2007/08/30

平成19年9月号

社会保険審査請求が10年で約3倍に

◆不服申立て件数が急増
年金など社会保険をめぐり都道府県社会保険事務局の社会保険審査官に寄せられた不服申立件数は、過去10年で約3倍に急増しているそうです。厚生労働省は詳細な内訳を公表していませんが、多くは障害年金をめぐる不服とみられています。
5,000万件に上る年金記録漏れ問題の発覚前から、年金制度全体への不信が強かったことの裏付けともいえるでしょうか。

◆増加の原因は「よくわからない」?
年金や健康保険など社会保険に対する不服申立ては、社会保険審査官と社会保険審査会の二審制がとられています。不服申立て件数の急増について、厚生労働省や社会保険庁は「原因はよくわからない」としています。
厚生労働省によると、全国の社会保険審査官に対する申立件数は、1997年度の受付け分と前年度からの繰越し分を合わせた合計は1,637件でしたが、2006年度は5,076件と約3.1倍に急増し、過去10年間増加し続けています。

◆多くは障害年金関連
これまで厚生労働省は、申立て理由ごとの詳細な内訳は公表していませんでしたが、2004~2006年度の処理済み案件について、その内訳を明らかにしました。2006年度の処理状況をみると、申立て5,076件のうち、同年度内に3,542件の処理が行われ、年金関連は約75%にあたる2,639件でした。そのうち障害年金をめぐる処理は2,349件で、処理済み件数全体の約66%に上っており、不服申立ての多くは障害年金です。障害年金については各年度2,000件前後が処理されており、主に障害認定などについて不服が寄せられているとみられています。
対象者がわからない年金支払記録が約5,000万件に上っている問題に密接に絡むと思われる老齢年金についても、各年度160件前後の処理がなされているそうです。


仕事で手に入れた名刺は誰のもの?

◆転職時に返却を求められた
営業職の会社員。転職しようと思い会社に申し出たら、「業務上手に入れた名刺はすべて置いていけ」と言われました。自分が汗水流して手に入れた顧客の名刺は自分のものではないのでしょうか。

◆秘密指定外なら個人のもの
退職者に対し、秘密漏洩の防止策などを講じている会社は少なくありません。不正競争防止法では、企業の内部情報が「営業秘密」として保護されるための要件として、1.施錠できる場所で保管するなど秘密として管理されている、2.事業活動に有用な技術上・営業上の情報である、3.公然と知られていない事柄であることを挙げています。
問題は、「名刺といえども職務上入手した情報は営業の秘密といえるのか」、「漏洩防止策など会社の意向を書面などで周知させる必要があるのか」どうかということです。

◆裁判所の判断は?
労働者が職務上手に入れた名刺が営業秘密でない場合、退職後も自由に使えることができ、ライバル社への転職禁止契約が労使間にない場合は労働者には転職の自由があり、前職で培われた能力や情報を使用できるとされています。
前職で入手した名刺などを転職後も利用した元社員に会社側が損害賠償などを求めた裁判例があります。2001年、東京地裁は「保管、利用などを制約する労使間の取り決めがない」として名刺を営業秘密とは認めませんでした(一審で確定)。実際、名刺は労働者が各自で管理することが多く、名刺を営業秘密として会社が管理するのは難しいだろうとしています。

◆秘密扱いにするには契約や規定での周知が必要
職務上知り得た情報を、個人情報保護などを理由に労使間で秘密保持契約を結んでいたり、社内の秘密管理規定などで社員に周知したりしている場合、会社が名刺などの返却を強制しても問題はないとされるようです。
書面で取り決めがない場合はどうでしょうか。2007年、大阪地裁は「内部情報のすべてを『営業秘密』とする労働者の職業選択の自由を過度に制限する」として、職務上、入手した情報などを営業秘密だと会社が規定するには、その情報が営業秘密であることを認識できるようにし、アクセスできる者が制限されていることが必要と判断しました(現在、原告企業側が控訴中)。


失敗しない介護事業者選びのポイントは?

