2007/03/27

平成19年4月号

営業車の駐車違反に関する会社の責任


◆駐車料金の支給がない場合、反則金の支払いは?
社員が営業車でのセールス中に駐車違反で反則金をとられてしまいました。会社は経費節減と称して駐車料金を支給しないため、やむなく路上駐車していました。「反則金は自分で払え」と会社は主張していますが、会社が負担しなくてもよいのでしょうか?

◆改正道路交通法による駐車違反取り締まり強化の柱
1.放置車両の取り締まり事務の民間委託を開始
2.車両の使用者責任を強化。放置違反金の納付命令を可能に
3.放置違反金を納付しなければ、滞納処分も可能に
4.放置違反金を納付しなければ車検が受けられず
道路交通法改正により、昨年6月から駐車違反取り締まりの民間委託が始まり、同時に短時間の車両放置も摘発対象となりました。これにより、短時間駐車している営業車の違反が取り締まられるケースも増加しています。

◆会社負担の放置違反金
違反を摘発しても、運転者が出頭せず、車両である会社も「誰が運転していたかわからない」などと釈明する例が増えているようですます。これでは「逃げ得」という不公平感を助長してしまいます。そこで、運転者が出頭しない場合、使用者に放置違反金の支払いを科すことになったのです。会社に科される放置違反金は反則金と同額です。会社が支払いを拒めば当該車両の車検が受けられなくなり、営業活動への影響も出てきます。
会社は、民法715条により、社員が不法行為をしないよう指導する義務と、不法行為があった場合に代わりに責任を負うこととされています。違反駐車の場合、本来は運転者に支払い義務がありますが、会社が駐車料金を支給しないような場合には、運転者の不法駐車を助長していたともいえそうです。
 
◆今回のケースでは
今回の例では、会社が反則金を負担し、その上で社員が違法駐車をしないよう駐車場を確保してあげることや、駐車料金を支給する仕組みを作ることも求められそうです。
ただ、会社は法令順守の徹底を訴えているのに、社員が駐車違反を繰り返しているような場合は事情が異なります。本人が違反金を支払わない場合や、注意をしても改善しない場合は、懲戒処分や減給処分を受けても、社員は対抗できない可能性があります。
(ポイント)
1.駐車違反で運転者が出頭しなければ、会社に支払い責任の可能性がある
2.会社には、社員が違反をしないルールづくりが求められる



口頭による採用内定に効力はあるか?


◆口頭で「採用する」と言った場合
A社で働く社員が転職先を探してB社の面接を受けたところ、その場で採用担当者から口頭で「採用する。2カ月後には来てほしい」と言われ、A社にすぐ退職届を出しました。しかし、その後B社が「採用するつもりはない」と態度を変えました。社員が内定取り消しとして損害賠償を求めることは可能でしょうか。

◆内定は両者の合意により成立
法律上、内定は、「始期付解約権留保付労働契約」として一定の拘束力を持ちます。一般の解雇よりも基準は緩いですが、合理的な理由なしに契約を取り消すことはできません。
では、どのような状態なら「内定成立」といえるのかですが、一般的に、雇用する側と雇用される側の意思が合致し、両者の合意があったとみなされた時点で内定は成立するとされています。重要なのは、この「合意の有無」であり、口頭での約束か文書かは判断基準ではないとの考えが一般的です。
ただ、口頭での採用の意思表明は、裁判時の証明が難しいという難点があります。その場合は、身体検査の実施や就業規則の交付などが状況証拠になるといえます。

◆新卒採用と中途採用で違いは?
また、新卒採用と中途採用では合意の判断に若干違いがあります。新卒の場合、試験や面接を経て夏頃までにいったん採用が決まっても、多くの場合、内定通知書の受け渡しや誓約書への署名などの手続きは10月ごろに行われます。
新卒者は何社もかけもちで就職活動を行い、いくつか内定をもらった中から進路を選ぶことが前提のため、誓約書への署名などの前段階で示される企業側の採用の意思表示は「内々定」として一連の手続き後の内定よりは法的な拘束力が緩いといえます。
一方、中途採用の場合は、通常、何社もかけもちで内定を取ることは考えにくいので、企業から採用の意向を示された時点で両者の合意が形成されたとみなされ、内定が成立するといえます。企業の人事権者が、「採用します」、「○月○日から来てください」などと伝えた場合は口頭でも合意が成立したといえるでしょう。
ただ、紹介者などその企業の人事権者以外から伝えられた採用の意向は、内定とは認められません。また、賃金などの条件が話題に上がっていた場合に、それが折り合わないままでは合意があったとは言い切れないでしょう。



出張先で飲酒中のケガは労災の対象になる?


