2007/12/20

1月の事務所便り

派遣先から出向いた小売店で本来業務以外の指示を受けた!

人材派遣会社に登録し、ある食品メーカーで働き始めた派遣販売員。スーパーの店頭で新商品をお客様に推奨する仕事ですが、売り場の担当者に他社商品の陳列までを手伝うように言われました。これには従わなくてはいけないのでしょうか。

◆二重派遣で違法
労働者派遣法の規定では、派遣元の人材派遣会社が労働者を雇い、派遣先の事業主と労働者派遣契約を結ぶことで、派遣先は派遣労働者に指揮命令をすることできます。
上記相談事例では派遣労働者が派遣先からさらに別の事業者に送り込まれています。派遣先が派遣労働者を別の事業者に再び派遣するのは、職業安定法が禁じるいわゆる「二重派遣」です。
ただ、厚生労働省は、「小売店が場所を貸すだけで、派遣販売員が派遣元の販売員メーカーの指示だけに従い、商品を推奨しているなら問題はない」としています。二重派遣に当たるか否かは、勤務場所より、出向いた先の従業員らが何らかの指示を出したかどうかで判断されます。
上記相談例では、派遣労働者が食品メーカーの指示にない陳列業務などを命じられており、二重派遣に当たります。派遣労働者はこのような指示について断わることができます。
 
◆罰則もあり!
自分の雇用への悪影響が不安な派遣社員が派遣元に相談することがあります。労働者派遣法は派遣元の責任者に労働者からの苦情への対応などを義務付けています。
状況が改善されなければ各都道府県の労働局に相談することも可能です。労働局は事実関係を確認、違法行為には是正指導します。派遣先などに職業安定法違反があれば、1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金が定められています。ただ、実際には指導段階で改善され、告発に至る例はまずないようです。
二重派遣を巡るトラブルは労働局などへの相談によって解消されることも多く、裁判例もほとんどないようです。厚生労働省も「それぞれの契約内容にもよる」としており、個別判断が必要なようです。

◆ポイントは?
① 勤務場所が異なるだけでは二重派遣とまではいえない。
② 派遣先の指示に従うだけなら問題はない。
労働力人口 2030年に1,000万人減
厚生労働省の雇用政策研究会がまとめた推計によると、日本の2030年の労働力人口(15歳以上の就業者と求職者)は、現在の6,657万人から1,070万人も減ってしまいます。少子化と高齢化は世界最速で進んでおり、先陣を切って人口減社会に突入します。また、働き手の減少ペースも類をみませんので、“昔ながら”の仕組みでは社会の形を保つのが難しくなっていくことが予想されます。

◆働く仕組み 変革必要に
日本の制度には働ける人まで働けなくしている面があります。例えば、厚生年金では60歳以降も正社員などとして働くと賃金に応じて年金が減ってしまいます。また、企業の採用は新卒の若者が中心。女性パートタイマーの多くは夫の被扶養者にとどまるため、年収130万円未満に仕事を減らすなどしています。新聞によれば、人口増の時代から残る日本流を見直せば約1,000万人分の人材力を引き出せるかもしれないとのことです。
【高齢者1割で300万人】…65歳以上の高齢者は現在約2,700万人で、今後も増え続けます。現在65歳以上で働いている人は約500万人。2,700万人のうち、あと1割が仕事に就いたとすると、約300万人近い働き手が労働力不足を埋めてくれます。
【女性の潜在労働力350万人】…日本は女性の力を十分に活かしきれていません。出産を機に女性の7割が仕事を辞めてしまいます。これは世界でも特有なことです。在宅勤務や短時間勤務の充実で柔軟な働き方を用意し、引き留めることが第一歩となります。家事や子育てで仕事をあきらめている女性は350万人。柔軟な働き方ができれば潜在力が動き出すことができます。
【ニートは60万人】…18~34歳の働き盛りの人口は現在約2,800万人。これが2030年には約1,900万人と3割以上減ります。仕事や学校にも行かず職業訓練も受けていないニートは約62万人。定職に就かない若者のフリーターは約187万人。ニートは定職に就けるよう、フリーターは正社員など失業の心配なく働けるよう、再チャレンジの後押し策をもう一度盛り上げるときがきています。
【先端技術磨けば百人力】…人間に代わる労働力として期待されているロボット。すでに産業分野で日本は世界一のロボット大国です。日本の産業用ロボット稼動台数は約37万台で北米やドイツを大きく上回ります。介護や医療ロボットに商機を見出す会社も増えています。
【外国人向け制度づくり】…高齢化で需要が高まる介護分野。厚生労働省によると政府はフィリピン人の看護師・介護士を受け入れる計画を進めていましたが、フィリピン国会でいまだ認められず、まったくメドがたたないようです。
 経済協力開発機構(OECD)は日本が現在と同じ生産年齢人口を保つには年間約50万人の外国人の受け入れが必要であると試算しています。実際に日本で長期就業が認められた外国人は2005年で約2万人。日本は優秀な外国人が働けるインフラを整えなければ、世界の人材争奪に出遅れてしまいます。
同僚のうつ どう見守ればよい?

厚生労働省によると、うつ病などの気分障害の患者数は約92万人(2005年)です。1996年に比べ2倍以上と増加傾向にあります。職場内にうつ症状と思われる人がいる場合、周囲はどのように対応し、何を心がけるべきなのでしょうか。

◆身体の症状に絞り、医師へのつなぎを
NPO法人MDA(打つ・気分障害協会)は「声をかける際は身体の症状に絞るべき」と忠告しています。
うつ病の人は、睡眠障害や疲労、頭痛などがあることが多く、「寝不足?」などと症状面に絞って声をかければ抵抗感もありません。必要に応じてかかりつけの医師や心療内科の受診を勧めれば自然です。しかし、精神面の症状は本人が自覚していないことが多く、「気晴らしに旅行でも?(お酒でも?)」などの声かけは、「それどころではないのに」と失望し、症状が悪化することがあります。また「うつ」と決めつけての対応もいけません。
また、元気になったように見えても、猛烈に頑張り続けることと症状を繰り返す「双極性障害」等の場合がありますので、あくまでも専門の医師やカウンセラーの診断や治療につなげていくことが大切です。
 
◆職場の見直しがポイント
うつ病は、気配りやコミュニケーションの乏しい職場で起こりやすく、「職場の人間関係や長時間労働を引き起こすような業務遂行上の問題が重なって起きるケース」が多いです。職場でのコミュニケーションの機会を増やし、また日頃から上司が部下を見守るような関係づくりがポイントになってきます。
企業によっては、社員が年一回心身の健康について産業医や保健士と面談したり、管理職が部下の話を上手に聞く「傾聴法」の研修をしたりするなどの対策を実施しています。また、会議で各メンバーが発言する機会を増やすことや毎日5分間の昼礼を開くといった取り組みもあります。いずれにせよ、社内でのコミュニケーションを促すための工夫を積み重ねることがカギと言えるでしょう。

◆ポイントは?
① 身体の症状に絞った声かけをし、精神面での症状の指摘は避ける。
② 医師へのつなぎに徹する。
③ 「うつ病」などと決めつけない。
④ 社内コミュニケーション促進への取り組みをする。

年金財源の税方式化は可能か

現在、全国民が老後に受け取れるはずの基礎(国民)年金の財源について、保険料ではなく、すべて税金で賄ってはどうかとの議論が盛んになっています。保険料の未納という現行制度の大問題が解決されることは魅力的なのですが、現実には解決されねばならない問題があります。

◆保険料に応じた支給が困難
基礎年金の財源をすべて税金にすれば、保険料を支払う必要はなくなり、未納問題は一応解決することになります。しかし、現行制度は保険料を払った期間に応じて年金を受け取る仕組みで、現実問題として、現在の制度と新しい制度をどう結びつけるのか、という問題が生じます。
まず、保険料納付記録を無視して全員に一定の年金を支給する方法があります。しかし、これは不公平感があまりに強すぎます。
次に、全員に一定の年金を支給し、その上に過去の保険料納付に基づく年金も支給する方法があります。この場合では、財源が余計に必要になります。
また、ある日を境に、それ以前は現行制度、それ以降は新制度とし、数十年という時間をかけてゆっくり新制度に移行する方法があります。これが最も常識的なやり方だと思いますがこれにも問題があります。これまでずっと未納で切り替え時にはすでに中高齢になっている人の場合は、無年金や低年金のまま生涯を過ごすということになってしまうのです。未納をなくし無年金をなくすという目的も達成できません。

◆現実を見つめつつも、早々の取組みが必要
実は今も国民年金の財源の3分の1は税金で賄っています。政府は2004年度の制度改革でこの割合を2009年度までに2分の1まで引き上げることを決定しました。このためだけでも消費税率にして1%程度もの税が必要になっています。
年金財源の税方式化は過去に何度も議論されてきましたが、結論はでないまま今日に至っています。また、社会保障制度全体において、医師や介護職員などの不足を解決するため、医療や介護等においても税財源は必要とされている状況の中、現実を見つめつつも早々の議論と新制度への取組みが必要であることは間違いありません。
女性上司が部下を誘惑。セクハラでは?

20代の男性会社員が女性の上司から度々飲みに誘われ、体を触られたうえ交際を求められています。誘いを断ったところ残業を押しつけるなど仕事上厳しく当たるようになったような場合、セクハラ(性的嫌がらせ)として訴えられるのでしょうか。

◆法改正で男性も保護対象に
従来は女性による男性へのセクハラの法的扱いは明確ではありませんでした。平成19年4月施行の改正男女雇用機会均等法でセクハラの範囲が男性にも広げられ、調停対象となりました。
問題は男性へのセクハラの認定基準が確立されていないことにあります。女性へのセクハラに比べ男性への事例はまだ裁判例が蓄積されておらず、平均的な男性が性的羞恥心(しゅうち)心を感じるか否かで判断されているのが現状です。
 
◆「行動や発言に性的な要素が含まれるか」がポイント
例えば性交渉を持ちかけたり、身体に触れてきたりする場合、セクハラと認定される傾向にあります。一方、単にしつこく酒席に誘ったり、恋人の有無を聞いたり、というケースでは、女性への場合と異なり認定されない公算が大きいといわれています。
裁判例もまだ多くないため認定基準を見極めるのは難しいのが現状です。防犯パトロール中の女性職員が、同僚男性がいる浴室に入った行為がセクハラかどうかについて争われた訴訟では、一審では女性のセクハラ行為を認定しました(大阪地裁2004年9月3日判決)が、二審は女性に職務上の目的があったとして男性側の訴えを棄却しました(大阪高裁 2005年6月7日判決)。
セクハラとして認定されない場合は「パワー・ハラスメント」として対処することになりますが、パワハラには法的規制がないため裁量権を大幅に逸脱した事例でない限り救済は難しいようです。
均等法改正で男性へのセクハラについても相談窓口を設置するなど、防止に必要な措置が企業に求められるようになりました。企業がこうした措置をとらないと違法とされ、裁判で使用者責任が問われます。男性へのセクハラはあり得ないと企業側が放置していると、手痛いしっぺ返しを食うことになります。
「男性へのセクハラも、女性へのものと同様と認識することが必要」で、企業はさらにセクハラ防止の意識をとぎすませる必要がありそうです。
 
◆ポイントは?
① 女性へのセクハラに比べ、認定基準が不明確な面もある。
② 男性に対するセクハラも企業の防止処置が必要である。

平成18年「パート労働者総合実態調査」結果

◆5年前に比べ、パート労働者は45万人増加
調査では「正社員」「パート」「その他」に分けていますが、平成13年の前回調査に比べ、正社員が約34万人減少し、パート・その他の労働者が約90万人増加しました。また、パートだけでは約45万人が増加しており、飲食店・宿泊業、医療・福祉、教育・学習支援業においては、パートの依存度が高い状況になっています。

◆パートを雇用する理由
「人件費が割安」が71.0%の断トツで、前回調査の65%を上回っており、労務コストの効率化が強く意識されています。
職務が正社員とほとんど同じパートがいる事業所で、1時間当たりの賃金が正社員よりパートの方が低い割合は77.2%。その理由としては、「勤務時間の自由度が違う」が約73%、「正社員の方が企業への貢献が期待できる」33%などが多いです。

◆一方でパート戦力化の実態
職務が正社員とほとんど同じパートがいるところは約52%。正社員が行っていた業務を半分以上のパートに充てたところが22.3%、1~5割未満のパートに充てたのが19.8%であわせて4割強に上っています。

◆各種の手当や制度の実施状況
通勤手当の支給、定期健康診断、社内行事への参加、慶弔見舞金の支給の実施率が正社員の実施率と比べ低く、顕著な差がみられます。

◆正社員への転換制度
また正社員への転換制度があるのは45.8%で、パート依存率の高い飲食店・宿泊業や医療・福祉では半数を超えていますが、製造業、情報通信業では転換制度を持たない企業が6割を超えています。







労働契約法が成立!

◆法律の目的は?
近年増加傾向にある個別労働紛争の抑制や未然防止に資するため、労働契約に関するルールを整え、個別労使の自主的な交渉の下で、労働契約を円滑に継続させながら、労働者の保護を図るのを目的としています。ただし、罰則はなく、労働基準監督署の行政指導対象にもなりません。

◆労働契約の締結 
労働契約締結の場面において、労使間に交渉力の差があったり、契約内容が不明確なことが多かったりするため、対等の立場で合意原則を明らかにし、できる限り書面による契約内容の確認を行うように求めています。使用者による安全配慮義務も明文化しました。

◆労働契約の変更
就業規則との関係を確認し、原則は就業規則の変更により労働条件を一方的に不利益変更できないとし、その変更に合理性が認められる場合にはこの限りではないとしました。「合理性」が認められる場合とは、労働者の受ける不利益の程度、労働条件変更の必要性、変更後の就業規則の内容の正当性、労働組合などとの交渉の状況を中心にその他の事情を考慮して判断をします。就業規則の変更に関しては、労働基準法上の手続規定しかなく、一般には極めて不明確なのが現状です。

◆労働契約の終了
合理的な理由を欠き社会通念上相当と認められない解雇を無効とする労働基準法の規定を移設し、有期契約労働者の期間中の解雇は、やむを得ない事由がある場合でないと認められなくなりました。











障害者受け入れ派遣先に助成金支給へ

◆障害者雇用に基づく助成金制度の大幅見直し
厚生労働省は、障害者の派遣労働への参入を促進するため、障害者雇用納付金に基づく助成金制度を大幅に見直す方針を打ち出しました。
派遣元への支援に加え、障害者である派遣労働者を受け入れた派遣先に対しても、施設の整備などを念頭に置いた助成策を検討する必要があるとしています。

◆障害者雇用の拡大
平成19年6月1日現在の最新の障害者実雇用率は1.55%で、100人~299人の中小企業に絞ると1.30%(1,000人以上規模1.74%)に留まり依然として低い水準にあります。これを受けて、厚生労働省は、障害者雇用促進法の改正とともに助成金制度見直しの方向で検討に入っています。派遣元・派遣先事業主や短時間労働障害者を雇用する事業主への支援を強化する一方、中小企業へ重点を置いた配分を行い、雇用の拡大につなげたいと考えている模様です。

◆直接雇用者と合算可能
具体的には、各助成金の派遣元に対する支給の考え方を明確化して活用を促すとともに、派遣先が障害者を円滑に受け入れることができるよう態勢整備に向けた支援策を検討するとしています。派遣先は、直接雇用する障害者と受け入れた派遣労働者を合算して助成金を受給できる形とするとしています。
中小企業に対しては、これまで障害者雇用の実績がないケースを考慮して、初めての受け入れの際には一定期間にわたり集中的な支援強化を行い、抵抗感をなくしたいとしています。












労働力不足が深刻化

◆高齢者雇用
少子高齢化の進展、高年齢者の雇用の安定に関する法律の改正を受け、高齢者活用が、企業の大きな課題となっています。今回紹介するのは、厚生労働省「平成19年度高齢者雇用開発コンテスト」最優秀賞を受賞した「部品工業㈱」は、定年のない、勤務形態も自由に設定できるエージレス雇用を実現した事例です。

◆弱者に優しい改善策が奏効
建機車体部品の製造を主とする部品工業株式会社は、少量多品種注文への対応力と製品精度の高さによりメーカー各社からの厚い信頼を得ています。これを支えているのがエージレスで働く高齢熟練社員です。同社は、全社員137人のうち、50歳以上が6割近くを占め、60歳以上の比率は33%と3人に1人以上が高齢者という状況です。また、70歳以上者も6人在職しています。
背景には、新卒者の採用・育成が困難ななか、即戦力確保のため中途採用を活発化させてきたことがあります。技術者の高齢化は深刻で、30~40歳代の熟練工の採用は困難な状況にあったのです。そこで、退職した高齢者で再就職を希望した者を積極的に採用して、これに伴い退職金制度を廃止し、退職金原資は月例給与に組み入れるということを行いました。雇用形態については、正社員(月給制)と準社員(パートかフルタイムの時給契約社員)があり、60歳代の8割は準社員となっています。また、不足する労働力を確保するためには、高齢者を準社員として採用し、高度熟練者から高齢一般工へOJTによる技術指導を実施することで、労働力不足と人件費上昇の問題を同時に解決しています。60歳以降も、いずれも定年とは無関係に、身分を維持できますが、正社員が60歳以降に短時間就労を希望した場合には準社員へ転換できるようにしています。

◆エージレス雇用とは?
勤務形態については、フルに働きたいか、年金併給で余裕を持って勤めたいかなど、ライフスタイルの違いにより選択できるものになっています。月間所定労働時間を正社員=173時間、準社員=173時間もしくは130時間未満から選べ、130時間未満の場合は、週3~5日勤務、月50時間以上~130時間未満という自由度の高い勤務シフトが組めます。
エージレス雇用の推進で大きなポイントを占めるのが職場改善の取組みです。治具・工具をそれぞれの持ち場で工夫したり、ロボットの導入などにより作業能力・スピードアップをもたらし、作業の省力化と安全性と同時に高齢者の働ける職場を拡大しました。熟練者の作業に余裕が出てきたことによって、若手への技術伝承機会も確保できるようになってきました。
 2030年までは、若年者、女性、高齢者などが労働市場参加を実現することで、労働力減少を一定程度緩和できますといわれていますが、同年以降は現在の少子化の影響で若年人口が「激減」する見通しで、今後ますます「熟練労働力」の不足が懸念されます。