◆相次ぐ介護事業者の不祥事
このところ、介護事業者をめぐる法令違反が相次いで報道されています。事業者が自治体から指定取消しなどの処分を受けた場合に不利益を被るのは、施設の移動やヘルパーの変更などを余儀なくされる利用者自身です。優良な事業者をきちんと選ぶためのポイントをおさえておきましょう。

◆施設選びでチェックすべきこと
華美で明るい施設はどうしても良く見えますが、「見掛け倒しにだまされない」ことが肝心で、優良事業者を見抜く目を養うにはできるだけ多くの施設を見て回ることが大事です。
施設選びのチェックポイントとして、いす・テーブルの高さやベッドの幅があります。食堂をよく見ると様子がわかります。小柄な高齢者が、高すぎるテーブルで食事をしていれば、家具が体に合っていない証拠です。ベッドの幅が狭ければ、寝返りを打つスペースが確保できず、起き上がるのが困難になります。いずれも自力での生活を阻害する要因となり、事業者の真心と優しさが具体化されているかいないかがわかります。
電話の対応の仕方だけをとってもかなりの判断材料になります。

◆積極的な情報収集を
利用する前に必要なケアについて話し合うなど、自から積極的に情報を集めていくしかありません。そうして初めてわかることは少なくありません。また、問題のある事業者を避けるためには、ヘルパー交代の際に引継ぎがうまくいっているかどうかを見る必要があります。引継ぎがうまくいかないのは、事業所で監督的な立場にある人の能力がなかったり、不在だったりして、ヘルパーへの指導が行き届いていない可能性があるからです。その他、ケアマネージャーが作ったプランにのみ頼る事業者も注意が必要です。
入所後に、法令違反を感じたり、サービスに納得できなかったりする場合は、遠慮せずに解除や変更を申し出ることも大切です。



「中小企業労働時間適正化促進助成金」について

◆労働時間適正化の取組みに対して支給
厚生労働省は「特別条項付き時間外労働協定」を締結している中小事業主が、労働時間の適正化に取り組んだ場合に支給する助成金(中小企業労働時間適正化促進助成金)を創設しました。

◆助成金創設の背景
近年、労働時間が週35時間未満の労働者と週60時間以上の労働者がともに増加する「労働時間分布の二極化」の傾向がみられ、また、年次有給休暇の取得率は9年連続で低下しています。こうした中、過重労働による脳・心臓疾患の労災認定件数が高水準で推移し、精神障害等の労災認定件数も増加するなど、長時間労働による健康障害が社会問題化しています。
労働者1人ひとりの心身の健康が保持されるとともに、家庭生活、地域活動、自己啓発等に必要とされる時間と労働時間を柔軟に組み合わせ、心身ともに充実した状態で意欲と能力を発揮できるような環境を整備していくことが重要となっています。

◆対象となる事業主は?
「特別条項付きの時間外労働協定」を締結し、決められた目標を盛り込んだ「働き方改革プラン」(実施期間1年間)を作成し、都道府県労働局長の認定を受け、そのプランの措置を完了した事業主が対象です。

◆「特別条項付きの時間外労働協定」とは?
36協定(時間外労働および休日労働に関する協定)で定める延長時間は「限度時間を超えないもの」としなければなりませんが、限度時間を超えて労働時間を延長しなければならない「特別の事情」が生じたときは、限度時間を超える一定の時間まで労働時間を延長することができる旨を協定すれば一定期間についての延長時間は限度時間を超える時間とすることができます。この協定を「特別条項付き協定」といいます。

◆支給額は?
都道府県労働局長の認定を受けた「働き方改革プラン」に従い、1.特別条項付き時間外労働協定や就業規則等の整備を行った段階で50万円、2.時間外労働削減等の措置および省力化投資等の措置または雇入措置を完了した段階で50万円の合計100万円が支給されます(ただし、2.を完了しなかった場合、1.は全額返還しなければならない)。
助成金の詳細については、都道府県労働局労働基準部監督課にお問い合わせください。


企業の「生産性向上」には何が必要?

◆企業の生産性向上に向けての課題
先ごろ政府が了承した2007年度の「経済財政白書」(年次経済財政報告─生産性上昇に向けた挑戦─)では、「生産性の上昇」に焦点をあて、企業に積極的な対応を求めている点が大きな特徴となっています。白書では、企業がITを導入しても有効に活用できていないため生産性向上につながらず、組織改革が遅れていると分析しています。

◆M&Aは生産性向上の有効な手段?
白書では、M&A(企業の合併・買収)が生産性向上の有効な手段の1つであると位置付けています。日本ではコスト削減を目的としたM&Aが主流で、高収益企業ほどM&Aに積極的に関与していると言われていますが、白書では生産性を意識したM&Aの展開を促しています。

◆賃金伸び悩みの理由はどこに?
白書では、景気拡大が続く中にあって従業員の賃金が伸び悩んでいる理由について、複数の要因が複合的に作用しているとしています。「景気回復が進めば所得格差が縮まる」という、従来の考えが信頼できなくなっている現状も報告されています。
内閣府は、専門家の間で通説となっている「賃金の低い非正社員の増加」、「高額所得者である団塊世代の一斉退職」、「高所得産業から低所得産業への転職」、「地方公務員の賃金の低下」の4つを検証しましたが、「いずれの要因も単独では賃金動向を説明しきれないが、押し下げる方向に作用している点は確認できた」と結論付けています。

◆政府の目標は「労働生産性の伸び率を5割アップ」
政府は、1人あたりの労働生産性の伸び率を5割アップさせることを目標に掲げています。目標の達成には格差是正への対策も求められ、政府の役割が一層大きくなっているといえるでしょう。



「年金時効撤廃特例法」とは?

