2012/06/01

6月の事務所便り

今後の災害対策の見直しと「帰宅困難者」への対応

◆企業による災害対策の見直し
 経済同友会では、東日本大震災から1年を経過したのを機に、危機対応の現状などについて企業に対してアンケート調査を行い、その結果を公表しました。
 その中で、「災害時の緊急対応策について、今回の災害を教訓として見直した点を挙げてください」との質問に対する回答(複数回答)は次の通りでした。

(1)緊急体制の再検討(75%)
(2)マニュアルの整備(70%)
(3)非常用通信手段の導入(57%)
(4)平時からの訓練の計画(56%)
(5)現場とのコミュニケーション強化(36%)

 その他には、「BCP の整備」「災害時備蓄品の見直し」「津波を想定した訓練」「帰宅困難者対応」などが挙げられました。

 ◆「帰宅困難者対策条例」への対応
 震災発生時において首都圏を中心に多くの「帰宅困難者」が発生したことから、今年3月29日に「東京都帰宅困難者対策条例」が制定され、来年4月1日に施行されることとなっています。
 この条例では東京都内の企業に対し、主に次のことを義務付けています。

(1)大規模災害発生時に従業員の一斉帰宅を抑制すること
(2)水や食糧等を3日分備蓄すること
(3)従業員との連絡手段を確保すること
(4)大規模集客施設では利用者保護に努めること

 条例の施行により、企業にとっては様々な労務管理上の問題が発生するとともに、多くの経済的負担も生じることから、施行日までに何らかの対応が必要となります。
 また、東京都以外の自治体にも同様の条例が制定される可能性もありますので、注意が必要です。


「年金制度」抜本改正に関する動向

◆「最低保障機能」の強化
 現在開会中の国会に「年金機能強化法案」(公的年金制度の財政基盤及び最低保障機能の強化等のための国民年金法等の一部を改正する法律案)が提出され、これから審議されていきます。
 ここでは、この法案の内容を簡単にご紹介します。

◆主な内容
 同法案の主な内容は次の通りです。

(1)年金制度の最低保障機能の強化を図り、併せて、年金給付の重点化・効率化を図る観点から、「受給資格期間の短縮」、「低所得者等への年金額の加算」、「高所得者の年金額の調整」を行う。(平成27年10月から施行)
(2)「基礎年金国庫負担2分の1」が恒久化される特定年度(現在は「別に法律で定める年度」と規定)を平成26年度と定める。(平成26年4月から施行)
(3)平成24年度に発行する交付国債の償還に関する事項(今国会に提出済みの国民年金法等改正法案で「別に法律で定める」と規定)を定める。(公布日から施行)
(4)短時間労働者に対する厚生年金・健康保険の適用拡大を行う。(平成28年4月から施行)
(5)厚生年金・健康保険等について、次世代育成支援のため、産休期間中の保険料免除を行う。(2年を超えない範囲内で、政令で定める日から施行)
(6)遺族基礎年金の父子家庭への支給を行う。(平成26年4月から施行)

 法案が可決・成立した場合でも施行日はまだまだ先ですが、年金受給者等に大きな影響を与える内容もあり、注意が必要です。
 なお、(1)~(3)、(6)については、税制抜本改革により得られる税収(消費税収)を充てるとされています。

◆年金制度の「一元化」実現なるか?
 また、サラリーマンと公務員等の年金を統合する「被用者年金一元化法案」(被用者年金制度の一元化等を図るための厚生年金保険法等の一部を改正する法律案)も国会に提出されており、今後の動向が注目されます。


電子版「ねんきん定期便」がスタート

◆4月からスタート
 すべての年金加入者(約6,600万人)を対象とした電子版の「ねんきん定期便」(通称:ねんきんネット)が4月2日にスタートしました。
 これにより、毎年の誕生月に郵送している「ねんきん定期便」の内容を、インターネットで確認できるようになりました。

◆電子版「ねんきん定期便」のメリット
 電子版の一番のメリットは、「自分の年金記録を24時間いつでも確認することができること」ですが、それ以外にも次のようなメリットがあります。

(1)年金記録の内容は毎月更新される。
  …郵送版は年1回のみ
(2)すべての期間の年金記録が確認することができる。
  …郵送版は「35歳」「45歳」「58歳」の節目年齢以外は直近1年分のみ
(3)確認した内容を残しておきたい場合はダウンロードして手元に保存することができる。

