2010/07/01

7月の事務所便り

 「新卒者体験雇用事業」の拡充について

 ◆6月7日から改正
平成22年6月7日から、「新卒者体験雇用事業」の内容が拡充されています。
この事業は、就職先が決まっていない新規学卒者を対象として、企業が体験的な雇用の機会を設けることにより、就職先の選択肢を広げるとともに、その後の正規雇用に結び付けることを目的としています
この制度を活用する企業には、「新卒者体験雇用奨励金」が支給されます。今回はこの奨励金の「体験雇用期間」と「支給額」が改正されました。

 ◆主な要件と改正点
この制度の対象者は、卒業後も就職活動を継続している大学生や高校生等で、ハローワークへ登録していることが条件となります。
対象者を受け入れる企業は、ハローワークへ体験雇用求人を登録する必要があり、体験雇用の開始日は「卒業日の翌日以降」となっています。
制度改正前の体験雇用期間は「1カ月」でしたが、改正後は「最長3カ月」まで可能となり、奨励金の額は「8万円」から「最大16万円」(1カ月目:8万円、2・3カ月目:各4万円)となりました。

 ◆申請までの流れ
体験雇用の開始にあたっては、企業は対象者との間で有期雇用契約を締結します。体験雇用期間中の労働時間は、通常の労働者の1週間の所定労働時間と同程度(30時間を下回らない)で設定し、契約で定めた賃金を支払います。
そして、体験雇用開始日から2週間以内に「体験雇用実施計画書」を提出し、その後、体験雇用終了日の翌日から起算して1カ月以内に「体験雇用結果報告書兼新卒者体験雇用奨励金支給申請書」を提出することとなります。

 ◆中小企業にとっての大きなチャンス
世界的な不況、それに伴う企業の業績不振の影響で、就職内定率は低下傾向にありますが、これを逆手にとれば、中小企業にとっては良い人材を採用する大きなチャンスだとも言われています。
このような制度をうまく活用して、人材の採用・定着につなげたいものです。


 病院での待ち時間が減少 その要因は?

 ◆厚生労働省の調査より
今年3月に、厚生労働省から2008年の「受療行動調査」が発表されましたが、これにより、「病院での待ち時間」の状況が改善していることがわかりました。
この調査は、全国の医療施設を利用する方を対象に「医療に対する満足度」を調査しているもので、3年に1回行われています。

 ◆「待ち時間」に関する調査
この調査項目の中で注目すべきは、外来患者に対して行った「診察前の待ち時間」(予約を行った場合は予約時間からの待ち時間)についてです。「1時間未満」の割合は68.7%となっており、調査開始の1996年と比較すると8.6ポイント増加しており、「1時間以上」の割合は減少しています。
病院の種類別に見ると、特定機能病院、大病院、中病院では「30分以上1時間未満」の割合が最も多く、それぞれ25%前後となっています。小病院、療養病床を有する病院では「15分以上30分未満」の割合が26%前後と最も多くなっています。

 ◆待ち時間短縮の理由
待ち時間短縮の理由は、「診察時間の予約」や「病院独自の工夫」によるものとみられています。しかし、病院側が一人ひとりの診察に十分な時間を割こうとすると、待ち時間の短縮には限界があり、患者側が望む「30分未満」にはまだまだ課題があるようです。

 ◆病院側の工夫
そこで最近では、待ち時間の短縮ではなく「時間の有効活用」や「イライラ解消」に重点を置き、患者の満足度を高める工夫をする病院が増えているようです。
例えば、インターネット等で事前に院内の混み具合がわかるようにしたり、診察の順番や待ち人数がわかる発券機表示モニターを設置したりする病院もあるようです。
待ち時間に対するイライラを少なくするような取組みを行う病院は、今後も増えていくことが予想されます。


 労災における「障害認定の男女差」見直しへ

 ◆京都地裁の判断
労災で顔や首に大やけどを負った男性が、「女性よりも労災の障害等級が低いのは男女平等を定めた憲法に反する」として、国の等級認定の取消しを求めていた訴訟で、京都地方裁判所は「合理的な理由なく性別による差別的扱いをしており、憲法14条に違反する」として、国に認定の取消しを命じる判決を下しました。

 ◆男女間で障害等級の差
報道によれば、男性は勤務先で作業中、溶けた金属が作業服に燃え移って大やけどを負いました。顔や胸、腹などに跡が残ったため、他の症状を併合して労災認定を申請し、労働基準監督署は男性の障害等級を「11級」と認定しました。
労災保険の障害等級表では、「外貌に著しい醜状を残すもの」として、顔などにけがが残った場合、男性の等級を「12級」、女性の等級を「7級」と規定しています。これは、容姿に著しい傷跡が残った場合、女性のほうが男性より精神的苦痛が大きいなどとしているためです。

