が専業主婦の場合、夫が厚生年金保険から外れれば、妻も国民年金の第1号被保険者となります。60歳未満であれば国民年金保険料を支払う必要が生じ、保険料負担が増えて世帯収入が減るおそれもあります。また、厚生年金保険料を支払い続ければ、当然退職後に受け取る年金総額が増えます。目先の年金額に目を奪われすぎると、かえって損につながる恐れもあるのです。
満額支給にこだわって手取り総額の減少を我慢するか、減額されても手取り総額を増やすか、あるいは満額受給しつつ起業に挑戦するか、様々な選択肢が広がります。年金の受取り方は、働き方やライフスタイルといった、老後生活全体を考えることにつながりますので、よく考えて選択するべきといえます。



10月から発足する「協会けんぽ」で何が変わる?

「政管健保」から「協会けんぽ」へ
現在、主に中小企業の従業員やその家族など約1,990万人が加入している「政府管掌健康保険」は国によって運営されていますが、今年の10月1日からは、国から独立した新たな健康保険として発足する「全国健康保険協会」(通称:協会けんぽ)が運営を引き継ぐことになっています。
協会けんぽは、「非公務員型」の法人として新設される機関であり、そこで働く職員は公務員ではなく民間の職員となります。理事長や各都道府県における支部長なども民間から登用され、「民間のノウハウを積極的に採り入れていく」そうです。

新たな保険証への切替え
政府管掌健康保険に加入していた人は、10月1日以降、順次、新たな被保険者証(保険証)に切り替えられます。保険証の切替手続は会社を通じて行われますが、任意継続被保険者の人には直接自宅に保険証が郵送されます。10月以降に新たに協会けんぽに加入する人や保険証の再交付の手続きをした人には、新たな保険証が発行されます。
なお、保険証の切替えが完了するまでの間は、従来の保険証も引き続き医療機関等で使用することができます。

保険料は都道府県ごとに設定
健康保険の保険料率は、9月30日までの政府管掌健康保険の保険料率(8.2%)が適用されます。しかし、協会けんぽの設立後1年以内に、都道府県ごとに、地域の医療費が反映された保険料率が設定されることとなっています。
都道府県単位の保険料率は、年齢構成や所得水準に応じて、都道府県間で調整を行ったうえで設定されるようです。都道府県別の保険料率への移行にあたっては、大幅に上昇する場合には「激変緩和措置」が講じられることになっています。
なお、政管健保は高齢者医療への拠出金や医療給付費などの増加による影響から2007年には赤字に転落しており、厚生労働省は、0.1~0.3%程度の引上げが必要との試算結果を発表しています。

給付内容等は変更なし
医療機関で受診する場合の自己負担割合や高額療養費の負担限度額、傷病手当金などの給付の金額や要件などは、これまでと変わりありません。



厚生労働省が示した「名ばかり管理職」の基準

飲食業・小売業の店長などが対象
昨今、大きな社会問題となっている「名ばかり管理職」(職務権限や待遇が不十分にもかかわらず管理監督者とみなされて残業代が支払われない労働者)について、新たな動きがありました。
厚生労働省は、チェーン展開している飲食業・小売業の店長などが労働基準法上の「管理監督者」に該当するかどうかの具体的な判断基準を盛り込んだ通達を、都道府県労働局長あてに出しました(平成20年9月9日)。個別の業種・業態について詳細な基準を示したのは、異例のことです。

具体的な判断基準は?
この通達(「多店舗展開する小売業、飲食業等の店舗における管理監督者の範囲の適正化について」)では、「名ばかり管理職」の判断基準として、以下のことなどが挙げられています。
(1)職務内容や権限について、「パートやアルバイトなどの採用権限がない」ことや「パートらに残業を命じる権限がない」こと。
(2)勤務時間について、「遅刻や早退をした場合に減給などの制裁がある」ことや「長時間労働を余儀なくされるなど、実際には労働時間の裁量がほとんどない」こと。
(3)賃金について、「時間あたりの賃金がパートらを下回る」ことや「役職手当などが不十分である」こと。

「名ばかり管理職」最近の事例
紳士服大手「コナカ」の店長2人が「名ばかり管理職」だったとして、未払い残業代(計約1,280万円)を求めて申し立てていた労働審判において、横浜地裁は8月22日、原告の主張を認めました。同社の店長が司法の場で「名ばかり管理職」だと認定されたのは初めてのことだそうです。
また、昨年10月に死亡した日本マクドナルドの元店長の女性(当時41歳)の遺族らが、死亡したのは長時間労働による過労が原因だったとして、横浜南労働基準監督署に労災申請を行いました。遺族を支援している連合によれば、元店長の1カ月の残業時間は多い月で120時間にも及んでいたそうです。

厚生労働省では、上記の通達を出すにあたって「適切な監督指導を行い、管理監督者の範囲の適正化を図りたい」としており、今後の実務や裁判等にも大きな影響を与えそうです。



迫り来る「2009年問題」にどう対応するか?

製造派遣の「2009年問題」とは?
2004年の労働者派遣法改正において、それまで認められていなかった製造業への労働者派遣(製造派遣)が「1年間」に限って解禁され、2007年にはこれが最長「3年間」に延長されました。2007年3月の時点で契約1年以内であった労働者派遣については、手続きを踏むことより契約期間を2年間延長することができるようになりました。
「2009年問題」とは、2006年3月1日以降に締結された派遣契約が2009年3月1日以降に契約期間の上限を迎え、その際に企業はどのように対応するかという問題です。
もっとも、2006年夏の“偽装請負騒動”以降に請負から労働者派遣に切り替えた企業も多いため、派遣社員の契約期間の上限到達が本格化するのは2009年秋以降だとも言われています。

企業はどのように対応するか?
労働者派遣法においては、契約期間が3年間を超えた場合に再度派遣契約を締結する際には、3カ月間以上期間を空けなければいけないとされています。そこで、派遣先企業の対応の選択肢としては、(1)派遣から請負に切り替える、(2)派遣から直接雇用に切り替える、ことが考えられています。
(1)の請負への切替えについては、業務内容を検討しながら、「区分基準」(昭和61年労働省告示第37号)で示されている条件等をクリアしていく必要があります。その際には厚生労働省から発表されている「製造業の請負事業の適正化及び雇用管理の改善に関する研究会報告書」(2007年6月29日)にあるチェックシートが参考になると思われます。(2)の直接雇用への切替えについては、人件費の増加などが特に中小企業を悩ます問題となります。
いずれにしても、派遣先企業としては自社におけるリスクを考えながら、適切に対応していかなければなりません。

大手企業における対応策は?
キヤノンは今年3月に、子会社を含めた工場などの製造現場で働く派遣社員(約1万2,000人)の受入れを年内に全面的に打ち切り、半数を直接雇用の期間社員、残りの半数を請負会社との契約に切り替えることを明らかにしました。同社は偽装請負があるとして労働局などから指導を受け、派遣契約への切替えを順次すすめていましたが、直接雇用と請負とに再編する方針のようです。



もうお済みですか? 「外国人雇用状況」の届出

10月1日までに届出が必要
昨年10月1日に改正雇用対策法が施行され、すべての事業主に「外国人雇用状況の届出」が義務化されました。
具体的には、外国人労働者(特別永住者および在留資格が「外交」「公用」の者を除く)の雇入れまたは離職の際に、当該外国人労働者の氏名・在留資格・在留期間等について確認し、厚生労働大臣(実際にはハローワーク)へ届け出ることが必要となりました。これは、アルバイトなど臨時に雇用する場合の届出についても同様です。
上記の届出を怠ったり、虚偽の届出を行ったりした場合には、罰金(30万円以下)が科せられますが、改正法の施行前から継続雇用していた外国人労働者の届出については、今年の10月1日まで猶予されていました。そして、いよいよその期限が迫っています。
もう届出はお済みでしょうか?

外国人労働者数は約34万人
厚生労働省は、改正雇用対策法の施行を受けて外国人の雇用状況を集計し、先日その結果を公表しました。今年6月末時点における外国人労働者数(特別永住者を除く)は33万8,813人でした。
なお、前回調査時(2006年6月)は約22万人3,000人で、2年で約11万5,000人増加した計算になりますが、前回調査時までは企業の任意による報告に基づいていたため、この数だけ増加したとは一概にはいえません。

今後も増加が予想される外国人労働者
今年7月、自民党の「外国人労働者問題プロジェクトチーム」は、原則としてすべての業種において外国人労働者を受け入れることなどを盛り込んだ「外国人労働者短期就労制度」の創設を提言する方針を固めたと発表しました。
また、大学などを卒業して日本国内で就職した外国人留学生の数は2007年に過去最高の1万262人(前年比24%増)となったというデータもあり、今後も外国人労働者は増加していくものと予想されます。

2008/08/29

9月の事務所便り

導入なるか?「サマータイム制度」

◆次期臨時国会に提出か
夏の間、時計の針を1時間進める「サマータイム制度」について、導入が議論されています。政府は6月末に決めた、経済財政運営の指針となる「骨太方針2008」に明記し、超党派の「サマータイム制度推進議員連盟」は次期臨時国会への関連法案提出を目指しています。根強い反対論や課題も多く、浮かんでは消えるサマータイム制度について考えてみましょう。

◆サマータイム制度のメリットは?
サマータイム制度は、日照時間が長い夏に時計を1時間進めて、明るい時間を有効に使う制度です。利点としては照明の使用時間を短くできるほか、朝の比較的涼しい時間帯から仕事を始められるため、冷房の使用が減り、省エネ効果が高まり、世界的に関心が高まっている地球温暖化対策としても注目を集めています。1年に2回時計を直す手間も生じますが、これにより省エネ意識を喚起できるという効果も期待できます。
また、明るいうちに仕事が終わって余暇を楽しむ時間が増えれば、消費が拡大する可能性もあり、その経済波及効果にも期待が集まっています。
サマータイム制度は世界で70カ国以上が採用し、経済協力開発機構(OECD)加盟30カ国のうち、導入していないのは日本と韓国、アイスランド(夏が白夜のため導入の必要がない)だけです。

◆労働時間が増えることも
日本でも戦後間もない1948年に、サマータイム制度を取り入れたことがあります。電力供給不足の解消のため、GHQ(連合国軍総司令部)の指示で実施されましたが、「労働時間が増えた」として不評を買い、1951年に終わっています。
制度の導入が再び議論され始めたのは1990年代前半からで、省エネと経済効果を期待する経済界から声が上がりました。しかし、法案提出には至っておらず、「夏前に法案提出の動き→断念」という光景がお決まりのパターンとなっています。
代表的な反対の理由は、労働時間が増すという懸念です。定時退社が定着している職場が少ないため、始業が1時間早まるだけであって、労働時間が増えかねないからです。また、昨今の原油高や食料の物価高で家計や財布のヒモは固くなっており、夕方を余暇にあてられるかどうかは不透明です。早めに家に帰って冷房をつければ、エネルギー消費が増すおそれさえあります。
また、「時計合わせの手間がたいへんである」との見方もあります。掛け時計や腕時計の針を進めるだけでなく、時間調整のためのコンピューターシステムの修正には相当の手間とコストがかかると予想されます。他にも、睡眠障害等への悪影響など健康被害への懸念もあり、導入のためにはこれらの反対論や懸念を押し切れるだけのメリットを実証する必要があるようです。

「パワー・ハラスメント」の基準は?

◆法的定義のないパワハラ
職権を使ったいじめや嫌がらせである「パワー・ハラスメント」(パワハラ)が、会社の業務に大きな影響を与えるようになってきました。社員の士気や会社の評判を落とさないように対策に乗り出している企業もありますが、「セクシュアル・ハラスメント」(セクハラ)と違って法的定義がなく、あいまいな基準が対応を難しくしています。

◆パワハラに関する裁判例
企業内で上司などから暴力や暴言、無視されるなどのパワハラ行為を受けて悩む社員は多く、年々増加傾向にあると言われています。2007年10月の医薬品販売会社社員の自殺について、東京地裁がパワハラとの因果関係を認めて労災と認める判決を出しました。
また、2008年7月には道路会社社員の自殺をめぐり、被害者がうつ病で自殺したのはパワハラが原因であるとして、遺族が慰謝料などの損害賠償を求めた訴訟の判決で、松山地裁は自殺との因果関係を認め、約3,100万円の賠償を命じました。裁判長は、上司による過剰なノルマ達成の強要や度重なる叱責は「違法と評価せざるを得ない」と指摘し、「自殺は予見可能だった」として会社の責任を認めています。
また、企業のトップがパワハラ体質であるために社員が相次ぎ辞めていく会社もあると言われており、パワハラに対する社会の見方は厳しさを増していると言えるでしょう。

◆「パワハラ上司」のタイプ
パワハラに関し、研修の主要テーマに据えるなど、何らかの予防策を模索する企業は増えています。パワハラに関する研究を行っている有識者によると、主に「パワハラ上司」は、以下の4つのタイプに分けられるとしています。
(1)怒鳴るなどの威嚇をする「自己中心型」
(2)細かく指示する「過干渉型」
(3)自分の上司頼みで責任を回避する「無責任型」
(4)意欲に乏しく部下に負担をかける「事なかれ主義型」

◆世代間で認識にギャップも
パワハラについては、世代間の認識の差なども大きく、特に年長社員には先輩社員に怒鳴られながら仕事を覚えた経験を持つ人も多く、「部下に熱心に注文をつけて何が悪いのか」といった反応もあるようです。
暴力を振るう、到底達成できないノルマを課すなどの行為は典型的なパワハラですが、一方で、部下の成長を願って強く注意するといった行為がパワハラなのか、基準は受け止める側によってまったく変わってきます。ただ、パワハラ対策に真剣に取り組むことにより、必然的に、上司と部下の関係や、職場の雰囲気などが改善されていく可能性は大いにあると言えるでしょう。

創設目指す「消費者庁」とはどんな省庁!?

