2009/11/02

11月の事務所便り

政府の雇用対策と雇用調整助成金等の状況

◆対象者・事業所数がともに減少
厚生労働省が10月初めに、「休業等実施計画届」(雇用調整助成金等の申請時に事業所が提出する書類)の受理状況を発表しました。
それによれば、8月の対象者数は211万841人となり、7月の243万2,565人と比較して13.2%も減少しました。また、8月の対象事業所数は7万9,922カ所となり、7月の8万3,031カ所から3.7%減少しました。「雇用調整助成金」(中小企業の場合は「中小企業緊急雇用安定助成金」)の利用も、いくらか落ち着いてきたようです。
また、8月における「大量雇用変動届」(会社都合等により30人以上が離職した場合に提出する書類)の届出事業所数は284事業所(7月は251事業所)、離職者数は1万4,550人(7月は1万891人)となっており、こちらのほうは増加しています。

◆新政権による雇用対策
民主党を中心とする政権に変わり、政府は、鳩山首相を本部長とする「緊急雇用対策本部」を設置する方針を発表し、新たな雇用対策も明らかになっています。
政府は、今後、当面の雇用対策を盛り込んだ「緊急雇用創造プログラム」をまとめる方針を示しており、主な対策としては、「介護分野における雇用者数の拡充」、「公共事業削減に伴う建設・土木労働者の転職支援」、「生活保護の受給促進等の貧困層対策」などが挙げられています。

◆さらなる雇調金要件の緩和
また、助成金に関しては、「雇用調整助成金」「中小企業緊急雇用安定助成金」の支給要件を緩和する方針も示されています。支給の要件とされている「直近3カ月間の売上高の減少幅」について、現行よりも少ない幅で支給を認める考えです。
企業にとっては従来よりも使い勝手が良くなる改正だといえます。

◆今後の政策に注目
8月の完全失業率は「5.5%」と過去最悪の水準となりました。企業にとっても労働者にとっても、まだまだ景気は上向いてきたとはいえない状況です。今後、「6%に達するのでは」といった懸念もあります。
そのような状況にならないためにも、企業を支援する助成金の拡充を含め、どのような対策を政府が打ち出し、実行していくのか、注目したいところです。


政権交代で再び動き出した「派遣法改正」

◆抜本的な改正に向けて
労働者派遣法(以下、「派遣法」)の改正については、自民党政権時から様々な議論がなされてきました。
派遣法に基づく指針が改正され、「派遣切り」を行った企業に対して、残りの契約期間中の休業手当相当額の支払いを求める制度が創設されるなどしましたが、結局は労使の意見がまとまらず、抜本的な派遣法改正には至りませんでした。しかし、このたび民主党が政権を獲得したことにより、再び改正に向けた議論が始まりました。

◆民主党マニフェストの実現なるか
厚生労働省はこのほど、「労働政策審議会」(厚生労働大臣の諮問機関)の分科会を開催し、派遣法の改正に向けた政・労・使による議論をスタートさせました。
民主党・社民党・国民新党は、不安定な雇用をなくすことなどを目的として、「製造業派遣」「登録型派遣」「日雇い派遣」の原則禁止などを主張していますので、それらを実現しようという考えです。また、法律名を「労働者派遣法」から「派遣労働者保護法」に変更することも検討されています。
政府は、年内にも派遣法の改正案をまとめるとしていますが、経営側や派遣業界の反発は必至であり、すんなりと改正が行われるかは微妙な状況といえるでしょう。

◆「間接雇用」から「直接雇用」への動き
雇用形態に関して、最近、派遣労働者などの「間接雇用」を正社員・パート社員・アルバイト社員などの「直接雇用」にシフトする企業が増加傾向にあるようです。
求人広告の企画・発行を行っている企業のアンケート調査(999社が回答)によれば、派遣労働者を雇用している企業(147社)のうち約45%が、「1年前に比べて派遣労働者が減った」と回答しており、約3分の1の企業が「今後さらに派遣社員の比率を下げる予定」と回答しています。
今後の派遣法改正の動向にも注目しつつ、自社において「どのような雇用形態を中心として企業を運営していくべきか」を考えていかなければならない時期に来ていると言えるでしょう。


