2007/05/25

平成19年6月号

改正雇用保険法案のポイント「50%以上」の割増率

◆雇用保険法が改正されました!
雇用保険制度の安定的な運営を確保し、直面する諸課題に対応するための改正雇用保険法案が、今通常国会で審議され、平成19年4月(以下に掲げた項目については10月)から施行されました。
ここでは、改正案の主な内容をご紹介します。

◆被保険者資格・受給資格要件の一本化
短時間労働被保険者とそれ以外の被保険者の区分がなくなり、被保険者資格が一本化されます。
現行では、1週間の所定労働時間が20~30時間の労働者は短時間労働被保険者という区分に該当し、失業給付(基本手当)を受給するための被保険者期間は12月(短時間労働被保険者以外の一般被保険者は6月)でしたが、受給資格要件は被保険者期間6月に一本化されます(ただし、自己都合等による離職の場合の被保険者期間は12月)。

◆育児休業給付制度の拡充等
休業前賃金の40%(休業期間中30%、職場復帰6カ月後に10%)から暫定的に50%(休業期間中30%、職場復帰6カ月後に20%)となります。

◆教育訓練給付の対象範囲の見直し
教育訓練給付の受給要件を、当分の間、初回のみ緩和(3年→1年)されます。
現行では、教育訓練給付を受給するためには被保険者期間が3年以上なければ支給を受けることができませんが、教育訓練給付金の支給を受けたことがない者に限り、1年以上あれば、教育訓練給付金の支給を受けることができるようになります。



「年収130万円」の壁、働き方で変化?
◆「年収130万円」未満の意味
働く時間と日数が正社員のおおむね4分の3未満で、年収が130万円未満である場合、配偶者が加入する厚生年金保険や健康保険の被扶養者となり、健康保険や年金の保険料を負担しなくても給付が受けられるようになります。
しかし、この「年収130万円」の内容が職業などにより異なることは意外と知られていないのではないでしょうか?

◆額面通りでない職業も
サラリーマンの夫を持つ妻の場合、妻がパートで働いているときは、給与、公的年金などすべてが収入となりますので、これらを足し合わせて130万円未満かどうかが問題となります。
一方、妻が自営業者だと、売上からその売上を得るための必要経費を控除した金額を年収として扱います。この経費には、消耗品や研修費など実際に使用した金額以外に、パソコンや車を購入した場合の減価償却費も含みます。したがって、妻が自営業者なら売上130万円以上であっても夫の扶養になれることがあります。
また、妻の働き方だけでなく、夫の会社の健康保険組合の規約によっても被扶養者になれるかどうかが異なります。健康保険組合の中には、規約で年収130万円未満でも、103万円を超えていると被扶養者にはならないと決めている組合もあるからです。

◆現実はどうか?
本来、年収103万円以下は税法上の扶養親族、130万円未満は社会保険の被扶養者の認定基準ですが、混在しているのが現状です。いずれにしても、国民年金に加入している夫を持つ妻は、働き方や収入にかかわらず、医療も年金も自身で保険料を支払います。パートに出て厚生年金に加入したほうが社会保険料も安く年金額も増えることがあるのが現実のようです。
一般的に、サラリーマンに扶養される第3号被保険者は有利だと言われていますが、政府はパートを厚生年金に加入させることを検討中です。今までのように制度に合わせて働き方を選ぶ時代が終わりつつあるのではないでしょうか。



会社に無断でアルバイトをしたら?
◆社員の兼業にどう対処?
ある企業に勤める女性社員が勤務終了後にクラブで接客のアルバイトをしていたところ、それが会社に見つかってしまい、女性社員は厳罰をおわされることになりました。この会社の判断は正当といえるのでしょうか。

◆懲戒処分の判断基準は?
アルバイトなどの兼業を理由とした懲戒処分が正当かどうかは、企業が就業規則に兼業禁止を定めていて、その規則を適用することに合理性があるかどうかで決まります。
アルバイトによる疲労のために会社の本業に従事することが著しく困難になるような場合は、兼業禁止を適用される可能性があります。また、会社の評判を損なうような内容のアルバイトをしている場合などにも、適用事由になりうるといえます。

