厚生年金基金に関する改正動向と企業年金に対する考え方
◆気になる動向
AIJ投資顧問事件の発覚以降、厚生年金基金の今後の改正動向が話題となっていますが、11月上旬に厚生労働省(社会保障審議会)の専門委員会が開かれ、「厚生年金基金制度の見直しについて(試案)」が発表されました。
この試案は、厚生年金基金の今後のあり方についての議論のたたき台として同省がとりまとめたものであり、今後、法律改正案のベースとなります。同省では、来年の通常国会での改正法案提出を目指しています。
(1)特例解散制度の見直しによる「代行割れ問題」への対応
(2)企業年金の持続可能性を高めるための施策の推進(3)代行制度の見直し
このうち、(3)の中で「代行制度の段階的縮小・廃止」について述べられています。その内容は、積立不足を抱えている基金については5年以内に解散させ、10年かけて制度を廃止するというものです。
この試案については、その後開かれた専門委員会において、大半の委員が賛成しましたが、財政が健全な基金まで廃止することについては反対意見も出たようです。
日本経済新聞社が行ったアンケート(有力企業197社が回答)では、「企業年金が業績や財務に与える影響が重くなっている」と回答した企業が71%、「年金・退職金について給付水準の引下げを検討している」と回答した企業が21%となっています。
今後の企業年金に関する改正動向を踏まえ、中小企業においても「企業年金をどうするか?」というテーマを真剣に考えなければならない時期に来ているようです。
「組合との賞与交渉における資料不提出は法違反」との判断
◆賞与交渉における会社の対応
売上・利益・査定資料・組合員の査定結果の提出について労働協約を締結していたにもかかわらず、労働組合との団体交渉(賞与交渉)において会社がこれらの資料を提出しなかった事件の再審査で、中央労働委員会は、不当労働行為に当たるとの判断を示しました(10月23日)。
しかし、平成21年冬季賞与に関する団体交渉の場で、組合員の査定結果(人事考課表)を除く資料を提出せず、さらに、平成22年1月の昇給については団体交渉を行いませんでした。
今回、このような会社の対応は、当該労働協約・合意事項に反する不誠実なものであり、労働組合法(第7条第2号)に違反するとの判断がなされたのです。
上記の通り、このような会社の対応は「不誠実」と指摘され、法違反を問われる可能性がありますので、注意が必要です。
「定年後再雇用拒否」をめぐり最高裁で初判断
平成18年4月改正による高年齢者雇用安定法(高年法)下の再雇用拒否事件で、初めて最高裁による判断が示されたことになります。
この事件では、JMIU(全日本金属情報機器労組)津田電気計器支部(大阪府箕面市)の書記長を含む全組合員3人だけが再雇用を拒否されたため、社員としての地位確認と賃金の支払いを求めていたもので、2010年9月の大阪地裁、2011年3月の大阪高裁のいずれも労働者側の主張を認める判決が出されていました。
裁判所は、この会社の対応について、「男性は社内の基準を満たしており、再雇用しないのは合理的な理由を欠く」と述べ、不当に低い評価をして再雇用を拒否したのは違法だとの判断を示しました。
今後は、企業が不当に労働者の継続雇用申入れを拒否した場合や、再雇用後の雇止め理由が合理的でない場合等に、労働者から地位確認および賃金の支払いを求めて訴訟提起される可能性があると言えます。
それによると、男性で「平日に11時間以上働く者」の割合は、平成13年の21.5%が平成18年には24.2%、平成23年には24.9%へと上昇しています。これに「10~11時間未満」を加えると平成23年は40.2%と、平成13年の35.1%から5%ほど上昇しています。
また、女性で11時間以上働く者は、平成13年の4.7%から平成18年は6.5%へと上昇し、平成23年も高止まりという傾向を示しています。
一方、週60時間以上労働する長時間労働者について、男性の平均仕事時間が11時間41分、女性は10時間30分と男性のほうが長く、また、男性は家事などに充てる時間が20分前後であるのに対し女性は約1時間である等、男女による違いも見られました。
さらに、今後の見通しについて、昨年10月の参議院厚生労働委員会での牧厚生労働副大臣の答弁を引用しつつ、「勤務間インターバル規制を広く導入していく環境が十分に整っているとは言い難い…しかし、…情報通信分野のように、長時間労働であり、勤務形態が不規則であるような分野においては、…勤務間インターバル規制の導入の必要性は今後高まっていくものと考えられる」と結論付けています。
喫煙者は採用に不利な時代に!?
