2007/07/25

平成19年8月号

テレワーク(在宅勤務)の拡大に向けた動き

◆テレワーク人口倍増に向けた政府の行動計画
ITを活用して自宅や外出先などで仕事をする「テレワーク」人口の倍増を目指す政府の行動計画がこのほど明らかになりました。雇用保険が適用される在宅勤務の対象を広げるほか、政府でも、2007年度中に全省庁でテレワークを試験導入するそうです。少子高齢化が加速する中で、女性や高齢者などの「眠れる労働力」を活用しやすい環境を整えます。

◆テレワークは労働力確保の切り札?
政府は、テレワークについて、仕事と生活の調和(ライフワークバランス)の実現や人口減少時代における労働力確保などの切り札になると考えています。
テレワークは、情報通信機器などを使って、時間や場所にとらわれず柔軟に働く働き方です。通勤が不要で、労働時間を自由に設定できるなど、育児をする女性などにとっては使い勝手のよい働き方だといえます。
政府の行動計画では、2010年までを「テレワーク集中推進期間」に設定し、テレワーク人口を2005年に比べて2倍に増やし、就業者人口に占める比率も2割に引き上げることを目標としています。

◆テレワーク人口の増加なるか?
テレワーク普及の方策としては、1.制度環境の整備、2.情報通信システム基盤の整備、3.分野別の推進施策の3つが掲げられています。
現在は、在宅勤務者で雇用保険が適用される業務は、新商品開発や編集など特定の業務に限定されていますが、政府の行動計画では適用業種を広げるとしています。
 通信システム基盤の整備では、政府が独自にテレワークを試行・体験するシステムを構築するとしています。最先端技術やサービスを活用した先進システムの実証実験も始まります。政府では、テレワークを2007年度中に全省庁で試行し、順次本格導入していく方針だそうです。


日本の人口はこれからどうなる?

◆「人口減少時代」に突入へ
国立社会保障・人口問題研究所が発表した都道府県別の将来推計人口により、2025年からすべての都道府県で人口が減少する見通しが明らかになりました。高齢化も進み、2035年には44都道府県で65歳以上の人口が3割を超えるようです。出生率は上昇していますが、中長期の人口減少は避けられず、都市部への人口集中もいっそう進む見通しです。

◆人口の減少と都市部への人口集中
この調査は、2005年の国勢調査の結果や都道府県ごとの合計特殊出生率(女性が生涯に産む子供の数。中位推計)などをベースに、2005年から2035年までの都道府県別の人口を推計しています。
都道府県別の人口は、2010年から2015年にかけては東京、神奈川、愛知、滋賀、沖縄を除く42都道府県で減少します。2015年から2020年には人口が増えるのは東京と沖縄だけになり、さらに2020年から2025年は沖縄だけになり、2025年以降は人口が増える都道府県がゼロになります。また、都市部への人口集中が進み、日本の総人口に占める東京の人口割合は、2025年の9.8%から2035年には11.5%に上がるとされています。
2005年と比較した人口が2035年時点で増えているのは東京と沖縄のみです。和歌山や秋田ではこの間に約3割も減る見通しです。
 
◆各都道府県で少子高齢化が進展
今回の推計では、各都道府県での少子・高齢化の進展の見通しも明らかになりました。総人口に占める若年人口(0歳から14歳)の割合は、2005年から2035年までの期間を通じて全都道府県で減少します。
都道府県別では、年少人口の割合は、2005年は18.7%と全国一の沖縄でも2035年には13.3%に低下します。2005年に11.5%で最下位の東京では8.0%に下がります。
65歳以上の高齢者人口の割合は、全国では2005年の20.2%から2035年には33.7%に上がります。特に秋田では41.0%、和歌山では38.6%まで上昇します。2000年から2005年の合計特殊出生率の平均値が1.78%と全国で最も高い沖縄でも、27.7%と3割に迫っています。
2005年に約1億2,700万人だった日本の総人口は、出生率が中位推計(長期平均1.26)で2030年には約1億1,500万人に、高位推計(同1.55)でも約1億1,800万人といずれも減少する見通しです。


改正高年齢者雇用安定法施行から1年、企業の状況は?