◆裁判例では?
裁判例の中には、就業時間後の午後6時から午前0時までキャバレーで働いていた女性社員を解雇したことについて、社員の兼業の可否について会社の承諾を得る必要があると定めた就業規則の適用は権利の濫用に当たらないとしたものがあります(1982年東京地裁)。このように、会社に無断でアルバイトをしていることも問題になります。「アルバイトをする場合は、会社の承諾を得ることが必要である」といった就業規則がある場合、無断で就業すると手続違反として懲戒事由になる可能性もあるでしょう。

◆就業規則の徹底を図ってきたかが問われる
また、会社がそれまで違反行為に厳しく対処してきたかどうかもポイントになります。会社や社外での行動に厳しく対処してこなかった会社が、急に特定の人を対象に懲罰を科すことは妥当ではないという見方もできます。
会社側が日常的に研修などを通じて就業規則の徹底を図っており、違反者には公平に処分を下していたのであれば、社員が反論するのは難しいでしょう。



仕事に関係のないウェブサイトの閲覧
◆取引先との会話に困る?
企業で、業務に関係のないウェブサイトの閲覧を制限する動きが広がっているようです。業務の効率アップを図るともに、情報漏洩対策を強化する企業が増えているためです。
そんな中、青少年向けとして始まった有害サイトを遮断する「フィルタリングソフト」の市場が昨年は約2割伸びており、学校や家庭以上に企業で浸透しています。このソフトを導入すると、買い物サイトやスポーツニュースなど、趣味のサイトを閲覧しようとした場合、画面上に「このページは利用制限されています」、「業務に関係ありますか」といった警告が表示されます。
従業員の中には、「野球やゴルフの結果がわからないので、取引先との会話に困る」といった意見もあるようです。

◆サイト閲覧の4分の1が私的利用?
国内ソフトメーカーによれば、ある企業では、フィルタリングソフト導入前に閲覧されたウェブサイトのうち、約4分の1が業務に関係のない私的利用だとみられるそうです。
個人情報保護法が施行され、企業が情報漏洩対策や内部統制を進める中、ウェブサイトにアクセスしただけで情報が漏洩する危険性もあるため、アクセス制限や履歴の監視などの対策をとる必要がでてきたようです。

◆プライバシーの問題は?
社員の電子メールの送受信については、一定のプライバシーを認める判例があります。
一方、ウェブサイトは情報を得る手段に過ぎず、アクセス制限にプライバシー侵害が成立する余地はないと考えられていますが、チェックされる側がストレスを感じる方法をとると人格権の侵害につながる可能性がないとは言えない、との指摘もあります。



外食産業の回復は雇用状況にも影響?
◆外食産業に回復の兆し
低迷していた外食産業に回復の兆しが出てきました。日本フードサービス協会がまとめた3月の外食の既存売上高(120社)は、ファーストフードがけん引して前年同月比2.0%増と、3カ月連続でプラスになりました。客数も同3.7%増と高い伸びを示しています。
各社は人手の確保に向け、賃金や働き方で新手法も取り入れ始めました。外食産業の回復は消費のすそ野の広がりを裏づけ、雇用の需要にも影響しそうです。

◆ファーストフードの売上好調
既存店売上高を個別に見ると、ファーストフードが7.1%増と高い伸びとなっています。ファーストフード以外でも高級レストラン(1.2%増)、喫茶(0.4%増)などが3カ月連続でプラスとなっています。
既存店売上高の増加を支えているのは全体の客数の伸びです。3月の客数は3.7%増で、1月、2月と月を追うごとに伸び率が大きくなっています。中でもファーストフードの3月の伸び率は7.8%でした。これに対して、客単価は総じて横ばいから減少傾向に転じています。
ただ、外食の中でもファミリーレストランや居酒屋は構造的な問題を抱え低迷しています。ファミリーレストランは、主力客層である家族連れの来店が減少し、居酒屋は昨年夏以降の飲酒取締まり強化で郊外店が苦戦しています。

