2008/03/31

4月の事務所便り

異動の季節 業務引継ぎを円滑に進めるには?

 すっかり春めいてきました。フレッシュな新入社員がやってくる時期であるとともに、異動の時期でもあります。部署を異動する人、担当替えとなる人は、後任者に業務を引き継ぐことになりますが、この引継ぎがうまくいかないと、社内だけではなく取引先などにも迷惑をかけるおそれがあります。引継ぎを円滑に進める極意はないものでしょうか?

◆上手に仕事内容を伝達する
 引継ぎは、これまで携わってきた仕事内容や仕事の進め方を後任者に伝達することです。後任者が困らないように、上手に伝達することが求められます。後任者に伝えたいのは、まずは1週間などの一定時間軸でのおおまかな仕事の流れで、取引先との商談中によく出る話題や取引先が気にする点などの情報も重要です。
後任者に伝達する際のコツは、1度に伝えるのは話したいことの8割程度にとどめること。1度にすべてを話しても、伝わりにくかったり、後任者の理解が追いつかなかったりするためです。仕事を引き継いだ後、後任者から疑問や質問が寄せられたときに随時対応したほうが効率的です。
営業担当などの場合、資料の引継ぎや取引先の紹介などに十分な時間が割けないこともあるでしょう。短時間でおおまかなことしか伝達できない場合は、過去の付き合いや取引の経緯などを優先的に伝えることが大切です。
また、名刺なども含め、付き合いの中で得た情報は、後任者が仕事しやすいように提供するのが原則です。相手先の特徴、現在の仕事の進捗状況などについては、後任者だけでなく、社内の上司にもきちんと伝えます。上司が後任者のサポート役に回ることが多いからです。

◆業務のマニュアルやバイブルを作成する
 会社組織には異動が付きものですが、仕事を引き継ぐ側も引き継がれる側も、本来の業務の傍ら、引継ぎ業務を十分にできるとは限りません。そこで、仕事のやり方を誰にでもすぐ伝えられるように、日頃から業務のマニュアルやバイブルを作っておくのが効率的です。これらには、普段の仕事の流れや相手先の特徴、必要とされる知識、業界の最新動向などをまとめておきます。

◆引継ぎ後にフォローを入れることも大切
 業務を引き継いだ後、後任者が困ったときなどは、自分の新しい業務に支障が出ない範囲で後任者を手助けすることも必要です。例えば、担当を外れた後、かつての取引先と出会ったときなどにフォローを入れておくことは、後任者にとってありがたいものです。
なお、担当を外れた後に、取引先との付き合いが仕事を超えたものに発展することは問題ありませんが、そこでの付き合いで仕事に関係する話が出たら、後任者にきちんと伝えるなどの配慮が必要です。

 障害年金の受給に立ちはだかる高い壁

 「年金は老後のためだけではありません」。これは、国が若年層への公的年金加入を呼びかける際のうたい文句となっています。実際、ケガや病気で障害を負った人を対象とする障害年金は、現役世代でもお世話になる可能性のある年金です。
しかし、制度の認知度が低いためか、請求漏れが起こりやすく、請求後も受給の可否や金額をめぐって思わぬ壁にぶつかるケースも多いようです。

◆申請主義ゆえの問題点
 18歳の時に交通事故により右足膝下を失い、30歳になってから障害年金の障害等級2級に該当することを知り、申請をした。
こんなケースを想定してみましょう。年金の時効は5年ですから、20~25歳までに受給できたはずの年金利益を取り戻すことはできません。逸失利益は、2級792,100円の5年分で、約400万円に達することになります。
公的年金は「申請主義」ですが、老齢年金では58歳には「年金加入記録のお知らせ」、年金が受け取れる年齢には「裁定請求書」が届くなど、保険者からの注意喚起があり、報道等によりその存在は広く認知されてきています。しかし、障害年金にはこのような仕組みもなく、制度の存在を知らない障害者が多いといわれています。
障害年金の対象自体はかなり幅広く、視力や聴力はもちろん、精神や肢体の障害、内臓疾患まで含まれます。また、腎不全で人工透析を受けている人やがん患者なども受給できる可能性があります。
公的福祉サービスを受ける際に必要な「身体障害者手帳」の等級とは、基準が異なることにも注意が必要です。対象自体が幅広いゆえに、請求漏れを起こしているケースも多いものと思われます。