◆60歳以降の雇用確保実施企業は約98%
改正高年齢者雇用安定法の施行で60歳以降の雇用確保が事業主に義務付けられた2006年4月以降、約98%の企業で再雇用や定年の引上げなどの措置を講じていることが、労働政策研究・研修機構の調査でわかりました。
高齢者の雇用確保は、改正高年齢者雇用安定法に基づく措置です。定年が65歳未満の企業は、年金の支給開始年齢の段階的引上げに合わせ、1.定年の引上げ、2.再雇用制度や勤務延長制度など継続雇用制度の導入、3.定年廃止のいずれかを選ばなくてはなりません。

◆「元管理職」の処遇に悩む企業
この調査は、2006年10月1日時点における制度の整備状況を各企業に聞いたものです。従業員300人以上の民間企業5,000社に質問票を送付し、1,105社から回答を得たそうです。調査結果では、定年後の再雇用制度を導入している企業が91.3%に上りました。勤務延長制度や定年の引上げなどを導入した企業と合わせると、98.4%の企業が、何らかの措置を講じていました。
継続雇用する対象者については、72.2%が「健康や働く意欲、勤務態度などで基準に適合する者」と条件付きで対象としており、「希望者全員」としている企業は24.6%にとどまりました。高年齢社員の処遇で困る点では「担当する仕事の確保が難しい」(39.6%)、「管理職経験者の扱いが難しい」(38.9%)、「継続雇用後の処遇の決定が難しい」(24.5%)、「高齢社員を活用するノウハウがない」(19.1%)などが上位を占めています。
 同機構は、「制度はできあがったが、今後は再雇用した人の活用方法や、現役社員との関係、勤務形態を整備していく必要がある」と指摘しています。 


75歳以上を対象とした新・医療保険制度

◆来年4月から「後期高齢者医療制度」がスタート
2008年4月から、75歳以上の高齢者を対象とした医療保険制度(後期高齢者医療制度)が動き出す予定です。開始まで1年を切りましたが、詳細が決まっていない点もあり、中身はよく知られていないようです。保険料負担や医療の内容はどのように変わるのでしょうか。

◆保険料は厚生年金受給者で平均「月約6,200円」か
新制度は、2006年6月に成立した医療改革関連法で導入が決まりました。複数の病気を持つことも珍しくない75歳以上を、現役世代の医療保険と別建てにし、効率化を進めて医療費を抑制するのがねらいです。都道府県ごとに全市町村が参加する広域連合が運営予定のため、保険料も都道府県単位で決定します。
保険料については、各広域連合で保険料を定める条例が今秋以降でないと制定できない見通しで、保険料負担額は今のところ不明です。ただ、厚生労働省が公表している全国平均の保険料の目安が手掛かりとなり、「年208万円」という平均的な厚生年金受給者の場合、保険料の目安は「月約6,200円」となります。また、75歳未満の配偶者がいる場合は別途配偶者の保険料も支払いますので、今よりも負担増になると見られています。
全般的には地域や所得の状況によって負担が増えるか減るかは一概には言えませんが、明確に負担増になる人もいます。会社員の子供の被扶養家族になり、子供の会社の健康保険を利用している高齢者です。従来は高齢者自身は保険料を負担していませんでしたが、新制度では年金収入に応じた保険料を負担する仕組みに変わります。急な負担増を防ぐため、制度加入時から2年間は本来の保険料の最大半額(定額部分)となります。

◆医療保険・介護保険の合計負担額に上限設定
病院や診療所で治療を受けたとき、窓口での患者負担はどうなるのでしょう。75歳以上の場合、かかった医療費の原則1割を負担するというのは従来と同じです。所得が現役並みに多いと判定された場合は、現役世代と同様の3割負担となるところも変わりません。
2008年4月の新制度からは、医療保険と介護保険の患者(自己)負担の合計額に上限が設けられます。これまでは、医療と介護それぞれに1カ月当たりの負担上限などが決まっていましたが、医療と介護の両方を利用している方の負担が著しく高額にならないよう、年間の合計額にも上限を設けることにしました。
一般の合計負担額の上限は年間56万円で、これを超えると超えた分が戻ります。ただし、利用者の側から役所に申請しないと戻ってこない仕組みになりそうです。


6月から住民税がアップ

◆6月は5月より税金が増えている?
6月の給与明細を見ると、税金が5月より増えていることに気が付いた方がいると思います。国(所得税)から地方(住民税)へ税源移譲が行われた結果、多くの家庭で所得税が1月から先行して下がったのに対し、住民税の増加は仕組み上、毎年6月から反映されるためです。定率減税廃止による税負担の増加も重なりました。

◆「税源移譲」とは?
税源移譲とは、補助金に代わる地方公共団体の新たな財源として、国が集めている税金のうちの一定の部分を、地方が集めることができるようにすることです。国と地方の税財政改革(三位一体の改革)の柱の1つです。
国税の一部を減らして地方税を増やすということなので、納税者の負担は増えないとされています。現在の自治体は国から補助金や地方交付税交付金などをもらって行政サービスの財源を補っています。三位一体改革は原則として補助金の削減に見合う額を、国から地方への税源移譲で補うことにしています。ただ、この方法ではもともと住民税の納税額が多い地域に財源が集まるという弊害があり、大都市と地方の自治体で格差がつかないよう、公平に税財源を分け合う方法が求められます。