◆人手不足で人材確保にひと工夫
回復の兆しが出てきた外食産業ですが、人件費や原材料の上昇が、収益回復の足かせになっています。中でも人手確保の問題は深刻で、各社はパートやアルバイトの採用・つなぎ留めに向け、賃金体系や働き方などで知恵を絞っています。外食産業は、店舗従業員の約9割をパートやアルバイトに依存していますが、特に都心部などは人手確保の激戦区になっています。
2007年2月時点の「飲食店・宿泊業」のパートの雇用状況は、「不足」から「過剰」の割合を引いた値が47と、全生産業の中で最も高く人手不足が常態化しています。そのような状況の中、人手を確保するために、以下のように様々な工夫をこらしているところもあるようです。
・3カ月継続して働いた人に5万円支給する。
・事前登録しておけば、定期給料日以外の希望日に給料を支払う。
・1カ月ごとに働く店舗の変更を可能にする。
・友人、知人を紹介すると一定の報奨金を支払う。



労働・雇用に関する企業の社会的責任(CSR)
◆企業に求められる「社会的責任」の内容
企業には、その利害関係者(ステークホルダー)に対して責任ある行動をとるとともに、説明責任を果たしていくことが求められており、その傾向は年々高まっているといえます。このような考え方は、「社会的責任」(CSR)と呼ばれますが、労働・雇用の観点からもCSRを検討する必要性が高まっています。その主な理由は次の通りです。
1.従業員の働き方に十分な考慮を払い、個性や能力を活かせるようにしていくことは、企業にとって本来的な責務であるといえる
2.従業員に責任ある行動を積極的にとっている企業が、市場において投資家、消費者や求職者等から高い評価を受けるようにしていくことは有益である

◆企業はどういった取り組みをすべきか?
企業が従業員に対して取り組む事項としては、次のことが挙げられます。
1.従業員がその能力を十分に発揮できるよう、人材の育成、従業員個人の生き方・働き方に応じた働く環境の整備、安心して働く環境の整備などを行う
2.事業の海外展開が進む中、海外進出先の現地従業員に対し、責任ある行動をとる
3.人権への様々な配慮を行う

◆労働・雇用のCSR推進のための環境整備
労働・雇用の分野において企業がCSRを進めるための具体的な国の施策としては、どこまで自社の取り組みが進んでいるか企業が自主点検できる材料を開発すること、表彰基準や好事例の情報の提供を行うことなどが想定されています。
CSRはあくまで企業の自発性に基づいて進められるものですが、それぞれの企業が、社会的公器としての認識を深め、多種多様な取り組みを積み重ねていくことで、「人」の観点からも持続可能な社会が形成されていくことが期待されます。



外国人研修・技能実習制度をめぐるトラブル
◆制度の概要は?
発展途上国への技術移転を本来の目的として、日本企業が外国人を一定期間受け入れる制度があります。日本における研修生の受け入れは、多くの日本企業が海外に進出するようになった1960年代後半から実施されており、1990年には従来の研修制度を改正し、より幅広い分野における研修生の受け入れが可能となりました。
具体的には、1年間の研修期間と、2年間の技能実習の2段階があり、最長で3年間働きながら学ぶことができます。
2006年に来日した外国人は9万人を超えており、そのうち、8割超は中国人だそうです。

◆多発するトラブルと国の対応
1年目の研修中は雇用契約がないため、労働諸法令が適用されず、企業が最低賃金を下回る金額で働かせるなどといったトラブルが多発しているようです。
政府は、今後、実習指導員の配置や帰国前の技能評価を義務付けるほか、1年目の研修生についても労働法令の適用対象としていく見込みです。また、研修期間を廃止し、雇用契約を当初からの3年とすることも検討しており、不正行為をした企業への罰則も強化し、外国人の新規受け入れ停止期間を3年から5年に延ばすとしています。