 ◆給付金額に大きな差
労働者に後遺症が残った場合に支給される給付について、症状や傷の程度に応じて「1級」から「14級」までの障害等級が定められています。
今回のケースでは、「11級」の認定となるため、223日分を一時金として1回支給されるだけですが、仮に「7級」と認定された場合は、平均賃金の131日分が年金として生涯にわたり支給されることになります。そのため、性別だけで給付金額に大きな格差が生じることは著しく不合理であると判断されたといえます。

 ◆埋まりつつある男女差
障害補償は本来、障害による「逸失利益」を補償する意味合いが強く、交通事故などの損害補償をめぐる裁判でも広く争われており、かつては顔の傷に関して男性の場合はほとんど認められていませんでした。しかし、最近では憲法14条(法の下の平等)に反するとの司法判断が出始めています。
国は、今回の訴訟について控訴を断念したようであり、これに関連して、厚生労働省は、今年度中に労災保険の障害等級表を見直す方針を示しています。


 「協会けんぽ救済」で多くの健保組合が負担増に

 ◆改正法が可決・成立
全国健康保険協会(協会けんぽ)の大幅な保険料上昇を抑制するための「医療保険制度の安定的運営を図るための国民健康保険法等の一部を改正する法律案」が参議院本会議で可決・成立しました(5月12日)。

 ◆改正の主な内容
改正の主な内容は次の通りです。
(1)後期高齢者支援金で年収比例の仕組みを一部導入
(2)協会けんぽの国庫補助率を引上げ(13%→16.4%)
(3)会社員に扶養されていた高齢者の保険料負担の軽減措置を継続
(4)保険料の滞納世帯でも高校生以下に短期被保険者証を交付

 ◆健保と共済が「肩代わり」
新制度は7月から実施となり、財政が悪化する「協会けんぽ」の再建を支援するため、後期高齢者支援金の負担を軽減するとともに、保険給付の国庫補助率を16.4%(現行は13%)に引き上げます。
また、大企業の会社員らが加入する「健康保険組合」と公務員などが加入する「共済組合」に負担増を求めています。これにより、全国平均で9.9%に上がるはずだった「協会けんぽ」の保険料率(2010年度)は9.34%に抑えられることとなります。

 ◆国庫補助率も引上げへ
国庫補助率の引上げにより、国は協会けんぽへ2010年度に610億円、2011年度に920億円の公費(税金)を投入するとしています。
厚生労働省では、1,478組合ある健保組合のうち、6割強の922組合で負担増になると試算しており、556の組合においては逆に負担が減る見込みとされています。「協会けんぽ」の救済策は2010年度から3年間適用となり、2013年度からは「後期高齢者医療制度」を廃止し、新しい高齢者医療制度に移行する方針です。
改正法による影響は大きく、特に大企業の健保組合においては2010年度に約5億円の負担増となると試算されている組合もあります。2010年度の健保全体の予算は6,600億円の赤字になる見通しで、3期連続赤字となります。
このような厳しい状況の中、高齢化社会に対応した高齢者医療制度を含む医療保険制度の立直しを一刻も早く行う必要がありそうです。


 高い日本企業の税負担率

 ◆海外先進国との比較
新聞報道によれば、国際的に比較した日本企業の税負担の重さが改めて浮き彫りになっているようです。「日経株価指数300」の構成企業(銀行・証券・保険を除く)を対象に、2009年度の連結決算を集計したところ、法人税・事業税・住民税などの企業の税負担額を、税引き前利益で割って会計上の税負担率を計算すると「49.1%」に達するとのことです。
同様の計算方法で先進国の主要企業の比率を求めると、アメリカ「29.9%」、ドイツ「34.4%」、イギリス「36.0%」となっています。
また、国税、地方税を合わせた法定実効税率について、日本は「40.7%」となっていますが、ドイツ「約29%」、イギリス「約28%」で、アメリカの「約40%」を超えて世界最高水準となっています。

 ◆国際競争率の低下
先進諸国に比べて日本だけが突出して法人税が高いということは、日本企業が国際競争力を失ってしまうということです。先進諸国の企業は税率が低い分、資金を設備投資や研究開発費に投じることができます。
一方、日本企業はたとえ同じ利益を上げたとしても、諸外国企業と同様に設備費や開発費を投入することができず、後れをとってしまうこととなります。このままだと、日本の有望企業が、税負担の低い国に流出してしまうおそれがあると言われています。