2007/11/02

平成19年11月号

「日雇い派遣労働者」にも雇用保険を適用

◆厚生労働省が方針決定
厚生労働省は、1日単位で日払いの仕事に派遣される「日雇い派遣労働者」「スポット派遣労働者」に対しても「日雇い雇用保険」を適用し、日雇い労働者向けの失業手当を支給する方針を固めました。

◆「日雇い雇用保険」とは
もともと「日雇い雇用保険」は、建設作業員など、日替わりで複数の事業所で直接雇用される日雇い労働者の失業対策として始まった制度です。
派遣会社に雇われる日雇い派遣労働者については、職場に直接雇用されるわけではないことから、「制度創設時に想定していない働き方」としてこれまで適用対象となっていませんでした。

◆日雇い派遣労働者の実態
いま、この日雇い派遣が、ワーキングプアの温床となっているといわれています。不安定な雇用実態のため、低収入からいつまでも抜け出せないのです。
日雇い派遣労働者の多くは、前日に携帯電話やメール等で仕事を予約し、直接派遣先に出向いて就労し、日給を手にしています。仕事は毎日保証されず、収入は不安定です。また、多くの仕事は日給が6,000円程度、1カ月フルに働いても月収は12~13万円程度にしかなりません。こうした人々が、現在、家賃が払えないためにインターネットカフェ等に寝泊りする「ネットカフェ難民」としてクローズアップされています。
今回の雇用保険の適用は、不安定な日雇い派遣労働者のセーフティーネットの役割を果たすことになると期待されています。

◆失業手当をもらうには
実際に手当が支給されるためには、1.複数の派遣会社に登録し、職場を転々として不安定な雇用状態にある、2.ハローワークで求職しているなどの条件を満たし、職業安定所で勤務実態が日雇い労働者並みに不安定であると認められる必要があります。受給月の直前2カ月間で、複数の派遣会社から派遣されて26日以上仕事をしていれば、仕事がない日に、勤務状況に応じて日額4,100~7,500円の失業手当を受け取ることができます。

◆今後の課題は?
雇用保険の適用が広がったことは、これまで不安定な雇用状況に置かれていた日雇い派遣労働者にとってよいことでしょう。しかし、このまま不安定な日雇い派遣労働者のままでいてよいのか、という問題は未解決です。
厚生労働省では、「安易な給付は不安定就労を定着させるおそれがある」として、失業認定の際には安定的な職業の紹介にも力を入れていく考えです。
「職場意識改善助成金」新設へ―残業削減などで総額150万円支給


◆職場意識改善の取組みに助成
働き盛りの30代の過労死が社会問題になっています。この問題に関連し、厚生労働省では、平成20年度から「職場意識改善助成金」を新設する方針を固めました。これまでにも施設設備や制度導入に関しての助成金はありましたが、職場意識改善の取組みが助成の対象となるのは、これが初めてとなります。

◆「職場意識改善助成金」とは?
厚生労働省では、平成20年度の重点施策として、「ワーク・ライフ・バランス」の実現を掲げています。仕事と生活の両立が可能となるよう、企業の取組みに対する支援と社会的気運の醸成に力を入れる方針です。
今回の職場意識改善助成金の新設もその一環です。労働時間を減らしたり、有給休暇の取得促進を行ったりすることを目的として打ち出されました。中小企業が、労働時間等設定改善法に基づいて労働時間の適正化・職場の意識改善などを進めるなど業務管理の改善を行い、かつ、年休取得率60%以上または所定外労働を20%削減するなど一定レベル以上の数値目標を達成した場合、助成金が支給される予定です。

◆支給までの流れ
支給対象となるのは、2年間にわたり労働時間などの設定改善に積極的に取り組む意欲があり、しかも一定の成果が期待できる、常時使用する労働者数300人以下の中小企業です。
この助成金を受けたい企業は、まず、労働時間などの設定改善に向けた取組み計画を作成し、「事業主が講ずべき労働時間等の設定の改善のための措置」に基づき、労働時間等設定改善委員会の設置・開催と、取り組み方針などの内外への公表を行うことが必要です。その後、年度終了時に設定改善指標の確認を行い、向上していた場合には助成金が支給される予定です。

◆助成額
 以下の額が支給される予定です。総支給額は、最大150万円となります。
1.1年度目終了後に、設定改善指標が少しでも向上した場合に50万円
2.2年度目終了後に、さらに同指標が向上した場合に50万円
3.2年度目終了時点で、一定の数値目標をクリアしている場合に50万円


国民年金・国民年金基金をめぐる状況

◆国民年金保険料の納付状況
社会保険庁は、2006年度の国民年金保険料の年齢層別の実質納付率を明らかにしました。これは、納付を免除されている失業者や、納付猶予を受けている学生も分母に加えて算出した納付率です。これまでは免除・猶予者を分母から除外して納付率を算出してきましたが、「実態を反映していない」という指摘を受け、初めて実質納付率が算出されました。
社会保険庁の発表によると、全年齢層平均の納付率は49%。年齢層が下がるにつれて納付率は低くなり、40-44歳から下の年齢層はすべて50%を割り込んでいます。
国民年金加入者の2人に1人が保険料を納めていない計算となり、国民年金の空洞化が一段と進んでいる実態が浮かび上がっています。特に、20-24歳の層では26.9%、25-29歳の層では40.4%と、若くなるほど未納が深刻です。
未納分については将来年金が給付されませんから、未納が与える年金財政への影響は少ないものと見込まれますが、今後、無年金で生活保護に頼る人が増えることが懸念されます。
なお、社会保険庁が従来公表してきた公式納付率では、平均が66.3%、最も低い20-24歳の層でも56.2%となっていました。

◆国民年金基金加入の見直し
ところで、国民年金に上乗せして厚生年金に加入しているサラリーマンなどの給与所得者と、国民年金だけにしか加入していない第1号被保険者とでは、将来受け取る年金額に大きな差が生じます。この年金額の差を解消するための上乗せ制度として、第1号被保険者が加入できる「国民年金基金」があります。
厚生労働大臣は、この基金の加入資格を見直し、60~64歳で国民年金に任意加入している人も基金に入ることができるよう検討することを表明しました。実現すれば、満60歳時点で保険料納付期間が40年に足りず、給付を増やすために国民年金に任意加入している60~64歳の約25万人が、基金への加入を認められることになります。併せて、掛け金の最低額の引下げも検討されます。現在、20歳男性で月額9,000円となっている掛け金ですが、6,000円程度まで引き下げられる見込みです。
国民年金基金制度の加入者数は、国民年金加入者の3.3%にとどまっています。今回の見直しは、利用しやすい仕組みにして基金の加入者数を増やし、国民年金の受給者が受け取ることのできる年金水準をかさ上げすることをねらいとしています。
育児休業中の「eラーニング」は労働時間に含まれる?
◆復職者向けプログラムの活用
育児休業中の30歳代女性社員。1年半ぶりに職場復帰しますが、会社にインターネットを通じた復職者向け教育プログラムがあることを知りました。ブランクを埋めるため利用したいと思っていますが、取り組む時間は労働時間として賃金は支払われるのでしょうか。

◆任意による取組みが前提、労働に当たらず
育児・介護休業法で定められている育児休業は、原則、子の出生した日から1歳になる誕生日の前日まで取得できます。2005年施行の法改正で、保育所に入所を希望しながら入れない場合などには子が1歳6カ月に達するまで休業できるようになり、子育てに専念できる時間が長くなりました。半面、職場を長期間離れていたことで、復帰を前に不安に思う女性も少なくありません。
こうした中、スムーズな復帰を目指し、ネットを通じて自宅で新しいパソコンソフトの使い方や英会話、経理知識などを学ぶことのできる「eラーニング」のプログラムを提供する企業も出てきています。プログラムの中には、復帰する職場の同僚や上司のほか、同じ休職者とブログを使ってやりとりできる機能があるものもあります。こうしたプログラムに取り組むことは、労働者側にも有効です。
ただ、「eラーニング」に取り組む時間は、労働時間と認められるのは難しいようです。一見、在宅勤務のように見えますが、あくまで休業中ですから、会社が提供したプログラムであっても、労働者側の任意による取組みが前提とされるためです。

◆プログラムの提供は可、不利益な取扱いは不可
円滑な職場復帰は会社側にもメリットがあるだけに、積極的に活用したいという企業もあります。しかし、厚生労働省職業家庭両立課は、「育児休業法は会社側に、必要な措置を講ずる努力義務を課していますが、労働者側に職場復帰用のプログラムを強制して実施させることはできない」と指摘しています。また、手続上は任意としながら、受講しない女性に職場復帰後に不利益な人事上の取扱いを行うことも、「育児休業法の趣旨に反するものとして許されない」(同課)と注意喚起しています。

◆ポイントは?
1.受講の強制はできないが、プログラムの提供は可
2.受講しない労働者への不利益な取扱いは不可
会社での研究を無断で公表したらどうなる?
◆研究の成果を論文に
メーカー会社勤務の研究職。研究成果が製品にならず気をもんでいたところ、出版社から「成果を論文にして発表しないか」と持ちかけられました。会社を辞めてでも発表したいのですが、会社に無断で大丈夫でしょうか。

◆懲戒や賠償請求のおそれ
研究開発を行う企業は、通常、「実験データなどを会社の事前了解なしに第三者に開示してはならない」などと、就業規則や入社時の誓約書で研究やノウハウの公表を禁じています。「会社に不利な行為はしない」という包括的な懲戒事由は、ほとんどの企業が規則に盛り込んでいます。
会社に無断で研究を公表したり第三者に漏らしたりすれば、就業規則違反で解雇も含む懲戒処分の対象となり得ます。会社を辞めてからの公表であっても、研究の公表に伴う会社の逸失利益について、賠償を求められるおそれがあります。

◆不正競争防止法の営業秘密に当たる可能性も
研究内容の社内での取扱い次第では、不正競争防止法(不競法)上の「営業秘密」に当たる可能性もあります。経済産業省によると、研究データなどが同法の営業秘密となるのは、1.データにマル秘マークを付すなど秘密として管理している、2.企業に役立つ、3.一般に知られていない、といった条件をすべて満たす場合とされています。製品開発などに絡み、社員が業務として取り組んできた研究であれば、通常は営業秘密に該当すると考えられます。その技術を生かした製品の独占販売ができなくなるなど、会社が損害を受けるとわかっているのに研究内容を明かせば、不競法違反に問われかねません。
不競法に違反すると損害賠償と差止請求の対象となるほか、5年以下の懲役、500万円以下の罰金が科せられる可能性があります。同法は損害賠償額算定方法を明示しており、研究内容が営業秘密であれば、そうでない場合より会社側は賠償を求めやすいとされています。

◆ポイントは?
1.無断公表は懲戒処分相当、会社から賠償請求の恐れもある
2.内容が営業秘密に該当すれば刑事罰の可能性もある
医療保険・介護保険自己負担に上限設定
◆医療制度改革の一環
2008年4月から、医療制度改革の一環として、「高額医療・高額介護合算制度」が新たに導入される予定です。これは、医療保険と介護保険の両方を利用する世帯の自己負担が重くなり過ぎないよう、合計額に上限を設けるものです。

◆利用者の負担を軽減
「高額医療・高額介護合算制度」は、国民健康保険・健保組合といった健康保険ごとに、加入者本人と扶養家族の医療と介護サービスの利用額を合計し、一定の負担限度額を超えた分を払い戻す仕組みです。
現在は医療と介護、それぞれで限度額を定めています。このため、例えば同じ世帯に手厚い介護が必要な高齢者と病気などで長期入院する患者がいるような場合、自己負担の合計額が膨らんで負担が過度に重くなることがありました。新制度では医療と介護を合算した負担上限額を設けるため、患者負担額は軽減されます。
負担限度額は、年齢や所得に応じて7段階で設定されており、所得が少ないほど、高齢になるほど、負担が軽くなるように設定されています。75歳以上の人がいる一般所得世帯の年56万円を基本として、年19万円から年126万円まで分けられています。
例えば75歳以上の一般所得者の場合、現在は医療・介護を合わせると最大で年98万円の負担になる可能性がありましたので、新制度の導入後はこの6割程度の負担で済むことになります。

◆保険料引上げにつながる可能性も
利用者の負担が減る一方、高齢化で該当者が急増すると財政負担が増す可能性もあります。
新制度によって高齢者世帯などの負担が減る分は国民健康保険や健保組合などの各健康保険や介護保険の財源から追加で拠出することになりますが、厚生労働省は当面はいまの財源で吸収できる規模とみています。
ただ、日本では高齢化が加速しており、医療や介護にかかる費用はこれからも増えるのが確実です。政府は医療コストの削減や要介護者の減少などをにらんだ取組みを進めていますが、新制度の該当者が増えれば、中長期的には医療や介護の保険料の引上げにつながる可能性もあります。
社会保険加入手続を怠った会社に賠償請求できるか
◆将来受け取る年金額が少なくなる
会社が社会保険の加入手続をしていないことがあります。労働者がそのことを知らないでいると、その期間は保険料を納めていないことになりますから、退職後に受け取る年金も少なくなってしまいます。
こういった場合、加入手続をとらなかった会社に対して、損害賠償を請求できるのでしょうか。

◆「社会保険」とは
健康保険と厚生年金保険を合わせて「社会保険」と呼びます。健康保険法と厚生年金保険法の「適用事業所」に該当する会社の事業主は、雇用者のために社会保険の加入手続を行うことが義務付けられています。
社会保険料は労働者と会社が折半で支払うため、労働者にとって加入のメリットは大きいものです。一方、経営状態が苦しい会社には大きな負担となります。そのため、保険料の支払いを免れようと、加入手続をとらない会社があるのです。しかし、社会保険庁に対して労働者の「被保険者資格取得」の届出をしなかったり、ウソの届出をしたりした会社は、健康保険法と厚生年金保険法の罰則対象になります。

◆損害の立証が難しいことも
では、未加入によって、会社側は民事上の賠償義務を負うのでしょうか。事業主が届出を怠ることは、労働者の法益を直接に侵害する違法なもので、労働契約上の不履行とされる場合もありえます。
ただ、若い労働者の場合、提訴時点では年金受給資格を得られるまで働き続けるかわからず、損害立証が難しくなります。退職して年金を受給している場合は、受けられたはずの年金額の計算ができ、損害額算定が比較的容易です。
 
◆自ら確認を
「確認しなかった労働者の過失」とされないように、加入手続がとられているかどうか確認することが大切です。社会保険事務所に問い合わせれば、「誰が」「いつから」社会保険の被保険者として届けられているか確認することができます。
また、「年齢制限がある」等の虚偽の説明をして、「社会保険への加入資格がない」と言う会社もあります。おかしいと感じたら社会保険事務所や社会保険労務士に相談することが大切です。
4分野を1枚に統一する「社会保障カード」
◆様々な履歴を一元管理
厚生労働省は、社会保障の履歴を一元管理する「社会保障カード」の導入を議論する有識者検討会の初会合を開き、年金・医療・介護・雇用の4つの制度の被保険者証を1枚のICカードに統一することで合意しました。将来は健康診断の結果などの医療情報も閲覧できるようにすることでも合意しています。この社会保障カードは、2011年度をメドに導入される予定です。

◆年金・医療・介護・雇用の4分野
これまで、社会保障カードでどの制度の情報を一元管理するかがあいまいでした。会合では、まず年金・医療・介護・雇用の4分野を管理対象にする方針を確認しました。
社会保障カードは原則国民1人に1枚発行し、年金手帳や健康保険証、介護保険証などの役割を兼ねます。これまで何種類もの証書が必要だったところ、1枚のICカードを持ち運ぶだけでよくなりますから、便利になります。また、パソコンで年金の加入履歴などを確認できるようになるため、公的年金の納付記録漏れなどの不祥事が起きても、加入者が自ら発見できるようになります。
また、将来はICカードで自分の医療情報を見られるようにするなど、柔軟な制度設計にすることとなっています。
 
◆今後の焦点は?
今後の焦点は、4つの社会保障制度が個人にそれぞれ割り当てている番号の統一の問題です。基礎年金番号や住民票コードを使う案、新しい番号で統一する案が浮上していますが、会合では意見がまとまりませんでした。番号を統一せず、1枚のICカードに4つの個人番号を併記する案も出ています。
また、雇用保険が被保険者資格の管理に氏名・生年月日・性別を使っているのに対し、年金ではこれに住所も加えるなど、制度によって必要な管理情報が異なっています。これをどう統一するかも課題となります。
さらに、セキュリティー面の問題もあります。情報管理が甘いと、膨大な情報が一気に流出する危険があります。この点については、内閣官房情報セキュリティーセンターと協力し、セキュリティーを強化するとのことです。

2007/09/29

平成19年10月号

外国人雇用のルールが変わります!
 