◆暮らしへの影響は?
所得税は従来の4段階から6段階になり、最低税率は10%から5%に下がりました。住民税は一律10%に変わりました。この結果、大半の世帯で所得税が減り、住民税が増える結果になります。所得税と住民税を合わせた納税者の負担額は原則変わりません。
定率減税の全廃の影響も大きなものです。所得税では所得の20%(上限25万円)、住民税では15%(同4万円)が減税となっていましたが、2006年分からは半減され、2007年分からは全廃となりました。残っていた半分の控除がなくなると、所得税は最大で年12万5,000円、住民税は最大で年2万円増税になります。
 ではなぜ、6月から変化が起きたのでしょうか。所得税は1月から変わるのに対し、住民税は前年の所得に応じて翌年の6月以降変化します。このため、大半の世帯では1月から所得税が減っていましたが、6月からは住民税率の上昇と住民税分の定率減税廃止が影響し、税負担が増えることになったわけです。

◆地方によっては国民健康保険料にも影響
東京23区など一部の市区町村では、国民健康保険料を算出する際、住民税額に一定の比率を掛ける方法を用いるため、住民税が上がると保険料も上がってしまいます。このような自治体では緩和措置として控除枠を設けていますが、それでも保険料に変化が出ることがあります。国民保険料も毎年6月に算出されるため、6月分の金額を確認してみましょう。


「再雇用制度」今後も利用拡大なるか?

◆改正高年齢者雇用安定法の内容
2006年4月に施行された改正高年齢者雇用安定法は、従業員に65歳まで就労機会を提供(雇用確保措置を導入)することを企業に義務付ける法律です。
企業には、1.定年廃止、2.定年年齢の65歳への引上げ、3.定年を迎えた従業員の継続雇用の3つの選択肢があります。定年廃止や定年延長は全従業員が対象となり、賃金や労働時間などの処遇を下げにくい制度ですが、継続雇用は労使協定などで対象者を絞り込むことができます。中でも再雇用制度は、雇用契約を結び直すため処遇を柔軟に変更することができます。

◆主要企業では定年者の半数強を再雇用
日本経済新聞社の調べによると改正高年齢者雇用安定法が施行された2006年度に、主要企業が、定年退職者の5割強を再雇用(トヨタ自動車は56%、JFEスチールとJR東日本は約7割)したことがわかりました。
今年度も再雇用制度の活用は拡大する見通しであり、団塊世代の大量定年や少子化で労働力不足が懸念される中、企業は労働力の確保に様々な対策を講じる必要がありそうです。

◆企業側は「コスト削減」、従業員側は「収入維持」
再雇用後の賃金は定年時の半分程度というケースも多く、企業側は人件費を抑えつつ労働力を確保したいと考えています。
また、従業員側にとっては年金と合わせればそれなりの収入を維持することができるため、活発な制度利用につながっていると思われます。


ニート62万人、フリーター187万人 

◆「青少年白書」の結果から
内閣府がまとめた2007年版の「青少年の現状と施策」(青少年白書)によると、就職しても長続きせず、3年以内に離職した率(2003年3月の新卒者)は、中卒で70.4%、高卒で49.3%、大卒で35.7%となり、中、高、大の順に「七五三現象」として定着しつつあるようです。また、学校に行かず、仕事も職業訓練もしない「ニート」が、2006年平均で62万人、「フリーター」が187万人に上るなど依然高水準が続いています。
白書では、「若者に、自己の個性を理解し、主体的に進路を選択する能力を育てる必要がある」などとして、職業訓練や望ましい職業観を身に付ける「キャリア教育」の必要性を強調しています。

◆ニートの多くがいじめや不登校を経験
ニートのうち約5割が、学校でのいじめ被害や引きこもりの経験があり、約4割は不登校を体験していることが、約400人のニートを対象にした厚生労働省の調査でわかりました。
また、約8割は「仕事をしていく上で人間関係に不安を感じる」と回答しており、専門家は「対人関係の苦手意識が不登校やいじめの体験で増幅され、それが就労の困難にもつながっている」と分析しています。

◆83%が「ニート状態後ろめたい」
就労していないニート状態の期間については、「1年以下」が41%と最多で、「5年超」も12%に上っています。また、連続1カ月以上働いた経験がある人は79%。仕事をしていないことについて83%が「後ろめたい」と感じていますが、同時に80%が「仕事をしていく上で人間関係に不安を感じる」としています。「人と話すのが不得意」な人も64%に上りました。