◆食品偽装や物品事故などへの懸念
福田内閣が来年度の創設を目指しているのが「消費者庁」です。食品の偽装や製品事故などへの懸念が増大するなかで、どのような役割が期待されているのでしょうか。また一般消費者にはどのようなメリットがあるのでしょうか。

◆消費者庁の狙い
消費者庁とは、消費者の視点に立って政策全般を監視し、必要があれば法律を企画立案したり他省庁に適切な対応をするように勧告したりする「消費者行政のかじ取り役」となる組織で、設置に向けた準備が進んでいます。具体的には表示、安全、取引など消費者に身近な問題を広く扱い、物価行政も担当することになります。全国の消費生活センターなどを使って相談窓口を整備し、情報を一元的に吸い上げて他省庁に適切な対応を勧告したりもするようです。
設置の背景として、近年、消費者が巻き込まれる事件や事故が相次いでいることが挙げられます。報道で取り上げられる各種の食品偽装事件は、まったく後を絶ちません。また、ガス瞬間湯沸かし器による死亡事故は約20年前から、家庭用シュレッダーによる子供の指の損傷や経営破たんした英会話学校への苦情なども、かなり前から問題になっていたにもかかわらず、行政は有効な手を打てませんでした。
日本の行政はこれまで、「いかに国を豊かにするか」を重視し、消費者行政はいわば二の次とされてきました。消費者庁は成熟社会を迎え、産業育成優先から消費者の権利保護を優先させる行政に転換する象徴として位置付ける狙いがあるようです。

◆機能するための課題は?
政府は秋の臨時国会に消費者庁設置のための法案を提出し、来年度からの発足を目指しています。
仮に順調に発足したとして、消費者庁がしっかりと機能するためには、いくつかの課題があります。まずは、他省庁との役割分担や責任の所在の問題です。所管する法律の半分以上が他省庁との共管や一部移管です。したがって、しっかりと役割分担をしておかないと、現場が混乱し行政サービスの低下を招きかねません。
また、財政難にあえぐ地方の消費者窓口をどう強化するか、幅広い業務を適切にこなせる専門性を備えた有能な人材をどうやって確保するのか、といったことも課題として挙げられます。他にも、巨大規制官庁ができることにより、消費者保護を理由に過剰な規制をして健全な経済活動を阻害してしまっては消費者のためにならない、という意見もあります。
消費者庁構想実現のためには、まだまだ議論すべき点は多いと言えるでしょう。

「冠休暇」の活用で有給休暇取得を促進

◆有給休暇の取得促進を目指して
「プロジェクト休暇」や「アニバーサリー休暇」など、特別な冠をつけた有給休暇制度を設ける企業が目立ちはじめました。ワークライフバランス(仕事と生活の調和)向上の機運が高まる一方で、高まらない有給休暇の取得率向上のために、各企業で新たな促進策が打ち出されています。

◆国を挙げての取組み
有給休暇の取得率向上は、国も大きな課題として取組みを始めています。内閣府が2007年にまとめたワークライフバランスに関する「行動指針」では、有給休暇取得率を、2012年には60%、2017年には100%にまで引き上げることを目標にしています。 
しかし、国を挙げてワークライフバランス向上への取組みを進めているにもかかわらず、有給休暇取得率は低迷したままです。厚生労働省の調査によると、2006年に企業が社員に与えた有給休暇は年平均17.7日。一方、社員の取得日数は8.3日と、有給休暇取得率は40%台にとどまります。
就業形態の変化によって正社員が減り、1人当たりの仕事が増えたことで、結果的に多くの職場で長時間労働を余儀なくされ、有給休暇が取りにくくなっているとも考えられます。また、同僚との競争や上司の評価を気にして積極的に休まない人も多いようです。

◆「冠休暇」の効果は?
過労死の増加などで社員の健康管理がより問われるようになった今、企業も社員に休みを取らせるために、様々な知恵を絞っています。
ある企業では、「プロジェクト休暇」を導入しました。これは、1つのプロジェクトが終わるたび、最低1日の有給休暇が取れる仕組みです。1つのプロジェクトに対して複数の人間で対応するため、個人の都合で休むのは難しいことから、プロジェクト終了ごとに同僚と調整しながら休むとしています。
また「アニバーサリー休暇」として、自分や家族の記念日に休むことを促進する企業もあります。導入したある企業では、有給休暇取得のための意識が高まることで、仕事を1人で抱え込まずに周囲と情報交換したり、効率的に仕事をする同僚のやり方を参考にしたりと、別の部分でも波及効果が出ているようです。
もっとも、新たな休暇制度を設けていても、休みやすいように人員や仕事を適正化することが重要であり、それなくしては休みたくても休めない現実に変わりはありません。国、企業、そして労働者が一体となった取組みを続けていくことが大切でしょう。

公的年金の運用損失が過去最大に

◆運用利回りがマイナス6.41%に
公的年金の積立金を市場運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、2007年度の運用利回りがマイナス6.41%になったことを発表しました。少子高齢化により、給付と負担のバランスが年々崩れていくなか、公的年金の運用損失が過去最大となったことで、より厳しい現実を認識せざるを得ない状況となりました。

◆世界株安の影響
2007年度は、米国の低所得者向け住宅ローン(サブプライムローン)問題に端を発した世界的な株安により、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の運用損失は、過去最大の5兆8,000億円に膨らみました。マイナス運用になったのは2002年度にマイナス8.46%となって以来です。ただ、当時よりも運用金額が3倍近くあるため、損失は2007年度のほうが大きくなっています。
GPIF側は、「運用成績を長期的にみれば2007年度のマイナスを勘案しても与えられた運用目標は達成されている」としています。しかし、現在の積立金運用は硬直的であるとの批判が多く、運用を効率化する必要も指摘されています。

◆日本の運用成績は
企業の格付や年金資産等の運用成果の分析評価を行う格付投資情報センターが、約130の企業年金を対象に実施した調査によると、2007年度の運用利回りはマイナス10%弱でした。それに比べると、公的年金は株式の比率が低い分、マイナス幅は小さかったと言えます。ただ、中期的にみると、日本の公的年金の運用成績は海外の年金基金に比べて見劣りします。2006年度までの直近5年の運用成績を比較すると、日本の3.5%に対し、カナダ10.4%、オランダ7.2%、ノルウェー6.9%と、日本の運用成績の悪さが目立ちます。
しかし、日本の運用利回りが海外に比べて低いのは、債券の運用比率が60%以上と突出して高いことも理由の1つです。低リスクで低リターンの債券での運用は、投資においてリスクを嫌う日本人の気質にあった運用方法とも言えますが、債券への過度の傾斜は逆にリスクが大きいとの指摘もあります。
国内外の株式や債券という伝統的な資産のほかに、商品(コモディティー)や不動産など代替資産に分散投資することによって運用を効率化すべきだとの声も多く、今こそ大切な積立金の運用について再考するべき時期に来ていると思われます。

運転慣習にみられるローカル色

◆独自の慣習が横行!?
運転ルールは全国共通のはずですが、地域によって独自の慣習が横行しています。交差点で直進車を差し置いて強引に右折するなど、交通法規に違反する例も多く、観光客や転勤者の目には危険な行為と映ります。長らく「慣行」と受け止めていた地元の人の間でも、見直し機運が高まってきているようです。

◆全国各地の交通慣習
ある新聞によると、「街角で左折しようとしたら対向車も同時に右折し始め、ぶつかりそうになる…」長野県松本市ではこのような光景がよく見られるそうです。地元ドライバーの一部には、交差点で強引に右折する交通慣習があり、県内外では「松本ルール」と呼ばれているのだそうです。地元の人によれば、もともとこの松本ルールは車同士の道の譲り合い精神から生まれたといいます。城下町であった松本市は細い道が多く、右折待ちの後続車は渋滞しがちです。そこで、対向車が渋滞防止のため右折車を優先させていたのが始まりとのことです。それが、いつしか右折車の「先を急ぐため」の慣行となってしまいました。
片側4車線の幹線道路が貫く名古屋市内では、「名古屋走り」と呼ばれる慣行があるそうです。ウインカーをしっかり出さない車線変更や、交差点で黄色信号になったら速度を上げて通過するなどの荒っぽい運転の総称とされています。
また、愛媛県では松山市を中心に、信号が青になった瞬間に直進してくる対向車の前に右折車が割り込む「伊予の早曲がり」と呼ばれる交通慣習が存在するそうです。
このような独自の交通慣習は各地で見られ、関東では「道を譲る」合図に使われることが多いパッシング(車のライトの点滅)が、関西では「自分が先に行く」という意思表示に使われることが多いようです。

◆マナー向上と譲り合いを
なぜ、地域慣習が存続し続けるのでしょうか。地元ドライバーの「便利だから」という意識が根強く、「染みついた癖なのでなかなか治せない」という意見があります。また、強引な車線変更や早曲がりなどを、素早くてうまい運転技術の証しとみなす勘違いも、原因の1つと言われています。
これらの交通慣習には、転勤などによる転入者や観光客を中心に批判が高まり、各地で対策も始まっています。前述の松本市では、交通マナー向上に関するステッカーを市内のバスやタクシー会社に配布するなどしています。多くの車が行き交う路上では、初心者や運転技術の未熟な人にも配慮できる運転こそが大切であり、譲り合いなど気持ちにゆとりを持った運転方法こそを地域慣習とする視点を持つべきだと言えるでしょう。

人材が不足する介護労働者の確保対策

◆介護労働者の離職率は21.6%
「2007年度介護労働実態調査結果」(財団法人介護労働安定センター発表,4,783事業所と事業所で働く1万3,089人の介護労働者が回答)によると、2007年度における介護労働者の離職率は「21.6%」となったそうです。また、平均勤続年数は「3.1年」となっています。働くうえでの不満に関する質問に対しては、「仕事内容の割に賃金が低い」「業務に対する社会的評価が低い」「精神的にきつい」という回答が上位を占めました。
厚生労働省は、これらの理由などから慢性的に人手不足となっている介護分野における人材を安定的に確保するため、様々な対策を検討しています。

◆厚生労働省による介護労働者の確保・定着策
厚生労働省は7月下旬に、「介護労働者の確保・定着等に関する研究会」の中間とりまとめを発表しました。介護サービスへのニーズが増大する一方で、介護労働者の確保・定着が困難な現状を指摘しています。
「介護労働者が意欲と誇りを持って働くことができる社会の実現」を目指して、事業主に対して介護労働者の雇用管理の重要性を訴えるとともに、処遇改善や能力開発、多様な就業形態やメンタルヘルス対策など、働きやすい労働環境の整備が求められるとしています。

◆介護職専門のハローワークを設置の方針
同省では、2009年度から介護職専門のハローワークを設置する方針を示しています。人手不足が特に深刻な状況となっている大都市圏に数カ所程度設置して、介護分野への就労を希望する人に対する職業相談を行うなど、現役の介護福祉士やホームヘルパーのスタッフによる支援を実施するとしています。

◆「介護の日」の制定を検討
介護に対する国民の理解と認識を深めて、介護労働者や介護サービスの利用者、その家族などを支援するため、「介護の日」の制定も同省では検討しているそうです。同省の検討会で決定した複数の候補日・名称に対する国民からのパブリックコメントを踏まえたうえで、検討を進めていくとしています。
上記のような対策が果たして介護労働者の人手不足解消につながるのか、注目していきたいところです。

世界的大流行の可能性がある「新型インフルエンザ」

◆厚生労働省が対策ガイドラインを公表
厚生労働省は、「新型インフルエンザ」が国内で大流行した場合に想定される社会への影響をとりまとめ、民間企業が事業を継続するための注意事項などを盛り込んだガイドラインを公表しました。このガイドラインでは、大流行時には最大で40%の従業員が欠勤することを想定しており、需要の減少などに対応した事業計画を作ることなどを各企業に求めています。
企業の経営に大きな影響を与えなかねないこの「新型インフルエンザ」とは、一体どのようなものなのでしょうか?

◆「新型インフルエンザ」とは?
「新型インフルエンザ」は、鳥インフルエンザのウイルスなどが人間に感染し、人間から人間に感染しやすく変異したウイルスによるインフルエンザとされ、免疫を持っている人間がいないことから、今後、世界的に大流行の可能性があるとされています。発生した場合、日本国内だけで死亡者が最大64万人出るであろうとの専門家の指摘もあるようです。
なお、世界保健機構(WHO)の発表によれば、今年5月下旬時点の鳥インフルエンザの累計発症者は383人ですが、このうちの6割の方が亡くなっているそうです。

◆政府・企業が進めている取組み
 政府では、ワクチンを備蓄するなどの取組みを進めているそうです。
また、大手企業を中心に、すでに独自の対策を始めている企業もあるようです。その内容は、「新型インフルエンザ対策アクションプランの作成」(資生堂)、「海外出張者向けの新型インフルエンザ対策」(マイクロソフト日本法人)、「全社的な新型インフルエンザ対策の検討」(味の素)、などです。

◆東京商工会議所は中小企業向けの指針を策定へ
 東京商工会議所では、対策が進んでいないとされる中小企業向けの「新型インフルエンザ」対策のための指針を来年3月までに策定するとしています。指針に盛り込まれる予定の内容は次の通りです
(1)基礎知識や治療薬の効能・備蓄方法
(2)従業員や家族に患者が出た場合の対応
(3)事業継続の判断基準
(4)情報入手の方法

今年度の「地域別最低賃金」引上げ額は?

◆地域別最低賃金の新基準は10月中に適用予定 中央最低賃金審議会(厚生労働大臣の諮問機関)の小委員会は、今年度における地域別の最低賃金の引上げ額を7~15円と決定し、厚生労働大臣に答申を行いました。これにより、全国平均の最低賃金額が初めて700円を超える見通しとなったことが明らかになりました。
なお、地域別最低賃金額は、地方最低賃金審議会(公益代表・労働者代表・使用者代表の各同数の委員で構成される)での審議を経て、地方労働局長により決定されることになっており、今後、同審議会の議論を経て正式決定され、10月中に新基準が適用される予定です。

◆「地域別最低賃金」の定義と法改正
地域別最低賃金は、原則として産業や職種などにかかわりなく、すべての労働者とその使用者に対して適用される最低賃金で、都道府県ごとに決められています。
今年7月1日から施行された改正最低賃金法(平成19年12月5日公布)では、地域別最低賃金を決定する際には、労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう、生活保護に係る施策との整合性に配慮することとされました。また、地域別最低賃金を下回った場合の罰金の上限額は、従来の「2万円以下」から「50万円以下」に引き上げられています。

◆都道府県ごとの引上げ額は?
 都道府県ごとの引上げ額は以下の通りとなっています。
・Aランク(15円)…千葉・東京・神奈川・愛知・大阪
・Bランク(11円)…栃木・埼玉・富山・長野・静岡・三重・滋賀・京都・兵庫・広島
・Cランク(10円)…北海道・宮城・福島・茨城・群馬・新潟・石川・福井・山梨・岐阜・奈良・和歌山・岡山・山口・香川・福岡
・Dランク(7円)…青森・岩手・秋田・山形・鳥取・島根・徳島・愛媛・高知・佐賀・長崎・熊本・大分・宮崎・鹿児島・沖縄

「ワークライフバランス」の実現に向けて

◆意外と知られていない「ワークライフバランス」の意味
内閣府が行った調査(20歳以上の男女3,000人が対象。1,839人が回答)で、「ワークライフバランス」(仕事と生活の調和)の意味を知らない人が9割近くに上ることがわかりました。「名前も内容も知らない」と答えた人が60.1%、「名前は聞いたことがあるが内容までは知らない」と答えた人が26.6%に上りました。
「ワークライフバランス」の実現に向けて政府・厚生労働省は様々な対策を講じたり、検討したりしていますが、なかなか浸透していないのが実状のようです。