◆改正雇用対策法が10月1日より施行
「雇用対策法の一部を改正する法律」が平成19年10月1日から施行されます。外国人雇用に関する改正内容は以下の通りです。

◆外国人雇用状況の届出が義務化
平成19年10月1日から、すべての事業主に、外国人労働者(特別永住者および在留資格が「外交」・「公用」の者を除く)の雇用または離職の際に、当該外国人労働者の氏名、在留資格、在留期限、国籍等を記載してハローワークへ届け出ることが義務付けられます。  
この届出は、雇用保険の被保険者に該当するしないにかかわらず届け出なければならず、届出を怠ったり、虚偽の届出を行ったりした場合には、30万円以下の罰金の対象となります。
また、平成19年10月1日時点ですでに雇用されている外国人労働者についても、改正法施行後1年間(平成20年10月1日まで)に届出の提出が必要となります。これにより、例年行っていた6月1日時点での雇用状況報告書の提出がなくなります。
※上記内容の確認方法は?
〔氏名、在留資格、在留期限、生年月日、性別、国籍〕
→「外国人登録証明書」または「旅券(パスポート)」
〔資格外活動許可の有無〕
→「資格外活動許可証」または「就労資格証明書」

◆外国人労働者の雇用管理の改善が事業主の努力義務に
 事業主は、外国人労働者について労働関係法令および社会保険関係法令を遵守し、外国人労働者が適切な労働条件および安全衛生の下、在留資格の範囲内で能力を発揮しつつ就労できるように、次に定める事項について、適切な措置を講ずるように努めなければなりません。
1.外国人労働者の募集および採用の適正化2適正な労働条件の確保3.安全衛生の確保4.雇用保険、労災保険、健康保険および厚生年金保険の適用5.適切な人事管理、教育訓練、福利厚生等6.解雇の予防および再就職援助


6.4%の事業所が最低賃金法違反

◆全国1万1,120事業所を一斉監督
厚生労働省は、2007年6月に全国1万1,120事業所に実施した最低賃金に関する一斉監督の結果、約6.4%にあたる707事業所で最低賃金法違反が見つかったと発表しました。

◆業種別では「衣服その他の繊維製品製造業」がトップ
地域別最低賃金適用事業場のうち、違反が多くみられた業種は、順に、衣服その他の繊維製品製造業(違反事業場数110、監督実施事業場に対する違反率7.7%)、クリーニング業(同86、9.3%)、食料品製造業(同86、7.1%)、繊維工業(同43、7.1%)、飲食店(同43、3.9%)、理美容業(同38、5.4%)、ハイヤー・タクシー業(同18、16.8%)でした。

◆最低賃金に満たない労働者の7割は女性
監督実施事業場において最低賃金額未満の賃金しか支払いを受けていない労働者数は2,051人であり、監督実施事業場の労働者数に占める割合は1.2%でした。
このうち女性が1,384人(67.5%)、パート・アルバイトが1,168人(56.9%)、障害者が284人(13.8%)、外国人が150人(7.3%)となっています。

◆違反率はわずかに改善
 2007年1月~3月に監督指導を実施したのは9,102事業場であり、そのうち最低賃金法に違反した事業場は666事業場で、違反率は7.3%でした。また、監督実施事業場において、最低賃金額未満の賃金しか支払いを受けていない労働者数は2,150人であり、監督実施事業場の労働者数に占める割合は1.7%でした。今回の結果より、わずかに減少したことがわかります。
厚生労働省では、最低賃金遵守のための、今後とも事業所に対する指導の強化に努め、最低賃金の周知徹底を図るとしています。



製造業の「偽装請負」防止へガイドライン

◆発注者と下請会社が取り組むべき措置
製造業の工場における構内下請けなどをめぐっては、「偽装請負」などの法令違反や、労働者が勤続を重ねて技能や技術を習得しても賃金が増えないなどの問題が指摘されています。

◆チェックシートも盛り込む
 厚生労働省は、下請会社(請負事業者)・発注者それぞれが取り組むべき措置に関するガイドラインおよびチェックシートを作成し、その周知・啓発を6月下旬に都道府県労働局長に通達しています。
通達で示されたのは、以下の5つとなっています。 
製造業の請負事業の雇用管理の改善および適正化の促進に取り組む・・・
・請負事業主が講ずるべき措置に関するガイドライン
・発注者が講ずるべき措置に関するガイドライン
・請負事業主が講ずるべき措置に関するガイドラインのチェックシート
・発注者が講ずるべき措置に関するガイドラインのチェックシート
・請負事業主および発注者が講ずるべき措置に関するガイドライン
 
◆労働力の貸し借りは原則禁止
製造業で一般に利用されている労働形態には、主に、1.出向(在籍型)、2.労働者派遣、3.請負契約による外注、4.業務委託契約による外注の4つがあります。
職業安定法44条により、労働者派遣と厚生労働大臣の許可を得て労働組合などが無料の労働供給事業を行う場合を除き、労働者供給事業を行うことおよびこうした業者から供給される労働者を自らの指揮命令の下に労働させることは禁止されています。

◆発注者が指揮命令すれば「偽装請負」に
請負か業務委託かは、契約の目的が仕事の完成にあるか、それとも業務の処理にあるのかによって異なりますが、どちらも製造業が下請業者の労働者を使用すること、すなわち、指揮命令を行うことが許されない点では同様です。
形式的に請負契約や業務委託契約を締結していても、実態は、発注者が請負業者・受託業者の労働者を指揮命令しているなど、請負・受託の基準を満たさない場合、実態は労働者派遣とみなされ、「偽装請負」とされることになります。 

 
「適年廃止」まで5年を切っています

◆平成18年度の適年解約企業の44.8%が中退共を選択
平成18年度における、税制適格退職年金制度(適年)から中小企業退職金共済制度(中退共)への移行企業数は2,779社(前年度比30.3%減)、従業員数は78,686人(前年度比37.1%減)でした。減少の原因は、平成17年4月から適年資産の全額移換が可能となったことにより、平成17年度の移行企業数が一時的に増加したこととみられます。
なお、平成18年度中に適年を解約した企業のうち、中退共に移行した企業の割合は44.8%、平成14年度から18年度までの5年間では33.6%となっています。

◆適年は平成24年3月末で廃止
適年は平成24年3月末で廃止されることから、企業に残された期限はあと5年を切っています。加入企業としてはそれまでに他の企業年金制度に移行するなどの対応が必要であり、中退共は有力な移行先の1つになっています。
平成16年度までは適年資産移換限度額(378万円)があったため、限度額を超え移換できない金額が従業員に返戻(一時所得)されてしまうことが、移行を妨げる要因の1つになっていましたが、前述の通り、平成17年4月より適年試算を全額移換できるようになりました。
平成18年度に入ってからは月平均231社が中退共に加入しています。この結果、平成18年8月には適年から中退共への移行企業数は1万社を突破し、平成14年4月から平成19年3月末までの5年間で移行企業総数は11,780社、従業員総数は338,581人となっています。



「裁判員制度」スタートで企業の対応は?

◆大手企業では「裁判員休暇制度」導入を検討も
2009年(予定)に「裁判員制度」(「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律」に基づき一般国民が刑事裁判に参加する制度)がスタートするのを控え、社員が裁判員に選ばれて裁判手続に参加する場合に有給休暇として扱う「裁判員休暇制度」の導入を検討している大手企業が増えているようです。

◆有給か無給かは企業の考え方次第
裁判所では、審理にかかる日数については「概ね1週間程度」との見通しを示していますが、それ以上に長引くケースが出てくることも考えられます。原則として、選ばれた国民は辞退はできません。やむを得ない理由がある場合は辞退を認められますが、その基準についてはまだ不透明な部分があります。
労働者が裁判員となるために休みを取ることは、公民権の行使として法律上認められ、仕事を休んだことを理由に会社が不利益な扱いをすることは禁じられています。ただし、有給とするか無給とするか、就業規則での規定化などは企業に任されているため、どのような支援体制を設けるかは企業の考え方次第といえます。

◆有給休暇制度創設は企業の社会的責任?
確率的に多くの社員が裁判員やその候補になる可能性が高い大企業では、CSR(企業の社会的責任)の一環として、「特別有給休暇」を創設する方向性を打ち出しているところが多いようです。人員体制に余裕のない中小企業では頭の痛い問題といえるでしょう。

◆裁判員の選出方法
1.選挙人名簿から1年分ずつ、くじで裁判員の候補者が選ばれます。名簿に載った時点で本人に通知がきます。
2.事件ごとに候補者の中からまた50~100人程度がくじで選ばれ、裁判所に呼び出されます。
3.その中から裁判員6人を選出します。
年間で3,500人に1人が裁判員または補充裁判員になり、候補者として裁判所に呼び出される人数はその10倍とみられています。



特定求職者雇用開発助成金が変わります

◆「特定求職者雇用開発助成金」とは?
特定求職者雇用開発助成金とは、高年齢者や障害者などの就職困難者をハローワークまたは適切な運用を期すことができる有料・無料職業紹介事業者の紹介により、継続して雇用する労働者として雇い入れる事業主に対して、賃金相当額の一部の助成が行われるものです。

◆現行の制度(定率方式…一定割合を助成)
1.高年齢者、障害者、母子家庭の母等(2以外の対象者)
・助成率…(大企業)4分の1(中小企業)3分の1
・助成期間…1年(6カ月ごとに2回)
2.重度障害者等(重度障害者、45歳以上の障害者、精神障害者)※短時間労働者を除く
・助成率…(大企業)3分の1(中小企業)2分の1
・助成期間・・・1年6カ月(6カ月ごとに3回)
※短時間労働者は上記1の助成率に3分の2を乗じます。

◆平成19年10月からの変更後(定額方式…一定額を助成)
1.高年齢者、障害者、母子家庭の母等(2、3以外の対象者)
・助成額…(大企業)50万円(25万円+25万円)(中小企業)60万円(30万円+30万円)
・助成期間…1年(6カ月ごとに2回)
2.高年齢者、障害者、母子家庭の母等(短時間労働者)
・助成額…(大企業)30万円(15万円+15万円)(中小企業)40万円(20万円+20万円)
・助成期間…1年(6カ月ごとに2回)
3.重度障害者等(重度障害者、45歳以上の障害者、精神障害者)※短時間労働者を除く
・助成額…(大企業)100万円(33万円+33万円+34万円)(中小企業)120万円(40万円+40万円+40万円)
・助成期間…1年6カ月(6カ月毎に3回)



パートタイム労働法の改正内容

◆来年4月から施行されます
少子高齢化、労働力人口減少の状況を踏まえ、パート労働者が能力を一層有効に発揮することができる雇用環境を整備するため、パートタイム労働法が改正されました。
施行までに、改正法に沿った対応が必要となります。以下、改正のポイントをまとめてみました。

◆雇入れの際は労働条件を文書などで明確に
一定の労働条件について、明示が義務化されます(改正法6条)。また、待遇の決定にあたって考慮した事項について説明することが義務化されます(改正法13条)。

◆パート労働者の待遇は働き方に応じて決定を
パート労働者は、繁忙期に一時的に働く方から正社員と同様の仕事に従事し長期間働く方まで、その働き方は様々です。このため改正法では、パート労働者の待遇について、正社員との働き方の違いに応じて均衡(バランス)を図るための措置を講じるよう規定しています。
具体的には、「職務」、「人材活用の仕組み」、「契約期間」の3つの要件が正社員と同じかどうかにより、賃金、教育訓練、福利厚生などの待遇の取扱いをそれぞれ規定しています。

◆パート労働者から正社員へ転換するチャンスを
正社員への転換を推進するための措置(以下の措置またはこれらに準じた措置)を講じることが義務化されます(改正法12条)。
<講じる措置の例>
・正社員を募集する場合、その募集内容をすでに雇っているパート労働者にも通知する。
・正社員のポストを社内公募する場合、すでに雇っているパート労働者にも応募する機会を与える。
・パート労働者が正社員へ転換するための試験制度を設けるなどの転換制度を導入する。

◆パート労働者からの苦情の申出に対応を
パート労働者から苦情の申出を受けたときは、事業所内で自主的な解決を図ることが努力義務とされます(改正法19条)。
紛争解決援助の仕組みとして、都道府県労働局長による助言、指導、勧告、紛争調整委員会による調停が設けられます(改正法21、22条)。

2007/08/30

平成19年9月号

社会保険審査請求が10年で約3倍に

◆不服申立て件数が急増
年金など社会保険をめぐり都道府県社会保険事務局の社会保険審査官に寄せられた不服申立件数は、過去10年で約3倍に急増しているそうです。厚生労働省は詳細な内訳を公表していませんが、多くは障害年金をめぐる不服とみられています。
5,000万件に上る年金記録漏れ問題の発覚前から、年金制度全体への不信が強かったことの裏付けともいえるでしょうか。

◆増加の原因は「よくわからない」?
年金や健康保険など社会保険に対する不服申立ては、社会保険審査官と社会保険審査会の二審制がとられています。不服申立て件数の急増について、厚生労働省や社会保険庁は「原因はよくわからない」としています。
厚生労働省によると、全国の社会保険審査官に対する申立件数は、1997年度の受付け分と前年度からの繰越し分を合わせた合計は1,637件でしたが、2006年度は5,076件と約3.1倍に急増し、過去10年間増加し続けています。

◆多くは障害年金関連
これまで厚生労働省は、申立て理由ごとの詳細な内訳は公表していませんでしたが、2004~2006年度の処理済み案件について、その内訳を明らかにしました。2006年度の処理状況をみると、申立て5,076件のうち、同年度内に3,542件の処理が行われ、年金関連は約75%にあたる2,639件でした。そのうち障害年金をめぐる処理は2,349件で、処理済み件数全体の約66%に上っており、不服申立ての多くは障害年金です。障害年金については各年度2,000件前後が処理されており、主に障害認定などについて不服が寄せられているとみられています。
対象者がわからない年金支払記録が約5,000万件に上っている問題に密接に絡むと思われる老齢年金についても、各年度160件前後の処理がなされているそうです。


仕事で手に入れた名刺は誰のもの?

◆転職時に返却を求められた
営業職の会社員。転職しようと思い会社に申し出たら、「業務上手に入れた名刺はすべて置いていけ」と言われました。自分が汗水流して手に入れた顧客の名刺は自分のものではないのでしょうか。

◆秘密指定外なら個人のもの
退職者に対し、秘密漏洩の防止策などを講じている会社は少なくありません。不正競争防止法では、企業の内部情報が「営業秘密」として保護されるための要件として、1.施錠できる場所で保管するなど秘密として管理されている、2.事業活動に有用な技術上・営業上の情報である、3.公然と知られていない事柄であることを挙げています。
問題は、「名刺といえども職務上入手した情報は営業の秘密といえるのか」、「漏洩防止策など会社の意向を書面などで周知させる必要があるのか」どうかということです。

◆裁判所の判断は?
労働者が職務上手に入れた名刺が営業秘密でない場合、退職後も自由に使えることができ、ライバル社への転職禁止契約が労使間にない場合は労働者には転職の自由があり、前職で培われた能力や情報を使用できるとされています。
前職で入手した名刺などを転職後も利用した元社員に会社側が損害賠償などを求めた裁判例があります。2001年、東京地裁は「保管、利用などを制約する労使間の取り決めがない」として名刺を営業秘密とは認めませんでした(一審で確定)。実際、名刺は労働者が各自で管理することが多く、名刺を営業秘密として会社が管理するのは難しいだろうとしています。

◆秘密扱いにするには契約や規定での周知が必要
職務上知り得た情報を、個人情報保護などを理由に労使間で秘密保持契約を結んでいたり、社内の秘密管理規定などで社員に周知したりしている場合、会社が名刺などの返却を強制しても問題はないとされるようです。
書面で取り決めがない場合はどうでしょうか。2007年、大阪地裁は「内部情報のすべてを『営業秘密』とする労働者の職業選択の自由を過度に制限する」として、職務上、入手した情報などを営業秘密だと会社が規定するには、その情報が営業秘密であることを認識できるようにし、アクセスできる者が制限されていることが必要と判断しました(現在、原告企業側が控訴中)。


失敗しない介護事業者選びのポイントは?

◆相次ぐ介護事業者の不祥事
このところ、介護事業者をめぐる法令違反が相次いで報道されています。事業者が自治体から指定取消しなどの処分を受けた場合に不利益を被るのは、施設の移動やヘルパーの変更などを余儀なくされる利用者自身です。優良な事業者をきちんと選ぶためのポイントをおさえておきましょう。

◆施設選びでチェックすべきこと
華美で明るい施設はどうしても良く見えますが、「見掛け倒しにだまされない」ことが肝心で、優良事業者を見抜く目を養うにはできるだけ多くの施設を見て回ることが大事です。
施設選びのチェックポイントとして、いす・テーブルの高さやベッドの幅があります。食堂をよく見ると様子がわかります。小柄な高齢者が、高すぎるテーブルで食事をしていれば、家具が体に合っていない証拠です。ベッドの幅が狭ければ、寝返りを打つスペースが確保できず、起き上がるのが困難になります。いずれも自力での生活を阻害する要因となり、事業者の真心と優しさが具体化されているかいないかがわかります。
電話の対応の仕方だけをとってもかなりの判断材料になります。

◆積極的な情報収集を
利用する前に必要なケアについて話し合うなど、自から積極的に情報を集めていくしかありません。そうして初めてわかることは少なくありません。また、問題のある事業者を避けるためには、ヘルパー交代の際に引継ぎがうまくいっているかどうかを見る必要があります。引継ぎがうまくいかないのは、事業所で監督的な立場にある人の能力がなかったり、不在だったりして、ヘルパーへの指導が行き届いていない可能性があるからです。その他、ケアマネージャーが作ったプランにのみ頼る事業者も注意が必要です。
入所後に、法令違反を感じたり、サービスに納得できなかったりする場合は、遠慮せずに解除や変更を申し出ることも大切です。



「中小企業労働時間適正化促進助成金」について

◆労働時間適正化の取組みに対して支給
厚生労働省は「特別条項付き時間外労働協定」を締結している中小事業主が、労働時間の適正化に取り組んだ場合に支給する助成金(中小企業労働時間適正化促進助成金)を創設しました。

◆助成金創設の背景
近年、労働時間が週35時間未満の労働者と週60時間以上の労働者がともに増加する「労働時間分布の二極化」の傾向がみられ、また、年次有給休暇の取得率は9年連続で低下しています。こうした中、過重労働による脳・心臓疾患の労災認定件数が高水準で推移し、精神障害等の労災認定件数も増加するなど、長時間労働による健康障害が社会問題化しています。
労働者1人ひとりの心身の健康が保持されるとともに、家庭生活、地域活動、自己啓発等に必要とされる時間と労働時間を柔軟に組み合わせ、心身ともに充実した状態で意欲と能力を発揮できるような環境を整備していくことが重要となっています。

◆対象となる事業主は?
「特別条項付きの時間外労働協定」を締結し、決められた目標を盛り込んだ「働き方改革プラン」(実施期間1年間)を作成し、都道府県労働局長の認定を受け、そのプランの措置を完了した事業主が対象です。

◆「特別条項付きの時間外労働協定」とは?
36協定(時間外労働および休日労働に関する協定)で定める延長時間は「限度時間を超えないもの」としなければなりませんが、限度時間を超えて労働時間を延長しなければならない「特別の事情」が生じたときは、限度時間を超える一定の時間まで労働時間を延長することができる旨を協定すれば一定期間についての延長時間は限度時間を超える時間とすることができます。この協定を「特別条項付き協定」といいます。

◆支給額は?
都道府県労働局長の認定を受けた「働き方改革プラン」に従い、1.特別条項付き時間外労働協定や就業規則等の整備を行った段階で50万円、2.時間外労働削減等の措置および省力化投資等の措置または雇入措置を完了した段階で50万円の合計100万円が支給されます(ただし、2.を完了しなかった場合、1.は全額返還しなければならない)。
助成金の詳細については、都道府県労働局労働基準部監督課にお問い合わせください。


企業の「生産性向上」には何が必要?

