2005/09/01

平成17年9月号

子育て支援による人材確保

次世代育成支援対策推進法(次世代法)が施行されて、半年になります。
次世代法は企業や自治体に対し、2015年3月までの10年間で積極的な子育て支援に取り組むことを求めています。
300人超の従業員を雇用する企業は育児支援への取組みを「一般事業主行動計画」としてまとめ、各都道府県労働局へ届け出る義務があります。
「一般事業主行動計画」を策定するメリットは、2つあります。第一に、安定的な女性の働き手の確保です。女性の働き手の多くは、家庭で育児や介護の問題を抱えています。育児支援に積極的に取り組む企業は、女性にとって魅力的です。第二に、認定マークの取得があります。認定マークの取得は、企業イメージの向上にも役立つからです。認定マークを受けるためには、男性の育児休業取得者1人以上、女性の育児休業取得率70%以上といった基準を一定期間内(2年から5年)に満たすことが要件になっています。認定マークを取得すれば、自社の広告や商品に使用できます。
全国中小企業団体中央会が今年1月に実施したアンケートによると、次世代法の対象になっていない300人以下の中小企業でも、仕事と育児の両立支援に取り組んでいます。例えば、1.保育園の運営や保育所費用の3分の1を補助するなどの育児支援、2.労働時間の短縮や週2日出勤などの労働日数の短縮、3.看護休暇制度を高校生以下にまで拡充するなどの子育て時間の捻出への協力、4.育児休業中の書籍の購入費用支援などの職場復帰支援、5.男性社員の育児休業取得の奨励などの男性の育児への参画支援です。小回りが利く中小企業こそ、従業員一人ひとりの要望に沿ったきめ細かな支援への取組みが可能になります。
「一般事業主行動計画」策定にかかわる相談窓口としては、厚生労働省が指定した「次世代育成対策推進センター」や各都道府県の労働局があります。 
人余りから、一転して団塊の世代の大量定年退職と少子化への取組みが問題になっています。まずは、次世代法に詳しい身近な社会保険労務士にご相談されてはいかがでしょうか。


ゆとり教育と労働時間の削減

大阪労働局の割増賃金の遡及是正支払件数等の推移を見ると、ここ数年で割増賃金支払額が急増しています。
平成14年度の是正支払い件数が52件で、割増賃金支払額は約8億4,000万円。平成15年度には、102件と倍増し、割増賃金支払額は約4倍の約21億1,000万円になりました。そして、平成16年度では、件数に関しては横ばいなものの(98件)、割増賃金支払額は約1.8倍に増え、37億4,000万円でした。
割増賃金支払額は、本来企業が従業員に支払うべきであった時間外勤務手当・休日出勤手当の未払い額の支払いを命じるものです。サービス残業は従業員にただ働きを強いるものであり、未払い残業代をさかのぼって是正するのは労働局として当然の指導でしょう。
OECD(経済協力機構)の統計によると、1979年から1983年にかけてすべての国で平均労働時間が減少しました。ところが、1983年から1999年にかけてで比較すると、統計がわかっている16ヵ国のうち6ヵ国で、その16年間に平均労働時間が増加しているのです。(アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリアなどのアングロ・サクソン諸国、およびギリシアとスウェーデン)。この背景には、サッチャー革命やレーガノミックスによる政策の優先課題が完全雇用から国際競争力に変化したことがあります。製造業の統計を見ると、1980年代に平均労働時間は減少から増加に転じています。
逆に、戦後驚異的な復興を遂げ繁栄を誇った日本とドイツは、1990年代半ばまで労働時間が減少しました。例えば、1950年のドイツ人はアメリカ人よりも年間380時間多く働いていました。しかし、1996年の労働時間をみると、ドイツ人はアメリカ人よりも447時間少ないのです。その結果、現在のドイツは景気停滞と失業に苦しんでいます。労働時間とドイツ経済は正の相関関係にあるといえます。働き者の国が栄え、怠け者の国は滅びるという簡単な道理がうかがえます。
数学教育に力を入れたインドが21世紀のIT産業をリードする一方で、詰め込み教育からゆとり教育に転じた日本では、高校生の学習時間が先進国で1、2を競う短さとなり、ニート問題に苦悩しています。
労働時間の削減が、企業の活力と日本の競争力を殺してしまわなければいいのですが。

【トピック】

●国民年金保険料のカード払いが可能になる
社会保険庁は国民年金保険料の納付率を高めるために、2006年度からクレジットカードによる納付を可能にする。カード払いにすることで、一度の手続きで毎月カード会社からの請求が届くことになり、納付率の向上が見込めるとしている。なお、同庁は2004年度に63.6%だった
納付率を2007年度に80%にすることを目標としている。

●育児休業取得で100万円の助成
厚労省は、育児休業を取得させた企業に100万円の助成金を支給する方針を決めた。支給要件は、
・従業員が100人未満の中小企業であること
・初めての取得者であること(2人目は60万円、3人目以降はなし)
・就業規則に育児休業の規定を設けていること
・半年以上の休業の後、職場復帰したこと
など。来年度予算で概算要求し、5年間の時限措置とする。