改正安衛法案に盛り込まれている
「ストレスチェック」実施による企業への影響
◆改正法案の内容
今国会で成立する見込みの「改正労働安全衛生法案」ですが、その主な内容は次の通りとなっています。
(1)化学物質管理のあり方の見直し
(2)ストレスチェック制度の創設
(3)受動喫煙防止対策の推進
(4)重大な労働災害を繰り返す企業への対応
(5)外国に立地する検査機関等への対応
◆「ストレスチェック制度」の概要
上記(1)~(5)のうち、最も注目されている項目は(2)の「ストレスチェック制度の創設」ですが、その内容は次の通りです。
・労働者の心理的な負担の程度を把握するための、医師・保健師等によるストレスチェックの実施(希望者のみ)を事業者に義務付ける。ただし、従業員50人未満の事業場については当分の間努力義務とする。
・ストレスチェックを実施した場合には、事業者は、検査結果を通知された労働者の希望に応じて医師による面接指導を実施し、その結果、医師の意見を聴いたうえで、必要な場合には、作業の転換、労働時間の短縮その他の適切な就業上の措置を講じなければならないこととする。
◆改正法案成立に伴う企業への影響
改正法案が成立した場合、企業にはどのような影響があるのでしょうか?
まず、ストレスチェックは健康診断の際に行われることが想定されるため、健診項目が増えることにより健診にかかる費用がアップする(企業の負担が増える)ことが考えられます。
また、今まで潜在化していた従業員の精神疾患(うつ病など)がストレスチェックの実施を契機に顕在化することも考えられますので、これらの従業員への対応(労働時間の短縮、担当業務の見直し、休職制度の適用、労災申請への対応等)が迫られる可能性もあります。
いずれにしても、施行日(ストレスチェック制度の創設については「公布から1年6カ月」)に向け、対応を検討しておくことが必要だと言えるでしょう。
「非正規社員の正社員化」の動きと「限定正社員」
◆小売、流通、外食を中心に増加
先日、衣料専門チェーン「ユニクロ」を運営する株式会社ファーストリテイリングが、現在約3万人いるパート社員・アルバイト社員のうち、半数以上の約1万6,000人を今後2~3年かけて正社員に登用していくことを発表したとの報道がありました。
同社以外にも、流通業や外食産業などにおいて、大手企業を中心に「正社員化」の動きが広がっているようです。
◆「正社員化」のねらい
この「正社員化」の広がりの背景には、以下のような企業の思惑があるようです。
・「経験豊富な非正規社員のノウハウを活用したい」
・「待遇改善によって優秀な人材を定着させたい」
・「景気回復の影響による人材不足状態を解消したい」
・「社員のやる気をアップさせて業務の質を高めたい」
◆「限定正社員」の活用
なお、ファーストリテイリングでは、勤務地限定(店舗限定)で働くことができ、雇用期間に定めのない「限定正社員」の仕組みを取り入れるとのことです。
この「限定正社員」は、正社員と非正規社員の中間に位置する雇用形態であり、勤務地の限定のほか、職種・職種や労働時間などを限定するものもあり、最近では「多様な正社員」や「ジョブ型正社員」などとも呼ばれています。
現在、「限定正社員」の仕組みを積極的に取り入れていこうとする政府・厚生労働省の動きがありますが、何らかの「限定」があることにより、通常の正社員よりも待遇(賃金水準)が低く設定されることが一般的です。
◆「限定正社員」に対する懸念
限定正社員には、育児や介護が必要なため「自宅の近くでしか働けない」「長時間は働けない」等、正社員として働くことに何らかの制約のある人に対して「正社員」の道を開くメリットがあるとされています。
しかし、「賃金を低く抑えるための口実として使われる」「通常の正社員よりも解雇されやすい」などといった懸念の声も挙がっています。
詐欺罪に問われることも!
助成金(両立支援助成金)の不正受給事例
◆「不正受給」に該当するケースとは?