◆企業の生産性向上に向けての課題
先ごろ政府が了承した2007年度の「経済財政白書」(年次経済財政報告─生産性上昇に向けた挑戦─)では、「生産性の上昇」に焦点をあて、企業に積極的な対応を求めている点が大きな特徴となっています。白書では、企業がITを導入しても有効に活用できていないため生産性向上につながらず、組織改革が遅れていると分析しています。

◆M&Aは生産性向上の有効な手段?
白書では、M&A(企業の合併・買収)が生産性向上の有効な手段の1つであると位置付けています。日本ではコスト削減を目的としたM&Aが主流で、高収益企業ほどM&Aに積極的に関与していると言われていますが、白書では生産性を意識したM&Aの展開を促しています。

◆賃金伸び悩みの理由はどこに?
白書では、景気拡大が続く中にあって従業員の賃金が伸び悩んでいる理由について、複数の要因が複合的に作用しているとしています。「景気回復が進めば所得格差が縮まる」という、従来の考えが信頼できなくなっている現状も報告されています。
内閣府は、専門家の間で通説となっている「賃金の低い非正社員の増加」、「高額所得者である団塊世代の一斉退職」、「高所得産業から低所得産業への転職」、「地方公務員の賃金の低下」の4つを検証しましたが、「いずれの要因も単独では賃金動向を説明しきれないが、押し下げる方向に作用している点は確認できた」と結論付けています。

◆政府の目標は「労働生産性の伸び率を5割アップ」
政府は、1人あたりの労働生産性の伸び率を5割アップさせることを目標に掲げています。目標の達成には格差是正への対策も求められ、政府の役割が一層大きくなっているといえるでしょう。



「年金時効撤廃特例法」とは?

◆時効撤廃で未支給分も全額支給に
これまで、年金記録が訂正されて年金が増額した場合であっても、時効消滅により直近5年間分の年金しか受け取ることができませんでしたが、年金時効撤廃特例法(厚生年金保険の保険給付及び国民年金の給付に係る時効の特例等に関する法律)の成立(7月6日公布・施行)により、5年より前の期間分の年金についても遡って受け取ることができるようになりました。
施行日以降の手続受付状況は、7月6日~31日までで7,896件となっています(社会保険庁8月1日発表)。

◆対象となる人は?
すでに年金記録の訂正により年金額が増えた人や、年金の受給資格が確認されて新たに年金を受け取ることができるようになった人は、年金(老齢、障害、遺族)の時効消滅分について、全期間遡って受け取ることができます。
また、遡って受け取れる人が亡くなっている場合は、その遺族(亡くなられた当時、生計を同じくされていた人に限り、配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹の順となります)に、未支給年金の時効消滅分が支払われます。

◆これまでに適用が認められた人は?
社会保険庁は、7月19日に145人(平均支給額約51万円)について同法の適用を初めて認め、さらに7月24日に108人(平均支給額約84万円)に適用を認めました。これらの人には8月15日に未支給分が銀行口座などに振り込まれる予定で、同庁では、今後も額が確定した人から順次支給していくとしています。


「ワーク・ライフ・バランス」で従業員の満足度アップ?

◆「ワーク・ライフ・バランス」とは?
「ワーク・ライフ・バランス」とは、仕事と家庭生活を調和させることで、働く人が、仕事上の責任と、仕事以外の生活でやりたいことの両者を無理なく実現できる状態のことです。1980年代に欧米で起こった考え方であり、「働き手の確保や少子化対策、着実な経済発展を続けるために重要である」と、厚生労働省が発表した今年の「労働経済白書」でも唱えています。

◆「ワーク・ライフ・バランス」の効果
労働者にとっては、安心・納得できる働き方を選択することにより、心身ともに充実した状態で働くことができます。
一方、企業にとっては、従業員の満足度を高めることにより、優秀な人材の確保・定着を図ることができるといわれています。

◆「ワーク・ライフ・バランス」と今後の雇用システムの展望
仕事と仕事以外の時間の両方を充実させたいと考えていても、雇用が安定せず、時間や給与額に余裕がなければ、現実には実現はなかなか難しいものです。
日本の雇用システムは長期雇用を基本としながら、労働関係の個別化が進んでいます。働く人一人ひとりが、職業生活における各々の段階において仕事と生活を様々に組み合わせ、バランスの取れた働き方を安心・納得して選択できるような柔軟な働き方の実現が、今後ますます重要な課題になっていくでしょう。


中途採用人数が増加傾向に

◆企業、中途採用に意欲?
リクルートが行った調査結果によると、2007年度の企業の中途採用予定人数が、前年度を4.4%上回ったそうです。
中途採用予定人数を企業規模別でみると、従業員300~999人規模(前年比8.0%増)、1,000~4,999人規模(同3.0%増)、5,000人以上規模(同8.2%増)で増加している一方、5~99人規模(同13.9%減)や100~299人規模(同0.7%減)では減少しており、従業員数300人を境に差がみられました。
また、業種別では、不動産業(同37.3人増)、情報通信業(同23.3人増)、機械製造業(同19.9人増)など、専門知識や経験が求められる業種で中途採用予定人数が増えています。


◆業種別に見た傾向
業種別では、1位は不動産業(前年比31.7%増)でした。中途採用予定の伸び率は大幅なプラスとなっていますが、新卒採用予定の伸び率は全体の平均を下回っていることから、中途採用に対する強い意欲がうかがわれます。
一方、サービス業では中途採用予定の伸び率はマイナスとなったものの、新卒採用予定の伸び率は11.5%増と平均以上で、中途よりも新卒採用に強い意欲を示す企業が多いと考えられます。
建設業や運輸業では、中途・新卒採用予定の伸び率ともに大幅なプラスとなった一方で、機械以外の製造業では、伸び率は大幅なマイナスとなり、業種によるばらつきがみられました。

2007/07/25

平成19年8月号

テレワーク(在宅勤務)の拡大に向けた動き

◆テレワーク人口倍増に向けた政府の行動計画
ITを活用して自宅や外出先などで仕事をする「テレワーク」人口の倍増を目指す政府の行動計画がこのほど明らかになりました。雇用保険が適用される在宅勤務の対象を広げるほか、政府でも、2007年度中に全省庁でテレワークを試験導入するそうです。少子高齢化が加速する中で、女性や高齢者などの「眠れる労働力」を活用しやすい環境を整えます。

◆テレワークは労働力確保の切り札?
政府は、テレワークについて、仕事と生活の調和(ライフワークバランス)の実現や人口減少時代における労働力確保などの切り札になると考えています。
テレワークは、情報通信機器などを使って、時間や場所にとらわれず柔軟に働く働き方です。通勤が不要で、労働時間を自由に設定できるなど、育児をする女性などにとっては使い勝手のよい働き方だといえます。
政府の行動計画では、2010年までを「テレワーク集中推進期間」に設定し、テレワーク人口を2005年に比べて2倍に増やし、就業者人口に占める比率も2割に引き上げることを目標としています。

◆テレワーク人口の増加なるか?
テレワーク普及の方策としては、1.制度環境の整備、2.情報通信システム基盤の整備、3.分野別の推進施策の3つが掲げられています。
現在は、在宅勤務者で雇用保険が適用される業務は、新商品開発や編集など特定の業務に限定されていますが、政府の行動計画では適用業種を広げるとしています。
 通信システム基盤の整備では、政府が独自にテレワークを試行・体験するシステムを構築するとしています。最先端技術やサービスを活用した先進システムの実証実験も始まります。政府では、テレワークを2007年度中に全省庁で試行し、順次本格導入していく方針だそうです。


日本の人口はこれからどうなる?

◆「人口減少時代」に突入へ
国立社会保障・人口問題研究所が発表した都道府県別の将来推計人口により、2025年からすべての都道府県で人口が減少する見通しが明らかになりました。高齢化も進み、2035年には44都道府県で65歳以上の人口が3割を超えるようです。出生率は上昇していますが、中長期の人口減少は避けられず、都市部への人口集中もいっそう進む見通しです。

◆人口の減少と都市部への人口集中
この調査は、2005年の国勢調査の結果や都道府県ごとの合計特殊出生率(女性が生涯に産む子供の数。中位推計)などをベースに、2005年から2035年までの都道府県別の人口を推計しています。
都道府県別の人口は、2010年から2015年にかけては東京、神奈川、愛知、滋賀、沖縄を除く42都道府県で減少します。2015年から2020年には人口が増えるのは東京と沖縄だけになり、さらに2020年から2025年は沖縄だけになり、2025年以降は人口が増える都道府県がゼロになります。また、都市部への人口集中が進み、日本の総人口に占める東京の人口割合は、2025年の9.8%から2035年には11.5%に上がるとされています。
2005年と比較した人口が2035年時点で増えているのは東京と沖縄のみです。和歌山や秋田ではこの間に約3割も減る見通しです。
 
◆各都道府県で少子高齢化が進展
今回の推計では、各都道府県での少子・高齢化の進展の見通しも明らかになりました。総人口に占める若年人口(0歳から14歳)の割合は、2005年から2035年までの期間を通じて全都道府県で減少します。
都道府県別では、年少人口の割合は、2005年は18.7%と全国一の沖縄でも2035年には13.3%に低下します。2005年に11.5%で最下位の東京では8.0%に下がります。
65歳以上の高齢者人口の割合は、全国では2005年の20.2%から2035年には33.7%に上がります。特に秋田では41.0%、和歌山では38.6%まで上昇します。2000年から2005年の合計特殊出生率の平均値が1.78%と全国で最も高い沖縄でも、27.7%と3割に迫っています。
2005年に約1億2,700万人だった日本の総人口は、出生率が中位推計(長期平均1.26)で2030年には約1億1,500万人に、高位推計(同1.55)でも約1億1,800万人といずれも減少する見通しです。


改正高年齢者雇用安定法施行から1年、企業の状況は?

◆60歳以降の雇用確保実施企業は約98%
改正高年齢者雇用安定法の施行で60歳以降の雇用確保が事業主に義務付けられた2006年4月以降、約98%の企業で再雇用や定年の引上げなどの措置を講じていることが、労働政策研究・研修機構の調査でわかりました。
高齢者の雇用確保は、改正高年齢者雇用安定法に基づく措置です。定年が65歳未満の企業は、年金の支給開始年齢の段階的引上げに合わせ、1.定年の引上げ、2.再雇用制度や勤務延長制度など継続雇用制度の導入、3.定年廃止のいずれかを選ばなくてはなりません。

◆「元管理職」の処遇に悩む企業
この調査は、2006年10月1日時点における制度の整備状況を各企業に聞いたものです。従業員300人以上の民間企業5,000社に質問票を送付し、1,105社から回答を得たそうです。調査結果では、定年後の再雇用制度を導入している企業が91.3%に上りました。勤務延長制度や定年の引上げなどを導入した企業と合わせると、98.4%の企業が、何らかの措置を講じていました。
継続雇用する対象者については、72.2%が「健康や働く意欲、勤務態度などで基準に適合する者」と条件付きで対象としており、「希望者全員」としている企業は24.6%にとどまりました。高年齢社員の処遇で困る点では「担当する仕事の確保が難しい」(39.6%)、「管理職経験者の扱いが難しい」(38.9%)、「継続雇用後の処遇の決定が難しい」(24.5%)、「高齢社員を活用するノウハウがない」(19.1%)などが上位を占めています。
 同機構は、「制度はできあがったが、今後は再雇用した人の活用方法や、現役社員との関係、勤務形態を整備していく必要がある」と指摘しています。 


75歳以上を対象とした新・医療保険制度

◆来年4月から「後期高齢者医療制度」がスタート
2008年4月から、75歳以上の高齢者を対象とした医療保険制度(後期高齢者医療制度)が動き出す予定です。開始まで1年を切りましたが、詳細が決まっていない点もあり、中身はよく知られていないようです。保険料負担や医療の内容はどのように変わるのでしょうか。

◆保険料は厚生年金受給者で平均「月約6,200円」か
新制度は、2006年6月に成立した医療改革関連法で導入が決まりました。複数の病気を持つことも珍しくない75歳以上を、現役世代の医療保険と別建てにし、効率化を進めて医療費を抑制するのがねらいです。都道府県ごとに全市町村が参加する広域連合が運営予定のため、保険料も都道府県単位で決定します。
保険料については、各広域連合で保険料を定める条例が今秋以降でないと制定できない見通しで、保険料負担額は今のところ不明です。ただ、厚生労働省が公表している全国平均の保険料の目安が手掛かりとなり、「年208万円」という平均的な厚生年金受給者の場合、保険料の目安は「月約6,200円」となります。また、75歳未満の配偶者がいる場合は別途配偶者の保険料も支払いますので、今よりも負担増になると見られています。
全般的には地域や所得の状況によって負担が増えるか減るかは一概には言えませんが、明確に負担増になる人もいます。会社員の子供の被扶養家族になり、子供の会社の健康保険を利用している高齢者です。従来は高齢者自身は保険料を負担していませんでしたが、新制度では年金収入に応じた保険料を負担する仕組みに変わります。急な負担増を防ぐため、制度加入時から2年間は本来の保険料の最大半額(定額部分)となります。

◆医療保険・介護保険の合計負担額に上限設定
病院や診療所で治療を受けたとき、窓口での患者負担はどうなるのでしょう。75歳以上の場合、かかった医療費の原則1割を負担するというのは従来と同じです。所得が現役並みに多いと判定された場合は、現役世代と同様の3割負担となるところも変わりません。
2008年4月の新制度からは、医療保険と介護保険の患者(自己)負担の合計額に上限が設けられます。これまでは、医療と介護それぞれに1カ月当たりの負担上限などが決まっていましたが、医療と介護の両方を利用している方の負担が著しく高額にならないよう、年間の合計額にも上限を設けることにしました。
一般の合計負担額の上限は年間56万円で、これを超えると超えた分が戻ります。ただし、利用者の側から役所に申請しないと戻ってこない仕組みになりそうです。


6月から住民税がアップ

◆6月は5月より税金が増えている?
6月の給与明細を見ると、税金が5月より増えていることに気が付いた方がいると思います。国(所得税)から地方(住民税)へ税源移譲が行われた結果、多くの家庭で所得税が1月から先行して下がったのに対し、住民税の増加は仕組み上、毎年6月から反映されるためです。定率減税廃止による税負担の増加も重なりました。

◆「税源移譲」とは?
税源移譲とは、補助金に代わる地方公共団体の新たな財源として、国が集めている税金のうちの一定の部分を、地方が集めることができるようにすることです。国と地方の税財政改革(三位一体の改革)の柱の1つです。
国税の一部を減らして地方税を増やすということなので、納税者の負担は増えないとされています。現在の自治体は国から補助金や地方交付税交付金などをもらって行政サービスの財源を補っています。三位一体改革は原則として補助金の削減に見合う額を、国から地方への税源移譲で補うことにしています。ただ、この方法ではもともと住民税の納税額が多い地域に財源が集まるという弊害があり、大都市と地方の自治体で格差がつかないよう、公平に税財源を分け合う方法が求められます。

◆暮らしへの影響は?
所得税は従来の4段階から6段階になり、最低税率は10%から5%に下がりました。住民税は一律10%に変わりました。この結果、大半の世帯で所得税が減り、住民税が増える結果になります。所得税と住民税を合わせた納税者の負担額は原則変わりません。
定率減税の全廃の影響も大きなものです。所得税では所得の20%(上限25万円)、住民税では15%(同4万円)が減税となっていましたが、2006年分からは半減され、2007年分からは全廃となりました。残っていた半分の控除がなくなると、所得税は最大で年12万5,000円、住民税は最大で年2万円増税になります。
 ではなぜ、6月から変化が起きたのでしょうか。所得税は1月から変わるのに対し、住民税は前年の所得に応じて翌年の6月以降変化します。このため、大半の世帯では1月から所得税が減っていましたが、6月からは住民税率の上昇と住民税分の定率減税廃止が影響し、税負担が増えることになったわけです。

◆地方によっては国民健康保険料にも影響
東京23区など一部の市区町村では、国民健康保険料を算出する際、住民税額に一定の比率を掛ける方法を用いるため、住民税が上がると保険料も上がってしまいます。このような自治体では緩和措置として控除枠を設けていますが、それでも保険料に変化が出ることがあります。国民保険料も毎年6月に算出されるため、6月分の金額を確認してみましょう。


「再雇用制度」今後も利用拡大なるか?

