2009/12/02

12月の事務所便り

 「改正入管法」成立で企業への影響は?

 ◆不法滞在者の減少なるか?
今年7月8日、現在、国内に約13万人いるとみられる不法滞在者の減少等を目的とした「出入国管理及び難民認定法」の改正案が可決・成立し、7月15日に公布されました。
外国人を雇用している企業、これから雇用しようと考えている企業に影響のある改正項目もありますので、ぜひとも押さえておきたいところです。

 ◆新たな在留管理制度の導入
現在、3カ月以上日本に在留する外国人は、外国人登録を行ったうえで「外国人登録証明書」(2008年末時点で約222万人が所有)を携帯しなければなりませんが、改正により、これに代わって「在留カード」が導入されることになりました。日本に中長期間にわたって在留する外国人には、このカードの携帯義務が課されます。
「在留カード」には、氏名、国籍、居住地などのほか、「外国人登録証」には記載の必要がなかった「就労制限の有無」や「資格外活動許可を受けているときはその旨」も記載が必要となります。一般企業にとっては、就労が可能な在留外国人であるか否かを判断しやすくなるというメリットがあります。
また、住居地情報を市区町村に届け出なければならなくなります。さらに、一定の在留資格を有している外国人は、勤務先企業等の情報を入国管理局へ届け出る必要もあります。そして、企業にも、受け入れた外国人情報を国に提供する努力義務が課されます。
公布から3年以内に施行の予定です。

 ◆新たな在留資格(技能実習)の創設
これまで批判の多かった「研修・技能実習生」の見直しも行われ、原則として、座学実習のみの場合は「研修」という在留資格となりますが、実務研修(OJT)を伴うものについては「技能実習」という在留資格が新たに新設されました。 この「技能実習」の中には、(a)「講習による知識習得活動」・「雇用契約に基づく技能等習得活動」と、(b)(a)の活動に従事し、技能等を修得した者が雇用契約に基づき習得した技能等を要する業務に従事する為の活動が含まれます。
上記(a)のうちの「雇用契約に基づく技能等習得活動」と、(b)の活動には、労働基準法や最低賃金法等の労働関係諸法令が1年目から適用されることとなりますので、注意が必要です。
公布から1年以内に施行の予定です。

 ◆その他の改正項目
 その他、「適法な滞在者の在留期間の上限延長(3年から5年)」、「1年以内の再入国に関して原則として許可不要」などについても定められました。


 ハローワークにおける「雇用支援ワンストップサービス」

 ◆「緊急雇用対策」の目玉
政府が10月23日に公表した「緊急雇用対策」の中の1つに、「雇用支援ワンストップサービス」というものがあります。新聞報道によれば11月下旬からサービスがスタートするとのことです。
ハローワークに確認しても、「詳しい手続き等はまだ明らかになっていない」とのことでしたが、一体どのようなサービスなのでしょうか?

 ◆どのようなサービスか?
この「雇用支援ワンストップサービス」は、ハローワークにおいて「職業の紹介」や「生活資金の貸付け」、「住宅手当の支給」「就業の支援」(働きながら介護資格を取得できるようにする)などの複数の手続きについて、失業者が一括して行うことのできるサービスです。
これまでは、これらの複数の手続きを別々のところに申請しなければなりませんでしたが、ハローワークの職員、自治体(福祉関係)の職員、社会福祉協議会の職員などが一体となって、失業者等に対して雇用を支援するためのサービスを行います。

 ◆今後の状況
まずは都市部(東京都、愛知県、大阪府など)のハローワークにおいて試験的に実施され、年内は12月29日・30日も開庁するとのことです。そして、利用状況をみながら、年末年始にかけて実施都市、実施日を増やしていくことが検討されています。
最近は完全失業率に若干の改善がみられますが、9月に厚生労働省から発表された「非正規労働者の雇い止め等の状況」によれば、2008年10月~2009年12月までに実施済み(または実施予定)の非正規労働者の雇い止め等は、全国4,127事業所で計23万8,752人となるなど、まだまだ厳しい雇用環境が続いています。
このワンストップサービスの実施により、昨年末に大きく報道された「年越し派遣村」の再来を防ぐことが期待されています。


 「仕事」と「家庭」の優先度合いはどちらが高い?

