2011/10/01

10月の事務所便り

「節電期間」の終了で企業の対応は?


 ◆9月9日に制限令が解除
 政府が東北電力と東京電力の管内で適用していた「電力使用制限令」が、9月9日に解除されました。制限令が発出されたのは実に37年ぶりのことであり、期間中、企業には原則として15%の節電義務が課され、大きな影響を受けた企業も少なくないでしょう。
 この制限令の解除を受け、各企業はどのように対応しているのでしょうか?

 ◆3パターンの対応
 制限令の解除を受けた企業の対応としては、主に下記の3パターンがあるようです。
(1)通常の状態に復帰する例
 ・工場における夜間操業を通常操業に復帰(製造業)
 ・電気を落としていた売場の照明を震災前と同様に(百貨店)
(2)節電対策を継続する例
 ・作業スペース削減などによる節電対策を継続(製造業)
 ・自宅や外出先でのテレワークを継続(機器メーカー)
(3)節電対策を強化させる例
 ・節電型の自動販売機の設置を拡大(飲料メーカー)
 ・店舗内に太陽光発電や蓄電池を導入(薬局)

 ◆サマータイム制のメリットは?
 上記からもわかる通り、「省エネ」や「経費節減」のため、節電対策を継続する企業は意外に多いようです。
 また、始業時間と終業時間を早める「サマータイム制」を導入した企業のうち、今秋以降も継続を検討するところがあるようです。
 その理由として、「仕事の密度が高まることにより、残業の削減ができた」ことを挙げる企業の担当者がいました。また、社員にとっても「帰宅後に家族と過ごす時間が増えた」「自分の時間が確保でき、自己研鑽の時間を多く持つことができた」といった大きなメリットがあるようです。


トラブルが増加している「定年後の再雇用」

 ◆多岐にわたるトラブル内容
 定年後の再雇用(継続雇用)をめぐるトラブルが増えているようです。
 トラブルの内容は「再雇用基準の有効性」「再雇用の有無」「再雇用の更新基準」「再雇用後の雇止め」など、多岐にわたります。

 ◆65歳までの雇用確保措置
 2006年に施行された「改正高年齢者雇用安定法」では、従業員の65歳までの雇用確保措置について
(1)定年制の廃止
(2)定年年齢の引上げ
(3)継続雇用制度の導入
のいずれかを義務化(ただし暫定措置等あり)しました。
 そして多くの企業では、(3)の継続雇用制度のうち「再雇用制度」の導入を選択しているのが実状です。

 ◆裁判例は「労働者有利」の傾向に
 前記の通り、「再雇用基準の有効性」「再雇用の有無」「再雇用の更新基準」「再雇用後の雇止め」をめぐるトラブルが増えていますが、近年、労働者側に有利な裁判所の判決が相次いで出されています。
 昨年2月、再雇用制度の導入に必要な労使協定が存在しなかったことなどから、「制度導入を定める就業規則は手続要件を欠いており無効」と判断され、労働者としての地位が確認され、賃金の支払いが会社側に命じられたケースがありました(横浜地裁川崎支部)。
 昨年3月には、会社側の一方的な再雇用の拒否が違法であると判断され、会社側に550万円の支払いが命じられています(札幌地裁)。

 ◆気持ちよく働いてもらうために
 再雇用制度を導入する場合、法律に違反するものと判断されないよう十分な注意を払うことは当然ですが、それとともに、高年齢者の方に気持ち良く働いてもらいための制度設計・賃金設計や環境づくりも必要となります。


若手社員が感じている「仕事の厳しさ」

 ◆入社1~2年目の社会人を対象にアンケート調査
 レジェンダ・コーポレーション株式会社では、今年7月に「若手社員の意識/実態調査」を実施し、その結果が発表されました。
 2010年4月に新卒で入社した「2年目の社会人」と2011年4月に新卒で入社した「1年目の社会人」を対象に調査を行い、699名が回答しています。
 
 ◆3人に2人が「仕事が厳しい」
 まず、「仕事が厳しいと感じるか」との質問には、65.1%が「感じる」(「毎日感じる」「時々感じる」のいずれか)と回答しており、約3 人に2人が仕事の厳しさを感じているようです。
 入社年数で比較してみると、入社1年目の社員よりも入社2年目の社員のほうが、「仕事が厳しい」と感じる割合が3.8ポイント高い結果となりました。