◆改正高年齢者雇用安定法の内容
2006年4月に施行された改正高年齢者雇用安定法は、従業員に65歳まで就労機会を提供(雇用確保措置を導入)することを企業に義務付ける法律です。
企業には、1.定年廃止、2.定年年齢の65歳への引上げ、3.定年を迎えた従業員の継続雇用の3つの選択肢があります。定年廃止や定年延長は全従業員が対象となり、賃金や労働時間などの処遇を下げにくい制度ですが、継続雇用は労使協定などで対象者を絞り込むことができます。中でも再雇用制度は、雇用契約を結び直すため処遇を柔軟に変更することができます。

◆主要企業では定年者の半数強を再雇用
日本経済新聞社の調べによると改正高年齢者雇用安定法が施行された2006年度に、主要企業が、定年退職者の5割強を再雇用(トヨタ自動車は56%、JFEスチールとJR東日本は約7割)したことがわかりました。
今年度も再雇用制度の活用は拡大する見通しであり、団塊世代の大量定年や少子化で労働力不足が懸念される中、企業は労働力の確保に様々な対策を講じる必要がありそうです。

◆企業側は「コスト削減」、従業員側は「収入維持」
再雇用後の賃金は定年時の半分程度というケースも多く、企業側は人件費を抑えつつ労働力を確保したいと考えています。
また、従業員側にとっては年金と合わせればそれなりの収入を維持することができるため、活発な制度利用につながっていると思われます。


ニート62万人、フリーター187万人 

◆「青少年白書」の結果から
内閣府がまとめた2007年版の「青少年の現状と施策」(青少年白書)によると、就職しても長続きせず、3年以内に離職した率(2003年3月の新卒者)は、中卒で70.4%、高卒で49.3%、大卒で35.7%となり、中、高、大の順に「七五三現象」として定着しつつあるようです。また、学校に行かず、仕事も職業訓練もしない「ニート」が、2006年平均で62万人、「フリーター」が187万人に上るなど依然高水準が続いています。
白書では、「若者に、自己の個性を理解し、主体的に進路を選択する能力を育てる必要がある」などとして、職業訓練や望ましい職業観を身に付ける「キャリア教育」の必要性を強調しています。

◆ニートの多くがいじめや不登校を経験
ニートのうち約5割が、学校でのいじめ被害や引きこもりの経験があり、約4割は不登校を体験していることが、約400人のニートを対象にした厚生労働省の調査でわかりました。
また、約8割は「仕事をしていく上で人間関係に不安を感じる」と回答しており、専門家は「対人関係の苦手意識が不登校やいじめの体験で増幅され、それが就労の困難にもつながっている」と分析しています。

◆83%が「ニート状態後ろめたい」
就労していないニート状態の期間については、「1年以下」が41%と最多で、「5年超」も12%に上っています。また、連続1カ月以上働いた経験がある人は79%。仕事をしていないことについて83%が「後ろめたい」と感じていますが、同時に80%が「仕事をしていく上で人間関係に不安を感じる」としています。「人と話すのが不得意」な人も64%に上りました。


今年の新入社員の意識調査の結果

◆今時の新入社員は「デート」よりも「仕事」を優先
平成19年度の新入社員を対象に、財団法人社会経済生産性本部と社団法人日本経済青年協議会が「働くことの意識」についての調査を行い、デートの約束があったとき、残業を命じられたら、「デートをやめて仕事をする」という回答が8割に達するなどといった結果が出ました。

◆「バブル入社組」との違い
「あなたは仕事と生活についてどちらを中心に考えますか」という質問に対しては、「仕事と生活の両立」が79.8%を占め、「仕事中心」が9.6%、「生活中心」10.6%となっています。この質問に対して経年変化をみると、「仕事中心」が昭和47年度で15%、平成3年度で5%、平成19年度で10%、「生活中心」が昭和47年度で15%、平成3年度で23%、平成19年度で11%となっており、バブル入社組との違いが鮮明にわかる結果となっています。

◆今年の新入社員のタイプ
今年の新入社員のタイプは『デイトレーダー型』といわれています。どのようなタイプかというと、「景気回復での大量採用は売り手市場を形成し、就職しても細かい損得勘定でネットを活用して銘柄(会社)を物色し続け、売買を繰り返す(転職)恐れがある」という意味のようです。

◆リストラが不安?
戦後最長の好景気と、団塊世代の大量退職に伴う「売り手市場」を反映して、「思っていたよりは満足のいく就職ができた」と希望通りの就職はできたものの、「将来のリストラが不安」という悩みも持っている人も多いようです。
仕事や今後の展望については、「いずれリストラされるのではないか」(38.8%)、「いずれ会社が倒産したり破たんしたりするのではないか」(22.8%)などの回答が前年より増加しています。バブル期の後の「崩壊」が再びあるのでは、という不安が反映されているのでしょうか。


母子家庭の自立支援策

◆年々増加する母子世帯
厚生労働省は、母子家庭の自立支援施策の一環として、自治体における就業支援事業の取組状況を一覧できる母子家庭就業支援マップを作成し、同省のホームページに公表しました(http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/koyou/map/index.html)。
母子世帯の割合は年々増加する一方で、母子世帯になってから就業する人の約6割が臨時・パート雇用を余儀なくされています。同省では、母子家庭の就業を促進し、自立した生活を営めるよう、各種支援策を実施しています。

◆厚労省が実施する母子家庭自立支援策
4本柱(1.生活支援策、2.就業支援策、3.養育費の確保策、4.経済的支援策)で総合的な母子家庭の自立支援策を実施しています。

◆母子家庭に対する主な就業支援策
1.母子家庭等就業・自立支援センター
母子家庭の母等に対して、就業相談から就業支援講習会の実施、就業情報の提供等一貫した就業支援サービスの提供を行うとともに、弁護士等のアドバイスを受け養育費の取り決めなどの専門的な相談を行う「母子家庭等就業・自立支援センター事業」を実施しています。

2.母子家庭自立支援給付金事業
(1)自立支援教育訓練給付金事業
地方公共団体が指定する教育訓練講座を受講した母子家庭の母に対して、講座修了後に受講料の一部を支給します。雇用保険の教育訓練給付の受給資格を有していない人が指定教育講座を受講し、修了した場合、経費の40%(20万円を上限)が支給されます。
(2)高等技能訓練促進費事業
母子家庭の母が看護師や介護福祉士等の経済的自立に効果的な資格取得のため、2年以上養成機関等で修業する場合に、就業期間の最後の3分の1に相当する期間(12カ月を上限)、「高等技能訓練促進費」を月額10万3,000円支給することで、生活の負担の軽減を図り、資格取得を容易にするものです。
(3)常用雇用転換奨励金事業
パートタイム等で雇用している母子家庭の母を、OJT実施後、常用雇用に転換した事業主を対象に1人当たり30万円の奨励金を支給します。

2007/07/06

平成19年7月

揺れる「年金加入記録問題」

◆年金記録が存在しないケース
新聞報道などによりますと、社会保険庁に年金の加入記録を照会した人のうち、本人が保険料を支払ったと主張しているにもかかわらず記録が存在しないケースが、今年3月末時点で2万635人に達していることがわかりました。
社会保険庁が公表した3月初め時点の人数は1万7,204人でしたので、1カ月で約20%増えたことになります。本人の勘違いというケースもあるようですが、社会保険庁や自治体による記録の消失が指摘されています。

◆預金通帳なども加入記録の証拠に
加入記録が一部でも存在しないと、年金の受給額が減ったり、受給権を失ったりする可能性があります。
領収書など、保険料を支払ったことを確実に証明する書類があれば加入記録は修正されますが、社会保険庁は、領収書だけではなく、保険料の支払時に発行された印紙や保険料が口座振替されたことを示す預金通帳なども「証拠書類」として認めていく方針です。

◆年金記録漏れを1年間で調査
政府は、納付記録の不備により生じた5,000万件以上ともいわれる該当者不明の年金記録に関する調査を1年間で終える方針を示しました。
従来どおり社会保険事務所で加入記録に関する相談に応じるほか、納付記録の問い合わせに応じる電話窓口も設け、週末を含め24時間の対応も開始しました。また、不備をもたらした社会保険庁などの責任を追及するため、有識者委員会を新設することも政府は明言しています。


重大労働災害件数が過去最多

◆建設・製造業で重大労働災害が増加
1度に3人以上が死傷した重大労働災害の2006年の発生件数が318件となり、1974年以降最悪の水準になったことが厚生労働省のまとめでわかりました。特に、建設業や製造業で増加しています。
また、労働災害による死亡者数は1,472人と過去最低となりましたが、建設業、製造業では増加しています。

◆安全管理対策の不備が影響?
重大労働災害の増加について、厚生労働省は「景気回復で建設業や製造業の現場が活性化する一方、安全管理がおろそかになっている可能性がある」と分析しています。同省では、事業主に対し、安全管理についての法令順守や労働災害が多発している分野での対策の徹底を促しています。

◆労働災害死亡者数減少の中、建設・製造では増加
労働災害による死亡者は減少傾向にあり、昨年は初めて1,500人を下回り過去最低となりました。厚生労働省は、「職場での安全対策が進み、以前に比べて死亡に至る労働災害事故は起きにくくなった」とみています。
死亡者数が過去最低になったのは、交通事故によるものが前年比81人減となったのが大きな要因です。しかし、建設業や製造業での死亡者数はそれぞれ前年比11人増、同12人増となっており、同省は、「業種や職場によっては、必ずしも安全とはいえない」として、労災が多発する職場での安全管理の徹底を促しています。
離婚件数の増加と母子家庭への就業支援

◆児童扶養手当の受給者数が過去最多に
厚生労働省がまとめた「母子家庭白書」によれば、母子家庭の生活を支援するための児童扶養手当の受給者数が今年2月末時点の概数で98万7,000人となり、2006年度は過去最高になる見通しであることが明らかになりました。
年間の離婚件数が1999年から2006年にかけて約25万件以上と高水準となり、母子家庭が増えたためとみられます。

◆児童扶養手当は削減へ
現在、児童扶養手当は母子家庭の母親や養育者に対して月額4万円強支給されていますが、政府は、母親の就労と自立を促すため、2008年4月から、5年を超える受給者の手当を最高で半分減額する方針を決定しています。
政府は、減額に備えて母子家庭の就労支援を強化しています。今回の白書では、2006年度の母子家庭の母親へのハローワークの照会件数が29万5,000件となり、前年度の1.1倍、2003年度の1.5倍に増加したとされています。また、就職も7万3,000件と前年度の1.1倍、2003年度の1.4倍になったと強調しています。

◆母子家庭に対する就業支援策
政府による主な就業支援策(いずれも平成15年度に創設)は、以下の通りです。
1.母子家庭等就業・自立支援センター事業[実施主体:都道府県、政令指定都市、中核市]
母子家庭の母親等に対して、就業相談や就業支援講習会の実施、就業情報の提供など一貫した就業支援サービスや養育費の相談など生活支援サービスを提供
2.自立支援教育訓練給付金事業[実施主体:都道府県、市、福祉事務所設置町村]     
地方公共団体が指定する教育訓練講座を受講した母子家庭の母に対して、講座終了後に受講料の一部を支給→受講料の4割相当額(上限20万円、下限8,000円)
3.常用雇用転換奨励金事業[実施主体:都道府県、市、福祉事務所設置町村]
パートタイムで雇用している母子家庭の母を、OJT実施後、常用雇用労働者に雇用転換した事業主に対して奨励金を支給→1人当たり30万円


深刻な医師不足解消に向けた対応策

◆小児科・産科での医師不足
厚生労働省は、小児科・産科における医師不足に対応するため、両科に関連する診療報酬を2008年度の改定で引き上げる方向で検討を始めたそうです。加えて、再就職を希望する女性医師を登録した「人材バンク」を各地につくり、小児科・産科医が不足する病院への就労を促していくそうです。また、地方の医師不足解消のため、都市部などで院長になる要件に「へき地での診療経験」を含めることも検討しています。

◆小児科・産科の診療報酬アップを検討
厚生労働省は、医師不足を深刻な問題であると受け止め、医師不足問題に関する協議会で対策を詰めていきたいということです。合意ができた施策については、6月中にまとめる経済財政運営と構造改革に関する基本方針に盛り込むとしています。
与党は、小児科でカルテ整理を担当する医療事務補助員などの人件費を診療報酬の対象に加えて医師の負担を軽くする検討に入っています。厚生労働省はさらに踏み込み、診療報酬全体を厚くする優遇策により、夜間の急患対応などで他科に比べて負担の重い小児科・産科に報いる考えを示しています。ただ、医療費全体の膨張につながりかねないため、高齢者向け医療費の抑制策などとセットで考えているようです。

◆女性医師人材バンクで再就労を促進
小児科医における女性医師の比率は31.2%、産科医は21.7%で、全医師の平均(16.5%)を上回っています。女性医師は結婚や出産で離職するケースが多く、これが小児科や産科の医師不足につながっています。
再就労を希望する女性医師も多いのですが、求人・求職情報の不足で進んでいないのが実態です。そこで厚生労働省は、全国に2カ所しかない女性医師専用の人材バンクを各地に開設することで、再就労を促すとしています。

◆地方の医師不足解消にはへき地経験が有効?
地方の医師不足の解消策について、与党は、全国規模で地方の病院や診療所に医師を派遣する仕組みを検討しています。これを実現するためには、派遣に応じる医師を数多く確保する必要があります。
厚生労働省は、院長など病院の管理者になるための要件として「へき地での診療経験」を加えれば、効果が大きいとみています。1度検討して見送った経緯があり、実現に向けて再検討を始めました。

派遣契約期間満了前でも直接雇用は可能?

◆派遣先が「すぐに直接雇用したい」
大学卒業後、派遣社員として就職。今の派遣先は仕事も楽しく、派遣社員として長く働きたいと思っていた矢先、派遣先から「正社員にならない?」と言われました。まだ、派遣契約期間が満了していませんが、応じてよいものなのでしょうか。

◆契約期間満了前では契約違反に
派遣社員は、派遣元の人材派遣会社と一定期間の雇用契約を結び、派遣先企業で派遣社員として働きます。人材派遣会社は派遣先企業と派遣契約を結んでおり、派遣労働は二重の契約関係が成立していることになります。
派遣契約期間の途中に、派遣先が派遣社員を正社員として直接雇用することについては、原則やむを得ない理由がない限り認められないとされており、冒頭のような例は「やむを得ない理由」となる可能性は低く、派遣社員と派遣先は契約違反として派遣元から損害賠償を請求される可能性があります。

◆契約を途中で解除するケースも
2005年度の厚生労働省の調査によれば、事業報告書を提出している全国約31,000の派遣元事業所において、派遣労働者は約320万人と増加傾向にあります。
ただ、団塊世代の大量退職などもあり、企業において正社員雇用が一部で拡大する中では、派遣社員も、不安定な派遣社員より正社員になることを望む人が多く、派遣先企業から「すぐ直接雇用したい」との要望があった場合、派遣会社(有料職業紹介事業の許可を受けているものに限る)は直接雇用後の年収の一定割合を「紹介手数料」として派遣先から受け取り、契約を解除するケースもあります。

◆紹介予定派遣の活用も
契約期間が残り少ない場合は、派遣先企業に契約満了まで待ってもらうことが多くあります。当初から派遣先での就職を目指す場合には、2004年に法整備がなされた「紹介予定派遣」制度があります。同制度は一定期間(最長6カ月)派遣社員として働いた後、派遣先企業・派遣社員双方が直接雇用を望めば認められます。
ただ、厚生労働省の調査によれば、紹介予定派遣で直接雇用に結びついたのは約6割にとどまっています。一定期間経過後の直接雇用は派遣先企業の義務ではなく、必ずしも直接雇用に結びつくとは限らないので、派遣労働者は注意が必要です。


求人時の年齢制限が原則禁止

◆改正雇用対策法が成立
若者や女性、高齢者らの就業機会拡大などを目指した「改正雇用対策法」が成立しました。今年の9月までに施行される予定です。
同法には、平成13年10月に「労働者の募集・採用に際しては、労働者にその年齢にかかわりなく均等な機会を与えるよう努めなければならない」という努力義務規定が追加されましたが、今回の改正により、求人の際の年齢制限が原則として禁止されました。
また、外国人労働者の雇用管理の強化を図るため、採用・離職時に、氏名・在留資格などを厚生労働省に届け出ることが事業主に義務付けられました。

◆雇用対策法の目的
雇用対策法は、「国が雇用に関し、その政策全般にわたり、必要な施策を総合的に講ずることにより、労働力の需給が質量両面にわたり均衡することを促進して、労働者がその有する能力を有効に発揮することができるようにし、これを通じて、労働者の職業の安定と経済的社会的地位の向上とを図るとともに、国民経済の均衡ある発展と完全雇用の達成とに資することを目的」として、昭和41年に制定された法律です。
具体的には、事業主に対して、離職を余儀なくされた労働者の求職活動が円滑にすすむよう、再就職を援助することに努めるよう促したりしています。

◆今回の改正のねらい
求人時における年齢制限の原則禁止には、就職氷河期に卒業した「年長フリーター」といわれる人たちやや高齢者の再就職を促進するというねらいがあります。
また、外国人労働者に対する事業主の届出義務は、不法滞在の防止や摘発の促進が目的とされています。



改正パートタイム労働法が成立

◆来年4月1日から施行
政府の再チャレンジ支援策の一環である「改正パートタイム労働法」が成立しました。一部を除き、来年4月1日より施行されます。
パートタイム労働法は、パートタイム労働者の適正な労働条件の確保および教育訓練の実施、福利厚生の充実その他の雇用管理の改善に関する措置、職業能力の開発・向上に関する措置などを講じることによってパートタイム労働者がその有する能力を有効に発揮することができるようにし、また、その福祉を増進することを目的として、平成5年から施行されています。

◆対象となる「パートタイム労働者」は?
「1週間の所定労働時間が同一の事業所に雇用される通常の労働者の1週間の所定労働時間に比べて短い労働者」とされており、例えば、「パートタイマー」「アルバイト」「嘱託」「契約社員」「臨時社員」「準社員」など、呼び方は異なっても、この条件に当てはまる労働者であれば、「短時間労働者」としてパートタイム労働法の対象となります。

◆今回の主な改正点
業務内容が正社員と同程度のパートタイム労働者については、給与などの面での差別的待遇を禁止し、正社員と平等な扱いを事業主に義務付けています。
具体的には、1.職務内容や責任、勤務時間の長さが正社員とほぼ同じ、2.契約更新の繰り返しがあり雇用期間が限定されていない、などの条件を満たすパートタイム労働者については、賃金や教育訓練、福利厚生などの待遇面で正社員との差別を禁止しました。
上記の対象となる「正社員並みパートタイム労働者」は、約1,200万人であり、パートタイム労働全体の数%が対象にすぎないとみられています。
また、パートタイム労働者を雇用する企業に対しては、パートタイム労働者が正社員になるための応募の機会を設けるなど、正社員への転換の機会を義務付け、また、対象外となるパートタイム労働者にも正社員と均衡の取れた待遇を確保するよう努力義務を課しています。


景気が回復しても賃金は上がらない?