◆時効撤廃で未支給分も全額支給に
これまで、年金記録が訂正されて年金が増額した場合であっても、時効消滅により直近5年間分の年金しか受け取ることができませんでしたが、年金時効撤廃特例法(厚生年金保険の保険給付及び国民年金の給付に係る時効の特例等に関する法律)の成立(7月6日公布・施行)により、5年より前の期間分の年金についても遡って受け取ることができるようになりました。
施行日以降の手続受付状況は、7月6日~31日までで7,896件となっています(社会保険庁8月1日発表)。

◆対象となる人は?
すでに年金記録の訂正により年金額が増えた人や、年金の受給資格が確認されて新たに年金を受け取ることができるようになった人は、年金(老齢、障害、遺族)の時効消滅分について、全期間遡って受け取ることができます。
また、遡って受け取れる人が亡くなっている場合は、その遺族(亡くなられた当時、生計を同じくされていた人に限り、配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹の順となります)に、未支給年金の時効消滅分が支払われます。

◆これまでに適用が認められた人は?
社会保険庁は、7月19日に145人(平均支給額約51万円)について同法の適用を初めて認め、さらに7月24日に108人(平均支給額約84万円)に適用を認めました。これらの人には8月15日に未支給分が銀行口座などに振り込まれる予定で、同庁では、今後も額が確定した人から順次支給していくとしています。


「ワーク・ライフ・バランス」で従業員の満足度アップ?

◆「ワーク・ライフ・バランス」とは?
「ワーク・ライフ・バランス」とは、仕事と家庭生活を調和させることで、働く人が、仕事上の責任と、仕事以外の生活でやりたいことの両者を無理なく実現できる状態のことです。1980年代に欧米で起こった考え方であり、「働き手の確保や少子化対策、着実な経済発展を続けるために重要である」と、厚生労働省が発表した今年の「労働経済白書」でも唱えています。

◆「ワーク・ライフ・バランス」の効果
労働者にとっては、安心・納得できる働き方を選択することにより、心身ともに充実した状態で働くことができます。
一方、企業にとっては、従業員の満足度を高めることにより、優秀な人材の確保・定着を図ることができるといわれています。

◆「ワーク・ライフ・バランス」と今後の雇用システムの展望
仕事と仕事以外の時間の両方を充実させたいと考えていても、雇用が安定せず、時間や給与額に余裕がなければ、現実には実現はなかなか難しいものです。
日本の雇用システムは長期雇用を基本としながら、労働関係の個別化が進んでいます。働く人一人ひとりが、職業生活における各々の段階において仕事と生活を様々に組み合わせ、バランスの取れた働き方を安心・納得して選択できるような柔軟な働き方の実現が、今後ますます重要な課題になっていくでしょう。


中途採用人数が増加傾向に

◆企業、中途採用に意欲?
リクルートが行った調査結果によると、2007年度の企業の中途採用予定人数が、前年度を4.4%上回ったそうです。
中途採用予定人数を企業規模別でみると、従業員300~999人規模(前年比8.0%増)、1,000~4,999人規模(同3.0%増)、5,000人以上規模(同8.2%増)で増加している一方、5~99人規模(同13.9%減)や100~299人規模(同0.7%減)では減少しており、従業員数300人を境に差がみられました。
また、業種別では、不動産業(同37.3人増)、情報通信業(同23.3人増)、機械製造業(同19.9人増)など、専門知識や経験が求められる業種で中途採用予定人数が増えています。


◆業種別に見た傾向
業種別では、1位は不動産業(前年比31.7%増)でした。中途採用予定の伸び率は大幅なプラスとなっていますが、新卒採用予定の伸び率は全体の平均を下回っていることから、中途採用に対する強い意欲がうかがわれます。
一方、サービス業では中途採用予定の伸び率はマイナスとなったものの、新卒採用予定の伸び率は11.5%増と平均以上で、中途よりも新卒採用に強い意欲を示す企業が多いと考えられます。
建設業や運輸業では、中途・新卒採用予定の伸び率ともに大幅なプラスとなった一方で、機械以外の製造業では、伸び率は大幅なマイナスとなり、業種によるばらつきがみられました。