◆「年金記録の確認経験」20歳以上で約7割
 厚生労働省が発表した「公的年金加入状況等調査」(2010年時点)の結果によれば、「過去3年程度の間に自分の年金記録を確認したことがある」という人(20歳以上)は67.4%で、確認の手段としては約8割の人が「ねんきん定期便」を活用していました。
 この「ねんきんネット」により、自分の年金記録を確認する人が今後は増えていくものと思われます。
※「ねんきんネット」http://www.nenkin.go.jp/n/www/service/detail.jsp?id=5214


最近の労働関係の地裁裁判例から

◆自動車メーカーによる雇止め等(4月16日判決)
 自動車メーカーが行った雇止めや派遣切りは無効であるとして、工場で働いていた元期間従業員(4人)と元派遣社員(3人)が雇用継続の確認を求めていましたが、東京地裁はこれらの請求を棄却しました。ただし、元期間従業員がカットされた未払い賃金(1人約58万~63万円)の支払いは命じました。
 自動車メーカーでは、契約打切りに応じなかった期間従業員に「契約期間終了までの休業」と「約4割の賃金カット」を2008年12月に言い渡して翌年4月で雇止めとし、派遣社員は派遣元から2008年12月に解雇されていました。
 裁判長は「不況に伴う雇止め・派遣切りは合理的である」と判断しました。

◆銀行におけるパワハラ(4月19日判決)
 パワハラ被害により退職せざるを得なくなったとして、50代の社員が銀行と上司に対して損害賠償(約4,900万円)を求めていましたが、岡山地裁は社員の精神的苦痛を認め、慰謝料など110万円の支払いを命じました。
 2007年3月頃、仕事上でミスをした社員に対して「辞めてしまえ!」などと当時の上司が強い言動で叱責するなどし、この社員は2009年に辞表を提出して退職しました。
 裁判官は「上司の叱責は病気療養から復帰直後の社員にとって精神的に厳しく、パワハラに該当する」と認定しました。

◆過労による高校教諭の死亡(4月23日判決)
 高校教諭の男性が修学旅行の引率からの帰宅途中に急性心筋梗塞を発症して死亡したのは過労が原因であるにもかかわらず、公務災害と認定されなかったとして、遺族である妻が「地方公務員災害補償基金」に対して不認定処分の取消しを求めていましたが、東京地裁は公務と死亡との因果関係を認め、上記処分を取り消しました。
 裁判長は、死亡するまでの1週間の間の労働時間が法定の2.5倍以上に及んでいたと認定し、「日常の勤務と比べて質・量ともに特に過重だった」と判断しました。


がん患者となった労働者に対する就労支援

◆支援策が続々と登場
 がん患者の5年生存率の平均が50%を超え、治療を続けながら働くがん患者が増えているそうです。
 就労支援に乗り出す企業、夜間診療など支援する病院も現れ、また、厚生労働省も今年度からの「がん対策推進基本計画」で取組みを後押ししています。

◆依願退職・解雇の状況
 がん患者の5年生存率は伸びているものの、厚生労働省研究班の調査(2004年)によると、がんになった労働者のうち約30%が依願退職をし、4%が解雇されたそうです。
 そこで、同省は、2012年度から5年間の目標を掲げた「がん対策推進基本計画」を発表し、就労支援に取り組むことを掲げています。

◆病院による支援策
 がん患者の就労を支援する病院では、放射線治療の診療時間を午後10時まで延長したそうです。
 また、他の病院では、患者の悩み相談に応じたり、希望者には精神科医や臨床心理士が復職に伴う心理サポートを実施したりしています。

◆企業による支援策
 大手の人材派遣会社では、2012年度末をめどに、がんと診断された社員や派遣スタッフの休暇制度などを導入するようです。
 しかしながら、このような企業はまだまだ少ないようであり、中小零細企業では従業員数が少ないため、1人でも長期の休暇を取ると周りの社員の負担が増加してしまいます。
 これらの企業では、他の企業で実施されている育児や介護との仕事の両立、うつ病で休職した人の復職などを参考にしながら、がん患者となった労働者への支援を進めていくことも必要なのではないでしょうか。