「新型インフルエンザ」と休業手当・有休等の関係

◆予断を許さない状況
新型インフルエンザについては、「これからピークを迎える」との見方もあり、まったく予断を許さない状況にあります。そんな中、厚生労働省が「新型インフルエンザに関連して労働者を休業させる場合の労働基準法上の問題に関するQ&A」というものを、ホームページ(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/20.html)で発表しました。
これは、新型インフルエンザに伴って労働者を休業させる場合における賃金の支払いの必要性の有無等について、同省の見解を示したものであり、大変参考になります。なお、この見解は平成21年9月時点の状況を基にしているいため、今後の状況に応じて変更される可能性があるとのことです。

◆5つの「Q&A」
上記ホームページでは、以下の5つの質問に対する見解が掲載されています。いずれのケースについても、場合分けをして「休業手当の支払いが必要なケース」「休業手当の支払いが不要なケース」等が示されています。上記ホームページをご確認ください。
(1)労働者が新型インフルエンザに感染したため休業させる場合は、会社は労働基準法第26条に定める休業手当を支払う必要があるか?
(2)労働者に発熱などの症状があるため休業させる場合は、会社は休業手当を支払う必要があるか?
(3)労働者が感染者と近くで仕事をしていたため休業させる場合は、会社は休業手当を支払う必要があるか?
(4)労働者の家族が感染したためその労働者を休業させる場合は、会社は休業手当を支払う必要があるか?
(5)新型インフルエンザに感染している疑いのある労働者について、一律に年次有給休暇を取得したこととする取扱いは、労働基準法上問題はないか? 病気休暇を取得したこととする場合はどうか?

◆万全の準備を!
「新型インフルエンザ」の流行は、企業の経営にとっては死活問題ともなり得ます。実際に多くの社員が感染してしまったような場合に備え、万全の準備を整えておくことが必要でしょう。


健康保険の財政悪化が深刻な状況

◆協会けんぽ、健康保険組合ともに赤字
健康保険を運営する各機関の財政状況が深刻化しているようです。「協会けんぽ」(旧政府管掌健康保険)では、2010年3月末決算で3,100億円の赤字になる見通しを発表しています。この赤字幅は、前年度に比べ約810億円も増える見込みで、3年連続で単年度赤字となります。
また、全国の健康保険組合(1,497組合)でも、2008年度の経常収支は合計3,060億円の赤字となっており、黒字を確保した組合は3割にとどまっています。このような状況は、2009年度には一段と悪化すると予測されています。

◆「景気後退」と「高齢化」が大きく影響
これらの状況は、景気の悪化により従業員の給与・賞与が減って保険料収入が減る一方、高齢化により保険給付費が膨らんでいることが要因となっています。
健康保険組合では、保険料を引き上げる組合が今後相次ぐと予想されますが、「協会けんぽ」の保険料を上回ると加入者にとっては加入しているメリットが薄れるため、解散する組合が増えていく可能性も指摘されています。

◆新政権と健康保険財政
一方、「協会けんぽ」では、現状で保険料引上げによる加入者の負担増を求めることは厳しいと判断し、協会けんぽを運営する全国健康保険協会は、長妻厚生労働大臣に国費の投入の増額を正式に要請したそうです。厚生労働大臣では、「協会けんぽ」の収入全体に占める国庫補助率を、2009年度の13%(約1兆円)から最大20%程度まで引き上げる方針であり、働き手の負担増の軽減を目指しています。
しかし、民主党は政権公約で病院の診療報酬引上げを掲げており、必要な医療費はさらに膨らむ可能性があるため、財政の厳しさは増すことが予想されます。保険料が引き上げられること、医療費が高くなることに不満をもつ前に、我々ができること、つまり、いかに健康を維持するかを考え、これ以上の負担増がないようにしたいものです。