今年の新入社員の意識調査の結果

◆今時の新入社員は「デート」よりも「仕事」を優先
平成19年度の新入社員を対象に、財団法人社会経済生産性本部と社団法人日本経済青年協議会が「働くことの意識」についての調査を行い、デートの約束があったとき、残業を命じられたら、「デートをやめて仕事をする」という回答が8割に達するなどといった結果が出ました。

◆「バブル入社組」との違い
「あなたは仕事と生活についてどちらを中心に考えますか」という質問に対しては、「仕事と生活の両立」が79.8%を占め、「仕事中心」が9.6%、「生活中心」10.6%となっています。この質問に対して経年変化をみると、「仕事中心」が昭和47年度で15%、平成3年度で5%、平成19年度で10%、「生活中心」が昭和47年度で15%、平成3年度で23%、平成19年度で11%となっており、バブル入社組との違いが鮮明にわかる結果となっています。

◆今年の新入社員のタイプ
今年の新入社員のタイプは『デイトレーダー型』といわれています。どのようなタイプかというと、「景気回復での大量採用は売り手市場を形成し、就職しても細かい損得勘定でネットを活用して銘柄(会社)を物色し続け、売買を繰り返す(転職)恐れがある」という意味のようです。

◆リストラが不安?
戦後最長の好景気と、団塊世代の大量退職に伴う「売り手市場」を反映して、「思っていたよりは満足のいく就職ができた」と希望通りの就職はできたものの、「将来のリストラが不安」という悩みも持っている人も多いようです。
仕事や今後の展望については、「いずれリストラされるのではないか」(38.8%)、「いずれ会社が倒産したり破たんしたりするのではないか」(22.8%)などの回答が前年より増加しています。バブル期の後の「崩壊」が再びあるのでは、という不安が反映されているのでしょうか。


母子家庭の自立支援策

◆年々増加する母子世帯
厚生労働省は、母子家庭の自立支援施策の一環として、自治体における就業支援事業の取組状況を一覧できる母子家庭就業支援マップを作成し、同省のホームページに公表しました(http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/koyou/map/index.html)。
母子世帯の割合は年々増加する一方で、母子世帯になってから就業する人の約6割が臨時・パート雇用を余儀なくされています。同省では、母子家庭の就業を促進し、自立した生活を営めるよう、各種支援策を実施しています。

◆厚労省が実施する母子家庭自立支援策
4本柱(1.生活支援策、2.就業支援策、3.養育費の確保策、4.経済的支援策)で総合的な母子家庭の自立支援策を実施しています。

◆母子家庭に対する主な就業支援策
1.母子家庭等就業・自立支援センター
母子家庭の母等に対して、就業相談から就業支援講習会の実施、就業情報の提供等一貫した就業支援サービスの提供を行うとともに、弁護士等のアドバイスを受け養育費の取り決めなどの専門的な相談を行う「母子家庭等就業・自立支援センター事業」を実施しています。

2.母子家庭自立支援給付金事業
(1)自立支援教育訓練給付金事業
地方公共団体が指定する教育訓練講座を受講した母子家庭の母に対して、講座修了後に受講料の一部を支給します。雇用保険の教育訓練給付の受給資格を有していない人が指定教育講座を受講し、修了した場合、経費の40%(20万円を上限)が支給されます。
(2)高等技能訓練促進費事業
母子家庭の母が看護師や介護福祉士等の経済的自立に効果的な資格取得のため、2年以上養成機関等で修業する場合に、就業期間の最後の3分の1に相当する期間(12カ月を上限)、「高等技能訓練促進費」を月額10万3,000円支給することで、生活の負担の軽減を図り、資格取得を容易にするものです。
(3)常用雇用転換奨励金事業
パートタイム等で雇用している母子家庭の母を、OJT実施後、常用雇用に転換した事業主を対象に1人当たり30万円の奨励金を支給します。

2007/07/06

平成19年7月

揺れる「年金加入記録問題」

◆年金記録が存在しないケース
新聞報道などによりますと、社会保険庁に年金の加入記録を照会した人のうち、本人が保険料を支払ったと主張しているにもかかわらず記録が存在しないケースが、今年3月末時点で2万635人に達していることがわかりました。
社会保険庁が公表した3月初め時点の人数は1万7,204人でしたので、1カ月で約20%増えたことになります。本人の勘違いというケースもあるようですが、社会保険庁や自治体による記録の消失が指摘されています。