運行管理者に対する規制が強化されます
◆悪質行為の取締まり基準強化 
国土交通省は、飲酒運転などの問題が相次いでいることから、タクシーやバス会社などの運行管理者が、運転手の悪質な行為を容認した場合などについて、管理者資格を直ちに取り消すことができるよう、資格返納命令の発令基準を今年の7月から改正するそうです。
これまでは、違反行為を繰り返し、運転手への監督や指導が不十分と判断された場合などに限って資格返納命令を出していたものを、より強化していきます。

◆返納命令が出せるケース
以下のような場合、直ちに資格の返納命令が出せるようになります。
1.管理者が運転手に飲酒運転、無免許、薬物使用などの悪質行為をさせたり、容認したりした場合
2.管理者自身が事業用車両で飲酒運転などを行った場合
3.管理者が運転手への点呼をまったくしていなかった場合
4.安全確保に関する違反行為を隠ぺいしていた場合

◆貸し切りバスに対する安全対策
また、今年2月に大阪府吹田市でスキー客ら27人が死傷したバス事故を受け、貸し切りバスへの安全対策も実施します。
目的地での運転手の睡眠施設の確保を義務化し、運輸局の監査などで確認できるように、バス事業者が作成する運行指示書に施設名を記入させる方針で、今年の夏ごろに省令を改正する方針です。
また、警察庁は、今通常国会に飲酒運転の罰則引上げなどを盛り込んだ道路交通法改正案を提出しています。



裁判外紛争解決手続(ADR)の時代が到来!?
◆「ADR」とはどんなものか?
裁判外紛争解決手続(ADR)は、裁判によらない紛争解決手段(仲裁、調停、あっせん等)を広く指すものであり、厳格な手続きによってすすめられる裁判と比較すると、「柔軟な対応」、「迅速な解決」に特徴があるといえます。
ADRは「訴訟手続によらず民事上の紛争を解決しようとする紛争当事者のため、公正な第三者が関与して、その解決手続を図る手続」などと定義され、「司法型ADR」、「行政型ADR」、「民間型ADR」に分類されます。
労働分野の代表的な「行政型ADR」には、都道府県労働局で行われる「あっせん」の制度があります。
<ADR機関の例>
・司法型……民事調停、家事調停
・行政型……公害等調整委員会、中央労働委員会、国税不服審判所
・民間型……財団法人交通事故紛争処理センター、弁護士会仲裁・あっせんセンター

◆4月1日から「ADR法」が施行
4月1日から、「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律」(いわゆる「ADR法」)が施行されました。この法律の目的は、「紛争の当事者がその解決を図るのにふさわしい手続を選択することを容易にし、もって国民の権利利益の適切な実現に資すること」(同法1条)とされています。
ADR法の施行で定められた「認証制度」(一定の要件に適合した民間事業者を法務大臣が認証する制度)により、これまで十分に機能しているものばかりとはいえなかった「民間型ADR」の充実・活用が期待されています。

2007/05/07

平成19年5月号

月80時間を超える残業に「50%以上」の割増率

◆労働基準法の改正案
厚生労働省は、長時間労働の削減を図るため、残業代割増率の引き上げについて、労働基準法改正案に「月80時間を超える残業に50%以上の割増率」という具体的な数値を盛り込みました。
改正案には残業代割増率引上げのほか、現在は原則として1日単位でしか取得することができない有給休暇を、年間5日分は1時間単位で取得できる新制度なども盛り込まれています。改正案が成立すれば、生活環境に合わせ、「両親の介護のために5時間のみの有給休暇を取得する」ことなども可能になります。

◆明文化で拘束力
改正案では、残業代割増率の枠組みとして、以下のように3段階方式となっています。
1.1カ月の残業時間が45時間以下だった社員に対しては最低25%
2.45時間超80時間以下の場合はそれより高い率を設定する(努力義務)
3.80時間を超える場合は労使協議に関係なく50%以上
80時間以上の残業は、過労死などの危険性が高まるとされていますが、現行制度では残業時間に関係なく最低25%以上の割増賃金を企業に求めています。
厚生労働省は当初、3段階方式という枠組みだけ改正法に明記し、具体的な割増率は労働政策審議会(厚生労働大臣の諮問機関)で議論して政省令で定める予定でしたが、法に明記することで拘束力を強め、制度が簡単に変わることを避けたいと考えているようです。