◆政府・厚生労働省が検討している施策
先日、社会保障政策を強化して少子高齢化社会に対応することを目的として、政府が取り組むべき対策をまとめた「5つの安心プラン」の原案が明らかになりました。その中の1つとして、「子育て支援」が挙げられています(その他の4つは「高齢化社会への対応」「医療体制の強化」「非正規労働者の支援」「厚生労働行政の信頼回復」)。
また、厚生労働省は、子育てと仕事の両立支援のため、企業に「短時間勤務制度」と「残業免除制度」の導入を義務付ける方針を明らかにしています。育児休業を取得した後も働き続けられる環境を整備するのが目的で、来年の通常国会に育児・介護休業法の改正案を提出するとしています。

◆厚労省研究会の「報告書」では
厚生労働省が先日とりまとめた「今後の仕事と家庭の両立支援に関する研究会」の報告書では、育児休業後の仕事と育児の両立が難しい現状、男性の育児への関わりの不十分さなどを指摘しています。
また、労働者が「短時間勤務」と「残業免除」を選択することのできる制度の整備や、出産後8週間に父親が取得する育児休業を「パパ休暇」として普及・促進することなどを求めています。

◆「ワークライフバランス」に関する民間資格新設へ
また、厚生労働省は、ワークライフバランスへの取組みを企業に広げるために、新たな民間資格である「仕事と生活の調和推進アドバイザー」を2009年度にも新設する方針を発表しました。新聞報道によれば、5年間で5,000人程度を養成したい考えで、同アドバイザーの利用促進のため、企業が助言に基づいて必要な行動計画を作成した場合の助成金の支給も検討しているようです。

2008/07/30

8月の事務所便り

企業を悩ますインターネットトラブル

 ◆企業を誹謗中傷する内容も
インターネット対策に頭を悩ます企業が増えています。ネットに書き込まれた情報は瞬時に多くの人の目に触れることになりますが、それが企業を中傷するような内容であれば、企業にとってはイメージ低下につながるおそれもあります。とはいえ、サービスの利便性やプライバシーとの兼合いもあり、情報の規制には困難が伴うのが実情のようです。

 ◆対応の難しい検索サービスによるトラブル
ある会社が、自社名を入力すると関連検索の欄に「悪徳商法」という単語が自動表示されることに困惑し、大手検索サービス会社に対して表示の差止めを求める仮処分を裁判所に申し立てた事例があります。
昨今問題とされているのが、こうした検索サービスによるトラブルです。検索サービスの画面で、入力したキーワードと一緒に打ちこまれる可能性の高い単語を自動的に並べて表示する「関連検索」という項目があります。利用者がサイトを絞り込んで検索できる便利な機能ですが、会社名や商品名を入力すると、「被害」「悪徳」など、イメージ低下につながる単語が自動表示されることがあります。企業にとっては、たまったものではありません。
先の事例では、企業側が「イメージが低下して売上にも悪影響が出た」と主張したのに対し、検索サービス側は「利用者の検索パターンを事実として表示しているだけ」と反論し、最終的に、裁判所は企業側の請求を退けました。「利用者は悪徳商法という単語を、同社名と併せて検索する頻度の高い単語と認識するだけである」と判断し、名誉毀損には当たらないとしたのです。

 ◆行政側の対応は?
もっとも、行政もネット上の名誉棄損問題に手をこまねいてきたわけではありません。2002年には「プロバイダー責任制限法」が施行され、一定の要件を満たした場合、プロバイダーは被害者の請求に応じて、違法な書込みをした発信者の情報を開示できるようになりました。
法務省の統計によれば、ネット上のプライバシー侵害などの報告件数は年々増加傾向にあるようです。これは、法律の施行により、一定の要件を満たせば内容を削除できるようになったほか、相手に損害賠償請求もしやすくなって、これまで泣き寝入りしていた被害が表面化したためだと思われます。しかし、同法は掲示板やホームページなどが対象であり、メールのような通信は含まれません。そのため、一斉メールでの中傷などに関しては、「通信の秘密を守る」という観点からも法的に対抗するのは難しいのが現状です。
今後、日常生活に不可欠となったネットサービスの利便性を損なわずに、どうやって個人や企業の権利を守って行くのか、ルールのあり方が問われています。

深刻な少子化問題とこれからの対策

 ◆「合計特殊出生率」は上昇
高齢化と同時に少子化が進む現代の日本。今後、年金給付水準切下げなどの形で国民生活に影響が出ることが懸念されており、深刻な問題です。
少子化の指標として一般的に用いられている「合計特殊出生率」は、2007年度は1.34%に上昇しました。しかし、これで少子化に歯止めがかけられたというわけではありません。この指標を通して、これからの少子化対策について考えてみます。

 ◆増える未婚者、進む晩婚化
合計特殊出生率の意味するものは、一夫婦当たりの平均出生児数ではなく、未婚者や離別者を含む女子全体についての平均出生児数です。そのため、独身で暮らす人の増加、晩婚化の進行など、結婚の動向によって変化します。
近年、出生率の低下が問題となっていますが、実は一夫婦当たりの出生率はほぼ横ばいです。真に問題なのは、未婚率・晩婚率の上昇により、第1子がいない家庭が増えていることだといわれています。
厚生労働省の発表によれば、2007年度の出生数のうち第1子は約52万人、第2子は約40万人と、それぞれ前年比1%余り減少し、全体数も2年ぶりに減少しました。婚姻数は約72万件と2年ぶりに減少、未婚者が増えています。平均初婚年齢は、夫・妻ともに0.1歳上昇し、晩婚化に伴う晩産の影響で、第1子を産む母親の平均年齢は29.4歳と過去最高を更新しています。
一方、第3子以上は約47万人で前年比4%の増加となりました。2007年は景気が底堅く推移し、家計に余裕が出たことで、30歳代後半の層を中心に「もう1人産みたい」という夫婦が増えたためと思われます。

 ◆少子化には国をあげての対策が必要
少子化の背景には、働き方の変化も関連しています。生活不安を抱える男女が結婚・出産に踏み切れないケースも多く、第2次ベビーブーム(1971年~74年)に続く第3次ベビーブームが起きる兆しはありません。30歳代半ばの団塊ジュニア世代の結婚・出産による押上げ効果がなくなれば、出生率の減少幅が拡大する可能性もあります。
少子化に歯止めをかけるためには、国をあげての対策が必要です。日本は出生率が2.0を超えるフランスなどの先進国に比べて、少子化対策関連の予算が少ないのが現状です。家族関係支出の国内総生産に対する割合は、イギリスの3.02%に対して0.75%に過ぎません。後期高齢者医療制度(長寿医療制度)の見直しで追加負担が生じるなど財源が限られる中、少子化対策予算をどう増やしていくのか、課題となっています。

子供の金銭感覚を磨く「お小遣い」

 ◆金銭感覚がない子供が増加!?
クレジットカードや電子マネーの普及によりお金の流れが見えにくくなり、金銭感覚の乱れた子供が増えているようです。子供の頃から投資センスを育む必要性が指摘されていますが、投資教育の前に、生活に必要な金銭管理能力を身につけさせなければなりません。
お金の価値や金銭管理の厳しさ、借金の怖さなどを子供にどう教えるのか、家庭での金銭教育への関心が高まっています。

 ◆「お小遣い」を活用した金銭教育
家庭での身近な金銭教育のツールとして「お小遣い」の活用が挙げられます。毎月一定額のお小遣いを子供に渡し、欲しい物、学用品などを買わせます。家計のやりくりと類似しています。子供は最初、喜んで欲しい物ばかり買ってしまいがちです。その結果、必要な文房具などが買えなくなっても、安易に援助せず、次のお小遣いまで我慢させます。この繰返しにより、金銭感覚や我慢する心を身につけさせるのです。お小遣い帳をつけさせて、親が適宜助言するのも効果的です。
自立心や責任感を養い、必要なものを買ったうえで欲しい物を手に入れるにはどうしたらよいかを考えさせるのが、「お小遣い教育」の狙いです。
高校生くらいになって日常の行動範囲が広がるにつれ、携帯電話代や交遊費など、使うお金も増えていきます。そこで、ある程度まとまったお金を渡して自ら管理させる「予算制」や「年俸制」を取り入れるのもひとつの方法です。

 ◆お小遣い教育を成功させるために
金銭教育の手法は家庭ごとに様々と思われますが、大切なのは「家族全員が納得したうえでルールを作る」ことです。
例えば、お小遣い教育で悩ましいのが祖父母の関与です。お小遣い教育について説明したうえで、祖父母にも満足してもらえる工夫をすることが必要です。祖父母が子供にお小遣いをくれたときは、それを断るのではなく、まずは子供と一緒に喜びましょう。そのうえで、臨時収入としていったん貯金する、おもちゃを買ってもらうよりも遊園地に連れて行ってもらうような「物より思い出」方式にするなどのやり方を、祖父母を交えて考えます。
また、お金にまつわる情操教育の一環として、お年玉やプレゼントをもらったらお礼に手紙や絵を書いて贈ることにする、クリスマスは自分がもらうだけでなく人にも贈り物をすることにするなど、心の教育への取組みも大切なポイントです。
さらに、お金の管理について子供が間違いを犯したときに、なぜ間違えたのか、どう解決すればいいか、一緒に考えることで家族の対話も増えれば一挙両得だといえるでしょう。

2010年発足予定「日本年金機構」の組織改革

 ◆社会保険庁の組織改革
抜本的な組織改革を行っている社会保険庁。2008年10月には政府管掌健康保険の運営を「全国健康保険協会」という新しい公法人に分離し、2010年1月には社会保険庁を廃止して「日本年金機構」という新しい公法人が設立されます。とりわけ日本年金機構は、社会保険庁の相次ぐ不祥事と年金問題に対応するために、徹底した改革を迫られています。

 ◆人員削減と懲戒処分者の排除
政府の「年金業務・組織再生会議」がまとめる、社会保険庁組織改革の最終報告書案をみてみましょう。
同会議は、業務の外部委託や情報技術(IT)の活用で、大幅な人員削減が可能と判断。日本年金機構の発足時の正規職員数を約10,900人とし、現行比17%減とすることが決定しています。一方で、民間からの採用を拡大し、機構発足時に外部から1,000人を採用するため、社会保険庁から正規職員として移行するのは約9,900人にとどまります。
個人情報の覗き見などで懲戒処分を受けた職員の排除も重視し、懲戒を受けたことのある職員は正規職員として採用されません。懲戒処分者については有期雇用とし、退職金にも差をつけることとしています。こうした方向性が明らかになるにつれ、退職の意向を示す、過去に処分を受けた職員が続出しているそうです。
これまで、社会保険庁では、「厚生労働省採用のキャリア組」「社会保険庁採用のノンキャリア組」「地方採用のノンキャリア組」という3層構造を維持してきました。各層間で問題を共有しない一体感を欠いた運営が、今日の年金記録問題につながったとも言われています。この反省から、人事権を本部に集約すると同時に、年金機構の幹部に厚生労働省出身のキャリアを充てる場合には本省には戻さない「ノーリターンルール」を適用し、現場への監督責任を明確化するそうです。

 ◆今後の課題は?
今回の改革では、「数減らし」にこだわり過ぎた感があることも否めません。全国の社会保険事務所の窓口には年金記録関連の相談者が殺到しており、慢性的に人手が足りない状況が続いています。今後も増大する業務量に改革後の人員数でどのように対応するかなど、実務面での課題は多く残っているといえます。結局、非正規雇用などで穴埋めすることになれば、相談などの業務でサービスの質が保てるか不透明です。
数は減らしながらもいかにサービスの質の向上を目指すか、一見矛盾したようにも見えるこのテーマにどう取り組むかが、今後の課題です。

高止まりする自殺者数と急がれる対策

 ◆急がれる自殺防止への取組み
昨年1年間に自殺した人は全国で3万3,093人。10年連続で3万人を超えたことが、警察庁のまとめで判明しました。こうした現状を踏まえ、自殺防止への取組みが急務となっています。

 ◆警察庁の自殺統計データから
昨年の自殺者数は前年よりも2.9%増加し、2003年の3万4,427人に次いで過去2番目の高水準となりました。男性が全体の約7割を占める2万3,478人で、女性は9,615人でした。30歳代と60歳以上は過去最多となり、特に60歳以上は自殺者全体の36.6%と3分の1を超えました。人口10万人当たりの自殺者を示す「自殺率」は、50歳代が38.1%と最も高くなっています。
また、警察庁は昨年、自殺統計原票の原因動機や職業分類を見直し、自殺防止対策に役立てるために今年から詳細なデータを発表しています。細かな項目では「うつ病」(6,060人)が全体の18%を占め最多となり、「身体の病気」(5,240人)、「多重債務」(1,973人)の順となっています。また、介護や看病疲れが理由とみられる265人の内分けについては、60歳以上が153人を占めました。
職業別では、無職が全体の半数以上に上る1万8,990人、会社員などの被雇用者が9,154人、自営業者が3,278人、学生や生徒は873人となっています。都道府県別の自殺者数は、東京都が最も多く、次いで大阪府、神奈川県の順となっています。
なお、警察庁の自殺統計は、死亡届をもとに集計する厚生労働省の人口動態統計より、人数が多くなる傾向があります。これは、死亡届を出した後に警察の調べで自殺と判明したケースや、日本国内で自殺した外国人なども数に含まれるためです。

 ◆「自殺対策基本法」と「自殺総合対策大綱」
政府は、自殺者数を減少しようと、相談体制の整備、自殺防止のための啓発、調査研究の推進等に取り組んできました。そこで2006年に制定されたのが「自殺対策基本法」です。この法律は、自殺を個人的な問題としてのみ捉えるのではなく、社会的要因を踏まえ、社会的な取組みとして対策を実施するべきであるという理念のもと、自殺の防止を図り、併せて自殺者の親族等に対する支援の充実を図ることを目的としています。
さらに、この基本法に基づき、政府が推進すべき自殺対策の指針として「自殺総合対策大綱」が策定されました。
しかし、自殺者数の減少傾向はみられないのが現状です。スタートして間もない法律でもあり、具体的な形での効果はまだ出ていないといえます。今後に向けて、早急な対策が急がれます。

医療崩壊の歯止めに厚生労働省が対策検討

 ◆医師数の抑制は政策の誤りだった?
厚生労働省は、医師不足による医療崩壊に歯止めをかけるため、大学医学部の定員削減を定めた閣議決定を撤回し、医師の養成数を増やす方針を決定しました。「医師は全体としては余っている」として医師数の抑制を続けてきた政策の誤りを認めた格好です。

 ◆「数は増えても医師不足」の現状
現在の医師数は約27万人で、毎年3,500人程度の純増が続き、全医師数でみると増加が続いています。しかし、医師は設備の整った都市部の大病院や皮膚科など特定の診療科に集中しているのが現状です。へき地などの地方は医師数が足りず、地域間の格差が非常に大きくなっています。
また、産科・小児科・救急病院などは激務のため敬遠され、なり手が見つかりません。地域・診療科によっては、医療崩壊が深刻化しているのが現状なのです。加えて、近年、高齢化による患者増や医療の高度化・専門化が進み、医師総数が不足しているとの声が強まっていました。