◆あいまいな等級認定と医師の不慣れに問題も
 公的年金の中でも、適切な書類を準備し、適宜申請するのが最も難しいのが障害年金だといわれています。
障害年金の場合、初診日の証明が重要なポイントになりますが、医師法上のカルテ保存期間は5年であるために、病院を転々とした人などは記録が廃棄されていて初診日の証明ができないことがあります。
また、等級認定は、視力と聴力以外は基準があいまいで、判断する人によってぶれやすいといえるほか、主治医が障害年金の請求に不慣れで認定の根拠となる診断書に重要事項の記入漏れなどのミスをしてしまっているケースも少なくありません。
これらのことを考えると、障害年金を正しく受給するうえで重要なポイントになってくるのは以下の点でしょう。
・診察券など、初診日の根拠となるものをきちんと保管すること
・申請者側が診断書の隅々まで目を通し、確認すること
・事前によく情報を集め、不本意な裁定を受けても簡単に受給をあきらめないこと

 リース会計の基準の改正が企業に及ぼす影響は?

 平成19年度の税制改正で、新しいリース取引に係る税務上の取扱いが規定されました。これにより、平成20年4月1日以降、リースに関する会計基準が変更になります。
この改正は、一般報道等ではあまり注目されていません。ところが、今後の企業経営に大きく影響する可能性があるようです。

◆リース会計基準改正が持つ意味
 リース取引は、中途解約ができる「オペレーティング・リース取引」と、中途解約できない「ファイナンス・リース取引」に分類されます。さらに後者は、いずれ所有権が移転する「所有権移転ファイナンス・リース」と、移転しない「所有権移転外ファイナンス・リース」に分けられます。
どちらのファイナンス・リースも、固定資産を購入したときと同様に、貸借対照表にリース資産とリース債務を計上し、損益計算書では減価償却費と支払い利息相当額を費用として落とす、いわゆる売買処理が原則的な処理方法になります。
ところが、現行、所有権移転外ファイナンス・リースにおいては、原則の売買処理のほかに、例外処理として賃貸借処理が認められています。この例外処理は日本国内では非常に多く利用され、とても“例外”と呼べる状況ではないのです。この処理は、「投資家等から財務状況が見にくい」「違う会計基準を採用していることにより、財務諸表の比較がしにくい」「国際的には所有権移転外ファイナンス・リースについては売買処理を行っており、国際的な比較がしにくい」など、多くの問題点が指摘されていました。
そこで、今回の改正により、この例外処理が廃止され、ファイナンス・リースについては、一律、売買処理が適用されることになるのです。

◆改正後の影響と対応策
 リース取引の中でも、所有権移転外ファイナンス・リースは、「設備投資時に多額の資金を必要としない」「事務処理が簡単」などの理由から、日本国内では多く利用されています。しかし、今回の改正を受け、今後は貸借対照表上にリース資産・リース債務が計上されるため、自己資本比率の低下などが起こります。
また、リースにするか、借入金で購入するかは、財務諸表上での違いはほとんどなくなり、購入資金を銀行から借りるかリース会社から借りるか、といっただけの差になってしまうともいえます。企業としては、設備投資を行う際、貸借対照表に及ぼす影響や資金繰り、その他のリスク等を考慮したうえで、購入にするのか、リースにするのかを検討していかなくてはならないでしょう。
今後は、毎年引き上げられる社会保険料や、度々引き上げられる雇用保険料等ばかりではなく、今回のリース会計基準改正のような税制面の細かい改正も念頭に置いておかなくてはなりません。そのうえでの総合的な資産管理が、先を読む企業経営には必要なのかもしれません。

 “名ばかり管理職”問題-マクドナルド判決のその後

◆マクドナルド判決後の同社関連の動き
 日本マクドナルドが直営店の店長を管理職とみなして残業代を支払っていないのは違法だとして、埼玉県内の男性店長(46歳)が未払い残業代など約1,350万円の支払いを求めていた訴訟において、1月下旬に東京地裁は「店長の職務内容から管理職とはいえない」として同社に約755万円の支払いを命じる判決を下し、新聞やテレビなどで大きく報道されました。
その後、マクドナルドの元店長3人が残業代の支払いを求めて東京地裁へ提訴することも明らかとなっており、さらには別の元店長数人も訴訟提起を検討しているとのことで、今後同様の動きが広がっていけば、約1,700人の店長を抱えている同社の経営に大きく影響を与えかねないと思われます。

◆他の業界でも制度見直しの動きが
 他の業界でも、上記判決の影響を受けてか、様々な動きがみられました。
2月上旬に、コンビニエンスストア最大手のセブンイレブン・ジャパンは、管理職と位置付けている直営店の店長に対して3月から残業代を支払う方針を示しました。大手小売業や外食業で制度を見直したのは、マクドナルドに残業代の支払いを命じた東京地裁の判決後、初めてのことだそうです。
また、2月下旬には、東日本でレストランチェーン店を運営するカルラも、店長の職務内容を洗い直して管理職から外し、手当等を変更して残業代を支払うことを決定しました。これもマクドナルド判決を受けたものとみられており、同社以外にも追随する外食企業が出てくる可能性があるかもしれません。