非正規雇用者の約4割が「正社員並み」の仕事

◆年収「300万円以下」が約8割
厚生労働省が「非正規雇用者」と「事業所」を対象に、今年の7月に初めて実施したインターネットによる実態調査によると、派遣労働者・契約社員・パート社員など、いわゆる非正規雇用者の約4割が「正社員並みの仕事をしている」ことが明らかになりました。
その一方で、非正規雇用者の約8割は「年収300万円以下」と回答しており、企業が正社員の代替として、低賃金でこれらの労働者を利用していることがわかります。
事業所への調査では、非正規雇用者を雇う理由として、37.7%が「人件費を低く抑えるため」、38.9%が「業務量の変化に対応するため」と回答しています。

◆非正規雇用者の待遇の今後
民主党はマニフェストに、正規・非正規を問わず、同じ職場で同じ仕事をしている人は同じ賃金を得るべきとする「同一労働・同一賃金」の実現を掲げ、ワーキングプアや賃金格差の問題解消に取り組む構えです。
同党の政策に影響力をもつ日本労働組合総連合会(連合)でも、職務の違い(職務の難易度、仕事に対する負担、要求される知識や技能)、職務遂行能力の違い、業績の違いなど、合理的な理由がない限り、勤務時間や契約期間が短いことを理由として正規雇用者と非正規雇用者とで労働条件に差をつけることを禁じた「パート・有期契約労働法」(仮称)の早期制定を目指しています。

◆企業の負担増に直結
こうした状況から、非正規雇用者の待遇を引き上げる施策が講じられることは必至ですが、いまだ経済情勢が混沌としている中、労働条件の底上げは企業の負担増に直結するため、使用者側としては容易には受け入れられないものと思われます。今後いかなる施策が実施されていくのか、要注目です。


生活を楽しむ人は循環器病にかかりにくい

◆アクティブでポジティブな男性は良い結果
厚生労働省の研究班は、「自分は生活を楽しんでいる」と考える男性ほど、心筋梗塞などの循環器病になったり、循環器病が原因で死亡したりするリスクが低くなるとする調査結果を発表しました。この調査結果によると、こうした人はスポーツなどを行って健康的な生活を送っていることに加え、困難な出来事にも前向きに対処できるためにストレスを感じにくいなど、心理的な作用も影響していると考えられるそうです。
研究班によると、循環器疾患や癌疾患の既往歴のない全国の40~69歳の男女8万8,175人を対象として、約12年間の追跡調査を行ったところ、3,523人に循環器疾患の発症が確認されたそうです。

◆循環器病との関係は?
調査開始時点で「自分の生活を楽しんでいるか?」という問いに、高・中・低の3段階で答えてもらい、3グループに分けて循環器病リスクとの関連を調べたところ、男性では、生活を楽しんでいる意識が高いグループに比べ、中程度のグループの発症リスクは1.2倍、低いグループでは1.23倍でした。病気の種類別にみると、脳卒中では1.22倍、虚血性心疾患では1.28倍でした。
次に、循環器疾患による死亡との関係を調べたところ、追跡期間中に全体で1,860人の死亡が確認され、男性で楽しんでいる意識が高いグループと比べて低いグループのリスクは1.61倍も高く、脳卒中については1.75倍、虚血性心疾患については1.91倍高いという結果となりました。

◆男性と女性では異なる結果
生活を楽しんでいる意識の高いグループでは、運動習慣のある人の割合が高く、喫煙者の割合が低いなど、健康的な生活習慣を維持している人が多い傾向が見られました。心理的にポジティブな状態にある人は、困難な出来事に出会っても「なんとかできる」と前向きな考え方ができ、ストレスとなってしまった出来事にうまく対処できるため、心身への悪影響につながらないのではないか、と考えられているようです。
ただし、今回の調査では、女性についてはこうした意識とリスクの関連はみられないようです。これは、もともと男性よりもストレスに強いことなどが関係している可能性があると考えられています。「ストレスに対する対処法」や「自覚されたストレスが心身に与える影響」が男女間で異なることもわかっており、男女差に関するメカニズムの解明が待たれます。