 ◆法人税の引下げの検討
国家財政が悪化をたどる中、法人税の引下げには反対論もあります。しかし、このままでは、日本の企業は競争力を失い、業績の悪化から税収は低下し、さらなる財政悪化という悪循環に陥ることも予想されます。
世界を見渡すと、台湾が法人税率を25%から17%に引き下げるなど、引下げの流れが加速しています。世界情勢に倣い、まずは企業競争力を強化することが必要だと思われます。

 ◆法人税と消費税
しかし、法人税を引き下げると、企業が活力を取り戻すまでの間、一旦は税収が落ちることとなり、その分をどこかで補填しなければなりません。
そこで考えられるのは、消費税の引上げです。現在、消費税は5%と決して低率ではありませんが、ドイツやイギリスの17%前後と比較すれば引上げの余地はあるのかもしれません。
しかし、消費税引上げは国内の景気に大きく影響することから、十分に慎重な検討が求められます。


 「メンタルヘルス対策」をめぐる動き

 ◆ストレス社会の中で
日本における自殺者数は、近年、3万人を超える数で推移していますが、そのうち約2,500人の原因・動機は「勤務問題」によるものだとされています。また、精神障害等による労災認定件数も増加傾向にあり、仕事や職業生活に強いストレスを感じている労働者は約6割に上るとの調査結果もあるようです。厚生労働省の調査では、うつ病患者を含む「気分障害」の患者は100万人を超えているそうです。
そのような状況の中、厚生労働省に設置された「職場におけるメンタルヘルス対策検討会」(学者、医師、弁護士などで構成)が、5月下旬に初めての会合を開きました。

 ◆今後検討される内容
この検討会においては、(1)メンタルヘルス不調者を把握する方法(2)不調者の把握後の作業転換・職場復帰などの対応方法を検討するとしています。
このうち(1)については、具体的には、労働安全衛生法に基づく定期健康診断において、労働者が不利益を被らないように配慮をしつつ、効果的にメンタルヘルス不調者を把握する方法について検討していくとしています。
また、(2)については、メンタルヘルス不調者の把握後、会社による労働時間の短縮、作業の転換、休業、職場復帰等の対応が適切に行われるように、外部機関の活用や医師の確保に関する制度等について検討していくとしています。

 ◆企業としての対応が急務
労働基準監督署では、平成22年度においては、「メンタルヘルス対策の具体的な取組みについての事業場への指導・助言」を特に強化する方針を示しています。
企業としても、メンタルヘルス不調者が発生しないための取組み、仮に不調者が発生してしまった場合の対応に関してのルール作り(「休職制度」「職場復帰制度」「リハビリ勤務制度」等の規定化)など、対応が急務となっている状況です。


 「夫は外で仕事、妻は主婦業」の考え方

 ◆出産や子育てに関する調査
国立社会保障・人口問題研究所では、このほど、2008年7月に実施した「全国家庭動向調査(第4回)」(調査票配布数:13,045票、有効回収数:10, 192票、有効回収率:約78.1%)の結果を発表しました。
この調査は、5年周期で実施されており、家庭機能の変化の動向や要因を把握するために、出産や子育ての現状、家族関係の実態を明らかにすることを目的とするものです。

 ◆夫婦の役割に関する妻の意識
この調査の中で、夫婦に関する考え方として、「夫は外で働き、妻は主婦業に専念」という考え方に賛成する既婚女性の割合は45.0%(前回調査時41.1%)で、前回調査時から3.9ポイント上昇しました。この項目について上昇に転じたのは、1993年の初回調査以降初めてのことだそうです。
また、「夫も家事や育児を平等に分担すべき」と考える既婚女性の割合は82.9%(同82.8%)と前回調査時とほぼ同じでした。「夫は会社の仕事を優先すべきだ」と考える既婚女性も66.6%(同66.9%)とあまり変化は見られませんでした。

 ◆従業員の様々なニーズ
「夫婦の役割」に対する考え方が人それぞれであるのは当然のことであり、企業としては、そのようなことを常に意識しておく必要があるでしょう。
今後、少子化等により労働力が不足していくと予測される中、企業としては、従業員の様々なニーズに対応した労働時間制度・休暇取得制度の導入や、勤務体系の構築を考えなければならないのかもしれません。