助成金の支給申請に際して、事実通りに申請してしまうと助成金を受給できなかったり、期待した額の助成金を受給できなかったりするため、存在しない書類や実態と異なる書類を作成・提出して助成金を受給しようとすることは「不正受給」に当たります。
実際に助成金を受給しない場合であっても、申請するだけで不正受給になるため注意が必要です。
以下では、厚生労働省から発表されている「両立支援助成金」の不正受給事例をご紹介します。
◆不正受給事例(1)
事業主Aは、助成金の申請にあたり「事業所内保育施設の建設に要した費用の領収書の写し」の提出が必要でしたが、助成金に詳しい外部者から「他の事業主はみんなこのようにかしこくやっている」と助言を受け、建設会社に依頼して実際に支払った金額よりも高額な額面の領収書を発行してもらい、本来受給できる金額より多額の助成金の支給を受けました。
後日、会計検査院の調査において不正の事実が判明して指摘を受けたため、事業主Aは助成金を全額返還するとともに、雇用関係助成金の3年間の支給停止決定を受けました。
さらに、労働局により詐欺罪(刑法246 条:10 年以下の懲役)で刑事告発され、警察の捜査を受けて書類送検されました。
◆不正受給事例(2)
事業主Bは、助成金の申請にあたり「対象労働者の出勤簿の写し」の提出が必要でしたが、もともと出勤簿を作成していませんでした。
このため、助成金に詳しい外部者が出勤簿を作成し、その写しを添付して支給申請しましたが、記載内容が実際の出勤状況と違うことが判明したため、事業主Bの助成金は不支給となり、雇用関係助成金の3年間の支給停止決定を受けました。
「コンプライアンス違反」で倒産する企業の特徴
◆増加する“コンプライアンス違反倒産”
粉飾決算や脱税、偽装などのコンプライアンス違反は、今や企業の存続すら危うくしてしまう可能性のある重大事項となっています。
先日、帝国データバンクから、コンプライアンス違反が原因で倒産(=コンプライアンス違反倒産)した企業について調査・分析した結果が発表されました。
この調査は2005年度から実施されており、この調査で判明した2013 年度における「コンプライアンス違反倒産」(負債1 億円以上の法的整理のみ)は、過去最多の209件(2005年度は74件、2012年度は200件)となりました。
◆違反の類型別に見ると…
主なコンプライアンス違反の類型は次の通りです。
(1)粉飾(52件)
(2)業法違反(33件)
(3)資金使途不明(22件)
(4)不正受給(17件)
(5)雇用(16件)
上記のうち、「不正受給」には助成金や介護報酬などの不正受給が含まれ、「雇用」には主に労働基準法違反が含まれています。
また、業種別に見てみると、上位から「建設業」(56件)、「サービス業」(43件)、「製造業」(34件)、「卸売業」(29件)、「運輸・通信業」(28件)の順となっています。
◆コンプライアンス違反の影響
コンプライアンス違反は、多額の金銭的影響(課徴金の納付、第三者委員会の調査費用等)がある他、消費者や取引先へ与える影響も多大です。
財務基盤が弱い企業、顧客離れが大量発生した企業については、これらの影響により簡単に倒産することがあり得る時代なのだと言えます。
4月以降の労働・社会保険事務で留意すべき改正点
◆労働保険関係
育児休業給付の支給率(休業前の賃金に対する給付割合)が、休業開始後6カ月の間は、50%から67%に引き上げられます。
また、教育訓練給付金が拡充され、厚生労働省の指定講座を受ける場合の支給額が受講費用の2割から4割に引き上げられ、資格取得等のうえで就職に結びついた場合はさらに受講費用の2割を追加支給します。
また、再就職後6カ月以上職場に定着することを条件に、離職前の賃金よりも再就職後の賃金が下がった場合には、再就職手当の他に就業促進定着手当(上限あり)が支給されます。
この他、特定理由離職者等の失業等給付の給付日数に関する暫定措置が、3年間延長されました。
◆年金保険・企業年金関係
2014年度の国民年金保険料は15,250円です。
また、2014年度の年金額は、0.7%引き下げられて64,400円となり、4月分の年金が支給される6月から変わります。
さらに、4月1日以降に妻が死亡した父子家庭にも遺族基礎年金が支給されることとなった他、産休期間中の保険料免除制度が4月からスタートし、この対象となるのは4月30日以後に産休が終了する被保険者です。
この他、厚生年金基金制度の原則10年後廃止を定めた、いわゆる「厚生年金基金見直し法」が4月1日より施行されています。
◆医療保険関係
3月末までに70歳に達している方を除いて、70~74歳の方の医療費の窓口負担が本来の2割負担となりますが、高額療養費の自己負担限度額については据え置かれることとなります。
また、後期高齢者医療の保険料率が改定され、2014年度から2015年度の保険料額は全国平均で月額5,668円(見込)となります。
◆介護保険関係
第2号被保険者が負担する介護保険料が月額平均5,273円(見込)となりますが、実際の保険料額は被保険者の加入する健康保険の種類によって異なります。
20分で8時間分の疲労回復効果!?