◆当面は中小企業は適用除外
厚生労働省の調べによると、1カ月の残業時間が80時間を超えるのは、働く人全体のうち0.2%程度だそうです。割増率の引上げにより企業のコスト意識を高め、残業を減らす効果を期待しています。しかし、企業側からは、「社員が残業代を増やすために、社員自ら残業を増やすケースが出てくる」との声もあがっており、かえって残業が増えるのではないかとの指摘もあります。
改正案は、雇用ルール改革の柱の1つです。一定の条件を満たす会社員を1日8時間の労働時間規制から除外する制度(日本版ホワイトカラー・エグゼンプション)は労働組合などの反発が強く見送られました。
残業代割増率引上げは、原則として当面は社員数301人以上、資本金3億円超の大企業が対象です。施行から3年後には中小企業も対象とするかどうかを改めて検討するそうです。



社会保険のパートへの適用拡大 大半は対象外?

◆現在の適用基準
現在、パート労働者への健康保険・厚生年金保険の適用基準は次の通りです。
1.正社員の1日または1週間の所定労働時間の概ね4分の3以上(週30時間以上相当)
2.正社員の1カ月の所定労働日数の概ね4分の3以上

◆新しい適用基準の対象範囲
当初、厚生労働省は、新適用基準に関する案を、
1.労働時間が週20時間以上
2.月収が9万8,000円以上
3.勤務期間が1年以上で
4.当面は従業員300人以下の中小企業は適用が猶予される
としていましたが、反対派の意見が大きかったこともあり、「学生は対象外」という新基準を加えました。
さらに、月収条件(9万8,000円以上)に賞与や通勤手当、残業手当を含めないこととする基準も法案に明記する方針を明らかにしています。

◆新基準適用は5万人程度?
政府は、適用拡大について2011年9月の実施を目指していますが、現在、適用外のパート労働者は約900万人いると言われており、そのうち、新適用基準に該当するのは看護師、管理栄養士など、約5万人程度の比較的高賃金パートに限られるとみられ、「大半のパート労働者には無関係で、意味がない」との批判も出てきています。



4月から改正された公的年金制度のポイント

◆年金分割制度がスタート
離婚日の翌日から原則2年以内に請求を行えば、婚姻期間中の厚生年金や共済年金を夫婦間の合意により最大で2分の1に分割できるようになりました。話し合いで合意できなければ、裁判で分割の割合を決めることになります。

◆厚生年金の70歳までの繰下げ
本来65歳からだった老齢厚生年金の受給開始を、66歳~70歳に繰り下げできるようになりました。繰下げ1カ月ごとに老齢厚生年金が0.7%増額(年換算で8.4%増)されます。
ただし、70歳まで繰り下げた場合、本来の65歳から受給し始めた場合と受給総額が同じになるのは、82歳頃となります。この年齢を超えて生きれば、繰り下げたほうが受給総額は多くなります。

◆在職老齢年金の適用拡大
60歳過ぎの会社員が老齢厚生年金を受け取る際、賃金に応じて年金受給が減る在職老齢年金の対象が拡大されました。4月1日以降に70歳になる人は、月収と年金月額との合計が48万円を超えた場合、超過額の半額が減額されます。ただし、基礎年金部分に関しては減額されません。

◆遺族厚生年金の縮小
夫を亡くした妻が受け取ることができる遺族厚生年金の給付対象が縮小されました。これまで、残された妻は、無期限に夫の老齢厚生年金の4分の3相当を受け取れましたが、「子供がいない30歳未満の妻」は、受給期間が5年間で打ち切られます。
また、夫の死亡時に子供がいない妻などが、「35歳以上」だった場合に受け取ることができる「中高齢寡婦加算」に関しては、受給要件が厳しくなり、対象年齢が「夫の死亡時に40歳以上」に引き上げられました。

◆国民年金保険料の引上げ
現行の1万3,860円から、1万4,100円に引き上げられました。



「山ごもり研修」への参加は拒否できる?