◆「いざなぎ景気」を超える景気回復?
このところニュース等で「“いざなぎ景気”を上回る勢いで景気が回復している」などと報道されていますが、一般労働者の賃金は上昇せず、景気回復の実感がない人が多いようです。景気回復と労働者の実感の違いは、企業の経営者と労働者の考え方が根本的に異なるからだといわれています。

◆景気回復の理由は?
総務省が発表した今年4月の完全失業率は前月より0.2%低い3.8%と、9年1カ月ぶりに3%台に低下しました。
このデータからすると、「失業率の低下=景気回復」となり、平均賃金が上昇し購買力が上がると考えられますが、この考え方は今回のケースには当てはまらないようです。景気が回復したから賃金が上昇したのではなく、賃金の上昇を抑えているから企業の純利益が増加し、景気回復につながったといわれています。
その根拠として、相対的に賃金が低いパート社員や契約社員が増加し、賃金水準の高かった団塊世代が定年退職を迎えたことが挙げられています。また、今年1~3月期の雇用者1人当たりの平均賃金は前年に比べ減少しています。

◆今後の見通しは?
人件費の削減をはじめとするコスト削減による企業の利益はあくまでも一時的な利益にすぎず、企業が持続的に成長していくためには、商品・サービスの販売等によって利益を上げていかなければなりません。
そのためには優れた人材を確保していくことが重要です。だとすると、企業は自ずと賃金の引上げを行い、福利厚生などの充実を図るようになるのではないでしょうか。



核家族・単身者の増加で平均世帯人数が過去最少

◆一世帯当たりの平均所得額は563万8,000円
厚生労働省が発表した「国民生活基礎調査」によると、一世帯当たりの平均所得額(平成17年1月から12月の所得)は563万8,000円と前年を2.9%下回りました。
生活が「大変苦しい」「やや苦しい」と意識している人は56.3%で、前年から0.1ポイント増加しています。

◆核家族・単身者の増加で世帯数増える
世帯総数は前年より約49万多い4,753万で、20年前と比べ1.3倍に増加しています。このうち4分の1以上の1,204万世帯が単身で、20年間で1.8倍になっています。母子世帯は前年より約10万増えて初めて70万を超え、平成13年からの5年間でみると11.3倍に増えています。
反対に、3世代同居は全体の10分の1以下となり、過去最少の432万世帯となっています。65歳以上の高齢者だけか、高齢者と18歳未満しかいない家庭は、前年から11万増えて846万世帯となり、高齢者社会が浮き彫りとなりました。
また、平均世帯人数は過去最少の2.65人となっており、核家族化・単身者の増大が影響した結果となっています。

◆世帯所得減少は一世帯当たりの就労人数減少が影響
仕事を持つ人の1人当たり平均所得は320万6,000円と景気回復の兆しが反映され増えているため、世帯所得の減少は、一世帯当たりの仕事を持っている人が減ったのが要因ではないかとみられています。
その要因としては、60歳到達による定年退職で収入が減る世帯や、フリーター等で正社員にならない親族の扶養が考えられます。

◆所得の不平等格差は改善
所得分配の不平等の度合を示す「ジニ係数」(0に近いほど所得分布の不平等が均等であることを意味する)は、今回の調査では前年より低い0.3948となり、2年ぶりに低下しました。今回の結果は不平等差が少なくなったということを数字上の結果は示していますが、実際はまだまだ所得格差は埋まっていないように感じられているようです。


“ストレス時代”のリスクマネジメント

◆労災認定された過労自殺者が過去最多
平成18年度の脳・心臓疾患の「過労死」事案の労災認定請求件数は938件(前年度比69件増)、支給件数は355件(前年度比25件増)となりました。また、過労や仕事のストレスが原因で自殺(未遂も含む)したとして、2006年度に労災認定された人は前年度より24人多い66人で、過去最多となりました。過労自殺を含む精神障害の認定者数も大幅に増加し、年代別では働き盛りの30代が40%を占めています。

◆精神疾患の労災認定基準も過渡的段階に
平成11年9月以降、精神疾患・自殺の労災認定請求件数は増加の一途をたどっています。認定基準自体が変更されていない中での認定数の急上昇は、現場における精神疾患の増加・深刻化を示しています。
今年5月7日には福岡高裁で、当時48歳の化学工業子会社に出向した男性が単身赴任で転勤後、未経験業務でうつ病を発症し自殺した事件について、裁判長は一審福岡地裁判決を支持し、「業務外」と主張する労基署側の控訴を棄却しました。高裁段階で過労自殺が労災認定されたのは、トヨタ事件(平成15年名古屋高裁)に次いで2件目です。
いずれも労災の判断基準が争点となり、労基署側は自殺の原因は本人の「ぜいじゃく性にあった」と主張するものの、裁判長は平均的労働者と比べて「性格等に過剰な要因があったと認めることはできない」と指摘しました。このような判例が増えると、精神疾患に対する労災認定基準が変わることが予想され、精神疾患についても、管理者責任が問われるケースが増えてくると思われます。

◆労災補償制度と民事訴訟との関係
労災補償制度による補償には、精神的損害(慰謝料)や逸失利益などは含まれません。そのため、遺族が会社に過失があったと考える場合、行政訴訟(労災認定)とは別に、民事訴訟を提起するケースが急増しています。
会社の過失とは「安全配慮義務違反」、つまり、社員に職場を起因とする発病や死亡の危険があるにもかかわらず、その危険性を回避するための措置を会社側が怠ったとする論拠です。
メンタルヘルスが緊急課題とされて久しく、厚生労働省は、事業者に「健康管理に係る体制を整備するとともに、健康診断結果、産業医による職場巡視、時間外労働時間の状況等様々な情報から労働者の心身の健康状況及び職場の状況を把握するよう努め、労働者の健康状況に配慮して、職場環境の改善、積極的な健康づくり、労働時間管理を含む適切な作業管理等様々な措置を実施すること」を求めていますが、長時間労働の抑制のみならず、時短の中での成果の追求や各種ハラスメントなど、達成課題や構成員が複雑化した職場において、諸々の精神的負荷に転じそうな問題に対して、管理職にとどまらず全職員に教育と実践を徹底しなければならない時代となってきているようです。

2007/05/25

平成19年6月号

改正雇用保険法案のポイント「50%以上」の割増率

◆雇用保険法が改正されました!
雇用保険制度の安定的な運営を確保し、直面する諸課題に対応するための改正雇用保険法案が、今通常国会で審議され、平成19年4月(以下に掲げた項目については10月)から施行されました。
ここでは、改正案の主な内容をご紹介します。

◆被保険者資格・受給資格要件の一本化
短時間労働被保険者とそれ以外の被保険者の区分がなくなり、被保険者資格が一本化されます。
現行では、1週間の所定労働時間が20~30時間の労働者は短時間労働被保険者という区分に該当し、失業給付(基本手当)を受給するための被保険者期間は12月(短時間労働被保険者以外の一般被保険者は6月)でしたが、受給資格要件は被保険者期間6月に一本化されます(ただし、自己都合等による離職の場合の被保険者期間は12月)。

◆育児休業給付制度の拡充等
休業前賃金の40%(休業期間中30%、職場復帰6カ月後に10%)から暫定的に50%(休業期間中30%、職場復帰6カ月後に20%)となります。

◆教育訓練給付の対象範囲の見直し
教育訓練給付の受給要件を、当分の間、初回のみ緩和(3年→1年)されます。
現行では、教育訓練給付を受給するためには被保険者期間が3年以上なければ支給を受けることができませんが、教育訓練給付金の支給を受けたことがない者に限り、1年以上あれば、教育訓練給付金の支給を受けることができるようになります。



「年収130万円」の壁、働き方で変化?
◆「年収130万円」未満の意味
働く時間と日数が正社員のおおむね4分の3未満で、年収が130万円未満である場合、配偶者が加入する厚生年金保険や健康保険の被扶養者となり、健康保険や年金の保険料を負担しなくても給付が受けられるようになります。
しかし、この「年収130万円」の内容が職業などにより異なることは意外と知られていないのではないでしょうか?

◆額面通りでない職業も
サラリーマンの夫を持つ妻の場合、妻がパートで働いているときは、給与、公的年金などすべてが収入となりますので、これらを足し合わせて130万円未満かどうかが問題となります。
一方、妻が自営業者だと、売上からその売上を得るための必要経費を控除した金額を年収として扱います。この経費には、消耗品や研修費など実際に使用した金額以外に、パソコンや車を購入した場合の減価償却費も含みます。したがって、妻が自営業者なら売上130万円以上であっても夫の扶養になれることがあります。
また、妻の働き方だけでなく、夫の会社の健康保険組合の規約によっても被扶養者になれるかどうかが異なります。健康保険組合の中には、規約で年収130万円未満でも、103万円を超えていると被扶養者にはならないと決めている組合もあるからです。

◆現実はどうか?
本来、年収103万円以下は税法上の扶養親族、130万円未満は社会保険の被扶養者の認定基準ですが、混在しているのが現状です。いずれにしても、国民年金に加入している夫を持つ妻は、働き方や収入にかかわらず、医療も年金も自身で保険料を支払います。パートに出て厚生年金に加入したほうが社会保険料も安く年金額も増えることがあるのが現実のようです。
一般的に、サラリーマンに扶養される第3号被保険者は有利だと言われていますが、政府はパートを厚生年金に加入させることを検討中です。今までのように制度に合わせて働き方を選ぶ時代が終わりつつあるのではないでしょうか。



会社に無断でアルバイトをしたら?
◆社員の兼業にどう対処?
ある企業に勤める女性社員が勤務終了後にクラブで接客のアルバイトをしていたところ、それが会社に見つかってしまい、女性社員は厳罰をおわされることになりました。この会社の判断は正当といえるのでしょうか。

◆懲戒処分の判断基準は?
アルバイトなどの兼業を理由とした懲戒処分が正当かどうかは、企業が就業規則に兼業禁止を定めていて、その規則を適用することに合理性があるかどうかで決まります。
アルバイトによる疲労のために会社の本業に従事することが著しく困難になるような場合は、兼業禁止を適用される可能性があります。また、会社の評判を損なうような内容のアルバイトをしている場合などにも、適用事由になりうるといえます。

◆裁判例では?
裁判例の中には、就業時間後の午後6時から午前0時までキャバレーで働いていた女性社員を解雇したことについて、社員の兼業の可否について会社の承諾を得る必要があると定めた就業規則の適用は権利の濫用に当たらないとしたものがあります(1982年東京地裁)。このように、会社に無断でアルバイトをしていることも問題になります。「アルバイトをする場合は、会社の承諾を得ることが必要である」といった就業規則がある場合、無断で就業すると手続違反として懲戒事由になる可能性もあるでしょう。

◆就業規則の徹底を図ってきたかが問われる
また、会社がそれまで違反行為に厳しく対処してきたかどうかもポイントになります。会社や社外での行動に厳しく対処してこなかった会社が、急に特定の人を対象に懲罰を科すことは妥当ではないという見方もできます。
会社側が日常的に研修などを通じて就業規則の徹底を図っており、違反者には公平に処分を下していたのであれば、社員が反論するのは難しいでしょう。



仕事に関係のないウェブサイトの閲覧
◆取引先との会話に困る?
企業で、業務に関係のないウェブサイトの閲覧を制限する動きが広がっているようです。業務の効率アップを図るともに、情報漏洩対策を強化する企業が増えているためです。
そんな中、青少年向けとして始まった有害サイトを遮断する「フィルタリングソフト」の市場が昨年は約2割伸びており、学校や家庭以上に企業で浸透しています。このソフトを導入すると、買い物サイトやスポーツニュースなど、趣味のサイトを閲覧しようとした場合、画面上に「このページは利用制限されています」、「業務に関係ありますか」といった警告が表示されます。
従業員の中には、「野球やゴルフの結果がわからないので、取引先との会話に困る」といった意見もあるようです。

◆サイト閲覧の4分の1が私的利用?
国内ソフトメーカーによれば、ある企業では、フィルタリングソフト導入前に閲覧されたウェブサイトのうち、約4分の1が業務に関係のない私的利用だとみられるそうです。
個人情報保護法が施行され、企業が情報漏洩対策や内部統制を進める中、ウェブサイトにアクセスしただけで情報が漏洩する危険性もあるため、アクセス制限や履歴の監視などの対策をとる必要がでてきたようです。

◆プライバシーの問題は?
社員の電子メールの送受信については、一定のプライバシーを認める判例があります。
一方、ウェブサイトは情報を得る手段に過ぎず、アクセス制限にプライバシー侵害が成立する余地はないと考えられていますが、チェックされる側がストレスを感じる方法をとると人格権の侵害につながる可能性がないとは言えない、との指摘もあります。



外食産業の回復は雇用状況にも影響?
◆外食産業に回復の兆し
低迷していた外食産業に回復の兆しが出てきました。日本フードサービス協会がまとめた3月の外食の既存売上高(120社)は、ファーストフードがけん引して前年同月比2.0%増と、3カ月連続でプラスになりました。客数も同3.7%増と高い伸びを示しています。
各社は人手の確保に向け、賃金や働き方で新手法も取り入れ始めました。外食産業の回復は消費のすそ野の広がりを裏づけ、雇用の需要にも影響しそうです。

◆ファーストフードの売上好調
既存店売上高を個別に見ると、ファーストフードが7.1%増と高い伸びとなっています。ファーストフード以外でも高級レストラン(1.2%増)、喫茶(0.4%増)などが3カ月連続でプラスとなっています。
既存店売上高の増加を支えているのは全体の客数の伸びです。3月の客数は3.7%増で、1月、2月と月を追うごとに伸び率が大きくなっています。中でもファーストフードの3月の伸び率は7.8%でした。これに対して、客単価は総じて横ばいから減少傾向に転じています。
ただ、外食の中でもファミリーレストランや居酒屋は構造的な問題を抱え低迷しています。ファミリーレストランは、主力客層である家族連れの来店が減少し、居酒屋は昨年夏以降の飲酒取締まり強化で郊外店が苦戦しています。

◆人手不足で人材確保にひと工夫
回復の兆しが出てきた外食産業ですが、人件費や原材料の上昇が、収益回復の足かせになっています。中でも人手確保の問題は深刻で、各社はパートやアルバイトの採用・つなぎ留めに向け、賃金体系や働き方などで知恵を絞っています。外食産業は、店舗従業員の約9割をパートやアルバイトに依存していますが、特に都心部などは人手確保の激戦区になっています。
2007年2月時点の「飲食店・宿泊業」のパートの雇用状況は、「不足」から「過剰」の割合を引いた値が47と、全生産業の中で最も高く人手不足が常態化しています。そのような状況の中、人手を確保するために、以下のように様々な工夫をこらしているところもあるようです。
・3カ月継続して働いた人に5万円支給する。
・事前登録しておけば、定期給料日以外の希望日に給料を支払う。
・1カ月ごとに働く店舗の変更を可能にする。
・友人、知人を紹介すると一定の報奨金を支払う。



労働・雇用に関する企業の社会的責任(CSR)
◆企業に求められる「社会的責任」の内容
企業には、その利害関係者(ステークホルダー)に対して責任ある行動をとるとともに、説明責任を果たしていくことが求められており、その傾向は年々高まっているといえます。このような考え方は、「社会的責任」(CSR)と呼ばれますが、労働・雇用の観点からもCSRを検討する必要性が高まっています。その主な理由は次の通りです。
1.従業員の働き方に十分な考慮を払い、個性や能力を活かせるようにしていくことは、企業にとって本来的な責務であるといえる
2.従業員に責任ある行動を積極的にとっている企業が、市場において投資家、消費者や求職者等から高い評価を受けるようにしていくことは有益である

◆企業はどういった取り組みをすべきか?
企業が従業員に対して取り組む事項としては、次のことが挙げられます。
1.従業員がその能力を十分に発揮できるよう、人材の育成、従業員個人の生き方・働き方に応じた働く環境の整備、安心して働く環境の整備などを行う
2.事業の海外展開が進む中、海外進出先の現地従業員に対し、責任ある行動をとる
3.人権への様々な配慮を行う

◆労働・雇用のCSR推進のための環境整備
労働・雇用の分野において企業がCSRを進めるための具体的な国の施策としては、どこまで自社の取り組みが進んでいるか企業が自主点検できる材料を開発すること、表彰基準や好事例の情報の提供を行うことなどが想定されています。
CSRはあくまで企業の自発性に基づいて進められるものですが、それぞれの企業が、社会的公器としての認識を深め、多種多様な取り組みを積み重ねていくことで、「人」の観点からも持続可能な社会が形成されていくことが期待されます。



外国人研修・技能実習制度をめぐるトラブル
◆制度の概要は?
発展途上国への技術移転を本来の目的として、日本企業が外国人を一定期間受け入れる制度があります。日本における研修生の受け入れは、多くの日本企業が海外に進出するようになった1960年代後半から実施されており、1990年には従来の研修制度を改正し、より幅広い分野における研修生の受け入れが可能となりました。
具体的には、1年間の研修期間と、2年間の技能実習の2段階があり、最長で3年間働きながら学ぶことができます。
2006年に来日した外国人は9万人を超えており、そのうち、8割超は中国人だそうです。

◆多発するトラブルと国の対応
1年目の研修中は雇用契約がないため、労働諸法令が適用されず、企業が最低賃金を下回る金額で働かせるなどといったトラブルが多発しているようです。
政府は、今後、実習指導員の配置や帰国前の技能評価を義務付けるほか、1年目の研修生についても労働法令の適用対象としていく見込みです。また、研修期間を廃止し、雇用契約を当初からの3年とすることも検討しており、不正行為をした企業への罰則も強化し、外国人の新規受け入れ停止期間を3年から5年に延ばすとしています。