 ◆多くの若手社員が「知識不足」「能力不足」を自覚
 次に「仕事が厳しいと感じることはどんなことか」(複数回答)との質問に対しては、上位5つは次の通りの結果となりました。
 (1)「自分の知識不足」(63.8%)
 (2)「自分の能力不足」(55.1%)
 (3)「仕事の質の追求」(30.2%)
 (4)「仕事の多さ」(29.3%)
 (5)「仕事の進め方の細かさ」(27.9%)
 以下、「対人関係」(27.6%)、「決まりごと・ルール」(27.6%)、「勤務時間の長さ」(19.0%)などと続いていますが、自己の知識・能力不足を自覚している人が多いようです。

 ◆厳しい環境が若手社員の成長に
 厳しい仕事環境に置かれ、そして試行錯誤しながら様々な経験を積んでいくことで、若手社員は伸びていきます。
 時には厳しく接し、時にはフォローをしてあげながら、若手社員の成長を見守っていきましょう。


違法と判断される不当な「異動・配転」はどのようなものか?

 ◆事件の概要
 先日、上司の行為(取引先の社員を引き抜こうとしていた行為)を社内にある「コンプライアンス窓口」に内部通報したことにより不当な異動(まったく経験のない部署への配置転換)を命じられたとして、現役社員(原告)が勤務先(被告)に異動の無効確認と損害賠償(1,000万円)を求めていた訴訟の控訴審判決がありました。
 東京高裁は「業務とは無関係に異動を命じており、人事権の濫用に該当する」として、原告敗訴とした1審判決を破棄し、異動は無効であるとし、会社と上司に220万円の賠償を命じました。

 ◆不当・違法と判断されるケース
 人事権は広く会社に認められていますが、上記のケースの他、どのような人事異動・配置転換が不当・違法であると判断されるのでしょうか。
 過去の裁判例では、
(1)業務上の必要性が存在しない場合
(2)仮に必要性が存在したとしても他の不当な動機・目的による場合
(3)労働者に対して通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせる場合
 等、特段の事情の存する場合においては、人事権の濫用に該当するとしています。
 なお、(2)でいう「不当な動機・目的」とは、社員を退職に追い込む目的,上司による嫌がらせ目的等が考えられます。

 ◆業務の系統を異にする職種への異動
 この他、業務の系統を異にする職種への異動については、業務上の特段の必要性、当該従業員を異動させるべき特段の合理性があり、これらの点につき説明が十分になされた場合か、本人が特に同意した場合を除いては、会社は一方的に異動を命ずることはできないとした裁判例もあります。
 個々の裁判例は背景にそれぞれ特殊な事情があり、他の同様のケースにもすべて当てはまるわけではありませんが、会社としては、人事異動・配置転換が不当・違法なものと判断されないよう注意する必要があるでしょう。


これからどう変わる?「子ども手当」

 ◆支給額の変更
 現行の子ども手当は、中学生までの子ども1人当たり一律月額1万3,000円ですが、10月以降、3歳未満は15,000円、3歳から小学校卒業までは1万円(第3子以降は15,000円)、中学生は1万円となります。
 
 ◆支給要件を厳格化
 また、子どもの国内居住など支給要件を厳格化することに伴い、すべての対象世帯に市町村への申請を求めるとしています。これまで、新規の受給者は申請を行う必要がありましたが、2009年度まで児童手当を受給していた人は免除されていました。
 申請は10月以降、保護者と子どもの氏名、年齢、養育状況などを記した書面を市町村窓口に提出することになります。未申請の人には支給されませんが、経過措置として来年3月までに手続きを行えば遡って支給されます。
 この他、保護者の同意を条件に給食費を差し引いたうえで手当を支給する仕組み、滞納が問題になっている保育料を手当から天引きできる仕組みの導入も検討されています。

 ◆高所得者は負担増へ
 来年6月分からは新児童手当に所得制限が課され、年収960万円程度を超す世帯への支給は打ち切られます。「児童手当」から「子ども手当」に制度変更した際に見直した扶養控除の縮小はそのままで、0歳から15歳までの年少扶養親族にかかる扶養控除が、今後は所得税・住民税ともに廃止となるため、実質増税となります。

 ◆控除縮小による影響
 働く夫、専業主婦の妻、子ども2人の家庭を想定して、旧制度である児童手当との増減を試算したところ、新制度で恩恵を受けるのは年収500万円程度の世帯だそうです。
 年収500万円以上1,000万円未満程度の家庭では、子どもの年齢や数によっては負担が増えることもあります。年収1000万円の世帯では、新児童手当が受け取れないうえ、控除縮小に伴う所得税と住民税の増額が重くのしかかることになります。


「在宅勤務制度」導入とワーク・ライフ・バランス

 ◆「節電対策」で導入が増加
 節電対策の一環として「在宅勤務制度」を導入した企業が増えましたが、制度導入を契機に「ワーク・ライフ・バランス実現」や「危機管理対策」に繋げようとする企業も多いようです。