うつ病の診断を客観的に行う方法

◆発症率は6~7%
 日本人が「うつ病」を患う確率は6~7%と言われており、欧米諸国と比較すると多くはないようですが、一般内科において「気分が滅入る」「眠れない」と訴えて、うつ病と診断されるケースは増えているようです。
 うつ病は診断が難しく、精神科でも確定的な診断を行うまでに時間がかかりますが、客観的にうつ病を診断できるように「光トポグラフィー検査」というものが開発されています。

◆「光トポグラフィー検査」の内容
 この検査は、近赤外光(身体には無害)を使用して脳の活動状況を調べるもので、頭に近赤外光を当て、反射してくる光から脳血流の変化を読み取り、脳の活動状態を数値化します。
 患者は頭に光源と光検出機を内蔵したヘッドセットを着け、最初の10秒は「あ、い、う、え、お」を繰り返し、次の10~70秒間では、同じ頭文字で始まる言葉を声に出して言い続けます。
 このときに「あ、で始める言葉は…」と脳を使う際の血流の変化がポイントであり、血流量がどう変化するのかをグラフ化するそうです。

◆「先進医療」に指定
 この検査は2011年5月に厚生労働省の「先進医療」に指定され、大学病院などでは保険診療と組み合わせて検査を行う「混合診療」が可能となりました。
 問合せが殺到して予約すらできない状況が続いているそうですが、病院・クリニックでの診断名に疑問をお持ちの方は、一度検査を受けてみるのも良いかもしれません。


身近になった「在宅医療」「在宅介護」 

◆4月からの制度改定
 この4月から、医療保険制度と介護保険制度が一部改定されました。
 できるだけ病院や介護施設に入らず、自宅において医師・看護師・ヘルパーに世話をしてもらいながら療養する人を増やそうという狙いがあるようです。

◆「報酬改定」による影響
 診療報酬や介護報酬は、2~3年に一度、物価動向などを踏まえて政府が見直しを行い、医療や介護行為にかかる報酬を改定するものです。
 今回は在宅医療にまつわる報酬が上がったこともあり、訪問診療などを手掛ける医療機関が増える可能性が指摘されているようです。

◆診療報酬改定のポイント
 医療保険分野では、診療報酬改定率はほぼ横ばいの0.004%(本体プラス1.379%/薬価・材料等マイナス1.375%)の増加で、2010年度の改定で10年ぶりに増加(0.19%)したのに続き、2年連続で増えました。
 また、早期退院から在宅医療への円滑な移行、訪問介護の充実、精神疾患・認知症対策の推進などにも、重点的に配分がなされました。

◆介護報酬改定のポイント
 介護保険分野では、介護報酬改定率は1.2%増加で、2009年度に引き続きプラス改定となりました。
 ただし、「介護職員処遇改善交付金」が2011年度末で終了したため、マイナス0.8%の改定ととらえることもできます。
 この交付金は終了しますが、「介護サービス提供の効率化・重点化を図る観点から在宅医療への移行を図る」「介護職員の処遇改善を確実に図る」などの要件を満たした場合には、事業者が人件費に充当するための報酬加算が行れています。


「多様な形態による正社員」の今後

◆厚生労働省の研究会報告書
 厚生労働省の「多様な形態による正社員に関する研究会」が報告書をとりまとめ、このたび公表されました。
 これによれば、正社員と同じ無期労働契約でありながら、職種・勤務地・労働時間などが限定的な正社員(多様な形態による正社員)の導入は、非正社員にとって正社員転換の機会を拡大する可能性があると指摘しています。

◆「多様な形態による正社員」の導入状況
 「多様な形態による正社員」については企業の約5割が導入し、そのうち職種限定は約9割、勤務地限定は約4割、労働時間限定は約1~2割となっているようです。
 導入の目的は、「人材確保・人材定着の必要性」、「ワーク・ライフ・バランス支援」が多くなっており、「賃金は通常の正社員の8~9割程度」、「昇進・昇格には上限あり」、「事業所閉鎖時等の人事上の取扱いは通常の正社員と同様」とする企業が多いようです。

◆企業側・従業員側のメリット
 「多様な形態による正社員」について、企業側のメリットとしては、人材の確保、多様な人材の活用、人材の定着、業務の効率化などが挙げられ、従業員側のメリットとしては、雇用が安定すること、遠方への転勤の心配がないことが挙げられます。