 ◆検討されている様々な対策
大学医学部の定員数を増やして養成数を増やすことに加え、厚生労働省では様々な対策を検討しています。
診療科の偏在については、まず、産科・小児科の医師不足解消のために、女性医師の積極活用が進められます。女性医師は産科・小児科で主力を担いますが、結婚や出産を機に辞めるケースが多いのが現状でした。そこで、短時間だけ働く正職員制度の導入や病院内の保育所の充実などを進めるほか、助産師を増やして体制を整える方針です。また、救急医療の体制整備に向けて、診療所の医師が夜間や休日も外来患者を受け入れられるように支援することも検討項目です。
地域の偏在については、都市部や特定の病院に集中しないような対策が必要です。現在の、研修医が研修先の病院を選ぶことのできる仕組みの変更が必要になるかもしれません。医師不足の診療科や病院に積極的に医師を派遣した医療機関に手厚く補助金を配分する仕組みを導入することや、狭い専門分野だけでなく1人で幅広い診察ができる「総合医」の育成も重要となっています。
大学の医学部定員を増やしても、現場の医師数が増えるのには10年程度の期間がかかるといわれています。社会保障費を抑制する努力を怠ったまま医師不足対策ばかりを優先していては、財政的に次世代にツケを回すことにもなりかねません。医師不足の解消とともに、医療のムダを減らす効率化を一段と進める必要もありそうです。

注目される「労働者派遣法」改正への動き

 ◆派遣法改正に関する与党案の内容
先日、自民・公明両党でつくる「新雇用対策に関するプロジェクトチーム」が、労働者派遣制度の見直しに関する基本方針を決定、発表しました。同チームでは、この基本方針を踏まえ、今秋に開かれる予定の臨時国会において労働者派遣法の改正を求めており、厚生労働省でも、改正案を提出する準備を進めているようです。
ここでは、同チームで決定された基本方針をご紹介します。主な内容は、以下の通りです。

 ◆「日雇い派遣」の原則禁止
低賃金や不安定な身分などが社会問題化している「日雇い派遣」については、通訳などの専門性の高い一部の業務を除いて(ポジティブリスト化して)、原則として禁止する方針です。しかし、派遣会社をはじめとする産業界からは、反対の声が上がっているようです。

 ◆グループ企業内での「専ら派遣」の規制強化
大手企業グループの派遣会社で働く派遣労働者のうち、約8割の人が同じグループ企業内への派遣となっており、また、3割を超える派遣会社がグループ内の企業のみに労働者を派遣していることが、厚生労働省の調査で明らかになっています。
これらは、労働者派遣法で禁止されている「専ら派遣」となっているのではないかとの指摘があり、何らかの規制が必要との意見が以前から上がっていました。このグループ内での「専ら派遣」について、規制を強化していく方針です。

 ◆偽装請負の派遣先に直接雇用の行政勧告
請負契約であるのに派遣労働者のように働かせたり(いわゆる偽装請負)、建設・港湾などといった禁止業務で派遣労働者を受け入れたりするなど、派遣労働者を違法に受け入れた企業を対象に、派遣労働者の直接雇用を行政官庁が勧告できるようにする(勧告に従わない場合は企業名を公表する)制度も検討されています。
 これまで違法派遣については、派遣元に対する罰則しかなかったため、派遣先にもその対象を広げることにより、違法派遣を抑制したい考えです。

 ◆その他の内容
上記の内容以外にも、派遣先の労災責任の明確化、派遣元の手数料(マージン率)の公開義務付け等も方針として挙げられており、今後の法改正への動きが注目されるところです。

就職・会社・仕事に関する若手社員の意識は?

 ◆就職活動に欠かせない「インターネット」
社会経済生産性本部と日本経済青年協議会は、今春入社した新入社員を対象に「働くことの意識」に関して行った調査結果を発表しました。
就職活動で利用した情報源(複数回答)については、「インターネットの企業ホームページ」(86%)が「会社説明会」(83%)を初めて上回る結果が出ました。今や、ほとんどの企業が自社のホームページを持っていると思われますが、そこに掲載されている内容を参考にする学生が大変多くなっているようです。
また、新入社員が就職先を選んだ基準としては、上位から、「自分の能力や個性が活かせるから」(28%)、「仕事が面白いから」(24%)、「技術が覚えられるから」(14%)となっています。これに対して、「会社の将来性」(9%)や「一流会社だから」(5%)といった理由は、以前に比べると大きく落ち込んでいるようです。

 ◆「働き方は人並みで十分」!?
また、同じ調査によれば、「働き方は人並みで十分」と考えている人は51.9%(前年比4ポイント増)、「人並み以上に働きたい」と考える人は38.5%(前年比4.3ポイント減)という結果が出たそうです。「人並みで十分」と考える人の割合は1992年以来の高水準となったそうですが、仕事に対する意欲や熱意の少ない若者が増えているのでしょうか?

 ◆「取締役にはなりたくない」!? 
また、日本経済新聞とNTTレゾナントが、22歳から29歳の若手社員を対象に行ったアンケート調査では、「会社の取締役になりたいですか?」という質問に対し、「なりたくない」と回答した人(65.7%)が「なりたい」と回答した人(34.3)を大きく上回る結果が出たそうです。
「なりたくない」と答えた人の理由(複数回答)としては、「責任を負うのが面倒」(60.8%)、「取締役になる年次まで今の会社にいるつもりはない」(41.0%)、「他人を蹴落としてまで出世したくない」(26.2%)、「株主代表訴訟で負ければ多額の賠償金を払わなければならない」(7.2%)、「社会的なステータスが下がった」(5.4%)などといったことが挙げられていました。
会社内での出世願望、上昇志向を持つ若手社員も、以前に比べると少なくなくなってきている傾向にあるようです。

継続審議となっている労働関係の法案

 ◆2つの重要法案が継続審議に
通常国会が6月21日に閉会となりましたが、そこで提出されていた「改正労働基準法案」、「改正障害者雇用促進法案」は成立せずに、継続審議となっています。
この2つの重要法案は、秋の臨時国会に提出され審議されると思われますので、改めてその内容を確認しておきたいと思います。

 ◆改正労働基準法案の内容(1)
この改正案における大きな柱は、何といっても「月の時間外労働が一定の時間を超えた場合の割増率のアップ」です。
月の時間外労働時間が45時間を超え80時間までの場合の割増賃金率については2割5分以上の率で労使協定で定める率とし(努力義務)、80時間を超えた場合の割増賃金については5割増とする、というのがその内容です。
なお、上記の「80時間」の部分については、「60時間」に修正されるような動きもありますので、注目しておくべきでしょう。

 ◆改正労働基準法案の内容(2)
改正労働基準法案のもう1つの柱は、「年次有給休暇の時間単位での取得」です。
現在、有給休暇については、最低取得単位が原則として「1日」とされていますが、時間単位で細かく取得できるようにして、近年落ち込んでいる有給休暇の取得率アップにつなげるのがねらいです。また、細かい単位で取得できることが子育て支援につながるという考えもあります。
なお、この改正内容については、労働者の過半数で組織する労働組合(ないときは労働者の過半数を代表する者)との書面による協定により、時間単位で有給休暇を与える労働者の範囲、時間を単位として与えることができる有給休暇の日数(5日以内)などを定めることとされています。

 ◆改正障害者雇用促進法案の内容
現在は障害者の雇用者数が法定雇用率(1.8%)に満たない従業員「301人以上」の企業に課されている納付金の支払義務について、順次「201人以上」、「101人以上」の企業へ拡大するということがこの改正案の大きな内容です。
また、障害者雇用義務の対象労働者に、「短時間労働者」(週の労働時間が20時間以上30時間未満)も追加されることも盛り込まれています。
なお、この改正案は2009年4月1日施行予定ですが、納付金支払義務が課される企業の拡大については、「201人以上」へは2010年7月、「101人以上」へは2015年7月とされています。

年金をめぐる最近のトピックス

 ◆年金運用赤字が過去最大の5兆円に
公的年金の積立金の2007年度における運用実績の赤字が5兆円を超え、過去最悪となったことが明らかになりました。米国のサブプライムローン問題による世界的株安や円高の進行が大きく影響して運用利回りがマイナス約6%にまで落ち込み、単年度での赤字は2002年度以来5年ぶりとなりました。
社会保険庁では、国民年金保険料の2007年度の納付率が64%前後(同庁の目標は「80%」)となり、2年連続低下する見通しを明らかにしていますが、上記の運用赤字の報道等により、ますます年金制度に対する不信感が高まり、納付率が今後さらに低下することも懸念されます。

 ◆年金第三者委員会への申立ては1年で約6万件
総務省の「年金記録確認第三者委員会」では、同委員会発足後の1年間の申立てが6万490件あったと発表しました。このうち審査が終了したものは1万5,594件(全体の25.8%)で、そのうち記録訂正が認められたものは6,847件となっています。
また、同委員会では、企業が従業員の厚生年金保険料を着服していたと思われるケースが、2007年度中に202件あったと認定したそうです。従業員の給与から保険料を天引きしておきながら納付していなかったようであり、このような事例はまだまだ他にもあるとみられています。

 ◆「ねんきん特別便」で記載ミス1,857件発覚
社会保険庁は、6月23・25両日に発送を行った「ねんきん特別便」で、1,857件の記載ミスがあったことを明らかにしました。これらは、企業を通じて厚生年金加入者に送付されたものであり、国民年金の記録の「納付済月数」などの合計欄と「加入月数」の合計欄の数字が逆に印刷されていたようです。このミスを受け、同庁では訂正版を送付するそうです。

◆ネット上での記録照会が受給者でも可能に
社会保険庁は、現在は約6,200万人の年金加入者に限定されているインターネット上での年金記録照会について、約3,300万人の年金受給者にもサービスを拡大する方針を明らかにしました。
2008年度中にも、「ねんきん特別便」に関する情報、過去の標準報酬月額や保険料納付履歴などを確認できるようにするそうです。

2008/06/27

7月の事務所便り

 増加する精神疾患・過労自殺の労災認定

◆長時間労働や仕事上のストレスによる精神疾患
過労や職場のストレスが原因でうつ病などの精神疾患にかかり過労自殺した(未遂を含む)として、2007年度に労災認定された人は前年度を15人上回る81人となり、 2年連続で過去最悪となりました。過労自殺者を含む精神疾患の労災認定者も268人と、前年度比3割増となっています。
厚生労働省は、「長時間労働に加え、仕事の重圧なども精神疾患の原因になる」として、労働環境の改善を求めています。

◆過労死と過労自殺
 過労死や過労自殺の定義を整理してみましょう。
「過労死」は、働き過ぎが原因で、心筋梗塞や脳梗塞など心臓や脳の疾患を発症し死亡するものです。認定基準としては、「発症前1カ月に100時間または2~6カ月間に月80時間を超える時間外労働があれば関連性が強い」とされています。
「過労自殺」は、過労や職場でのストレスからうつ病などの精神疾患となり、自殺に至るものです。原則として発症前6カ月の間に、長時間労働や仕事の量・質の大きな変化、重大なミス、出向やセクハラなどの業務上の強いストレスがあったことが認定の要件となります。
 今回の調査では、脳梗塞などの脳・心臓疾患で労災認定された人は前年度から1割増えて392人(うち死亡したのは142人)と、過去最悪となりました。

◆精神疾患増加の理由とその対処法
2007年度は精神疾患の労災申請数が前年度比16.2%増の952人、一方、脳・心臓疾患の申請は0.7%減の931人で、調査開始以来初めて、過労による精神疾患の申請が脳・心臓疾患を上回ることとなりました。
精神疾患の労災認定者の1カ月平均残業時間について、80時間以上だった人は111人でした。一方、20時間未満の人も72人いましたが、「長時間労働だけでなく職場のいじめや過剰なノルマなどで精神疾患になるケースもある」という声もあり、一概に時間外労働の多寡だけでは判断しにくいところです。
労働者の精神疾患が増える背景には、企業が目先の発症者対策に追われ、長時間労働が減らないという根本的問題があります。また、個人主義や「勝ち組」「負け組」といった考え方が横行し、会社の中で連帯して集団的に問題を解決する能力が低下していることも一因といえるでしょう。
精神疾患は薬だけで治るものではありません。ものの見方や感じ方を修正するカウンセリングの実施など、職場や家族が一体となって取り組んでいくことが必要です。  


 注意すべき職場での電話応対マナー

◆電話の応対でビジネスを円滑に
 電話を取り次ぐという経験が少ないために、「○○様でいらっしゃいますか」「あいにく○○は不在でございます」などといった言葉が使えない、いわゆる『携帯電話世代』の社員が増えてきました。電話応対のマナーを知らない社員の姿も目立ちます。
気持ちのよい電話の応対は、ビジネスを円滑に進めるうえで重要な要素です。電話ではなく電子メール等で要件を済ますケースも増えている昨今ですが、職場での電話応対のマナーについて改めて考え直す機会が必要かもしれません。

◆電話を受ける場合の基本的なマナー
電話応対で最も注意すべきなのは、「横柄な受け答えをしたり、面倒くさそうに答えたりしない」ことです。会社の信用をなくしてしまったり、印象が悪化したりしかねません。
次に、「『お待ちください』と言った後、長時間待たせっぱなしにしない」ことも重要です。しばらく時間がかかりそうな場合には、いったん電話を切り、こちらからかけ直す配慮が必要です。当人が不在だったときは、先方が「またかけます」と言った場合でも、電話があった旨のメモを残します。いざ本人が電話を受けた際に、「先ほどは不在で失礼しました」という一言がないと、失礼に当たるからです。
また、電話を受けるときに特に注意したいのは、「他の人に回すのに時間がかかる」、「取り次ぐ途中に切れてしまう」といった、機器操作上の不手際がないようにすることです。そのためには、普段から電話機の操作に慣れておく必要があります。

◆電話をかける場合の基本的なマナー
まずは、「社名や氏名をはっきり名乗る」ことが大切です。また、先方は忙しい時間帯かもしれません。「昼食時間や営業時間外の電話の際は気遣いの言葉を入れる」、「『お時間よろしいでしょうか』と確認する」といったことも重要なポイントです。
電話を切るときは、受話器を静かに置きます。

◆気持ちのよい電話応対のために
電話は対面の場合と違って相手の表情や状況が見えないだけに、受け答えにも工夫をする必要があります。「呼び出し3回以内に出る」「できるだけ丁寧に話す」「はっきり話す」「声のトーンをいつもより高めにする」ことを心がける必要があります。
新入社員が研修等で電話のマナーを学ぶことも大切ですが、ベテラン社員も、先方に不快感を与えていないか、時には意識して振り返ってみることも必要です。


 「メタボ健診」で生活習慣病を予防

◆4月からスタート
「太りすぎは健康に悪い」と言われますが、最近では、特に内臓脂肪による肥満が生活習慣病に大きく関わっていることが判明しています。2008年4月から、この内臓脂肪に着目した特定健診・特定保健指導、通称「メタボ健診」が始まりました。