◆預金通帳なども加入記録の証拠に
加入記録が一部でも存在しないと、年金の受給額が減ったり、受給権を失ったりする可能性があります。
領収書など、保険料を支払ったことを確実に証明する書類があれば加入記録は修正されますが、社会保険庁は、領収書だけではなく、保険料の支払時に発行された印紙や保険料が口座振替されたことを示す預金通帳なども「証拠書類」として認めていく方針です。

◆年金記録漏れを1年間で調査
政府は、納付記録の不備により生じた5,000万件以上ともいわれる該当者不明の年金記録に関する調査を1年間で終える方針を示しました。
従来どおり社会保険事務所で加入記録に関する相談に応じるほか、納付記録の問い合わせに応じる電話窓口も設け、週末を含め24時間の対応も開始しました。また、不備をもたらした社会保険庁などの責任を追及するため、有識者委員会を新設することも政府は明言しています。


重大労働災害件数が過去最多

◆建設・製造業で重大労働災害が増加
1度に3人以上が死傷した重大労働災害の2006年の発生件数が318件となり、1974年以降最悪の水準になったことが厚生労働省のまとめでわかりました。特に、建設業や製造業で増加しています。
また、労働災害による死亡者数は1,472人と過去最低となりましたが、建設業、製造業では増加しています。

◆安全管理対策の不備が影響?
重大労働災害の増加について、厚生労働省は「景気回復で建設業や製造業の現場が活性化する一方、安全管理がおろそかになっている可能性がある」と分析しています。同省では、事業主に対し、安全管理についての法令順守や労働災害が多発している分野での対策の徹底を促しています。

◆労働災害死亡者数減少の中、建設・製造では増加
労働災害による死亡者は減少傾向にあり、昨年は初めて1,500人を下回り過去最低となりました。厚生労働省は、「職場での安全対策が進み、以前に比べて死亡に至る労働災害事故は起きにくくなった」とみています。
死亡者数が過去最低になったのは、交通事故によるものが前年比81人減となったのが大きな要因です。しかし、建設業や製造業での死亡者数はそれぞれ前年比11人増、同12人増となっており、同省は、「業種や職場によっては、必ずしも安全とはいえない」として、労災が多発する職場での安全管理の徹底を促しています。
離婚件数の増加と母子家庭への就業支援

◆児童扶養手当の受給者数が過去最多に
厚生労働省がまとめた「母子家庭白書」によれば、母子家庭の生活を支援するための児童扶養手当の受給者数が今年2月末時点の概数で98万7,000人となり、2006年度は過去最高になる見通しであることが明らかになりました。
年間の離婚件数が1999年から2006年にかけて約25万件以上と高水準となり、母子家庭が増えたためとみられます。

◆児童扶養手当は削減へ
現在、児童扶養手当は母子家庭の母親や養育者に対して月額4万円強支給されていますが、政府は、母親の就労と自立を促すため、2008年4月から、5年を超える受給者の手当を最高で半分減額する方針を決定しています。
政府は、減額に備えて母子家庭の就労支援を強化しています。今回の白書では、2006年度の母子家庭の母親へのハローワークの照会件数が29万5,000件となり、前年度の1.1倍、2003年度の1.5倍に増加したとされています。また、就職も7万3,000件と前年度の1.1倍、2003年度の1.4倍になったと強調しています。

◆母子家庭に対する就業支援策
政府による主な就業支援策(いずれも平成15年度に創設)は、以下の通りです。
1.母子家庭等就業・自立支援センター事業[実施主体:都道府県、政令指定都市、中核市]
母子家庭の母親等に対して、就業相談や就業支援講習会の実施、就業情報の提供など一貫した就業支援サービスや養育費の相談など生活支援サービスを提供
2.自立支援教育訓練給付金事業[実施主体:都道府県、市、福祉事務所設置町村]     
地方公共団体が指定する教育訓練講座を受講した母子家庭の母に対して、講座終了後に受講料の一部を支給→受講料の4割相当額(上限20万円、下限8,000円)
3.常用雇用転換奨励金事業[実施主体:都道府県、市、福祉事務所設置町村]
パートタイムで雇用している母子家庭の母を、OJT実施後、常用雇用労働者に雇用転換した事業主に対して奨励金を支給→1人当たり30万円


深刻な医師不足解消に向けた対応策

◆小児科・産科での医師不足
厚生労働省は、小児科・産科における医師不足に対応するため、両科に関連する診療報酬を2008年度の改定で引き上げる方向で検討を始めたそうです。加えて、再就職を希望する女性医師を登録した「人材バンク」を各地につくり、小児科・産科医が不足する病院への就労を促していくそうです。また、地方の医師不足解消のため、都市部などで院長になる要件に「へき地での診療経験」を含めることも検討しています。