侮れない「昼寝」の効用
◆健康づくりのための「睡眠」のポイント
11年ぶりに改定されることとなった「健康づくりのための睡眠指針」では、若年・勤労・熟年の世代別に、年齢等に応じた睡眠のポイントを示しています。
勤労世代については、疲労回復・能率アップのため、毎日6時間以上8時間未満の睡眠を取るようアドバイスしています。睡眠不足が続くと「寝だめ」で回復を図ろうと考えがちですが、効果はないとしています。
また、就業時間中に眠気が生じた場合には、午後早めの時間に30分以内の昼寝をすると作業能率の改善に効果的であるとしています。
◆短時間睡眠「パワーナップ」の効用
「パワーナップ」とは、アメリカの社会心理学者ジェームス・マースが提唱する睡眠法で、時間当たりの睡眠の効用を最大限に引き出す方法とされています。
昼食後、午後3時までの間に20分の仮眠を取ると、8時間寝たのと同じくらいの疲労回復効果があり、その後の作業効率が上がるとしています。
アメリカ海兵隊にも取り入れられるほど浸透しているようで、オーストラリアでもドライバーの疲労による事故リスクを軽減するため、15分ほどのパワーナップを勧めているところがあるそうです。
◆職場で実践する場合のやり方
最も効果的なのは、昼休みの前半にランチを食べ、コーヒーを飲んでから後半に20分の昼寝をする方法です。寝る前にコーヒーを飲む理由は、コーヒーに含まれるカフェインの効果が目覚める頃に現れるようにするためです。
寝る時の姿勢は、椅子にもたれるか机に突っ伏すのが良いとされています。横になるとすぐに深い眠りに落ちてしまい、20分で起きるのが難しくなってしまうからです。
そして、最も重要なのは「20分」という時間を守ることです。昼寝時間が長くなると深い睡眠に入ってしまい、起きることが難しくなってしまいますし、夜の睡眠にも悪影響が出てしまいます。
睡眠不足が続いて疲れを感じるというときには、ぜひ試してみてください。
大学生・大学院生が「働きたい組織」の特徴は?
◆アンケート調査の結果から
株式会社リクルートキャリア:就職みらい研究所から、「働きたい組織の特徴」に関するアンケート調査の結果が公表されました。このアンケートは、2015年3月卒業予定の大学・大学院生(34万7,992人)を対象に行われました(回収数9,363人)。
大学生(全体)の働きたい組織の特徴は、「コミュニケーションが密で、一体感を求められる」「仕事と私生活のバランスを自分でコントロールできる」「ウェットな人間関係で、プライベートも仲が良い」「安定し、確実な事業成長を目指している」「周囲に優秀な人材が多く、刺激を受けられる」などの回答が多くを占めたとのことです。
◆属性別の特徴
属性別の特徴は次の通りです。
・大学生(男性・文系)⇒「全国や世界など、幅広い地域で働く」「評価の良し悪しによって給与が大きく変化する」などの価値観が特徴。
・大学生(男性・理系)⇒「これまでの経験(学業など)を活かして成長できる」「経営者主導で事業運営が行われている」などの価値観が特徴。
・大学生(女性・文系)⇒「評価の良し悪しによって給与があまり変化せず、安定的な収入が得られる」「これまでの経験(学業など)とは無関係に、ゼロから学べる」などの価値観が特徴。
・大学生(女性・理系)⇒「これまでの経験(学業など)を活かして成長できる」「評価の良し悪しによって給与があまり変化せず、安定的な収入が得られる」などの価値観が特徴。
・大学院生(全体)⇒「これまでの経験(学業など)を活かして成長できる」「企業固有の技術や商品、ブランド、ノウハウなどが強みとなっている」「歴史や伝統がある企業である」「全国や世界など、幅広い地域で働く」などの価値観が特徴。
◆今年の新入社員は“自動ブレーキ装置”タイプ
日本生産性本部から発表された平成26年度の「新入社員の特徴」は、「頭の回転は速いものの、困難な壁はぶつかる前に未然に回避する傾向がある」とし、“自動ブレーキ装置”タイプと命名されました。
何事も安全運転の傾向があり、人を傷つけない安心感はあるが、どこか馬力不足との声もあるようですが、安心感と刺激が得られる環境の中でこそ力を発揮できるのは、どんな時代にも共通していることなのかもしれません。
今年度の「是正指導・勧告」のポイントは?
◆前年度の申告事案の概要(東京都)
平成25年における東京労働局管内の労働基準監督署に対する申告(違反事実の通告)事案の概要が公表されました。
〔申告事案件数〕
申告受理件数は、過去10年で最少の5,051件まで減少(対前年比:▲592件、▲10.5%)しましたが、依然として労働基準法に定める最低労働基準の確保に問題が多く認められます。
〔申告内容〕
賃金不払と解雇が全体の多くを占め、賃金不払が4,210件(同:▲533件、▲11.2%)、解雇が830件(同:▲93件、▲10.1%)でした。
〔業種別件数〕
上位から、「商業」(1,232件)、「接客・娯楽業」(1,031件)、「その他の事業」(938件)でした。
東京労働局では、今後の対応として、申告事案については、労働基準法等に違反するとして労働者が労働基準監督署に救済を求めているものであることから、引き続き申告・相談者が置かれた状況に配慮のうえ、迅速・的確に処理を行うとしています。
◆是正指導・勧告のポイントは?