◆メタボ健診とは
「メタボリック・シンドローム」とは、腹囲が男性85センチ以上/女性90センチ以上を基準とする「内臓脂肪による肥満」に加えて、高血圧・高血糖・脂質異常のうち2つ以上が該当する状態を指します。該当者は、糖尿病などの生活習慣病の一歩手前で、脳卒中や心臓病の発症にもつながりやすい状態です。
そこで、健康診断を実施して該当者やその予備軍を探し出し、生活習慣の改善指導を受けてメタボ脱出を目指してもらうこととなります。これが「メタボ健診」です。

◆具体的な内容
メタボ健診の対象は、40~74歳の人です。政管健保をはじめ、企業の健康保険組合、市町村の国民健康保険などの公的医療保険運営者が健診・指導を実施します。
健診の結果、メタボリック・シンドロームに該当した人は、生活習慣の改善指導を受けます。最初に面談や講習を受け、その後も3~6カ月にわたって定期的に専門家から面談や電話でアドバイスを受けることになります。「腹囲は基準以上だったが、そのほかに数値が悪かったのは1項目だけである」メタボ予備軍に該当する場合は、最初の面談だけとなります。
 また、各医療保険運営者には、健診結果を電子情報として蓄積することも義務化されました。国民の健康状態が把握しやすくなり、また、健診情報と患者が病院で治療を受けたときの診療情報を併せて分析した総合的な判断もしやすくなります。

◆メタボ健診の狙い
 メタボ健診のそもそもの狙いは、生活習慣病の予防による医療費の抑制です。厚生労働省によると、生活習慣病の医療費は国民医療費の3分の1を占めています。医療費抑制のためには、こうした生活習慣病の発症や悪化を予防することが欠かせません。健診・指導費はかかりますが、発症または悪化前の生活指導による改善により、結果的に将来の医療費を抑制する考えです。
 始まったばかりの「メタボ健診」。有効であるのか、それとも制度の見直しの必要があるのか、もうしばらく注視する必要がありそうです。


 外国人研修制度・技能実習制度の問題点

◆問われる制度のあり方
 開発途上国への国際協力のあり方について、今、自衛隊の海外派遣の是非を含め、活発な意見交換がなされています。そんな中にあって、「外国人研修制度・技能実習制度」のあり方も問われています。

◆外国人研修制度・技能実習制度とは
外国人研修制度・技能実習制度は、開発途上国への国際貢献と国際協力を目的として、諸外国の青壮年労働者を受け入れて、日本の技術・技能・知識の習得を支援することを目的とする制度で、財団法人国際研修協力機構が推進団体となり、民間団体や企業に対して総合的な支援・援助や適正実施の助言・指導を行っています。
基本的には、民営または国公営の送出し機関から送り出された研修生(技能実習生)に来日してもらい、日本側の受入れ機関において研修を行って、日本の高い技術の習得を支援します。
研修生は、「研修」の在留資格で入国します。日本国内の受入れ先が決まっていないと入国できません。研修生の滞在期間は原則1年以内。研修の結果、一定以上の技能水準に達したことが認められた場合、在留資格が「研修」から「特定活動」に変わり、新たに受入れ企業と雇用契約を結んで、継続してさらに2年を限度に就労することができます。これが「技能実習」です。技能実習の対象職種には、63職種116作業が認定されています。

◆急増する問題点
 外国人研修制度・技能実習制度は、単なる経済援助とは性格の異なる「人材育成協力」に主眼を置いた制度である反面、問題点も含んでいます。受入れ企業・団体による「不正行為」です。
 外国人研修・技能実習制度に基づいて外国人を受け入れた企業・団体のうち、不当な低賃金で働かせるなどの「不正行為があった」と認定された件数は、2007年度は449件にのぼりました。これは前年の229件の約2倍で、2003年の調査開始以来、過去最悪の結果です。
不正行為のうち最も多かったのは、賃金不払いなどの「労働関係法規違反」で178件、また、受入れを申請した企業と実際に就労した企業が異なる「名義貸し」も115件にのぼっています。旅券や通帳を取り上げるなど、「悪質な人権侵害行為」も70件ありました。日本人労働者を確保できない企業、外国製品との価格競争にさらされている企業が、本来の目的である国際貢献ではなく、低賃金労働力の確保のために制度を利用しているのです。また、研修生の側でも、出稼ぎのつもりで来日する者がいて、失踪者や不法残留者が増加しています。
こうした問題点に対して、制度の見直しや改善が迫られているのです。


 転職が原因で支給漏れの多い企業年金

◆約124万件の支給漏れが発覚
昨今の年金問題で国民年金や厚生年金の公的年金への関心が高まる一方、忘れられがちなのが企業年金です。加入者からの請求がなかったために2007年には約124万件の支給漏れが発覚した企業年金。特に転職時には、特に注意する必要があります。

◆企業年金の種類
企業年金は2種類に大別できます。1つは将来の給付額をあらかじめ約束する「確定給付型」、もう1つは年金資産の運用次第で給付額が変わる「確定拠出型」です。
確定給付型の企業年金には、厚生年金基金や確定給付企業年金、税制適格退職年金(2012年に廃止)などがあります。拠出した掛金の累計額とその運用収益であらかじめ年金額が決定されていることから、加入員が老後の計画を立てやすく、加入員数が伸びていました。福利厚生策として、企業が独自に自社年金を設けるケースもありました。
しかし、バブル崩壊等により運用環境が悪化し、大半の企業が、予定していた運用益を確保できずに積立不足に陥るという問題が発生しました。企業は不足分を補填しなければならず、運用失敗の負担が重くのしかかるケースもしばしば起こりました。
確定拠出型の企業年金は、こうした確定給付型の問題を解決できる特色を持っている制度で、2001年に誕生しました。掛金を誰が拠出するかの違いにより「企業型」と「個人型」がありますが、企業型の場合、企業が掛金を拠出し、運用は従業員が自ら行います。運用を加入者が個々に行うため、企業には確定給付型が持つ補填リスクがありません。
従業員にとっても、年金資産が個人別に区分され、残高の把握や転職時の資産の移行が容易だというメリットがあります。こうしたメリットゆえ、導入企業も徐々に増加する傾向です。

◆転職時の注意事項
 さて、転職時には、これらの企業年金に対してどのような注意が必要なのでしょうか。
例えば厚生年金基金の場合、会社の定める一定期間を超えていれば基本的にはその会社で運用を続け、期間が満たないときには運用は企業年金連合会に移ります。転職経験が多く、以前の勤め先の企業年金について覚えていない場合、まずは企業年金連合会に問い合わせれば、どの部分が連合会に移ったのかわかります。それでも不明のときは、各企業の基金に問い合わせることが必要です。
確定給付型の企業年金は、2005年以降、転職先の会社が受け入れる体制を整えていれば、年金資産の移管が可能になりました。また、確定給付型から確定拠出型への移行もできます。
 企業型の確定拠出年金は、転職先にも同様の制度があれば、それまでの年金資産を引き継ぐことができます。ただし、転職先に制度がない場合は、個人型の確定拠出年金として、国民年金基金連合会に年金資産を移管する必要があります。退職から半年以内に移管手続をしないと、運用を放棄したとみなされ、運用で得た利益を受け取ることができなくなりますので、注意が必要です。


 医師が身近になる!? 健康相談サイト

◆深刻な医師不足・病院不足
 地方や過疎化の進む地域を中心に、医師不足や病院不足が深刻化しています。そんな中、インターネットや携帯端末を利用して、医師が医療や健康に関する様々な疑問に答えてくれる、全国保険医団体連合会(保団連)による「健康相談サイト」が4月から開設されました。地域に関係なくいつでも気軽に医師に相談できるこのサイトが、今注目されています。
 保団連とは、1969年に結成された医師・歯科医師の団体で、その会員数は10万人以上(2008年5月1日現在)にのぼります。

◆現役医師が答える健康相談
 この健康相談サイトでは、無料の会員登録を行った利用者が健康上の悩みをサイトに送って医師に相談できます。また、質問者と医師が承諾した内容は、一般にも公開されます。サイトには「内科」「外科」「小児科」「産婦人科」「歯科」などの16の診療科と「医療制度」「その他」を合わせた、18項目の検索ボタンが設定されており、この検索ボタンの選択をするかキーワードの入力を行えば、該当分野の過去の質問内容と回答(Q&A)について自由に閲覧できる仕組みになっています。
 閲覧できるQ&Aの内容がかなり豊富なうえ、質問にはそれぞれの専門分野の医師が答えてくれるので、安心して利用できます。

◆上手なサイトの活用を
 このサイトは、保団連が、従来あった相談サイト「バーチャルドクター」をリニューアルし、4月から開設したものです。 保団連は、このサイトの開設趣旨について、「保健医療の枠組みの中でインフォームド・コンセントを推進していきたい」という思いからスタートしたとしています。サイト内で医療や健康に関する助言を行い、利用者が医療や健康に関する情報を得ることによって、医師・患者双方のコミュニケーションが高まり、インフォームド・コンセントの定着の一助となればとの思いから始まったものです。
 もちろん、このサイトの助言のみを頼りに、医師の診察を受けることなく自己判断してしまうべきではありませんが、気軽にいつでも医師に相談できるというメリットは計り知れないものがあります。「健康上の悩みはあるが、病院に行くほどではない」、「近くに病院が少なく気軽に行きにくい」といった場合や、「医師の治療や診察を受けているが、病状や治療方法について尋ねにくいことがある」といった場合に、有効に活用できそうです。


 最近の年金関係(納付率・年金記録問題等)の動向

◆国民年金納付率がさらに低下
社会保険庁は、2007年度における国民年金保険料の納付率が約64%となり、前年度の約66%を下回って2年連続低下となるとする見通しを明らかにしました。同庁では、近年、未納者対策としての強制徴収などに力を入れていますが、なかなか効果が現れていません。年金記録問題を背景に、制度自体への不信感が増しており、納付しない人が増えていると思われます。
低所得者に対する保険料の全額免除・一部免除の徹底などの対策を進めていった場合、納付率が「最大で24.8ポイント上昇する」とする試算結果を政府は発表していますが、納付率の上昇は現状ではなかなか難しいようです。

◆「ねんきん特別便」回答者は約半分
また、社会保険庁は、年金記録に漏れがある可能性が高い約1,030万人に3月末までに送付した「ねんきん特別便」への回答者数が、4月28日現在で約510万人であると発表しました。これは、全体の49.5%に相当します。
510万人の内訳は、年金受給者218万人(回答率73%)、現役加入者292万人(回答率40%)となっており、特別便が届いてもほったらかしにしている人が多いという実態が明らかになっています。
今月(6月23日)からは、現役の会社員などにも特別便の送付が始まる予定です。同庁の調査によれば、全体の55.7%に相当する約2,200万通は企業を経由して従業員に配布されるようです。大企業を中心に全事業所のうちの22.3%が配布に協力するとしていますが、中小企業では、事務負担から協力要請を拒んだところも多いようです。こうした場合には、直接従業員本人の住所に特別便が郵送されることになっています。◆一度却下されても新証拠があれば再審査 総務省の「年金記録確認第三者委員会」では、一度給付を却下した案件についても、その後に新たな証拠が見つかった場合には再審査を行う方針を発表しました。再審査を導入するのは、1件当たりの審査に時間をかけられないためだそうです。
一度却下されてしまった方でも、あきらめずに証拠となるものを根気よく探してみると良いかもしれません。


 中小企業でも義務化! 長時間労働者に対する医師の面接指導

◆4月からは中小企業でも義務化
「長時間労働者を対象とした医師による面接指導等の実施」については、平成18年に改正された労働安全衛生法で義務化されました(同法第66条の8)。過重労働による健康障害を防止し、労働者の安全と健康の確保を推進するためです。
この面接指導等の実施については、従業員が常時50人未満の事業場についてはこれまで2年間猶予されていましたが,今年の4月からは義務化されています。つまり、すべての事業場において長時間労働者に面接指導を実施し,医師の意見を聴いて措置を講じなければならなくなったのです。

◆どんなことを行わなければならないか
面接指導は「問診その他の方法により心身の状況を把握し、これに応じて面接により必要な指導を行うこと」とされており、対象となるのは「時間外・休日労働時間が1カ月当たり100時間を超え,かつ,疲労の蓄積が認められる者」であって、会社に申出を行った労働者です(ただし,1カ月以内に面接指導を受けた労働者で医師が面接指導を受ける必要がないと認めた場合は除かれます)。
基本的には、会社が指定した医師が行う面接指導を受けることになりますが、労働者が希望する場合は、他の医師の行う面接指導を受けることもでき、その場合は結果を証明する書面を会社に提出する必要があります。 そして、会社はその結果を記録しておく必要があります。
また、会社は、医師の意見を聴いて、必要があると認められたときは、労働者の実情を考慮しながら、以下のような措置を講じなければなりません。この考え方は健康診断(安衛法第66条の5)と同様のものです。
・就業場所の変更
・作業の転換
・労働時間の短縮
・深夜業の回数の減少
・医師の意見の衛生委員会もしくは安全衛生委員会または労働時間等設定改善委員会への報告

◆その他の留意点
なお、(1)時間外・休日労働時間が1カ月あたり80時間を超え、かつ、疲労の蓄積が認められる者、(2)事業場において定めた基準に該当する(時間外・休日労働時間が1カ月45時間を超えた者は対象とすることが望ましい)者についても、努力義務としての面接指導の対象となります。面接指導の対象となる労働者以外の労働者であっても、予防的な意味から、会社は必要な措置を講ずることが重要とされています。


 「後期高齢者医療制度」の見直しについて

◆廃止法案が参議院で可決
75歳以上を対象に4月から導入され何かと話題になっている「後期高齢者医療制度」ですが、民主、共産、社民、国民新の野党4党は「後期高齢者医療制度廃止法案」を参議院に提出し、6月上旬の本会議で賛成多数で可決され、衆議院に送られました。これに対し、与党は、衆議院で否決や廃案とはせずに継続審議とする方針を示しています。世論に配慮するためだといわれています。

◆政府・与党の見直し・改善策が決定
政府・与党は、後期高齢者医療制度の見直し策を決めました。主な見直しの内容は以下の通りです。
<保険料軽減措置の拡充>
被保険者全員が年金収入年80万円以下の世帯については、来年度からは均等割部分の9割(今年度は8割5分)が軽減されます。
また、年金収入が153万円から210万円については、来年度からは保険料の所得比例部分を5割程度軽減するとしています。
<年金からの保険料天引きの一部見直し>
国民健康保険料を滞納せずに確実に納付してきた人については、本人口座からの引き落としが認められます。
また、年金収入が年180万円未満の人については、世帯主や配偶者らが肩代わりして口座引き落としを選択できるようになります。
天引きの見直しの実施時期については、早くても今年の10月以降のようです。

◆財源は不明確
上記の見直し・改善策は正式に決定されたものですが、今年度560億円、来年度以降360億円ともいわれる財源については、不明確との指摘があります。
 また、先送りされた事項(保険料の軽減を判定する年収基準、年金天引きを免除する要件など)もあり、今後の動向が注目されるところです。