 「テレワーク(在宅勤務)」導入企業が増加

 ◆2009年は19%の企業が導入
総務省が4月下旬に「2009年通信利用動向調査」の結果を発表しましたが、それによれば、テレワーク(在宅勤務)を導入している企業は2009年に19.0%となったそうです。2007年は10.8%でしたから、2年でほぼ倍増しているといえます。
増加している要因には、どのようなことがあるのでしょうか。

 ◆「非常時に備えて」の理由が増加
テレワークを導入している企業の導入目的を見てみると、「勤務者の移動時間の短縮」(51.5%)、「定型的業務の効率性(生産性)の向上」(41.8%)が上位を占めています。
そして、「地震や新型インフルエンザ等の非常時の事業継続に備えて」が、前年の19.2%から20.4ポイントも上昇し、39.6%となっています。
その他の理由としては、「顧客満足度の向上」(18.7%)、「勤務者にゆとりと健康的な生活の実現」(13.3%)、「通勤弱者(身体障害者、高齢者、育児中の女性等)」への対応(13.2%)などが挙げられています。

 ◆導入企業の多くは大企業
テレワーク導入企業のうち、96.2%が「導入の効果があった」と回答しており、その効果はとても大きいようです。
現在、テレワーク導入企業の中心は大企業となっているようですが、今後は、非常時への対応(危機管理)、従業員への配慮、顧客先への配慮といった理由から、中小企業でも導入が進んでいくかもしれません。


 育児・介護休業法に関する新しい援助・調停制度

 ◆改正育児・介護休業法の施行
改正育児・介護休業法の主要部分の施行が6月30日に迫っています(一部の規定は、「常時100人以下の労働者を雇用する中小企業」について平成24年7月1日から施行されます)。
この改正により、「短時間勤務制度の義務化」「パパママ育休プラス制度の創設」などが図られ、仕事と子育ての両立支援のための取組みが強化されますが、改正前の法律においても、育児休業取得による不利益取扱いなどは禁止されており、それらに関するトラブルは多いようです。

 ◆相談件数が大幅に増加
厚生労働省の発表によれば、2009年度に全国の労働局に寄せられた「育児・介護休業法に関する相談」は1,657件だったそうです。この件数は、前年度から約3割も増えています。
相談の主な内容は、育児休業取得による解雇、降格、正社員からパートタイマーへの変更の強要などとなっています。

 ◆苦情処理や紛争解決のために
改正育児・介護休業法においては、「苦情処理・紛争解決の援助及び調停の仕組み」が創設され、すでに実施されています。具体的には、都道府県労働局長による「援助制度」(2009年9月スタート)、社会保険労務士や弁護士などの専門家で構成される「調停制度」(2010年4月スタート)です。
これらの制度は、企業側・従業員側それぞれの言い分を聞き、紛争に関する結論が出るまでに、「援助制度」は1~2カ月程度、「調停制度」は3カ月程度かかると言われています。
改正法の主要部分の施行により、今後、「援助制度」や「調停制度」の利用件数が増えていくものと思われます。企業としては、まずは、育児休業・介護休業などに関して紛争とならないような制度作り、労務管理等が求められます。


 「勤務間インターバル規制」とは?

 ◆IT企業などで導入
最近、長時間労働が恒常化しているIT関連企業などにおいて、「勤務間インターバル規制」を導入する動きが見られるそうです。このインターバル規制は、1日の仕事が終了してから次に仕事を開始するまでに、一定時間の休息を義務付けるものです。
なぜ今、導入する企業が増えているのでしょうか。

 ◆EU指令では「連続11時間の休息」
上記の規制に関しては、EU(欧州連合)が加盟国の法律に関する基準を定めた「EU労働時間指令」の中で、「最低連続11時間の休息」を規定しています。なぜ、このような規制が定められているかというと、「ワーク・ライフ・バランス」に配慮するためであり、労働者の健康を守るためです。
仮にEUの基準でこの規制を導入した場合、例えば午後11時まで勤務した日の翌日は、午前10時までは勤務が免除されることになります。
日本の情報労連(情報産業労働組合連合会)では、昨年の春闘において、「導入が可能な組合においては、インターバル規制の導入に向けた労使間協議を促進する」という方針を掲げました。

 ◆ワーク・ライフ・バランスに向けて
厚生労働省から発表されている「労働経済白書」によれば、25~44歳の男性のうち週に60時間以上働いている人の割合は20%以上になっており、週5日勤務した場合、1日に12時間も働いている計算になります。
この「働き盛り」世代の健康を守り、「ワーク・ライフ・バランス社会」を実現させるため、今後、日本でもこのインターバル規制についてさらに議論されていくかもしれません。