◆小児科・産科の診療報酬アップを検討
厚生労働省は、医師不足を深刻な問題であると受け止め、医師不足問題に関する協議会で対策を詰めていきたいということです。合意ができた施策については、6月中にまとめる経済財政運営と構造改革に関する基本方針に盛り込むとしています。
与党は、小児科でカルテ整理を担当する医療事務補助員などの人件費を診療報酬の対象に加えて医師の負担を軽くする検討に入っています。厚生労働省はさらに踏み込み、診療報酬全体を厚くする優遇策により、夜間の急患対応などで他科に比べて負担の重い小児科・産科に報いる考えを示しています。ただ、医療費全体の膨張につながりかねないため、高齢者向け医療費の抑制策などとセットで考えているようです。

◆女性医師人材バンクで再就労を促進
小児科医における女性医師の比率は31.2%、産科医は21.7%で、全医師の平均(16.5%)を上回っています。女性医師は結婚や出産で離職するケースが多く、これが小児科や産科の医師不足につながっています。
再就労を希望する女性医師も多いのですが、求人・求職情報の不足で進んでいないのが実態です。そこで厚生労働省は、全国に2カ所しかない女性医師専用の人材バンクを各地に開設することで、再就労を促すとしています。

◆地方の医師不足解消にはへき地経験が有効?
地方の医師不足の解消策について、与党は、全国規模で地方の病院や診療所に医師を派遣する仕組みを検討しています。これを実現するためには、派遣に応じる医師を数多く確保する必要があります。
厚生労働省は、院長など病院の管理者になるための要件として「へき地での診療経験」を加えれば、効果が大きいとみています。1度検討して見送った経緯があり、実現に向けて再検討を始めました。

派遣契約期間満了前でも直接雇用は可能?

◆派遣先が「すぐに直接雇用したい」
大学卒業後、派遣社員として就職。今の派遣先は仕事も楽しく、派遣社員として長く働きたいと思っていた矢先、派遣先から「正社員にならない?」と言われました。まだ、派遣契約期間が満了していませんが、応じてよいものなのでしょうか。

◆契約期間満了前では契約違反に
派遣社員は、派遣元の人材派遣会社と一定期間の雇用契約を結び、派遣先企業で派遣社員として働きます。人材派遣会社は派遣先企業と派遣契約を結んでおり、派遣労働は二重の契約関係が成立していることになります。
派遣契約期間の途中に、派遣先が派遣社員を正社員として直接雇用することについては、原則やむを得ない理由がない限り認められないとされており、冒頭のような例は「やむを得ない理由」となる可能性は低く、派遣社員と派遣先は契約違反として派遣元から損害賠償を請求される可能性があります。

◆契約を途中で解除するケースも
2005年度の厚生労働省の調査によれば、事業報告書を提出している全国約31,000の派遣元事業所において、派遣労働者は約320万人と増加傾向にあります。
ただ、団塊世代の大量退職などもあり、企業において正社員雇用が一部で拡大する中では、派遣社員も、不安定な派遣社員より正社員になることを望む人が多く、派遣先企業から「すぐ直接雇用したい」との要望があった場合、派遣会社(有料職業紹介事業の許可を受けているものに限る)は直接雇用後の年収の一定割合を「紹介手数料」として派遣先から受け取り、契約を解除するケースもあります。

◆紹介予定派遣の活用も
契約期間が残り少ない場合は、派遣先企業に契約満了まで待ってもらうことが多くあります。当初から派遣先での就職を目指す場合には、2004年に法整備がなされた「紹介予定派遣」制度があります。同制度は一定期間(最長6カ月)派遣社員として働いた後、派遣先企業・派遣社員双方が直接雇用を望めば認められます。
ただ、厚生労働省の調査によれば、紹介予定派遣で直接雇用に結びついたのは約6割にとどまっています。一定期間経過後の直接雇用は派遣先企業の義務ではなく、必ずしも直接雇用に結びつくとは限らないので、派遣労働者は注意が必要です。


求人時の年齢制限が原則禁止

◆改正雇用対策法が成立
若者や女性、高齢者らの就業機会拡大などを目指した「改正雇用対策法」が成立しました。今年の9月までに施行される予定です。
同法には、平成13年10月に「労働者の募集・採用に際しては、労働者にその年齢にかかわりなく均等な機会を与えるよう努めなければならない」という努力義務規定が追加されましたが、今回の改正により、求人の際の年齢制限が原則として禁止されました。
また、外国人労働者の雇用管理の強化を図るため、採用・離職時に、氏名・在留資格などを厚生労働省に届け出ることが事業主に義務付けられました。