 非正社員を正社員に転換させた場合に支給される助成金

◆改正パート労働法と正社員への転換
今年4月1日から施行されている改正パート労働法では、パート労働者の通常の労働者(正社員)への転換を推進するための措置を講ずるよう、事業主に義務付けています。最近では、製造業、飲食店、宿泊業、サービス業などでパート労働者を正社員へ転換させる企業も増えています。
改正法の施行を機に、非正社員を正社員化する動きはますます広がっていきそうですが、この改正にあわせて新たな助成金が創設されています。

◆非正社員の正社員化で助成金
厚生労働省は、「中小企業雇用安定化奨励金制度」を創設しました。
中小企業の事業主が、パート労働者や契約社員などの契約労働者(非正規社員)を新たに正社員として転換させる制度を就業規則などに定めて、実際に正社員に転換させた場合に、一定の金額が奨励金として支給されるものです。

◆支給額の2つのパターン <転換制度導入事業主>
新たに転換制度を導入し、かつ、この制度を利用して、直接雇用する有期契約労働者を1人以上正社員に転換させた場合に、一事業主について35万円が支給されます。 <転換促進事業主>
転換制度を導入した日から3年以内に、直接雇用する有期契約労働者を3人以上正社員に転換させた場合に、対象労働者1人について10万円が支給されます(10人を限度)。

◆支給対象となる事業主、要件
中小企業事業主で、雇用保険適用事業主であることが必要です。そして非正社員を正社員に転換させる制度を、新た(平成20年4月1日以降)に労働協約または就業規則に定め、かつ、1人以上正社員に転換させる必要があります。
なお、取扱機関は、都道府県労働局・公共職業安定所(ハローワーク)となっています。

2008/06/02

6月の事務所便り



新たに導入された「診療5分ルール

◆4月からスタート
「3分診療」という言葉にあるように、医師の診察時間が短いことに不満を持つ患者さんは多いようです。こうした状況を変えようと、2008年の4月からいわゆる「診療5分ルール」がスタートしました。診療時間が5分を超えるかどうかにより、医療費が変わることになります。

◆診療所や中小病院が対象
手術や検査など、すべての医療行為には「診療報酬」という全国共通の価格がついています。この診療報酬は2年ごとに見直されますが、「5分ルール」は4月に行われた診療報酬改定に盛り込まれました。
対象となるのは、診療所や一般病床数が200床未満の中小病院です。2回目以降の受診(再診)の場合、従来は基本の再診料(病院600円、診療所710円)に外来管理加算(520円)を診療時間に関係なく上乗せできましたが、改定後は「診察時間が5分以上」という条件がつきました。例えば、会話がほとんどなく常用薬の処方箋を出すような「薬だけ診療」には加算がつかず、現役世代の患者なら、自己負担(3割)は約150円安くなります。

◆「5分」の算定方法は?
では、どうやって「5分」という時間を計るのでしょうか。厚生労働省は「丁寧な診察を求めることが狙いであり、ストップウォッチや砂時計などを使って厳密に計ることを求めているわけではない」と説明しています。
不正を防ぐため、医師には診察内容や所要時間をカルテに記載させます。1時間に12人以上の患者を診察したり、5分以上を要したりする診察内容だったかどうかがチェックの対象になります。また、今回の診療報酬改定では、精神科外来の再診にも時間制が導入されました。カウンセリングなどの精神療法が「5分未満」、「5分以上30分未満」、「30分以上」で医療費が変わるようになっています。

◆制度導入で何が変わるか?
「5分ルール」に関しては、「丁寧な診療が期待できる」という患者側の期待に対して、医師側からは、「時間要件を満たして診療時間内に診察を終えようとすれば、1日に診察する患者数を削減せざるを得なくなる」といった意見や、「患者数を減らせば経営が悪化するし、時間要件を満たしてすべての患者を診察しようとすれば診察時間を大幅に延ばさねばならなくなり、医師の疲弊や看護師の労働強化につながる」といった意見も出ています。
賛否両論の中でスタートした「5分ルール」。いずれにせよ、新しい医療のあり方に一石を投じることになりそうです。


「新型インフルエンザ」への対策

◆政府による対策は?
新型インフルエンザへの政府の対策づくりが急ピッチで進んでいます。海外からの流入を防ぐ水際対策や国民へのワクチン事前摂取計画等を公表し、4月下旬には対策を実行に移す改正法も成立しています。

◆行動計画と具体的な対策
政府は2005年に新型インフルエンザに備えた行動計画を策定しました。また、2007年3月には、その計画に基づくガイドラインも公表しています。
2005年以降の取組みの内容は以下の通りです。
1.都道府県における対策本部の設置、行動計画の策定
2.厚生労働省を中心とした関係府省庁による対策を迅速・確実に実施するためのガイドラインの策定 3.農林水産省による主要国際空港における鳥インフルエンザ発生国からの入国者に対する靴底消   毒の徹底
4.新型インフルエンザ・ワクチンの生産に関する緊急調査研究
5.タミフル等必要物資の備蓄・配付、研究者・医療関係者・動物衛生専門家の能力強化、インフルエンザ・ワクチン開発支援の国際協力の推進

◆なぜ急に対策が進んだのか?
インフルエンザ流行の危機は、急に差し迫ったわけではありません。鳥インフルエンザウイルス「H5N1型」の人への感染も2006年がピークでした。ではなぜ、政府の対策が一気に進んだのでしょうか。
「国家の安全保障の問題である」という認識を欠き、欧米よりも鈍い政府の反応にしびれを切らした専門家らが、様々な手法で問題提起し、今年になってやっと政府の動きが活発になった感があります。

◆これからの課題は?
今後の課題としては、水際対策で流入を遅らせることはできても、被害を免れることは難しいことが挙げられます。「H5N1型」の鳥インフルエンザの流行が、インドネシアやベトナム、中国などに集中しているため、大流行が起きれば、先進国では日本が欧米より先に巻き込まれる可能性は高いです。ワクチンの事前摂取もどれだけ効果があるのか未知数です。
流行時に医師やベッド、人工呼吸器などをどのように確保するのか、また、備蓄量に限りのあるワクチンや抗ウイルス薬をどのような順番で投与していくのか、具体策の策定が急がれます。
注目を集める「キャリア形成促進助成金」

◆4月から制度改正
キャリア形成促進助成金制度とは、企業内における労働者のキャリア形成の効果的な促進のため、その雇用する労働者を対象として、目標が明確化された職業訓練や職業能力評価の実施、またキャリア・コンサルティングの機会の確保を行う事業主に対して助成される制度です。
2008年度4月よりこの制度が改正され、にわかに注目を集めています。

◆助成率の引上げと対象者の拡充
今回の改正の主な目的は、職業訓練等を実施するにあたり費用面の負担が大きい中小企業に対する支援の強化、および職業能力形成機会に恵まれない者を新たに有期雇用に雇い入れ有期実習型による組合せ訓練を実施する事業主への支援です。
まず、専門的な訓練への助成率が3分の1から2分の1(中小企業)へと引き上げられました。併せて、認定実習併用職業訓練への助成率も中小企業が3分の1から2分の1、大企業は4分の1から3分の1へと、それぞれ引き上げられました。
対象者も拡充され、短時間等労働者への訓練に対する助成および認定実習併用職業訓練に対する助成について、それぞれ、雇用保険被保険者だけでなくこれから雇用保険者になろうとする者もその範囲となりました。
また、新たな制度として、正社員になるには当該有期実習型訓練を受講することが適切であり、職業能力形成機会に恵まれなかった者として、キャリア・コンサルタントが認めた者を対象とした有期実習型訓練に対する助成も実施されることとなりました。

◆活用のための注意点
上記の助成金制度を活用するためには、様々な条件を満たしている必要があります。代表的なものとしては、「雇用保険の適用事業主であること」、「職業能力開発推進者を選任・届出していること」、「労働組合等の意見を聴いて計画を作成し労働者に周知していること」「過去2年間の労働保険料滞納や過去3年間の助成金の不正受給がないこと」等があります。
また、「職業能力開発休暇を与える場合は、その期間中に労働協約または就業規則に定めた賃金を支払っていること」や「事業主命令による職業訓練については、通常の賃金を支払っていること」も定められています。短時間労働者に対する訓練では「正社員への転換を行うこと」も条件となります。
訓練内容に関しては、あくまでも労働者個人のキャリア形成促進に役立つものが対象です。一般的なマナー研修や新入社員研修、またOJTで実施するもの等は対象になりませんので注意が必要です。

未成年者をアルバイトなどで雇う場合の注意点

◆雇用に関するトラブルに注意!
人材難と言われる昨今、高校生などの年少者や未成年者のアルバイト等は、貴重な労働力となっています。しかし、社会的経験の浅い年少者や未成年者の雇用はトラブルにつながりやすい危険性もあります。
採用の際や労働に関して、どのようなことに注意しなければならないのでしょうか。

◆親の許可が必要なのか?
ある会社からの質問で、「高校生のアルバイトを採用するにあたり、履歴書の親権者の署名捺印欄が空白ですが、何か問題があるでしょうか?」という相談がありました。
未成年者の雇用についてはまず、労働基準法第58条第1項 の「親権者又は後見人は、未成年者に代って労働契約を締結してはならない」といった部分が思い浮かびます。また、賃金についても、未成年者であっても独立して受け取ることができます。そう考えると、特に親権者の承認が必要とは考えにくいものです。
しかし、労働基準法第58条第2項では、「親権者若しくは後見人又は行政官庁は、労働契約が未成年者に不利であると認める場合においては、将来に向ってこれを解除することができる」とあります。また。民法第5条第1項では「未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない」とあり、そして第2項では「前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる」とあります。つまり、親権者(法定代理人)の同意がない労働契約は、親権者によって取り消す(結果として、突然アルバイトを辞めてしまい会社に迷惑がかかる)ことがあり得るのです。したがって、履歴書の親権者の署名捺印は、トラブル防止のためにも記入してもらい、親権者の同意を得ておいたほうがよいでしょう。

◆年齢を証明する書面、身元保証人
また、年少者(18歳未満)の場合、年齢を証明する書面(住民票記載事項証明書など)を、事業場に備え付ける必要があります。また、万一の際のトラブル防止に備え、身元保証人をつける(できれば複数)ことも大切です。併せて身元保証人の連絡先も把握しておき、万一の際に連絡できる体制を作っておいたほうがよいでしょう。
 
◆その他の注意点
他に注意するポイントとしては、年少者はほとんどの変形労働時間制(例外あり)や午後10時以降の業務等も禁止されており、注意が必要です。そして、未成年者の場合、特に注意しなくてはならないのが、飲酒や喫煙です。飲酒や喫煙が発覚した際にどのような処置をとるかといったことは、労働契約時に書面および口頭でしっかり確認しておくことが望ましいでしょう。
違法派遣・偽装請負の一掃へ向けた取組み

◆「緊急違法派遣一掃プラン」がスタート
厚生労働省は、社会問題化している違法派遣や偽装請負を一掃するため、「緊急違法派遣一掃プラン」を4月からスタートさせました。新たに制定した「日雇派遣指針」や「労働者派遣法施行規則の改正」等をもとに、労働者派遣制度の周知と指導を強化していく方針です。

◆「労働者派遣法施行規則」のポイント
労働者派遣法施行規則の改正では、まず、派遣元が年1回労働局に提出する事業報告書の様式に、「日雇派遣労働者の数」、「従事した業務にかかる派遣料金」、「日雇派遣労働者の賃金」等を追加しました。また、派遣先責任者については、労働者派遣が1日を超えない場合でも選任を義務化し、派遣先管理台帳の作成も義務化しています。
その他にも、派遣先管理台帳の記載事項に、「派遣労働者が従事した事業所の名称及び所在地その他派遣就業した場所」を追加し、また、派遣元事業主への通知事項には、それらに加え「従事した業務の種類」も追加しました。
 
◆「日雇派遣指針」のポイント
日雇派遣指針は、日々または30日以内の期間を定めて雇用される者(30日以内の期間を定めた雇用契約を更新して通算30日を超えるような場合も対象となる)を対象とした、派遣元事業主および派遣先が講ずべき措置を定めたものです。
今回、厚生労働省から発表された指針は10項目ほどです。主なものとしては、まず「日雇派遣労働者の雇用の安定を図るために必要な措置」として、事前の就業条件の確認や雇用契約の期間の長期化、契約解除の際に就業のあっせんや損害賠償等の適切な措置を図ること等が挙げられます。また、「労働者派遣契約に定める就業条件の確保」では、派遣先の巡回や就業状況の報告により、契約に定められた就業条件の確保が望まれています。
また、「労働・社会保険の適用の促進」「教育訓練機会の確保」「関係法令等の関係者への周知」「安全衛生に係る措置」などの、いずれも「派遣労働者や日雇労働者だから」という理由でおざなりにされがちだった分野についても、今回の指針では着目されています。「情報の公開」では、労働者派遣の実績、派遣料金の額、派遣労働者の賃金等の事業運営の状況に関する情報の公開が求められ、これにより、派遣労働者側も情報による選択をしやすくなると思われます。

◆今後の動きは?
今回の改正の多くは、日雇派遣に関するものですが、厚生労働省はこれを機会に期間制限業務や26業務の適正な運用等を含め、従来の違法派遣についても指導と監督を強化する方針を打ち出しています。

各自治体で広がる子供の医療費助成

◆少子化対策・子育て支援の一環
少子化対策の一環として、小中学生などに対して医療費の自己負担が軽くなるよう助成金を出し、子育てを支援する自治体が増えてきています。
助成の対象年齢や条件などの内容が自治体ごとに異なるうえ、制度の拡充が急速に進んでいるため、住んでいる自治体の助成メニューを把握しておく必要があります。

◆子育て支援対策として
東京都港区では、独自の助成制度に基づき、2005年4月から小中学生の入院費と通院費を無料にしています。健康保険に加入する区民であれば、外国人でも助成を受けられます。助成を受けるには区役所に「子ども医療証」の交付を申請し、医療機関で保険証とともに提示します。この医療費助成をはじめとする子育て支援対策の充実により、2004年度には0.78%と低かった合計特殊出生率は2006年度には0.97%まで持ち直しました。
このような子供の自己負担が軽くなるよう独自の助成制度を設ける自治体は増えています。名古屋市では、2008年1月から小学校高学年の入院費が無料となり、さらに8月からは中学生までその範囲が広がります。