運行管理者に対する規制が強化されます
◆悪質行為の取締まり基準強化 
国土交通省は、飲酒運転などの問題が相次いでいることから、タクシーやバス会社などの運行管理者が、運転手の悪質な行為を容認した場合などについて、管理者資格を直ちに取り消すことができるよう、資格返納命令の発令基準を今年の7月から改正するそうです。
これまでは、違反行為を繰り返し、運転手への監督や指導が不十分と判断された場合などに限って資格返納命令を出していたものを、より強化していきます。

◆返納命令が出せるケース
以下のような場合、直ちに資格の返納命令が出せるようになります。
1.管理者が運転手に飲酒運転、無免許、薬物使用などの悪質行為をさせたり、容認したりした場合
2.管理者自身が事業用車両で飲酒運転などを行った場合
3.管理者が運転手への点呼をまったくしていなかった場合
4.安全確保に関する違反行為を隠ぺいしていた場合

◆貸し切りバスに対する安全対策
また、今年2月に大阪府吹田市でスキー客ら27人が死傷したバス事故を受け、貸し切りバスへの安全対策も実施します。
目的地での運転手の睡眠施設の確保を義務化し、運輸局の監査などで確認できるように、バス事業者が作成する運行指示書に施設名を記入させる方針で、今年の夏ごろに省令を改正する方針です。
また、警察庁は、今通常国会に飲酒運転の罰則引上げなどを盛り込んだ道路交通法改正案を提出しています。



裁判外紛争解決手続(ADR)の時代が到来!?
◆「ADR」とはどんなものか?
裁判外紛争解決手続(ADR)は、裁判によらない紛争解決手段(仲裁、調停、あっせん等)を広く指すものであり、厳格な手続きによってすすめられる裁判と比較すると、「柔軟な対応」、「迅速な解決」に特徴があるといえます。
ADRは「訴訟手続によらず民事上の紛争を解決しようとする紛争当事者のため、公正な第三者が関与して、その解決手続を図る手続」などと定義され、「司法型ADR」、「行政型ADR」、「民間型ADR」に分類されます。
労働分野の代表的な「行政型ADR」には、都道府県労働局で行われる「あっせん」の制度があります。
<ADR機関の例>
・司法型……民事調停、家事調停
・行政型……公害等調整委員会、中央労働委員会、国税不服審判所
・民間型……財団法人交通事故紛争処理センター、弁護士会仲裁・あっせんセンター

◆4月1日から「ADR法」が施行
4月1日から、「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律」(いわゆる「ADR法」)が施行されました。この法律の目的は、「紛争の当事者がその解決を図るのにふさわしい手続を選択することを容易にし、もって国民の権利利益の適切な実現に資すること」(同法1条)とされています。
ADR法の施行で定められた「認証制度」(一定の要件に適合した民間事業者を法務大臣が認証する制度)により、これまで十分に機能しているものばかりとはいえなかった「民間型ADR」の充実・活用が期待されています。

2007/05/07

平成19年5月号

月80時間を超える残業に「50%以上」の割増率

◆労働基準法の改正案
厚生労働省は、長時間労働の削減を図るため、残業代割増率の引き上げについて、労働基準法改正案に「月80時間を超える残業に50%以上の割増率」という具体的な数値を盛り込みました。
改正案には残業代割増率引上げのほか、現在は原則として1日単位でしか取得することができない有給休暇を、年間5日分は1時間単位で取得できる新制度なども盛り込まれています。改正案が成立すれば、生活環境に合わせ、「両親の介護のために5時間のみの有給休暇を取得する」ことなども可能になります。

◆明文化で拘束力
改正案では、残業代割増率の枠組みとして、以下のように3段階方式となっています。
1.1カ月の残業時間が45時間以下だった社員に対しては最低25%
2.45時間超80時間以下の場合はそれより高い率を設定する(努力義務)
3.80時間を超える場合は労使協議に関係なく50%以上
80時間以上の残業は、過労死などの危険性が高まるとされていますが、現行制度では残業時間に関係なく最低25%以上の割増賃金を企業に求めています。
厚生労働省は当初、3段階方式という枠組みだけ改正法に明記し、具体的な割増率は労働政策審議会(厚生労働大臣の諮問機関)で議論して政省令で定める予定でしたが、法に明記することで拘束力を強め、制度が簡単に変わることを避けたいと考えているようです。

◆当面は中小企業は適用除外
厚生労働省の調べによると、1カ月の残業時間が80時間を超えるのは、働く人全体のうち0.2%程度だそうです。割増率の引上げにより企業のコスト意識を高め、残業を減らす効果を期待しています。しかし、企業側からは、「社員が残業代を増やすために、社員自ら残業を増やすケースが出てくる」との声もあがっており、かえって残業が増えるのではないかとの指摘もあります。
改正案は、雇用ルール改革の柱の1つです。一定の条件を満たす会社員を1日8時間の労働時間規制から除外する制度(日本版ホワイトカラー・エグゼンプション)は労働組合などの反発が強く見送られました。
残業代割増率引上げは、原則として当面は社員数301人以上、資本金3億円超の大企業が対象です。施行から3年後には中小企業も対象とするかどうかを改めて検討するそうです。



社会保険のパートへの適用拡大 大半は対象外?

◆現在の適用基準
現在、パート労働者への健康保険・厚生年金保険の適用基準は次の通りです。
1.正社員の1日または1週間の所定労働時間の概ね4分の3以上(週30時間以上相当)
2.正社員の1カ月の所定労働日数の概ね4分の3以上

◆新しい適用基準の対象範囲
当初、厚生労働省は、新適用基準に関する案を、
1.労働時間が週20時間以上
2.月収が9万8,000円以上
3.勤務期間が1年以上で
4.当面は従業員300人以下の中小企業は適用が猶予される
としていましたが、反対派の意見が大きかったこともあり、「学生は対象外」という新基準を加えました。
さらに、月収条件(9万8,000円以上)に賞与や通勤手当、残業手当を含めないこととする基準も法案に明記する方針を明らかにしています。

◆新基準適用は5万人程度?
政府は、適用拡大について2011年9月の実施を目指していますが、現在、適用外のパート労働者は約900万人いると言われており、そのうち、新適用基準に該当するのは看護師、管理栄養士など、約5万人程度の比較的高賃金パートに限られるとみられ、「大半のパート労働者には無関係で、意味がない」との批判も出てきています。



4月から改正された公的年金制度のポイント

◆年金分割制度がスタート
離婚日の翌日から原則2年以内に請求を行えば、婚姻期間中の厚生年金や共済年金を夫婦間の合意により最大で2分の1に分割できるようになりました。話し合いで合意できなければ、裁判で分割の割合を決めることになります。

◆厚生年金の70歳までの繰下げ
本来65歳からだった老齢厚生年金の受給開始を、66歳~70歳に繰り下げできるようになりました。繰下げ1カ月ごとに老齢厚生年金が0.7%増額(年換算で8.4%増)されます。
ただし、70歳まで繰り下げた場合、本来の65歳から受給し始めた場合と受給総額が同じになるのは、82歳頃となります。この年齢を超えて生きれば、繰り下げたほうが受給総額は多くなります。

◆在職老齢年金の適用拡大
60歳過ぎの会社員が老齢厚生年金を受け取る際、賃金に応じて年金受給が減る在職老齢年金の対象が拡大されました。4月1日以降に70歳になる人は、月収と年金月額との合計が48万円を超えた場合、超過額の半額が減額されます。ただし、基礎年金部分に関しては減額されません。

◆遺族厚生年金の縮小
夫を亡くした妻が受け取ることができる遺族厚生年金の給付対象が縮小されました。これまで、残された妻は、無期限に夫の老齢厚生年金の4分の3相当を受け取れましたが、「子供がいない30歳未満の妻」は、受給期間が5年間で打ち切られます。
また、夫の死亡時に子供がいない妻などが、「35歳以上」だった場合に受け取ることができる「中高齢寡婦加算」に関しては、受給要件が厳しくなり、対象年齢が「夫の死亡時に40歳以上」に引き上げられました。

◆国民年金保険料の引上げ
現行の1万3,860円から、1万4,100円に引き上げられました。



「山ごもり研修」への参加は拒否できる?

◆どんな研修も参加しなければダメ?
入社間もない営業担当の社員に向けて、社長が「集中力を高めるために1週間の山ごもり研修を実施する」と号令をかけました。研修内容は業務と関連が薄いようなのですが、従わなければならないのでしょうか?

◆「業務との関連性」で判断 
会社と社員との間で労働契約が結ばれると、会社は就業規則などに基づいて、社員に業務命令を出すことも可能となります。問題は、会社が命じることのできる範囲がどの程度まで許されるか、ということにあります。
会社の業務命令が適法と判断されるためには、「命令と業務との間に合理的な関連性があり、正当な目的や理由があること」が必要です。よって、「山ごもり研修」が適法か否かはその内容次第となります。終日、座禅を組んだり山を歩いたりと、業務とは直接関係のないメニューばかりの場合、集中力を高める研修と銘打っていても業務命令としての適法性を欠くとみられることもあるでしょう。

◆研修内容により、参加拒否は懲戒処分も
「体力強化や集中力を高めることは仕事にプラスになるから」といって、業務とは直接関係のない運動や精神修養などのメニューを社員研修の中に組み入れる企業はあるでしょう。心身に過度の苦痛を与えるのは論外となりますが、研修内容について企業側の一定の裁量権は認められます。業務とは直接関係のないメニューも、1日の研修のうち1~2時間程度であれば、違法性が問題になることはないだろうと考えられます。
研修への不参加が懲戒処分の対象となるか否かについては、研修内容が適法なものであれば、「業務命令に従わなかった」として可能な場合もあり得るとされています。命令に従わないことが度重なれば、解雇に至るケースもあるでしょう。
ポイントは以下の2点です。
1.研修には、業務との間に合理的な関連性や正当な目的・理由が必要
2.研修内容が適法であれば、参加を拒否した社員の懲戒処分も可能

◆入社前の内定者研修は?
入社前の内定者が事前研修を課された場合、断ることは可能なのでしょうか。
会社と内定者はまだ労働契約を結んでおらず、会社が業務命令を出す権利はないとされ、研修に参加させるには同意が必要とされます。また、学業に支障が出る場合などは、内定者は事前研修を断ることができ、その場合に、会社が内定取り消しなどの不利益な取扱いをするのは違法とされています。



社内での飲み会も業務の一環?

◆東京地裁が「社内での飲み会も業務」として労災認定
勤務先の会社内において開催された飲み会に出席した後、帰宅途中に地下鉄の駅の階段で転落して死亡した建設会社社員の男性について、妻が「通勤災害で労災にあたる」として、遺族補償などを不支給とした中央労働基準監督署の処分の取り消しを求めていた訴訟の判決で、東京地裁は労災と認定しました。
男性は、1999年12月に勤務先で開かれた会議の後、午後5時頃から開かれた会合で缶ビール3本、紙コップ半分程度のウイスキーを3杯飲んでおり、同労働基準監督署は、「会合は業務ではない。飲酒量も相当あった」と主張していましたが、東京地裁は、「酒類を伴う会合でも、男性にとっては懇親会と異なり、部下から意見や要望を聞く場で出席は職務。飲酒は多量ではなく、酔いが事故原因とも言えない。降雨の影響で足元も滑りやすかった」として、労災と判断したのです。

◆通勤災害の定義の変化
労災保険法7条2項は、「通勤とは、労働者が、就業に関し、移動(住居と就業の場所との間の往復)を、合理的な経路及び方法により行うことをいい、業務の性質を有するものを除くものとする」と定めています。
また、同条3項は「労働者が、移動の経路を逸脱し、又は移動を中断した場合においては、当該逸脱又は中断の間及びその後の移動は、通勤としないと定めています。
そのため、食事等で長時間にわたって腰を落ち着けたような場合は、逸脱・中断とみなされ、その間およびその後の行為は通勤とは認められていませんでした(昭48.11.22基発第644号)。今回の判決が今後の実務にどのように影響してくるのか、大変興味深いところです。

2007/03/27

平成19年4月号

営業車の駐車違反に関する会社の責任


◆駐車料金の支給がない場合、反則金の支払いは?
社員が営業車でのセールス中に駐車違反で反則金をとられてしまいました。会社は経費節減と称して駐車料金を支給しないため、やむなく路上駐車していました。「反則金は自分で払え」と会社は主張していますが、会社が負担しなくてもよいのでしょうか?

◆改正道路交通法による駐車違反取り締まり強化の柱
1.放置車両の取り締まり事務の民間委託を開始
2.車両の使用者責任を強化。放置違反金の納付命令を可能に
3.放置違反金を納付しなければ、滞納処分も可能に
4.放置違反金を納付しなければ車検が受けられず
道路交通法改正により、昨年6月から駐車違反取り締まりの民間委託が始まり、同時に短時間の車両放置も摘発対象となりました。これにより、短時間駐車している営業車の違反が取り締まられるケースも増加しています。

◆会社負担の放置違反金
違反を摘発しても、運転者が出頭せず、車両である会社も「誰が運転していたかわからない」などと釈明する例が増えているようですます。これでは「逃げ得」という不公平感を助長してしまいます。そこで、運転者が出頭しない場合、使用者に放置違反金の支払いを科すことになったのです。会社に科される放置違反金は反則金と同額です。会社が支払いを拒めば当該車両の車検が受けられなくなり、営業活動への影響も出てきます。
会社は、民法715条により、社員が不法行為をしないよう指導する義務と、不法行為があった場合に代わりに責任を負うこととされています。違反駐車の場合、本来は運転者に支払い義務がありますが、会社が駐車料金を支給しないような場合には、運転者の不法駐車を助長していたともいえそうです。
 
◆今回のケースでは
今回の例では、会社が反則金を負担し、その上で社員が違法駐車をしないよう駐車場を確保してあげることや、駐車料金を支給する仕組みを作ることも求められそうです。
ただ、会社は法令順守の徹底を訴えているのに、社員が駐車違反を繰り返しているような場合は事情が異なります。本人が違反金を支払わない場合や、注意をしても改善しない場合は、懲戒処分や減給処分を受けても、社員は対抗できない可能性があります。
(ポイント)
1.駐車違反で運転者が出頭しなければ、会社に支払い責任の可能性がある
2.会社には、社員が違反をしないルールづくりが求められる



口頭による採用内定に効力はあるか?


◆口頭で「採用する」と言った場合
A社で働く社員が転職先を探してB社の面接を受けたところ、その場で採用担当者から口頭で「採用する。2カ月後には来てほしい」と言われ、A社にすぐ退職届を出しました。しかし、その後B社が「採用するつもりはない」と態度を変えました。社員が内定取り消しとして損害賠償を求めることは可能でしょうか。

◆内定は両者の合意により成立
法律上、内定は、「始期付解約権留保付労働契約」として一定の拘束力を持ちます。一般の解雇よりも基準は緩いですが、合理的な理由なしに契約を取り消すことはできません。
では、どのような状態なら「内定成立」といえるのかですが、一般的に、雇用する側と雇用される側の意思が合致し、両者の合意があったとみなされた時点で内定は成立するとされています。重要なのは、この「合意の有無」であり、口頭での約束か文書かは判断基準ではないとの考えが一般的です。
ただ、口頭での採用の意思表明は、裁判時の証明が難しいという難点があります。その場合は、身体検査の実施や就業規則の交付などが状況証拠になるといえます。

◆新卒採用と中途採用で違いは?
また、新卒採用と中途採用では合意の判断に若干違いがあります。新卒の場合、試験や面接を経て夏頃までにいったん採用が決まっても、多くの場合、内定通知書の受け渡しや誓約書への署名などの手続きは10月ごろに行われます。
新卒者は何社もかけもちで就職活動を行い、いくつか内定をもらった中から進路を選ぶことが前提のため、誓約書への署名などの前段階で示される企業側の採用の意思表示は「内々定」として一連の手続き後の内定よりは法的な拘束力が緩いといえます。
一方、中途採用の場合は、通常、何社もかけもちで内定を取ることは考えにくいので、企業から採用の意向を示された時点で両者の合意が形成されたとみなされ、内定が成立するといえます。企業の人事権者が、「採用します」、「○月○日から来てください」などと伝えた場合は口頭でも合意が成立したといえるでしょう。
ただ、紹介者などその企業の人事権者以外から伝えられた採用の意向は、内定とは認められません。また、賃金などの条件が話題に上がっていた場合に、それが折り合わないままでは合意があったとは言い切れないでしょう。



出張先で飲酒中のケガは労災の対象になる?


◆出張先の反省会で酒を飲み転倒!
泊まりがけで出張した社員が、夜、上司と反省会と称して飲酒していたところ、酔って転んでケガをしてしまいした。お酒を飲んでいたとはいえ、出張中の行為であるため、労災と認められるのでしょうか。

◆労災認定のポイント
労働者が負傷や死亡した場合、労災になるか否かはまず労働基準監督署長などが認定します。認定されず、異議があれば処分取り消しを求める行政訴訟とすることも可能です。
 労災保険法などの解釈によると、労災認定の可否は、「業務遂行性」(労働者が労働契約に基づいて事業主の支配下にある状態かどうか)、「業務起因性」(業務と傷病との間に相当因果関係が存在するかどうか)の観点から判断されます。

◆出張中は通常よりも業務性の範囲が広い
飲酒時の労災が認められるかは、どの程度「業務遂行性」があるかで異なります。通常の就業日であれば、飲酒が業務性を帯びるのは、会社が費用を負担した接待や、出席が義務付けられた会合などに限られます。それ以外は上司との飲酒でも業務性が認められる可能性はほとんどないといえます。
しかし、出張中は仕事後の飲酒でも通常業務より業務性が認められるケースが広がります。出張では全般的に事業主の支配化にあると考えられ、食事など現地で必要な行為も同様です。宿舎内での飲酒や、飲食施設がない宿舎から近所へ出かけて飲酒した場合も業務中と認められる可能性は高く、上司が同行しているかどうかは問われません。

◆裁判例では
1993年の福岡高裁判決では、出張中に宿泊施設内で同僚と飲酒し酔って階段で足を踏み外し、頭部を強打して死亡した会社員の事例を労災と認定しました。「宿泊施設での飲酒は慰労と懇親の趣旨であり、出張に伴う行為」と判断されました。
一方で、出張時でも事故原因が業務と無関係なら労災と認められないケースもあります。
1999年の東京地裁判決は、出張先での送別会で泥酔し一度宿舎に戻った後、近くの川で、全裸で水死しているのを発見された会社員の事例で、「事故は自らの意思で外出した結果で、業務起因性がなく労災とはいえない」と判断しました。
出張中は、通常より広く業務性が認められ、宿舎で普通に飲んでのケガであれば原則として労災と認められる可能性も高いですが、仕事から逸脱した状態では労災と認められない可能性が高いといえます。



パート労働者に健康保険も適用か?