◆まだまだ出てくる!?「名ばかり管理職」「偽装管理職」
 労働者や労働組合の権利擁護活動を行っている日本労働弁護団(http://homepage1.nifty.com/rouben/)では、2月中旬に「名ばかり管理職」(十分な裁量や手当がない肩書きだけの管理職)に関する電話相談を初めて実施したところ、1日だけで130件以上の相談が寄せられたそうです。「管理職なのに部下がまったくいない」「高卒1年目ですぐに管理職にさせられた」「遅刻をすると減給されてしまう」「管理職候補だという理由だけで残業代が支払われない」などといった事例があったようです。
「名ばかり管理職」「偽装管理職」の問題はたいへん根が深く、まだまだ終わらないようです。

 今年度から新設される助成金関連情報

◆非正社員の正社員化を支援する「中小企業雇用安定化奨励金」
 厚生労働省は、中小企業によるパート社員・契約社員・派遣社員などの正社員化を支援するための助成制度を今年度から開始することを明らかにしました。非正社員は、今や働く人の3人に1人まで増加し、正社員との待遇格差が問題となっています。同省では、雇用の安定化を図りたいとしています。
この助成制度の名称は「中小企業雇用安定化奨励金」(仮称)です。4月の時点で従業員が原則300人以下の中小企業を対象としており、非正社員を正社員化する制度を就業規則に盛り込み、実際に正社員化すれば35万円が支給されるものです。さらに、正社員になった人が3人以上出た場合、10人を限度に1人につき10万円が支給されます。
また、同省では、非正社員の待遇改善に向けた指針の策定や、日雇い派遣の規制強化を含む労働者派遣法の改正も検討するとしています。

◆長時間労働の是正などを図る「職場意識改善助成金」
 厚生労働省は、労働時間等の設定の改善(過重労働の是正、年次有給休暇の取得促進等)に向けた職場意識の改善に積極的に取り組む中小企業に対して、「職場意識改善助成金」を創設する方針を明らかにしました。
中小企業が、職場の意識改善を図るために「職場意識改善計画」(実施体制の整備、職場意識改善の措置、労働時間等の設定の改善のための措置を盛り込むことが必要。実施期間は2年間)を策定し、効果的に実施したと認められる場合に、総額で150万円支給されるものです。
なお、支給される中小企業は、以下のいずれかに該当するものです。
・資本金の額または出資の総額が3億円(小売業またはサービス業を主たる事業とする事業主については5,000万円、卸売業を主たる事業とする事業主については1億円)以下である事業主
・常時使用する労働者の数が300人(小売業を主たる事業とする事業主については50人、卸売業またはサービス業を主たる事業とする事業主については100人)以下である事業主

 相次いで明らかになった残業代不払いの事例

◆ミズノは18億円以上の不払いが発覚
 残業代不払いの疑いで是正勧告を受けて社内調査に乗り出していたスポーツ用品大手のミズノは、従業員約2,000人に対する残業代の不払いが、過去2年間で合計18億6,000万円あったと3月初めに発表しました。
同社では「労働時間改善委員会」を設置して勤務時間を適正に把握する体制を整えるほか、不払い分の残業代を3月の給与振込み時に一括で支払うとしています。

◆近畿大学は1億円不払いで書類送検
 近畿大学は、2007年1月から半年間にわたって事務職員の残業代不払い(総額約1億円)を続けていたとして、同大学と元人事部長が労働基準法違反容疑で大阪労働局に書類送検されました。
不払いは元部長の独断によるものだったとされていますが、同大学が2003年にも是正勧告を受けていることから刑事責任を問うべきだと判断され、法人にも罰則を科す両罰規定が適用されました。

◆いっこうになくならないサービス残業
 厚生労働省の発表によると、2006年度に労働基準監督署からサービス残業があったとして是正指導を受けた企業数(その支払額が1企業当たり合計100万円以上となったもののみ)は1,679社で、対象労働者数は182,561人、支払われた残業代は総額で227億円1,485万円(企業平均1,353万円、労働者平均12万円)となっています。企業数は前年度比155社増で過去最高でした。
なお、1企業当たり1,000万円以上の支払いが行われた企業数は317企業(全体の18.9%)、対象労働者数は120,123人(全体の65.8%)、支払われた合計額は181億5,200万円(全体の79.9%)です。
是正指導が繰り返し行われているにもかかわらず、サービス残業はいっこうになくなっていないようです。

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