 ◆導入事例とメリット
 大手損害保険会社では、本社の社員約3,000人のうち裁量労働制で働く社員約1,500人を対象に、夏季限定で導入しました。また、人事部や経営企画部などでも、1人あたり月1~2回限定で順番に在宅勤務を行ったそうです。この他、システム系の部署ではこの夏ほとんどが在宅勤務という人もいたようです。
 制度導入の大きなメリットの1つに、通勤時間分を家族との時間に充てられることが挙げられます。子供を初めて幼稚園に送った男性は「妻の苦労がわかった」と言います。

 ◆労務管理の難しさ
 民間調査会社が夏季電力の使用削減量15%以上を目指す企業(約4,000社)を対象に実施した調査によれば、節電対策として在宅勤務制度を導入した企業は約60社だったそうです。
 労働時間管理などの労務管理の難しさもあり、二の足を踏む企業が多かったのですが、導入した企業では「仕事に集中できる」「通勤ストレスから解放される」など、前向きな意見が多く聞かれました。

 ◆効果的な制度活用
 企業の在宅勤務制度導入に関する指導を行う会社では「震災をきっかけにワーク・ライフ・バランスを進める企業がより増える」と見ているようです。震災や計画停電に直面し、どこでも仕事ができる環境の強みを企業が痛感したためです。
 これまで在宅勤務制度は、主に育児等の理由で出社できない社員に対する福利厚生制度として位置付けられることが多かったようです。今後は育児だけでなく介護に直面する社員も増加するため、ワーク・ライフ・バランスを実現する手段として在宅勤務制度は有効なものとなるでしょう。


介護事業所における人手不足と安全衛生面の課題

 ◆「就業意識実態調査」から
 ヘルパーなどの介護従事者でつくる「日本介護クラフトユニオン」が発表した「2011年度 就業意識実態調査」の結果によると、介護職場においては、人手不足に加え、職員の安全衛生面(ケガや健康)なども大きな課題となっているようです。

 ◆職種で異なる人手不足感
 この調査によると、職種別の人手の不足感(「大いに不足している」「やや不足している」の合計)が高いのは、上から順に「訪問介護員」(月給制組合員で78.3%、時給制組合員で58.8%)や「施設系介護員(入所型)」(同71.7%、62.0%)、「施設系介護員(通所型)」(同61.5.%、57.3%)、「看護師」(同68.2%、55.4%)となっています。
 一方、「ケアマネージャー」(同54.8%、45.5%)や「生活相談員」(同49.6%、43.6%)、「事務職」(同54.9%、52.7%)、「サービス提供責任者」(同42.6%、39.4%)などでは「妥当である」との回答が多く、職種により大きな違いがあることがわかりました。

 ◆人手不足が長時間労働に繋がる
 人手不足が、職場での様々な問題の原因になっています。
 例えば、今年3月の労働日数および時間数を尋ねたところ、訪問系管理者で25日以上働いた人は27.5%で、労働時間数は平均199.42時間に上っています。
 人手不足が管理職員の長時間労働問題に繋がっている様子がわかります。

 ◆安全衛生面にも大きな課題
 仕事が原因の健康問題について、約40%の人が「ある」と回答をしています。症状別にみると、「腰痛」「肩こり」のほか、「イライラする」「頭痛」「よく眠れない」など、メンタル面の問題を抱えている人も多いようです。また、「感染症胃腸炎」や「疥癬」などの感染症を訴える人もいました。
 このように様々な問題を抱える介護事業所ですが、人手不足の抜本的な解決策が必要となっているようです。


出産後の女性社員に対する企業独自の支援策

 ◆法律上の支援だけでは不十分
 育児休業制度が定着し、女性にとって出産は仕事を続けるうえでの障害ではなくなりつつあります。
 しかし、仕事にも子育てにもやりがいを持って働き続けるには法律上の支援策だけでは十分とは言えません。企業にとって、出産後の女性社員の活用は重要な課題となっています。

 ◆休業期間が長期化の傾向
 厚生労働省の「雇用均等基本調査」によると、2010年度の女性の育休取得率(出産者に占める育休取得者の割合)は83.7%であり、出産をきっかけに退職する女性は減っているようです。
 休業期間は長期化の傾向にあり、63.1%の人は10カ月以上取得しており、産前産後休業を含めると1年以上は職場を離れてしまうため、企業では、キャリアの中断が復職後の働き方に影響しないよう工夫する必要があります。

 ◆懇親会で先輩からアドバイス
 育休取得者が増加し、5年前と比較して倍増した企業では、育休を気兼ねなく取れるようになった一方、復職後の働き方に悩むケースが出ています。そこで、無理なく仕事に復帰できるよう、育休中の社員のために、すでに職場復帰しているワーキングマザーを交えた懇親会を開いているそうです。
 