これは、「企業が厳しい競争環境の中で生き残っていこうとしているときに、わざわざ組織にとってマイナスとなるような人材は採らない」という社長の強いメッセージです。
ただ、職場でのタバコを禁止する・しないのいずれにしても会社の姿勢が定まっていなくては、喫煙する社員、しない社員双方にとって不満のタネとなるでしょう。
また、昨今取り沙汰されている、長時間労働・過重労働に関連して、これらが喫煙とセットになった場合、脳・心臓疾患が重症化したり死亡率がアップしたりすることが知られています。喫煙自体は個人の自由だとしても、それが長時間労働等に絡んでくると企業の安全配慮義務が問われるリスクにつながるのです。
よって、「社員の健康管理=企業のリスク管理」という面からも、喫煙の管理は重要課題となってくるのではないでしょうか。
精神障害者の雇用を検討する企業が増加
また、すでに障害者を雇用する企業については、障害者の雇用に関する状況の報告が毎年1回必要ですが、その義務が課される企業規模も変更されます。現行の労働者数「56人以上」から「50人以上」となりますので、該当する企業は注意が必要です。
現行の法定雇用率は、身体障害者と知的障害者だけを算定の根拠にしていますが、新たに精神障害者の雇用義務付けがなされると算定の仕方が変わり、雇用率が引き上げられる可能性もあります。
現在、人材紹介会社には求人依頼が殺到しており、対応の早い企業では、優秀な技能を持つ精神障害者を獲得しようと動き出しています。
精神障害には様々な種類や症状の程度があります。「精神障害者」といっても、接客のような仕事には向かないけれども、コンピュータのプログラミング能力が非常に優れているなど、企業が適材適所で雇用すれば貴重な戦力となる方も多くいるのが事実です。
新入社員の入社後の意識の変化を読み取ろう!
公益財団法人日本生産性本部が、2012年度新入社員(340人)に実施した「2012年度新入社員秋の意識調査」(調査期間2012年10月~2012年11月)によると、「今の会社に一生勤めようと思っている」とする回答が30.6%で、同年春の調査結果(60.1%)から29.5ポイントの減少となり、この落差は1997以来過去最大となったそうです。
これらの意識の変化は、入社前の「理想」と、実際に働きはじめてからの「現実」とのギャップを感じ始めていることを示していると言えそうです。
入社直後は先輩・上司から指導を受けることが多く、その際に、誰にどのような指導を受けたかが、会社のイメージを左右するといっても過言ではありません。その意味で、新入社員の指導法等について検討することは、社員定着のためにも有効だと言えるでしょう。
仕事への「エンゲイジメント」に関する意識は?
オランダ・ユトレヒト大学のシャウフェリ教授によって、「バーンアウト」(燃え尽き症候群)の対概念として提唱されたもので、ワーク・エンゲイジメントの高い人は、「意欲と活力にあふれ、仕事に積極的に取り組む」という特徴を示すそうです。従業員に高い生産性を求める企業側としては、そのような従業員の増加を望むことでしょう。
◎上司、部下、同僚間での信頼関係が構築されている…(人62.8%/ビ50.8%)
◎コミュニケーションがとりやすい、円滑である…(人60.2%/ビ46.0%)◎会社の方針(ビジョン・事業内容)が共有されている…(人53.4%/ビ34.6%)
◎仕事の成果を、正当に評価してもらえる…(人37.5%/ビ40.1%)
◎雇用の安定性がある…(人28.8%/ビ27.2%)
◎メンタルヘルス対策に取り組んでいる…(人22.7%/ビ21.4%)
両者間でいくつかのギャップが見られますが、従業員が重視する項目を適切に捉えたうえで企業の人事・労務体制を整備していくことが、必要になってくるでしょう。
・「生活費を稼ぐ」(48%)
・「生活に余裕が欲しい」(41%)・「自分の小遣いを捻出する」(34%)
・「老後資金を貯蓄したい」(33%)
「年金だけでは老後の家計を維持できない不安がある」、「自由に使えるお金が減ったため、その補填が目的」など、老後への備えや生活の維持などの理由が目立っています。
希望する収入額は「5万円未満」が54%で、希望する副業は「単発のアルバイト」、「家庭教師、コンサルタント」などが多かったようですが、反面、「会社に知られたくない」人も多く、本業の勤め先で「会社で副業が禁止されている」との回答は47%に達しました。また、今冬のボーナスについては、支給額が「減りそう」との回答が昨冬に比べ7ポイント上昇して48%になり、「耐久消費財などの買い物」、「旅行・レジャー費用」を抑える一方、「貯蓄」、「生活費の補填など」に回す傾向が強まっていることもわかりました。
【賛成派の理由】
・仕事が好き…60歳はまだまだ元気に働ける、働くことで毎日が充実する。・収入源が確保できる…年金受給開始年齢の引上げによる無収入期間の発生や、晩婚化による60歳以降も必要となる養育費など、金銭面の不安を解消できる。
・高齢者も戦力になる…ベテランの知識や労働力を高く評価し、社会や企業で活かすべき。
【反対派の理由】
・高齢者の雇用を確保することで、若者の雇用・待遇に影響が出る。・高齢者の雇用を確保すれば、若年層の雇用や給料が減少する。
・上のポストが詰まることで、若手が昇進・成長する機会が減り、次世代を担う人材が育ちにくくなる。
「60歳」と回答した人の理由は、「体が健康なうちに、趣味やボランティアなど幅広い活動をしてみたい」、「家族で過ごす時間をなるべく多く持ちたい」、「60歳を超えて働くのは体力的・能力的に厳しく、若い世代にも迷惑がかかる」などでした。
一方、「65歳」と回答した人の理由は、「住宅ローンや養育費等で65歳までは働く必要がある」、「年金受給年齢までは収入源をなくすわけにいかない」、「仕事が好きなので生涯現役で頑張りたい、なるべく長く社会と関わり、社会貢献することで生き甲斐を感じたい」などでした。
この調査結果から、60歳以上の働き方や仕事内容については、個々の健康状態や能力、家庭事情に合わせた希望等に応じて選択できることが望まれていると言えそうです。