◆各地域で内容に差
助成内容については、各自治体の財政状況やトップの方針によってまったく異なります。また、基本的な内容以外に、助成対象年齢が入院と通院で異なるケース(前述の名古屋市など)や、国が定める児童手当の支給要件に準拠した所得制限があったり、一部自己負担金が必要になったりする自治体もあります。例えば浜松市では、未就学児が対象の入院費への助成を4月から小中学生まで拡大しましたが、入院1日当たり500円の自己負担が求められています。また、窓口での支払いがない「現物給付」方式なのか、窓口で支払いを済ませたうえで自治体に申請して払い戻しを受ける「償還払い」方式なのかも、注意するポイントです。
住民が歓迎する医療費助成制度ですが、課題もあります。自己負担の無料化は安易な受診を助長し医療費の膨張を招くおそれがあります。また、助成を拡充し過ぎると、本当に医療が必要な子供の診療が後回しにされかねない危険性も含んでいます。
せっかく拡充された自治体の助成制度の恩恵を、多くの住民が長期的に公平に受けられるようにするには、住民側にも「軽症なら様子を見る」「家庭での健康作りを行う」などの姿勢が求められるといえるでしょう。

夫の年金を強制的に分割する「3号分割制度」

◆「離婚分割」とは異なる「3号分割」
平成19年4月から、夫婦が離婚した場合に厚生年金を分割する制度(「離婚分割制度」)が始まって大きな話題を呼びましたが、平成20年4月からは新たに「3号分割制度」がスタートしました。
「3号分割制度」は「夫が厚生年金保険の被保険者、妻が第3号被保険者」という夫婦が離婚した場合、平成20年4月1日以降の第3号被保険者期間について、妻からの請求により、夫の特定期間(特定被保険者が被保険者であった期間であり、かつ、その被扶養配偶者が当該特定被保険者の配偶者として第3号被保険者であった期間)中の被保険者期間の標準報酬を自動的に2分の1に分割するというものです。
この「3号分割」は、「離婚分割」のように夫婦間の合意は必要ないのが大きな特徴です(なお「離婚分割」の場合であっても、按分割合等についての合意は必要です)。

◆保険料は夫婦が共同して負担したもの
標準報酬を自動的に2分の1にするという考え方は、「第3号被保険者を配偶者とする第2号被保険者の保険料は夫婦が共同して負担したものである」という基本的認識を根拠にしています。
なお、平成20年4月以後の「離婚分割」についてですが、「3号分割」をまず行ったうえで「離婚分割」を行う必要があります。「3号分割」のみの請求も可能とされています。
また、複数回結婚・離婚等をした場合には、それらの特定期間を通算して3号分割の請求を行うことはできません。それぞれの離婚等ごとにその請求期限内に3号分割の請求を行わなければならないのです。

◆「離婚分割」の申立てはどのぐらいあったか?
「離婚分割」の申立ては、制度開始時から昨年末までの9カ月間で8,322件あったことが最高裁判所の集計で明らかになっています。1カ月平均800~1,000件で推移しており、離婚調停・訴訟に合わせて申し立てられたケースが7,479件あり、合意に至らずに審判などに持ち込まれたケースが843件あったそうです。
今後、果たして「3号分割」の申立てはどのぐらいあるのでしょうか? また、この制度のスタートにより離婚の件数にも影響を与えるのか、注目したいところです。

若手社員はどんなことを考えているのか?

◆「今の会社に定年まで!」
社会経済生産性本部が今年入社した新入社員を対象に行った意識調査(約2,700人が回答)で、「今の会社に一生勤めようと思っている」と回答した人が5割近く(47.1%)もいたそうです。この数字は1990年の調査開始以来、最も高い数字とのことです。

◆「3年以内に辞める!」
これに対し、カシオ計算機が25歳の会社員を対象にインターネット上で行った調査(596人が回答)で、3年以内に今いる会社を辞めようと思っている若手会社員が約4割いることが明らかになりました。「定年まで辞めない」と回答した人はわずか12%だったそうです。
調査の仕方や回答者数が異なるため、上記2つの調査結果を単純に比較することはできないかもしれませんが、新入社員の意識と数年働いた社員の意識とでは、かなり異なってくるということでしょうか。
あなたの会社の若手社員は、「今の会社に定年まで!」「3年以内に辞める!」どちらの考え方が多いでしょうか?

◆上司とのコミュニケーション
また、日本能率協会が新入社員を対象に行った意識調査(1,334人が回答)では、「上司との人間関係構築のために有効だと思うこと」(複数回答)という問いに対して、上位から「飲み会への参加」(89%)、「社員旅行」(70%)、「運動会」(50%)という結果が出たそうです。
社員旅行や運動会を行う企業は以前と比べると少なくなっていると思いますが、社内コミュニケーションを図るために、これらを復活させる動きも一部の企業であるようです。

問題噴出の「後期高齢者医療制度」

◆低所得なのに保険料増!?
後期高齢者医療制度(長寿医療制度)に関するマスコミ報道が跡を絶ちません。
厚生労働省は当初、「低所得者は保険料負担が軽くなる」と説明してきましたが、国民健康保険(国保)から移行した低所得の夫婦世帯の多くで、保険料負担が増えている可能性が高いことが明らかになりました。
これまで同省は、全国の市町村の8割が採用している算定方式を用いた試算により、同制度の保険料は国保のときよりも減ると説明していましたが、この算定方式が適用されるのは国保の加入者数で見ると5割に満たないことから、試算方法を見直すほか、市区町村ごとの実態調査を実施するようです。

◆1万2,000人に新保険証が届かない
保険証の問題も深刻です。厚生労働省は、新たな保険証が届いていない高齢者が5月1日の時点で約1万2,000人いることを発表しました。
転居の届出をしていないために行方がわからなくなっている人も多いそうで、同省では、未着の場合には引き続き古い保険証や免許証で医療が受けられるように医療機関に要請するとしていますが、すべての保険証が届くのはまだまだ先のことのようです。

◆障害者が事実上「強制加入」
寝たきりなどの理由から障害者と認定された人が後期高齢者医療制度に加入しないと医療費補助を打ち切る措置をとっている自治体があることもわかっています。
この措置をとっているのは10道県(北海道、青森、山形、茨城、栃木、富山、愛知、山口、徳島、福岡)で、任意とされているはずの障害者の加入が「事実上強制となっている」との批判が起きつつあるようです。

◆保険料は7年後に4割増!
厚生労働省は、本人負担の保険料が7年後には約4割も増えると試算しています。現役世代の負担が大きくならないよう、高齢者の負担割合を引き上げるのがその理由であり、2008年度は年額6万1,000円の保険料が2015年度には約39%増の8万5,000円になると見込まれています。

◆果たして制度の見直しはあるのか?
野党4党は、後期高齢者医療制度の廃止法案を共同で参議院に提出し、早期可決を目指す意向を示しています。また、与党である公明党でも制度の見直し(低所得者の保険料引下げ、保険料天引きの廃止など)に着手しているといわれています。
「年金記録問題」関連での新たな動き

◆年金記録訂正後の見込額を示す「仮計算書」を発行へ
先日、舛添厚生労働大臣は、「ねんきん特別便」が到着した受給者が社会保険事務所で年金記録を訂正した際に、訂正後はどのぐらい年金額が変動するかの試算結果を示した「仮計算書」を発行することを明らかにしました。
今月からこの「仮計算書」を発行するとしており、すでに訂正が終了している人にも発行されるそうです。

◆記録訂正で年金減額となる場合の対応
新たに年金記録が判明した場合、年金記録を訂正することにより「年金増額」となるのが一般的ですが、「年金減額」となる場合もあります。そのような場合、これまでは窓口の職員により、減額したりしなかったりと対応がまちまちだったようですが、「減額とするのは合理性に欠ける」との理由から、基準が統一されることになりました。
社会保険庁は、上記のように減額となる場合には「修正なし」として取り扱って受給額が減らないようにする方針を決定しました。同庁は、今月からこの措置を実施するよう全国の社会保険事務所に指示を出したそうです。

◆年金保険料の過払いを通知へ
また、社会保険庁は、年金を満額受給するのに必要な期間を超えて保険料を支払った人に対して、何らかの通知を行うことを検討しているようです。
今月から、過払いの申出をした人に対しては過払い分の保険料の返還を開始しましたが、申出を前提とした対応自体を改めることとしました。しかし、現行のシステムを改善するのには1年程度かかるため、実施されるのはまだ先になりそうです。

◆「ねんきん特別便」いまだに55万通が未着
上記のように、受給者や被保険者のための対策がいろいろと講じられています。
しかし、「宙に浮いた年金記録」の持ち主である可能性が非常に高い約1,030万人に送付された「ねんきん特別便」については、全体の約5.3%に相当する約55万通が未着となっているそうです。「年金記録問題」の収束にはまだまだ時間がかかりそうです。

今国会に提出されている主な労働関係改正法案

◆通常国会の会期は6月15日まで
ここでは、現在開会中の通常国会に提出されている、企業に影響を与えると思われる労働関係の改正法案についてみていきます。

◆中小企業にも障害者雇用納付金を義務化
障害者の雇用の促進等に関する法律(障害者雇用促進法)の一部を改正する法律案が提出されています。
主な内容は、現在は障害者の雇用者数が法定雇用率(1.8%)に満たない従業員「301人以上」企業に課されている納付金の支払義務を、順次「201人以上」、「101人以上」の企業へも拡大するという内容です。また、障害者雇用義務の対象となる労働者に、週の労働時間が20時間以上30時間未満の「短時間労働者」も追加されることとされています。
この法案が可決されれば、2009年4月1日の施行予定です。ただし、納付金支払義務が課される企業の拡大については、「201人以上」へは2010年7月、「101人以上」へは2015年7月とされています。

◆「行動計画」提出義務付け企業を拡大へ
「ワークライフバランス」の実現に向けて、次世代育成支援対策推進法(次世代法)の改正案も今国会に提出されています。
従業員の子育てを支援する「仕事と育児の両立支援に関する行動計画」(一般事業主行動計画)の策定・届出を義務付ける対象企業を、現行の従業員「301人以上」の企業から「101人以上」の企業に拡大するのが主な内容です。この改正により、約4万2,000社が新たに策定・届出義務を負うことになると推計されています。また、「行動計画」の公表・従業員への周知も義務付けられるようになります(策定・届出義務のある事業主のみ)。
この改正法案自体の施行予定日は2009年4月1日となっていますが、「行動計画」の策定・届出義務付け企業の拡大は、2011年4月1日の予定です。

◆労働基準法の改正案
月の時間外労働が一定の時間を超えた場合に、高い割増賃金率を適用することなどを内容とする労働基準法の一部改正案も国会で審議中です。主な内容は以下の通りです。
・月の時間外労働時間が45時間を超え80時間までの場合の割増賃金率については、2割5分以上の率で労使協定で定める率とする(努力義務)。
・月の時間外労働時間が80時間を超えた場合の割増賃金については、5割増とする。

2008/05/02

5月の事務所便り

処分決定前の自宅謹慎期間を無給扱いにできるか?

◆重要情報を他社へ漏洩!
ある会社の社員が会社の重要情報を他社へ漏らしてしまい、処分決定まで自宅謹慎するように会社から命じられました。1週間の謹慎後、減給処分となりましたが、会社は「謹慎中は無給」と言い渡しました。就業規則には謹慎に関する規定は特になく、社員は納得できない様子です。

◆規定がなくても謹慎処分に付すことは可能
社員の行為が就業規則で定めた懲戒事由に該当する場合、会社は処分内容を決定します。処分決定をする前の段階として「自宅謹慎」や「自宅待機」を命じることがありますが、就業規則にこれらの扱いに関する規定がない場合、そのような謹慎・待機命令を下せるのかという問題が生じます。
大企業に比べ中小企業では、就業規則に謹慎に関する扱いを明記していないところが多いかもしれません。結論から言うと、そのような規定がなくても、処分決定前の自宅謹慎を命じることは、会社の指揮命令権の一環である業務命令として可能です。
会社の業務命令として自宅謹慎を命じた場合、社員が「働きたい」と言っても会社はこれを拒否することができます。会社には社員の行為が懲戒事由に当たるのか調査する必要があり、職場秩序を維持するためであれば当該社員に自宅謹慎を命じることもやむを得ないと認められるためです。

◆「謹慎」の付与名目によって異なる賃金支払義務
処分決定前に自宅謹慎を命じる場合の扱いをめぐる裁判には、「懲戒処分ではなくても、会社側に職場秩序維持の理由などがある場合」に謹慎を命じることができるとしたものの、このような場合の自宅謹慎は当面の職場秩序維持の観点からとられる一種の職務命令であることから、使用者には謹慎期間中の賃金の支払義務があると判断したものがあります(日通名古屋製鉄作業事件・平成3年7月22日名古屋地裁判決)。
他方、謹慎命令が、懲戒規定に基づいた「処分」として出されたものならば、謹慎期間中は無給でもよいとされています。例えば、調査のために1週間休むように命じた後、懲戒処分として再び1週間休むように命じた場合、後者の期間は無給となります。
しかし、処分対象の社員に会社内で強い権限があれば、安易に証拠をもみ消すことができるおそれもあります。前述の名古屋地裁判決は、このような場合には「不正行為の再発、証拠隠滅のおそれなどの緊急かつ合理的な理由」があるとして、例外的に処分決定前の謹慎でも無給にできると判断しています。ただし、この要件は厳格で、該当するケースはかなり限られます。

◆この問題に関するポイントは?
 ポイントは次の通りです。
1.規定がなくても、会社は業務命令として自宅謹慎を命じることができる。
2.自宅謹慎が懲戒処分として会社が命じたものである場合は、当該期間は無給でよい。

保護される企業の「営業秘密」の範囲が拡大する可能性

◆年内にも指針を抜本的に見直し
経済産業省は、法律で保護する企業の「営業秘密」の管理手法の目安を示す指針を抜本的に見直し、年内にも改定する方針です。この見直しにより、これまでよりも幅広い範囲の情報が営業秘密として認められる可能性があります。

◆現在の「営業秘密」事情
不正競争防止法では、従業員が営業秘密を故意に漏らした場合などに刑事罰を科すことができるほか、被害を受けた企業が損害賠償や差止請求をできるとしています。保護の対象になる営業秘密については、経済産業省の「営業秘密管理指針」で定義された、以下の3つの要件を満たす必要があるとされています。
(1)機密管理性:施錠保管するなど秘密として管理している
(2)有用性:事業に有用な技術・営業上の情報である
(3)非公知性:公然と知られていない
法律だけでは営業秘密として保護される情報の範囲がはっきりしないため、2003年に、営業秘密と認められるのに必要な企業の管理手法などを例示した指針がつくられました。この指針では、営業秘密の「望ましい管理水準」として、情報へのアクセス制限や特定の管理者による施錠、パソコン保管時のパスワード管理などが列挙されています。
指針に法的拘束力はありませんが、秘密漏洩事件に関する裁判では、企業が指針に基づいた管理をしていたかどうかが、営業秘密と認定されるための重要な判断材料となります。指針に沿った管理をしていなかったため、漏れた情報が営業秘密と認められなかった例も多くあります。