このような状況を受け、東京労働局の平成26年度行政運営方針では、賃金不払や解雇等の申告事案について、優先的に監督指導等を実施するとしています。
また、労働条件の確保として、有期契約労働については労働契約締結時の「期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項」の明示、「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」に基づく雇止めの予告等について厳しくチェックを行うようです。
また、労働者派遣法の改正に伴い、派遣元・派遣先・職業紹介事業者等に対し、厳正な指導監督を実施するとしています。内容は「日雇派遣の原則禁止」や「マージン率等の情報提供の義務化」、「関係派遣先への派遣割合制限」等が中心のようです。
自社の対応状況について、改めて確認をしておきましょう。
ハローワークの求人票に苦情多数! 厚労省が対策強化
◆7,000件以上の苦情
ハローワーク(公共職業安定所)で公開している求人票の記載内容が、実際の労働条件とかけ離れているという苦情が多いようです。
いわゆる「ブラック企業」が社会問題となっている昨今、求人票との食い違いがブラック企業への入り口になっているとの指摘を受け、厚生労働省が平成24年度に全国のハローワークに寄せられた申出について調査したところ、求人票の記載内容と実際の労働条件が異なるといった申出が7,783件に上ったそうです。
◆どんな苦情が多かったか?
求人票の記載内容に関する求職者からの申出・苦情等の具体的な内訳を見てみると、「賃金に関すること」(2,031 件)、「就業時間に関すること」(1,405 件)、「選考方法・応募書類に関すること」(1,030 件)が上位を占めました。
その他にも、「雇用形態」「休日」「社会保険・労働保険」に関することなどについての苦情も多かったようです。
◆厚労省が相談を呼びかけている事例
厚生労働省では、ハローワークで公開している求人票の記載内容が実際の労働条件と大きく違っていた場合には、「ハローワーク求人ホットライン」で相談を受け、事実確認のうえ、会社に対し是正指導を行っていくとのことです。
具体的に同省が相談を呼びかけている事例としては、「面接に行ったら求人票より低い賃金を提示された」、「採用の直前に求人票にはなかった勤務地を提示された」、「『あり』となっていた雇用保険、社会保険に加入していない」などが挙げられています。
◆記載内容をめぐる具体的な対策
これらの状況を踏まえ、今後は以下の対策を行い、求人票の記載内容の正確な把握に努め、求職者の期待と信頼に応えられる職業紹介・就職支援を行っていくそうです。
(1)ハローワーク求人ホットライン(求職者・就業者専用)の開設
(2)ホットラインへの申出について事実確認と必要な指導などを徹底
(3)申出の集計・分析を行い、未然防止策の検討・実施に活用
中小企業における「賃金」と「雇用」の状況は?
◆中小企業のほうが賃金改善に前向き?
帝国データバンクが発表した「2014年度の賃金動向に関する企業の意識調査」の結果によると、賃金改善を見込んでいる企業の割合は46.4%(前年度比7.1ポイント増)で、2006年の調査開始以降、最高の見通しとなったそうです。
賃金改善が「ある(見込みを含む)」と回答した割合は、意外にも大企業よりも中小企業のほうが高く、47.6%でした。
改善内容については、「ベースアップ」(34.0%)、「賞与(一時金)」(27.8%)が上位を占めましたが、こちらも中小企業のほうが割合は高く、「ベースアップ」(35.5%)、「賞与(一時金)」(28.2%)となりました。
◆3社に1社は給与水準アップ
また、日本政策金融公庫総合研究所が行った「全国中小企業動向調査」の結果では、正社員の給与水準(2013年12月時点)を前年同月と比較し、「ほとんど変わらない」と回答した企業の割合が64.2%で最も多かったのですが、「上昇した」と答えた企業の割合も34.1%ありました。
賞与についても、「ほとんど変わらない」と回答した企業の割合が56.0%で最も高かったのですが、「増加」と答えた企業も29.3%ありました。
賃金総額(2013年12月時点)の前年同月比は、「増加」と答えた企業の割合が46.0%、「ほとんど変わらない」が43.8%でした。
◆約3割の企業で正社員が増加
次に、従業員数(2013年12月時点)の前年同月比は、正社員では「変わらない」と答えた企業の割合が51.4%、「増加」と答えた企業の割合は31.5%でした。
正社員が増加した理由を見ると、「将来の人手不足に備えるため」が47.3%でトップ、「受注・販売が増加したため」(36.3%)、「受注・販売が今後増加する見通しのため」(28.9%)が続きました。
一方、正社員が減少した理由については、「退職者・転職者があったが人員補充できなかったため」が64.6%でトップ、「受注・販売が減少したため」(17.2%)、「もともと人員が過剰だったため」(9.9%)が続いています。