◆厚生年金と健康保険の両保険適用を検討
現在、パート労働者に対して厚生年金の適用を進める際に、健康保険制度への加入も同時に進めることが検討されています。
年金の場合は、保険料が増えれば加入者が将来受け取る年金が増額されるため、パート労働者からは比較的理解が得やすいといえますが、健康保険の場合、保険料が増えても医療サービスの内容や自己負担額には変わりはなく、負担が増えるだけなので、具体化に向けた議論はかなり難航する可能性がありそうです。

◆負担保険料は年額約55,000円
新たな保険料の負担を強いられるのは、サラリーマンの妻が多く、パート勤務で年間120万円稼いでいる場合、健康保険料の負担は年間55,000円程度になるとする試算結果を厚生労働省は出しています。厚生年金保険料と合わせると、給与から控除される金額が増額され、パート労働者にとっては収入減につながります。
また、厚生年金保険の適用条件を、現行の労働時間の週30時間以上から週20時間以上に広げる検討もなされており、労働時間そのものを減らすパート労働者が出てくる場合も考えられそうです。

◆保険料負担が減る世帯は
夫婦が2人ともパートやアルバイト等の非正社員で、国民健康保険に加入している場合は、健康保険加入により、保険料が減額になる場合があります。国民健康保険にはない制度を受けることができるようになる上に、1年間の保険料も、世帯で約33,000円減額になるとする試算が出ています。

◆健康保険加入で受けられるサービス
被扶養者としてサラリーマンの健康保険に加入している場合に比べると、いくつかの給付等のサービスが増えます。私傷病等で仕事を休業する場合には「傷病手当金」を申請することにより収入の約60%の休業補償を受けることができ、また、女性の場合は「出産育児一時金」に加えて「出産手当金」が、産前・産後休業の期間受け取れます。育児休業をしている期間には、保険料の免除もあり、いくつかメリットもあります。

2007/02/27

平成19年3月号

派遣社員の事前面接が可能になる?

◆「事前面接」解禁を検討
厚生労働省は、派遣社員の雇用ルールである労働者派遣法を改正し、派遣会社から人材を受け入れる際に企業が候補者を選別する「事前面接」を解禁する方向で検討に入ったようです。
もし実現すれば、企業にとっては候補者の能力や人柄を見極めたうえで派遣社員の受け入れを決められるようになり、雇用の自由度が高まります。派遣会社が選んだ候補者の受け入れを企業が拒否でき、新たな人材を求めることができるようになるのです。

◆現行制度では「事前面接」禁止
現行の労働者派遣法では、派遣社員の定義は「企業から仕事や技能の希望を聞いた派遣会社が人を選び、企業に派遣する雇用形態」とされており、一時的に発生した仕事を片付けてもらう臨時雇用という発想が前提となっています。
しかし、企業が経費削減のために安易に正社員を派遣社員に代えることのないよう、事前面接など派遣労働者を選ぶ行為を禁じています。

◆背景には雇用形態の多様化
ここ数年で雇用形態が多様になり、派遣社員の待遇も改善し正社員との区別がつきにくくなってきたことが、事前面接解禁検討の背景にあります。企業側が「職場の調和を重視するうえでも、どんな人が派遣されるのかわからないのはおかしい」と主張していることも大きな理由の1つです。

◆派遣社員にもメリット
現在でも「顔合わせ会」、「職場見学会」などと称して派遣候補者に事前接触するケースもあるようですが、非公式なため、派遣会社が示した候補者を断りにくいのが実状のようです。
事前面接が認められるようになれば、派遣候補者も職場環境や雇用条件などを具体的にチェックできるといったメリットがあります。しかし、企業が人材を選別する結果、「年齢が高い」、「性格が合わない」などといった勝手な理由で仕事に就けなくなる派遣希望者が出てくる可能性があり、「企業が派遣社員の採用を増やし、正社員採用を減らす」と懸念する声もあります。



1年変形制における年休取得日 通常賃金の計算方法?
◆年休取得日の賃金は?
1年単位の変形労働時間制を導入し、1日の所定労働時間が異なる場合は、年休取得日の賃金として、その日に予定された時間分を支払わなければならないのでしょうか。

◆年次有給休暇に対する賃金の支払方法
年次有給休暇に対する賃金の支払方法としては、次の3種類があります。
1.平均賃金
2.通常の賃金
3.健康保険法に定める標準報酬日額に相当する金額
このうち、どの支払方法によるかは当事者の自由とされています。しかし、あるときは上記1.の方法をとり、別のときは2.の方法をとるなど、社員が年次有給休暇を取得する都度、使用者が恣意的に選択することは認められません。
1.または2.の支払方法をとる場合は、採用した支払方法を就業規則その他これに準ずるものにあらかじめ定める必要があります。また、3.の支払方法をとる場合には、三六協定の場合と同様に過半数労働組合(ない場合には労働者の過半数代表者)と書面協定を結んで、就業規則に定めておく必要があります。

◆「通常の賃金」による支払いの場合
パートタイム労働者などの時間給制による労働者の通常の賃金の計算方法については、「時間によって定められた賃金は、その金額にその日の所定労働時間を乗じた金額」であることが定められています。
また、1年単位の変形労働時間制の場合で、時間給制による労働者の年次有給休暇の賃金を通常の賃金の方法によって支払う場合については、「各日の所定労働時間に応じて算定される」とされています。
したがって、パートタイム労働者が、年次有給休暇を取得した日に4時間の所定労働時間が設定されていれば4時間分の賃金を、6時間の所定労働時間が設定されていれば6時間分の賃金を支払わなければなりません。
一方、正社員のような完全月給制の労働者に対して1年単位の変形労働時間制が実施されているケースでは、年次有給休暇取得日に通常の賃金を支給する場合は、年次有給休暇取得日の所定労働時間が長い場合も短い場合も月給額をそのまま支払うことになります。



「毎月勤労統計調査」2006年分の結果は?
◆賃金について
2006年の1人当たりの平均月間現金給与総額は、規模5人以上の事業場で前年比0.2%増の33万5,522円となりました。
現金給与総額のうち、所定内給与は0.3%減の25万2,810円、所定外給与は2.5%増の1万9,790円、特別に支払われた給与は1.1%増の6万2,922円となっています。物価変動の影響を除いた実質賃金指数は0.6%減と2年ぶりに減少しており、企業業績の好転が賃金上昇に結び付いていない実態を裏付けた格好になりました。
企業規模別にみると、従業員数30人以上の企業が0.8%増となった一方、5~29人では1.1%減となり、小規模企業ほど賃金が抑えられています。

◆労働時間について
2006年の1人当たりの平均月間総実労働時間は、規模5人以上で前年比0.5%増の151.0時間でした。
総実労働時間のうち、所定内労働時間は0.3%増の140.3時間、所定外労働時間は2.6%増の10.7時間となっています。
総実労働時間を就業形態別にみると、一般労働者は0.7%増の170.1時間となり、パートタイム労働者は0.3%減の94.8時間となりました。

◆雇用について
2006年の常用雇用の動きをみると、全体では事業所規模5人以上の事業場で前年比1.0%増え、3年連続の増加となりました。一般労働者は0.9%増、パートタイム労働者は1.4%増です。
パートタイム労働者は残業時間が1.8%増に留まる半面、所定外給与は6.6%伸びています。労働需給のひっぱくにより、時給が上昇傾向にあるためとみられています。
主な産業別にみると、製造業1.0%増、卸売・小売業0.4%増、サービス業1.6%増となっています。

2007/01/30

平成19年2月号

定期健康診断の受診は個人の自由!?
◆定期健康診断は受けないとダメ?
会社員が忙しさにかまけて、勤務先の会社で年1回実施している定期健康診断を受けなかったところ、「受診を拒否すると減給などの処分もあり得る」と会社側から言われました。定期健康診断を受けるかどうかは個人の自由ではないのでしょうか。

◆事業者には「実施義務」、労働者には「受診義務」
労働安全衛生法66条は、企業の健康診断について事業者には実施を、労働者には受診を義務付けています。
(労働安全衛生法で定められている定期健康診断の主な項目)
1.既往歴および業務歴の調査
2.身長、体重、視力、聴力の検査
3.胸部エックス線検査および肝機能検査
4.尿検査
5.貧血検査、血中脂質検査、血糖検査
※本人の承諾なしに法定検査項目以外の検査をすると、プライバシー侵害が問われることもあります。

◆拒否なら懲戒処分も可曝J働安全衛生法は労働者に対する罰則規定は設けていませんが、事業者や産業医が再三受診を促しても強硬に拒否した場合、事業者はその労働者を懲戒処分にすることも可能です。具体的には、出勤停止未満の処分が一般的で、けん責や戒告、重ければ減給になる可能性もあります。
懲戒処分にするかどうかの裁量は事業者側にありますが、衛生や健康問題に特別配慮すべき職場以外では、健康な労働者が定期健康診断を受診しなかったという理由だけで、雇い主が処分した事例はほとんどありません。しかし、業務に支障をきたすような症状が出ているのに、会社からの受診命令を拒んだ場合は、健康回復努力義務違反とみなされる場合もあります。
労働安全衛生法66条5項は、事業者が指定した医師の健康診断を受けることを望まない場合は、他の医師の診断を受け、結果を証明する書面を会社に提出してもよいとしています。しかし、労働者が選択した医療機関の受診結果について事業者が疑問を持つ合理的理由がある場合は例外とされています。定期健康診断のポイントは、1.事業者には健康診断の実施義務、労働者には受診義務があること、2.受診拒否は健康回復努力義務違反になる場合もあることだといえます。


日本・ベルギー間の社会保障協定締結
◆日本とベルギーの年金加入期間の通算が可能に
2007年1月1日から、「社会保障に関する日本国とベルギー王国との間の協定」が発効され、日本とベルギーの年金加入期間が通算できるようになりました。
主な内容は以下の通りです。
1.日本の年金加入期間が25年未満の人については、ベルギーの年金加入期間を通算して25年以上の場合、日本の老齢年金を受けることができる。
2.ベルギー国外に住んでいる人でも、日本に住んでいる場合または日本国民の場合、ベルギー年金を受け取ることができる(ベルギー障害給付は除く)。
3.協定発効前にすでにベルギーの年金を受給していた人でも、申請により日本の年金加入期間を通算することで、ベルギーの年金額が高くなる場合がある。
4.ベルギー年金の申請が日本の社会保険事務所または共済組合の窓口で行
うことができるようになった。

◆ベルギー年金の受給について
ベルギー年金は、原則として男性は65歳、女性は64歳から受給することができます。ただし、ベルギーと日本の年金加入期間が35年以上ある人は60歳からの受給が可能です。
ベルギー年金は、通常申請月の翌月から年金が支給されるため、申請が遅れた場合でも支給開始日が遡及することはありません。ただし、協定発効日にベルギー年金の受給権を満たす人は、2008年12月までに申請された場合に限り、2007年1月分から年金が支給されます。

◆社会保障制度二重加入の解消
日本の事業所に勤務する人などが、ベルギーにある支店や駐在員事務所などに派遣される場合、これまでは両国の社会保障制度に二重に加入しなければならないことがありましたが、協定により、いずれか一方の社会保障制度のみに加入することになりました。
派遣される期間によって免除される社会保障制度が異なります。
<派遣期間が5年を超える場合>
日本からベルギーへ派遣される人:日本の年金・医療保険免除
ベルギーから日本へ派遣される人:ベルギーの年金・医療保険・労災保険・雇用保険免除
<派遣期間が5年未満と見込まれる場合>
日本からベルギーへ派遣される人:ベルギーの年金・医療保険・労災保険・雇用保険免除
ベルギーから日本へ派遣される人:日本の年金・医療保険免除


厚生年金保険料の上限引上げを検討
◆安定した給付を目指す
社会保障審議会年金部会は、公的年金制度の改正に向けた議論を開始しました。
少子・高齢化が年金財政に与える影響を検証し、年金給付の安定を図るため、保険料体系や加入対象者などについて幅広く見直しがなされることとなります。

◆検討される課題
課題の1つとして、厚生年金保険料の上限引上げが挙げられています。
現在、厚生年金保険料は月収に応じて最高30等級(標準報酬額62万円)となっています。これ以上月収があったとしても、それ以上の保険料は徴収されません。この等級の上限を引き上げることによって、高所得者からの保険料徴収を増やし年金財源の増収を見込んでいます。
また、現在、働いていて一定以上の収入のある高齢者を対象として、年金給付を減らす制度がありますが、その対象者を増やしたり、働いている間は給付を止めたりすることによって給付を抑制する案も検討課題として挙げられています。
その他、国民年金加入年齢の見直しも検討課題となっています。現在は20歳から59歳までとなっている加入年齢を25歳から64歳に引き上げる案なども検討されています。

◆財政の確保
これらの制度変更により財政の安定化を図る理由は、2004年度の年金改革で5年ごとに保険料と給付額を改正する仕組みがなくなったことにあります。少子高齢化の進展具合に合わせて自動的に給付を抑制する代わりに、保険料の引上げスケジュールは原則として変更しないことになっています。
しかし、2004年度の年金改革で給付等の試算をした数字のベースは、50年後の合計特殊出生率(1人の女性が生涯に生むとされる子供の数)を「1.39」としていましたが、最近の新しい推計人口では、「1.26」にまで落ち込んでいますので、出生率や賃金上昇など最近の傾向を反映した年金財政の試算を発表し、年金財政の健全化を進め、国民の不安を和らげる方向をとっていくようです。


診療報酬の「定額制」を導入へ
◆75歳以上の外来患者も対象に
厚生労働省は、75歳以上のお年寄りの外来診療について、医師の治療を1カ月に何回受けても医療機関に支払われる診療報酬を一定にする「定額制」を導引する方針を固めました。寝たきりの在宅患者への往診など高齢者向け医療の一部ではすでに定額制が導入されていますが、これを外来医療へと拡大して医療費の抑制を図る考えです。
2004年度の75歳以上の医療費は9兆214億円で、医療費全体の28%を占めますが、高齢者に対し必要度の高くない医療が過剰に行われているとの指摘もあります。
こういった現状を改善する狙いの「定額制」ですが、患者の受診機会の制限につながる可能性や、医療機関がコストを下げようと必要な医療まで行わなくなる危険性もあり、今後、適用する疾病の範囲や条件を慎重に検討する方針です。

◆「定額制」を診療報酬体系の基本方針の柱に
2006年の医療改革で、75歳以上を対象にした保険制度を2008年度に創設することが決まっており、外来診療の定額制導入はその柱となります。厚生労働省は2007年3月までに診療報酬体系の基本方針を出す予定で、社会保障審議会の特別部会で1月から本格的に検討を始める予定です。
患者は高血圧や心臓病、関節障害など特定の慢性疾患の医療機関をあらかじめ選びます。そこで一定回数以上受診すると、それ以上は何度受診して投薬や検査を受けても医療機関が健保組合から受け取る報酬は定額とされる方法などが検討される見込みです。

◆現在の診療報酬の問題点
現在の診療報酬は個別の診察や検査、投薬について細かく料金が設定され、それを積み上げて治療費が決まる「出来高払い」が基本です。患者に多くの治療を行うほど医療機関の収入が上がる仕組みで、高齢者の外来医療では「過剰な診療で医療費の増加や病院・診療所のサロン化を招いている」との指摘もあります。


雇用対策法・パートタイム労働法の改正法案
◆通常国会に提出予定の改正法案
厚生労働省は、次期通常国会に雇用対策法、パートタイム労働法の各改正法案を提出する予定です。それぞれの内容は以下の通りです。

◆雇用対策法
目的に「働く希望を持つすべての人の就業促進」が追加され、同法4条1項において、若者、女性、高齢者、障害者等の就業促進や地域雇用対策について、様々な施策の充実を図ることを国の重要な施策として位置付ける方針です。
また、外国人労働者については、事業主の努力義務に外国人労働者の雇用管理の改善および再就職の促進を加えるとともに、公共職業安定所への外国人雇用状況報告制度の義務化を規定します。

◆パートタイム労働法
今回の改正では、従来の労働条件の明示、均衡処遇の確保、通常の労働者への転換等の対策をさらに進めるものです。具体的な方向として、労働条件の明示については、労働基準法において義務付けられている事項に加え、昇給、賞与、退職金の有無を明示した文書の交付を義務付けます。また、助言・指導・勧告をしても履行しない事業主には、過料を新設する考えです。
通常労働者との均衡ある待遇の確保については、通常の労働者と職務、職業生活を通じた人材活用の仕組み、運用等および就業の実態が同じであるパートタイム労働者に対しては、パートタイム労働者であることを理由として差別的取り扱いをすることを禁止します。
また、賃金は、職務、意欲、能力、経験、成果等を勘案して決めることを努力義務化し、賃金決定方法についても、通常労働者と共通にすることを努力義務とします。その他、教育訓練の実施と福利厚生の利用機会も与えなければいけないこととし、通常労働者への転換の推進に向けた措置も講じなければならないこととします。