 ◆モチベーション維持のために
 その他、産前産後休業や育休で空白期間が生じたとしても、「ゼロ査定」とはせずに休業直前の評価を据え置くことで、昇給・昇格が遅れることを防止し、職場復帰後もモチベーションを維持して仕事に取り組んでもらえる仕組みをつくる企業もあるようです。


海外での公的な社会保障制度の活用

 ◆海外での制度活用
 仕事や旅行で海外に滞在しているときであっても、公的な社会保障制度を活用できます。病気やけがをした際に医療費の一部が払い戻される仕組みや、年金保険料を日本と外国で二重払いしなくてもよい仕組みがあるなど、使える制度は幅広くなっています。

 ◆海外滞在中の医療費をどうするか
 海外での病気やけがへの備えとしては、損害保険会社が取り扱う任意加入の「海外旅行保険」がありますが、公的保険にも「海外療養費支給制度」というものがあります。  
 これは、滞在先の医療機関において治療を受けた際の医療費を全額自己負担した後、加入する健康保険に所定の書類を提出申請し、支給が決定すれば申請者が指定する日本の金融口座に医療費の7~9割が振り込まれ、一部払い戻しされる制度です。
 ただし、この制度は実際に負担した医療費の大半を賄えるとは限らないため、医療費が高額になりがちな海外に渡航する際は、実際に支払った費用に基づいて補償する民間の海外旅行保険に加入し、一方で海外療養費の申請書類も事前に準備して、海外旅行保険の適用外の医療行為については同制度を活用することが有効です。

 ◆12カ国と「社会保障協定」締結
 転勤等で海外に赴任する際は、日本だけでなく現地の社会保障制度への加入が義務付けられており、両方に年金保険料を支払う必要があります。
 しかし、外国では加入期間が短く年金の受給資格を満たせないケースが多く、現地の保険料は掛捨てになってしまうことが多くなっています。
 そこで政府は、海外赴任者が日本と外国で二重に年金保険料を支払う問題などを解消するため、諸外国と「社会保障協定」を締結する動きを強めており、2011年1月現在、12カ国と締結済みです。

 ◆締結先によって内容は異なる
 社会保障協定が発効すると、日本か協定締結国のどちらか一方に年金保険料を支払うこととなります。働く予定の期間が5年以内の場合は原則として日本に保険料を納付し、逆に5年超の場合は日本での支払いが免除されます。
 ただし、社会保障協定の内容は協定締結国ごとに異なりますので、注意が必要です。


メンタルヘルス対策 強化の動き

 ◆増加する職場でのストレス
 厳しい労働環境で仕事のストレスが増え、精神疾患を抱える社員の対策が急務になっています。
 昨年、独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)が企業にメンタルヘルスに問題がある社員を抱えているかを調べたところ、57%が「いる」と答え、業種別では「医療・福祉」(77%)と「情報通信業」(73%)が全体の平均を大きく上回りました。

 ◆企業の様々な取組み
 通信大手の企業では、産業カウンセラーなどの資格を有する一般社員が悩みを聞く独自の「サポーター制度」を導入しました。
 社員からすれば産業医や専門カウンセラーは敷居が高く、気軽に相談しづらいこともありますが、このサポーターであれば敷居も低く、いわば“第二の上司”として社員のメンタル面での面倒をみます。結果として、社員数は増えても休職者数はほぼ横ばいにとどまっているそうです。
 最もストレス度が高いとされる医療・福祉業界のある大手企業でも、今年から外部委託のメンタルヘルスサービスの内容を切り替え、約9,000人の社員は無制限で電話でカウンセラーに相談できるようにしたそうです。

 ◆法改正の動向
 厚生労働省は現在、ストレスを抱える社員に対する面接指導などを義務付けるように法制化を準備しているようです。
 定期健康診断の際に「ひどく疲れた」「憂鬱だ」といった簡易なストレス症状の判断テストを全社員に実施し、かなりのストレスを抱えている状態であれば健康診断を行った医師が社員に知らせ、社員は事業者に医師の面接指導を希望します。
 これは従来、長時間労働者のみがストレス診断の対象だったものを、すべての労働者に広げるもので、早ければ今秋の国会に関連法案を提出するようです。

 ◆職場前提の課題を取り除く必要
 こういった面接指導などの取組みと合わせ、企業がメンタルヘルスの問題を未然に防ぐためには「働き過ぎ」「コミュニケーション不足」など、職場全体の課題を取り除く必要があるのではないでしょうか。