年内にも「母子加算」復活へ

◆生活保護の概要
新聞報道によると、政府は今年3月末に廃止された「生活保護」の母子加算を、年内にも復活させる方針を固めたそうです。
生活保護は、「生活扶助」、「教育扶助」、「住宅扶助」、「医療扶助」、「介護扶助」、「出産扶助」、「生業扶助」および「葬祭扶助」の8つで構成されており、世帯の状況に応じて必要な種類の扶助を組み合わせて支給することにより、健康で文化的な生活水準を維持するとしています。
保護の要否の判断は、厚生労働大臣が定める基準による最低生活費と収入を比較して、収入が最低生活費に満たない場合に保護が適用され、最低生活費から収入を差し引いた差額を保護費として支給するとされています。

◆生活保護の現状は?
2008年度の生活保護受給世帯は、1カ月平均114万8,766世帯で、前年度(110万5,275世帯)に比べ約3.9%増え、過去最多を更新したことが厚生労働省の社会福祉行政業務報告でわかりました。受給者数も159万2,620人と、前年度(154万3,321人)比で約3.2%増となっています。

◆母子加算復活の対象は全国で約10万世帯
母子加算は、18歳以下の子がいる生活保護受給世帯かつ一人親世帯に対して、保護費に最大約2万3,000円を上乗せする形で支給される仕組みでしたが、2005年から段階的に削減され、今年の3月で廃止されました。これに対して民主党などは「格差の固定化を招く」と批判してきました。
母子加算復活については法改正は必要なく、厚生労働大臣の告示により見直し可能となっています。母子加算復活の対象となるのは全国で約10万世帯にも上り、必要経費は年間180億円と試算されています。
2009年度中に必要な金額は60億円前後となる見込みで、財源としては2009年度予算の予備費などを充当する方向で、厚生労働省と財務省が調整を続けており、近々合意に達する見通しということです。


企業で導入が広がる「知的資産経営」

◆「知的資産経営」とは?
経営理念や人材、技能、ブランド、ノウハウといった、数字に表わしにくい無形資産を評価して経営に活かす「知的資産経営」を導入する企業が、中小企業を含め広がってきているようです。
「知的資産」とは、特許やノウハウなどの知的財産だけではなく、さらには組織力、人材、技術、経営理念、顧客とのネットワークなど、財務諸表には表れてこない、目に見えにくい経営資源の総称です。また、そのような会社の本当の価値や強み(知的資産)をしっかり把握し、活用することで、業績向上や会社の価値向上に結び付けることを「知的資産経営」と呼んでいます。
厳しい時代に企業が勝ち残っていくためには、差別化を図っていくことが必要です。差別化の手段は様々ありますが、「知的資産」を活用することにより、他社との差別化を図ることができるだけでなく、企業価値を高めることが可能となるのです。

◆「知的資産経営報告書」で自社価値をアピール
財務諸表を中心とした評価のみでは、企業の持つ価値がきちんと伝わっていないことがあります。企業の有する人材や技術、ノウハウなどの知的資産や、企業の優位性、取組みなどを「知的資産経営報告書」にまとめ、ステークホルダー(顧客、取引先、金融機関、従業員等)に開示することにより、企業の優れた部分や価値を知らせることができます。
また、報告書を作成することにより自社の内容・価値を正確に伝えることができ、経営方針や行動理念など、会社の向かう方向性を社員に示すことができるため、顧客や金融機関に配付するほか、人材募集や社員教育にも活用されるケースが増えているようです。

◆自治体なども支援
最近では、自治体を中心に報告書作成を支援する動きが広がりつつあります。例えば、近畿地方では、近畿経済産業局や大阪商工会議所、ひょうご産業活性化センターなどが中心となり、ホームページ上での報告書のモデル紹介、報告書を開示している企業一覧表の掲載、質問に答えることにより自社の知的資産経営を評価できるツールの公開、専門家の派遣やセミナーの開催を行っています。
京都府では、2008年度に「知恵の経営」と題して、知的資産経営の推進を全国の都道府県で初めて打ち出しました。推進役となる「知恵の経営」のナビゲーター育成を開始したり、報告書を作成した企業に年利1.9%の低利融資が受けられる制度を用意したりするなど、導入支援策を打ち出しています。
これまで見えない魅力であった無形資産を評価して経営に活かすことのできる「知的資産経営」の積極的な導入は、企業業績向上の一助となることでしょう。