◆どんな研修も参加しなければダメ?
入社間もない営業担当の社員に向けて、社長が「集中力を高めるために1週間の山ごもり研修を実施する」と号令をかけました。研修内容は業務と関連が薄いようなのですが、従わなければならないのでしょうか?

◆「業務との関連性」で判断 
会社と社員との間で労働契約が結ばれると、会社は就業規則などに基づいて、社員に業務命令を出すことも可能となります。問題は、会社が命じることのできる範囲がどの程度まで許されるか、ということにあります。
会社の業務命令が適法と判断されるためには、「命令と業務との間に合理的な関連性があり、正当な目的や理由があること」が必要です。よって、「山ごもり研修」が適法か否かはその内容次第となります。終日、座禅を組んだり山を歩いたりと、業務とは直接関係のないメニューばかりの場合、集中力を高める研修と銘打っていても業務命令としての適法性を欠くとみられることもあるでしょう。

◆研修内容により、参加拒否は懲戒処分も
「体力強化や集中力を高めることは仕事にプラスになるから」といって、業務とは直接関係のない運動や精神修養などのメニューを社員研修の中に組み入れる企業はあるでしょう。心身に過度の苦痛を与えるのは論外となりますが、研修内容について企業側の一定の裁量権は認められます。業務とは直接関係のないメニューも、1日の研修のうち1~2時間程度であれば、違法性が問題になることはないだろうと考えられます。
研修への不参加が懲戒処分の対象となるか否かについては、研修内容が適法なものであれば、「業務命令に従わなかった」として可能な場合もあり得るとされています。命令に従わないことが度重なれば、解雇に至るケースもあるでしょう。
ポイントは以下の2点です。
1.研修には、業務との間に合理的な関連性や正当な目的・理由が必要
2.研修内容が適法であれば、参加を拒否した社員の懲戒処分も可能

◆入社前の内定者研修は?
入社前の内定者が事前研修を課された場合、断ることは可能なのでしょうか。
会社と内定者はまだ労働契約を結んでおらず、会社が業務命令を出す権利はないとされ、研修に参加させるには同意が必要とされます。また、学業に支障が出る場合などは、内定者は事前研修を断ることができ、その場合に、会社が内定取り消しなどの不利益な取扱いをするのは違法とされています。



社内での飲み会も業務の一環?

◆東京地裁が「社内での飲み会も業務」として労災認定
勤務先の会社内において開催された飲み会に出席した後、帰宅途中に地下鉄の駅の階段で転落して死亡した建設会社社員の男性について、妻が「通勤災害で労災にあたる」として、遺族補償などを不支給とした中央労働基準監督署の処分の取り消しを求めていた訴訟の判決で、東京地裁は労災と認定しました。
男性は、1999年12月に勤務先で開かれた会議の後、午後5時頃から開かれた会合で缶ビール3本、紙コップ半分程度のウイスキーを3杯飲んでおり、同労働基準監督署は、「会合は業務ではない。飲酒量も相当あった」と主張していましたが、東京地裁は、「酒類を伴う会合でも、男性にとっては懇親会と異なり、部下から意見や要望を聞く場で出席は職務。飲酒は多量ではなく、酔いが事故原因とも言えない。降雨の影響で足元も滑りやすかった」として、労災と判断したのです。

◆通勤災害の定義の変化
労災保険法7条2項は、「通勤とは、労働者が、就業に関し、移動(住居と就業の場所との間の往復)を、合理的な経路及び方法により行うことをいい、業務の性質を有するものを除くものとする」と定めています。
また、同条3項は「労働者が、移動の経路を逸脱し、又は移動を中断した場合においては、当該逸脱又は中断の間及びその後の移動は、通勤としないと定めています。
そのため、食事等で長時間にわたって腰を落ち着けたような場合は、逸脱・中断とみなされ、その間およびその後の行為は通勤とは認められていませんでした(昭48.11.22基発第644号)。今回の判決が今後の実務にどのように影響してくるのか、大変興味深いところです。