◆雇用対策法の目的
雇用対策法は、「国が雇用に関し、その政策全般にわたり、必要な施策を総合的に講ずることにより、労働力の需給が質量両面にわたり均衡することを促進して、労働者がその有する能力を有効に発揮することができるようにし、これを通じて、労働者の職業の安定と経済的社会的地位の向上とを図るとともに、国民経済の均衡ある発展と完全雇用の達成とに資することを目的」として、昭和41年に制定された法律です。
具体的には、事業主に対して、離職を余儀なくされた労働者の求職活動が円滑にすすむよう、再就職を援助することに努めるよう促したりしています。

◆今回の改正のねらい
求人時における年齢制限の原則禁止には、就職氷河期に卒業した「年長フリーター」といわれる人たちやや高齢者の再就職を促進するというねらいがあります。
また、外国人労働者に対する事業主の届出義務は、不法滞在の防止や摘発の促進が目的とされています。



改正パートタイム労働法が成立

◆来年4月1日から施行
政府の再チャレンジ支援策の一環である「改正パートタイム労働法」が成立しました。一部を除き、来年4月1日より施行されます。
パートタイム労働法は、パートタイム労働者の適正な労働条件の確保および教育訓練の実施、福利厚生の充実その他の雇用管理の改善に関する措置、職業能力の開発・向上に関する措置などを講じることによってパートタイム労働者がその有する能力を有効に発揮することができるようにし、また、その福祉を増進することを目的として、平成5年から施行されています。

◆対象となる「パートタイム労働者」は?
「1週間の所定労働時間が同一の事業所に雇用される通常の労働者の1週間の所定労働時間に比べて短い労働者」とされており、例えば、「パートタイマー」「アルバイト」「嘱託」「契約社員」「臨時社員」「準社員」など、呼び方は異なっても、この条件に当てはまる労働者であれば、「短時間労働者」としてパートタイム労働法の対象となります。

◆今回の主な改正点
業務内容が正社員と同程度のパートタイム労働者については、給与などの面での差別的待遇を禁止し、正社員と平等な扱いを事業主に義務付けています。
具体的には、1.職務内容や責任、勤務時間の長さが正社員とほぼ同じ、2.契約更新の繰り返しがあり雇用期間が限定されていない、などの条件を満たすパートタイム労働者については、賃金や教育訓練、福利厚生などの待遇面で正社員との差別を禁止しました。
上記の対象となる「正社員並みパートタイム労働者」は、約1,200万人であり、パートタイム労働全体の数%が対象にすぎないとみられています。
また、パートタイム労働者を雇用する企業に対しては、パートタイム労働者が正社員になるための応募の機会を設けるなど、正社員への転換の機会を義務付け、また、対象外となるパートタイム労働者にも正社員と均衡の取れた待遇を確保するよう努力義務を課しています。


景気が回復しても賃金は上がらない?

◆「いざなぎ景気」を超える景気回復?
このところニュース等で「“いざなぎ景気”を上回る勢いで景気が回復している」などと報道されていますが、一般労働者の賃金は上昇せず、景気回復の実感がない人が多いようです。景気回復と労働者の実感の違いは、企業の経営者と労働者の考え方が根本的に異なるからだといわれています。

◆景気回復の理由は?
総務省が発表した今年4月の完全失業率は前月より0.2%低い3.8%と、9年1カ月ぶりに3%台に低下しました。
このデータからすると、「失業率の低下=景気回復」となり、平均賃金が上昇し購買力が上がると考えられますが、この考え方は今回のケースには当てはまらないようです。景気が回復したから賃金が上昇したのではなく、賃金の上昇を抑えているから企業の純利益が増加し、景気回復につながったといわれています。
その根拠として、相対的に賃金が低いパート社員や契約社員が増加し、賃金水準の高かった団塊世代が定年退職を迎えたことが挙げられています。また、今年1~3月期の雇用者1人当たりの平均賃金は前年に比べ減少しています。

◆今後の見通しは?
人件費の削減をはじめとするコスト削減による企業の利益はあくまでも一時的な利益にすぎず、企業が持続的に成長していくためには、商品・サービスの販売等によって利益を上げていかなければなりません。
そのためには優れた人材を確保していくことが重要です。だとすると、企業は自ずと賃金の引上げを行い、福利厚生などの充実を図るようになるのではないでしょうか。