◆見直しの内容
今回の見直しでは、企業側からの「これまでの指針は一律に高い管理水準を求めすぎている」との批判を受け、業種や企業規模に応じた弾力的な基準に改めることが検討されています。
具体的には、商品の研究開発や試験に長い時間がかかり、開発に失敗するリスクも高く、情報を幅広く企業秘密として認めて保護しなければ研究開発意欲をそぐおそれのあるバイオテクノロジー・医療分野などでは管理水準が下げられます。
また、中小零細企業も緩和の対象となる見通しです。特に中小企業などから不満の大きかった、管理の際の施錠やパスワード設定、社内での独立した秘密管理部署の設置などについては、削除したり条件を付けたりするなどして管理水準を緩和することが検討されています。
こうした見直しにより、従来よりも幅広い範囲の企業情報が営業秘密として保護される効果が期待されていますが、一方で、他社の企業情報等について、これまで以上に慎重に取り扱う必要が出てくるかもしれません。

未払い賃金に関する従業員救済制度

◆勤務先が経営破たん
勤めていた会社が経営破たんしてしまい、「もう少し待ってもらえないか」と言われていた先月分の給与も支払われなくなってしまった。このままでは生活が立ち行かなくなってしまう…。このようなケースでは、従業員救済のため、労働者に対して未払い賃金の一部を立替払いする「未払い賃金の立替払い制度」がセーフティネットとして用意されています。

◆未払い賃金の立替払い制度とは
未払い賃金の立替払い制度では、「賃金の支払いの確保等に関する法律」に基づいて、労働者健康福祉機構(旧労働福祉事業団)が未払い賃金の一定範囲を立替払いします。機構は労働者が持つ賃金請求権を代わりに取得し、もし事業者に資産があれば、そこから立替払いした賃金を回収します。
立替払いの請求は、未払い賃金のある労働者が、破産等の証明者から証明書の交付を受け、機構に提出して行います。証明者は、会社の倒産が破産などの法的手続による倒産なのか事業停止などの事実上の倒産なのかにより異なります。法的手続による倒産の場合は裁判所が選任した管財人や清算人、事実上の倒産の場合は会社所在地を管轄する労働基準監督署長が証明者となります。
立替払いの金額は、退職前6カ月間に未払いになった給与や退職金の80%です。賞与や総額2万円未満の未払い賃金については対象とはなりません。また、退職時の年齢に応じて支払われる金額に上限が設けられており、30歳未満は88万円、30歳以上45歳未満は176万円、45歳以上は296万円とされています。

◆対象は中小企業、パートやアルバイトも対象者
この制度の特徴の1つとして、対象は中小企業に限定されるということが挙げられます。中小企業の範囲については、業種別に4つの区分に分けられていますが、一例を挙げると、一般的な産業であれば「資本金3億円以下または労働者300人以下」、サービス業であれば「資本金5,000万円以下または労働者100人以下」などとなっています。
また、この制度は正社員だけを対象者にしたものではありません。パートやアルバイト、外国人労働者等、労災保険の適用事業場に雇われて賃金を得ていた労働者であれば、雇用形態・国籍等を問わず、未払い賃金の立替払いの対象となります。
企業の外国人雇用をめぐる状況,制度改正の動向

◆昨年10月から改正雇用対策法が施行
改正雇用対策法が昨年10月1日から施行されていますが、この改正の目的の1つは、今後見込まれる労働力不足に対応するため、若者や外国人を積極的に活用していくということにあります。
上記改正法には、外国人労働者に関する雇用管理等に関する事項が盛り込まれており、外国人労働者の適正な雇用管理の推進のために、事業主に外国人の雇用状況等の届出義務を課し、国に外国人の雇用管理の改善等について努力義務を求めているのが大きなポイントです。

◆「在留カード」発行で外国人情報を一元管理へ
外国人に関しては、現在、「在留カード」(仮称)の発行が検討されています。
鳩山法務大臣の私的懇談会である出入国管理政策懇談会は、現行の「外国人登録証」を廃止し、新たに「在留カード」を発行して外国人の情報を一元管理できるようにする在留管理制度の見直し案を提言しています。また、この見直し案には、在留期間の上限を現在の原則3年から5年に延長することも盛り込まれており、法務省は、来年の通常国会に関連法改正案を提出する方針とのことです。
これらの改正が行われた場合、企業における外国人雇用にも影響していくでしょうか。

◆外国人研修生・技能実習生の保護拡大へ
また、政府は、外国人研修・技能実習生の保護を拡大する方針を明らかにしています。
母国語で相談できる電話窓口を設置したり、受入れ先企業が倒産した場合であっても研修を続けられるよう支援したりするほか、労働環境を改善するための新たな在留資格の導入などが検討されています。
これらの施策については、法務省、厚生労働省、経済産業省などの関係省庁が連携して、2008年度から順次着手していくそうです。

◆ハードルが高い外国人留学生のフルタイム採用
独立行政法人労働政策研究・研修機構が行った調査によれば、卒業後の外国人留学生を過去3年間にフルタイム社員として採用したことのある企業の割合は9.6%だったそうです。従業員300人以上の企業では36.3%でしたが、中小企業ではこの割合が大きく下がります。
採用企業の理由は、上から順に「国籍に関係なく優秀な人材を確保」「職務上の外国語の必要性」「事業の国際化」となっています。

政府管掌健康保険が1,577億円の赤字を計上

◆なぜこれほどの赤字になった?
主に中小企業の従業員が加入する政府管掌健康保険(以下、「政管健保」という)の医療費収支が、2007年度決算で1,577億円程度の赤字を計上する見通しとなりました。5年ぶりの赤字転落となりますが、社会保険庁では、2008年度も1,700億円程度の赤字が見込まれるとしています。
4年連続で黒字となるなど収支状況を回復していましたが、それがなぜこれほどの赤字を計上することとなったのでしょうか。

◆医療費の増加で採算が悪化
2007年度の政管健保の医療費収支見通しは、支出が前年度より4,000億円程度多い7兆2,744億円、収入が7兆1,167億円で、1,577億円の赤字となる模様です。
政府は、慢性的・構造的な赤字体質を改善すべく、2003年度に医療費の患者負担の割合を2割から3割へと引き上げました。これにより収支状況は改善しましたが、わずか4年間で再び赤字体質に陥ることとなりました。
また、2008年度には、メタボリック症候群を予防する特定健診・特定保健指導の開始で、新たに700億円の負担が発生します。そのため、2008年度も赤字となることが確実とみられています。
こうした赤字の背景には、政管健保の採算の急速な悪化があります。高齢化で医療費が大きく膨らむ一方、賃金の伸び悩みなどで保険料収入は微増にとどまっており、再び構造的な赤字体質に陥りつつあるのです。今後、大企業の社員等に、保険料引上げなどの形で負担が付け回される懸念もあります。

◆一時的な対策でなく抜本的改革が必要
社会保険庁では、財政の安定運営を目的に積み立ててきた「事業運営安定資金」を取り崩して赤字を穴埋めしますが、この残高は2006年末時点で約5,000億円程度。現在と同程度の赤字が今後も続けば、2009年度にも底をつきます。
厚生労働省は、社会保障費の伸びを抑制する観点から、政管健保に対する国庫負担金を1,000億円程度削減し、これを大企業の社員が加入する健康保険組合と公務員が加入する共済組合に肩代わりさせる特例法を国会に提出しました。これは2008年度の特例措置ですが、赤字が続けば、2009年度以降もこの肩代わりが行われる可能性もあります。ただ、負担を肩代わりさせるような対策では、根本的な解決にはつながりません。
現在、社会保険庁が運営する政管健保は、2008年10月より、全国健康保険協会管掌の通称「協会けんぽ」となり、国から独立した新たな健康保険として発足します。組織の移行だけではなく、制度自体の抜本的改革も望まれるところです。

各業種に広がるパート・契約社員等の正社員化の動き

◆改正パート労働法が施行
非正規雇用労働者が働く人の3人に1人を占めるまでに拡大しているなか、4月1日から改正パート労働法が施行されました。同法では、パート労働者の通常の労働者(正社員)への転換を推進するための措置を講ずるように事業主に義務付けています。
厚生労働省が発表した「労働経済動向調査」(2月)の結果によれば、過去1年間に正社員以外から正社員に登用した実績のある事業所の割合は41%となっており、特に製造業、飲食店、宿泊業、サービス業などでその割合が高くなっています。今後の方針については、64%の企業が「正社員に登用していきたい」としています。
改正法の施行を機に、非正社員を正社員化する動きはますます広がっていきそうです。
◆パート・契約社員を正社員に
東京都に本社を持つ日用雑貨販売大手の株式会社ロフトでは、パート社員・契約社員のうち、今後、希望する者を正社員としていくそうです。同社が雇用しているスタッフは約3,300人で、そのうち正社員は約400人。1年契約の社員は280人、半年契約の社員は2,650人で、そのうちの2,350人が正社員になることを希望しているそうです。
なお、新規採用者については、6カ月間の見習い期間を経て、正社員か有期雇用かの選択を行います。
ちなみに、正社員化に伴う同社の総額人件費は、約1割程度増加する見込みだそうです。

◆製造大手では派遣社員を直接雇用などに切替え
また、派遣社員を多く抱えるキヤノン本体・グループ18社では、子会社を含めた工場などの製造現場で働く約1万2,000人の派遣社員の受入れを年内にも全面的に打ち切り、半数を直接雇用の期間社員、残りの半数を請負会社との契約に切り替えること発表しました。
同社は以前から『偽装請負』があるとして労働局などから指導を受けており、派遣契約への切替えをすすめていましたが、直接雇用と請負とに再編する方針を決めたようです。
建機製造トップのコマツでも、2009年3月末までに工場で働く派遣社員全員を期間社員に切り替える方針を明らかにしています。

フリーターの就職は依然として厳しい?

◆4年連続でフリーターが減少
2007年のフリーターの人数は、前年比6万人減の181万人となっており、ピークを迎えた2003年から4年連続で減少しています(総務省発表)。雇用環境の改善によるものとも言われていますが、25-34歳のいわゆる「年長フリーター」の人数は、前年と横ばいの92万人となっており、依然として状況は厳しいようです。
フリーターを積極的に採用したいと考えている企業はまだまだ多くはないようですが、フリーターを採用する場合、企業はどのようなことを重視しているのでしょうか。

◆採用時の面接では「熱意・意欲」などを重視
独立行政法人労働政策研究・研修機構による調査(「企業における若年層の募集・採用等に関する実態調査」)では、フリーターの正社員採用について、過去1年間にフリーターを正社員として採用した企業の担当者が採用する際の面接で最も重視したポイントは「熱意・意欲」であるという結果が出ており、以下、「コミュニケーション力」「忍耐力」と続いています。
また、既卒者(学校卒業後すぐに就職する者以外で35歳未満の者。勤務経験の有無は問わない)を募集した理由について、新規学卒者枠で募集した企業では「新卒者と変わらないから」、中途採用枠で募集した企業では「即戦力になるから」という理由が多く挙がっています。
しかし、フリーター経験を「マイナスに評価する」とした企業が約40%に上るなど、フリーターの就職は依然として厳しい状況であることも明らかになっています。

◆今年度から導入される「ジョブ・カード制度」で変化は?
政府は、フリーターなどの就職を支援するため、今年度から「ジョブ・カード制度」を導入する方針です。職業訓練を受講した者にハローワークから職歴や職業訓練の受講歴を記載した「職業能力証明書」が発行されるもので、就職活動に活用してもらうのがねらいだそうです。
同制度は、企業が一定期間、フリーターなどを雇用しながら職業訓練を実施し、訓練実績や資格を記載した証明書を公的機関が発行する仕組みですが、職業訓練を行う企業には助成金や税制優遇などの経済支援が検討されています。
政府は2008年度からの5年間で100万人程度の同制度の利用を目指していますが、制度導入によりフリーターの就職状況は改善されていくのでしょうか。

『年金記録問題』『ねんきん特別便』をめぐる状況

◆全受給者・加入者9,500万人に発送開始
4月2日から、記録漏れの可能性が高い人以外の全受給者・加入者計9,500万人に向けて「ねんきん特別便」の発送が始まりました。6月以降には事業所経由での送付も予定されています。社会保険庁でも、社会保険事務所における休日の相談日を増やすなどして、相談体制を強化する方針を明らかにしています。

◆民主党が「ヒント付き特別便」の独自法案提出へ
しかし、社会保険庁の発表によれば、これまでに「特別便」を送付した受給者の約4割に相当する約90万人が未回答であり、回答した約141万人のうち約103万人は「訂正なし」と答えていますが、実際には記録漏れの事例が相当数あるそうです(3月18日現在)。「特別便」を受け取っても、「具体的な情報が載っていないのでわかりにくい」「昔のことで思い出せない」という人が多いようです。
民主党では、「特別便」が届いても記録漏れに気付かないとみられる人(3月末までに特別便が届いた記録漏れの可能性が高い年金受給者・現役加入者のうち記録を訂正した人を除く)を対象に、記録漏れがあるとみられる記録やヒントを同封して「特別便」を再送する独自の法案(ねんきん特別便緊急支援法案)を今国会に提出する方針を示しています。

◆物証があれば社会保険事務所でも審査
またこれまで、自分の記録に誤り等があると思う人は、「年金記録確認第三者委員会」に申し出る必要がありましたが、家計簿や確定申告書のコピーなど、保険料を納付していた物的証拠があることで判断しやすい案件については、社会保険事務所に申し出て年金支給の是非を審査してもらえるようになりました。
審査が進まない「年金記録確認第三者委員会」の審査を省略して記録回復のペースを上げるのがねらいだそうです。

労災が認定された最近の事例から

◆保護者の要求でうつ病の保育士に労災認定
兵庫県の私立保育園で、園児の保護者から執拗なクレームを受けたことが原因でうつ病やストレス障害となった女性保育士2人が、西宮労働基準監督署に労災認定されていたことが明らかになりました。
保護者の父親は、担任を代えることなどを強く要求していました。保育園では謝罪したり話合いの機会を設けたりしていましたが、父親の要求はますますエスカレートしていったそうです。
これにより、担任の保育士3人のうち2人が休職し、うつ病やストレス障害と診断されました。2人は昨年4月に、西宮労基署に労災を申請して同年 11月に労災認定されました。認定された2人のうち1人は退職してしまったそうです。

◆過労が原因で自殺した外科医に労災認定
栃木県の病院に勤務していた男性外科医が自殺したのは過労が原因だったとして、鹿沼労働基準監督署がこの医師を労災認定していたことが明らかになりました。このケースでは、過重労働のほか転勤や医療ミスによるストレスが原因でうつ病を発症したと認定されています。
この医師は大学卒業後の2000年 12月から埼玉県内の公立病院に勤務し、2002年5月から栃木県内の病院に移ってからうつ病を発症して同年6月に自殺しました。前任地では月 80時間を超える時間外労働が恒常的に行われ、転勤後の2002年5月下旬には医療ミスを起こしたことに悩んでいたそうです。
代理人の弁護士は「激務が問題となっている外科医の過重労働が認められた意義は大きい。国は早急に勤務条件の改善に務めるべきだ。」と指摘しています。