◆活用にあたっての注意点
 非正社員から正社員への登用(ステップアップ)のために活用する場合は、「安定した雇用の下、職業能力の向上を図り、希望に応じた働き方を実現できる形態として活用することが望ましい」とされています。
 この「多様な形態による正社員」の導入は、非正社員にとっては正社員転換の機会が拡大する可能性があり、正社員にとってもワーク・ライフ・バランス実現の1つの手段となり得るため、今後も注目されていくものと思われます。


「職場のパワーハラスメント」の予防・解決

◆厚労省ワーキング・グループが取りまとめ
 厚生労働省の「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ」においては、職場の「いじめ・嫌がらせ」、「パワーハラスメント」(パワハラ)について昨年7月から議論されてきましたが、このたび、問題の予防・解決に向けた提言を取りまとめ、発表されました。

◆企業の積極的な取組みが必要
 職場の「いじめ・嫌がらせ」、「パワハラ」は、労働者の尊厳や人格を侵害する許されない行為であり、早急に予防や解決に取り組むことが必要な課題です。
 企業は、これらの発生による「職場の生産性の低下」や「人材の流出」といった損失を防ぐとともに、労働者の仕事に対する意欲を向上させ、職場の活力を増すために、この問題に積極的に取り組むことが求められます。

◆職場のパワハラをなくすために必要なこと
 (1)企業や労働組合、そして一人ひとりの取組み
企業や労働組合は、職場のパワハラの概念・行為類型やワーキング・グループ報告が示した取組例を参考に取り組んでいくとともに、組織の取組みが形だけのものにならないよう、職場の一人ひとりにも、それぞれの立場から取り組むことを求めることが必要です。
 (2)トップマネジメントへの期待
職場のパワハラは組織の活力を削ぐものであることを意識し、こうした問題が生じない組織文化を育てていくことを求めることが必要です。そのためには自らが模範を示しながら、その姿勢を明確に示すなどの取組みを行う必要があります。
 (3)上司の立場にある方への期待
自らがパワハラをしないことはもちろん、部下にもさせないように職場を管理し、職場で起こってしまった場合はその解決に取り組む必要があります。
 (4)職場の一人ひとりへの期待
互いの価値観などの違いを認め、互いを受け止め、人格を尊重し合い、互いに理解し協力し合うため、適切にコミュニケーションを行うように努力することが必要で。また、パワハラを受けた人を孤立させず声を掛け合うなど、互いに支え合うことを求めることも必要です。


2012年度新入社員の意識調査の結果から

◆新入社員教育プログラム参加者を対象に調査を実施
 公益財団法人日本生産性本部が、2012年4月入社の新入社員を対象として「2012年度新入社員 春の意識調査」を実施し、その結果が4月23日に発表されました。
 この調査は、同本部主催の新入社員教育プログラム等への参加者を対象に実施し、2,089人から回答が得られています。

◆「安定思考」が顕著に
 この中で、「今の会社に一生勤めようと思っている」とする回答が過去最高の60.1%となりました。過去最低だった2000年(20.5%)と比較すると、なんと約40ポイントも上昇しています。非常に厳しい就職活動を行った世代であるためか、いわゆる「安定志向」の社員が増えているようです。
 そして、「将来への自分のキャリアプランを考える上では、社内で出世するより自分で起業して独立したい」とする回答は、過去最低の12.5%となりました。これは、過去最高だった2003年(30.5%)と比較すると約20ポイント低下しています。

◆新入社員研修参加者を対象に調査を実施
 また、株式会社マイナビでも、2012年4月入社の新入社員を対象に「2012年マイナビ新入社員意識調査」を実施し、その結果を4月26日に発表しています。
 この調査は、同社主催の新入社員研修に参加した企業の新入社員(1,390名)を対象に実施したものです。

◆「自信」のあるスキル
 まず、「あなたが今、会社で発揮できる力はどんな力だと思うか」(複数回答)を聞いたところ、上位3つは次の通りの結果となっています。

(1)「相手の意見を丁寧に聞く力」(56.4%)
(2)「物事に進んで取り組む力」(53.2%)
(3)「社会のルールや人との約束を守る力」(39.9%)
次に、「これから自分に必要だと思うスキルはどんなスキルだと思うか」(複数回答)を聞いたところ、上位3つは次の通りの結果となっています。

(1)「自分の意見をわかりやすく伝える力」(49.1%)
(2)「他人に働きかけ巻き込む力」(33.5%)
(3)「目的を設定し確実に行動する力」(32.2%)