◆出張先の反省会で酒を飲み転倒!
泊まりがけで出張した社員が、夜、上司と反省会と称して飲酒していたところ、酔って転んでケガをしてしまいした。お酒を飲んでいたとはいえ、出張中の行為であるため、労災と認められるのでしょうか。

◆労災認定のポイント
労働者が負傷や死亡した場合、労災になるか否かはまず労働基準監督署長などが認定します。認定されず、異議があれば処分取り消しを求める行政訴訟とすることも可能です。
 労災保険法などの解釈によると、労災認定の可否は、「業務遂行性」(労働者が労働契約に基づいて事業主の支配下にある状態かどうか)、「業務起因性」(業務と傷病との間に相当因果関係が存在するかどうか)の観点から判断されます。

◆出張中は通常よりも業務性の範囲が広い
飲酒時の労災が認められるかは、どの程度「業務遂行性」があるかで異なります。通常の就業日であれば、飲酒が業務性を帯びるのは、会社が費用を負担した接待や、出席が義務付けられた会合などに限られます。それ以外は上司との飲酒でも業務性が認められる可能性はほとんどないといえます。
しかし、出張中は仕事後の飲酒でも通常業務より業務性が認められるケースが広がります。出張では全般的に事業主の支配化にあると考えられ、食事など現地で必要な行為も同様です。宿舎内での飲酒や、飲食施設がない宿舎から近所へ出かけて飲酒した場合も業務中と認められる可能性は高く、上司が同行しているかどうかは問われません。

◆裁判例では
1993年の福岡高裁判決では、出張中に宿泊施設内で同僚と飲酒し酔って階段で足を踏み外し、頭部を強打して死亡した会社員の事例を労災と認定しました。「宿泊施設での飲酒は慰労と懇親の趣旨であり、出張に伴う行為」と判断されました。
一方で、出張時でも事故原因が業務と無関係なら労災と認められないケースもあります。
1999年の東京地裁判決は、出張先での送別会で泥酔し一度宿舎に戻った後、近くの川で、全裸で水死しているのを発見された会社員の事例で、「事故は自らの意思で外出した結果で、業務起因性がなく労災とはいえない」と判断しました。
出張中は、通常より広く業務性が認められ、宿舎で普通に飲んでのケガであれば原則として労災と認められる可能性も高いですが、仕事から逸脱した状態では労災と認められない可能性が高いといえます。



パート労働者に健康保険も適用か?


◆厚生年金と健康保険の両保険適用を検討
現在、パート労働者に対して厚生年金の適用を進める際に、健康保険制度への加入も同時に進めることが検討されています。
年金の場合は、保険料が増えれば加入者が将来受け取る年金が増額されるため、パート労働者からは比較的理解が得やすいといえますが、健康保険の場合、保険料が増えても医療サービスの内容や自己負担額には変わりはなく、負担が増えるだけなので、具体化に向けた議論はかなり難航する可能性がありそうです。

◆負担保険料は年額約55,000円
新たな保険料の負担を強いられるのは、サラリーマンの妻が多く、パート勤務で年間120万円稼いでいる場合、健康保険料の負担は年間55,000円程度になるとする試算結果を厚生労働省は出しています。厚生年金保険料と合わせると、給与から控除される金額が増額され、パート労働者にとっては収入減につながります。
また、厚生年金保険の適用条件を、現行の労働時間の週30時間以上から週20時間以上に広げる検討もなされており、労働時間そのものを減らすパート労働者が出てくる場合も考えられそうです。

◆保険料負担が減る世帯は
夫婦が2人ともパートやアルバイト等の非正社員で、国民健康保険に加入している場合は、健康保険加入により、保険料が減額になる場合があります。国民健康保険にはない制度を受けることができるようになる上に、1年間の保険料も、世帯で約33,000円減額になるとする試算が出ています。

◆健康保険加入で受けられるサービス
被扶養者としてサラリーマンの健康保険に加入している場合に比べると、いくつかの給付等のサービスが増えます。私傷病等で仕事を休業する場合には「傷病手当金」を申請することにより収入の約60%の休業補償を受けることができ、また、女性の場合は「出産育児一時金」に加えて「出産手当金」が、産前・産後休業の期間受け取れます。育児休業をしている期間には、保険料の免除もあり、いくつかメリットもあります。