核家族・単身者の増加で平均世帯人数が過去最少

◆一世帯当たりの平均所得額は563万8,000円
厚生労働省が発表した「国民生活基礎調査」によると、一世帯当たりの平均所得額(平成17年1月から12月の所得)は563万8,000円と前年を2.9%下回りました。
生活が「大変苦しい」「やや苦しい」と意識している人は56.3%で、前年から0.1ポイント増加しています。

◆核家族・単身者の増加で世帯数増える
世帯総数は前年より約49万多い4,753万で、20年前と比べ1.3倍に増加しています。このうち4分の1以上の1,204万世帯が単身で、20年間で1.8倍になっています。母子世帯は前年より約10万増えて初めて70万を超え、平成13年からの5年間でみると11.3倍に増えています。
反対に、3世代同居は全体の10分の1以下となり、過去最少の432万世帯となっています。65歳以上の高齢者だけか、高齢者と18歳未満しかいない家庭は、前年から11万増えて846万世帯となり、高齢者社会が浮き彫りとなりました。
また、平均世帯人数は過去最少の2.65人となっており、核家族化・単身者の増大が影響した結果となっています。

◆世帯所得減少は一世帯当たりの就労人数減少が影響
仕事を持つ人の1人当たり平均所得は320万6,000円と景気回復の兆しが反映され増えているため、世帯所得の減少は、一世帯当たりの仕事を持っている人が減ったのが要因ではないかとみられています。
その要因としては、60歳到達による定年退職で収入が減る世帯や、フリーター等で正社員にならない親族の扶養が考えられます。

◆所得の不平等格差は改善
所得分配の不平等の度合を示す「ジニ係数」(0に近いほど所得分布の不平等が均等であることを意味する)は、今回の調査では前年より低い0.3948となり、2年ぶりに低下しました。今回の結果は不平等差が少なくなったということを数字上の結果は示していますが、実際はまだまだ所得格差は埋まっていないように感じられているようです。


“ストレス時代”のリスクマネジメント

◆労災認定された過労自殺者が過去最多
平成18年度の脳・心臓疾患の「過労死」事案の労災認定請求件数は938件(前年度比69件増)、支給件数は355件(前年度比25件増)となりました。また、過労や仕事のストレスが原因で自殺(未遂も含む)したとして、2006年度に労災認定された人は前年度より24人多い66人で、過去最多となりました。過労自殺を含む精神障害の認定者数も大幅に増加し、年代別では働き盛りの30代が40%を占めています。

◆精神疾患の労災認定基準も過渡的段階に
平成11年9月以降、精神疾患・自殺の労災認定請求件数は増加の一途をたどっています。認定基準自体が変更されていない中での認定数の急上昇は、現場における精神疾患の増加・深刻化を示しています。
今年5月7日には福岡高裁で、当時48歳の化学工業子会社に出向した男性が単身赴任で転勤後、未経験業務でうつ病を発症し自殺した事件について、裁判長は一審福岡地裁判決を支持し、「業務外」と主張する労基署側の控訴を棄却しました。高裁段階で過労自殺が労災認定されたのは、トヨタ事件(平成15年名古屋高裁)に次いで2件目です。
いずれも労災の判断基準が争点となり、労基署側は自殺の原因は本人の「ぜいじゃく性にあった」と主張するものの、裁判長は平均的労働者と比べて「性格等に過剰な要因があったと認めることはできない」と指摘しました。このような判例が増えると、精神疾患に対する労災認定基準が変わることが予想され、精神疾患についても、管理者責任が問われるケースが増えてくると思われます。

◆労災補償制度と民事訴訟との関係
労災補償制度による補償には、精神的損害(慰謝料)や逸失利益などは含まれません。そのため、遺族が会社に過失があったと考える場合、行政訴訟(労災認定)とは別に、民事訴訟を提起するケースが急増しています。
会社の過失とは「安全配慮義務違反」、つまり、社員に職場を起因とする発病や死亡の危険があるにもかかわらず、その危険性を回避するための措置を会社側が怠ったとする論拠です。
メンタルヘルスが緊急課題とされて久しく、厚生労働省は、事業者に「健康管理に係る体制を整備するとともに、健康診断結果、産業医による職場巡視、時間外労働時間の状況等様々な情報から労働者の心身の健康状況及び職場の状況を把握するよう努め、労働者の健康状況に配慮して、職場環境の改善、積極的な健康づくり、労働時間管理を含む適切な作業管理等様々な措置を実施すること」を求めていますが、長時間労働の抑制のみならず、時短の中での成果の追求や各種ハラスメントなど、達成課題や構成員が複雑化した職場において、諸々の精神的負荷に転じそうな問題に対して、管理職にとどまらず全職員に教育と実践を徹底しなければならない時代となってきているようです。