 ◆厚労省が調査結果を発表
近年、「ワーク・ライフ・バランス」の重要性が叫ばれていますが、「人口減少社会」が到来する中、労働者が仕事と家庭を両立して安心して働き続けることができる環境を整備することは、国にとっても企業にとってもますます重要な課題となっています。
先日、厚生労働省が民間企業に委託して実施した調査の結果により、仕事と家庭の両立支援(ワーク・ライフ・バランス)をめぐる現状等が明らかになりました。

 ◆現実は「仕事優先」が多数
この調査は「子育て期の男女への仕事と子育ての両立に関するアンケート調査」というもので、未就学の子を持つ男女(男性正社員、女性正社員、女性非正社員、専業主婦)を対象に実施され、4,110件の有効回答がありました。
仕事と家事・子育ての優先度の希望と現実をみると、正社員男性の58.4%、正社員女性の52.3%が「仕事と家事・子育てを両立」させたいと考えていますが、現実としては、男女ともに「仕事優先」(男性74.0%、女性31.2%)の割合が高くなっています。

 ◆帰宅時間の状況、女性の退職理由
また、帰宅時間をみると、関東圏の男性で夜9時以降に帰宅する割合が30.4%となるなど、男性の帰宅が遅い状況が明らかになりました。
妊娠・出産前後に女性正社員が仕事を辞めた理由としては、「家事、育児に専念するため自発的に辞めた」の割合(39.0%)が最も高く、一方で、「仕事を続けたかったが仕事と育児の両立の難しさで辞めた」(26.1%)と「解雇された、退職勧奨された」(9.0%)の合計が35.1%となっています。

 ◆制度の利用しやすさ、勤務形態、短時間勤務
職場の両立支援制度の利用しやすさでは、育児休業制度や子の看護休暇等について、女性のほうが男性より「利用しやすい」と答えた割合が高く、男性の方が「利用しにくい」と答えた割合が高くなっています。
夫の就労時間別に妻が希望する勤務形態をみると、夫の就労時間が長いほど妻の「短時間勤務・短日勤務」を希望する割合が高くなっています(夫の就労時間が「35時間以上40時間未満」の場合25.1%、「70時間以上」の場合43.7%)。
そして、短時間勤務で働いた場合の評価については、「どのように評価されるか知らない」との回答割合が、男性38.6%、女性31.8%と高くなっています。


 厚労省が「労働時間適正化キャンペーン」実施

 ◆11月はキャンペーン期間
厚生労働省は、11月1日から30日までを、昨年同様に「労働時間適正化キャンペーン」期間として定め、長時間労働やこれに伴うサービス残業等の問題解消を図るため、電話相談や啓発等の取組みを実施しています。
キャンペーンの重点事項としては、①時間外労働協定の適正化等による時間外・休日労働の削減、②長時間労働者への医師による面接指導等の健康管理に対する体制の整備、③労働時間の適正な把握の徹底(来年4月1日から施行される改正労働基準法に対応した体制整備も含む)です。

 ◆取組みの背景
この取組みの背景には、平成20年度に行われた各調査において明らかになっている次のことなどあります。
(1)週労働時間60時間以上の労働者の割合が10.0%となっており、子育て世代に当たる30歳代男性では約20%と依然として長時間労働の実態がみられる。
(2)過労死等の事案である脳血管疾患および虚血性心疾患等で労災認定された件数が377件と、過重労働による健康障害が多発している。
(3)全国の労働基準監督署の指導により、不払いであった割増賃金が支払われた事案のうち、1企業当たり100万円以上の支払いがなされた企業数は1,553企業、対象労働者は18万730人、支払われた割増賃金の合計は196億1,351万円となっており、是正指導事案が多くみられた。

 ◆電話による相談も受付け
また、平成20年度の「労働時間適正化キャンペーン」として実施した電話相談に寄せられた相談件数879件のうち、長時間労働に関するものは320件、賃金不払残業に関するものは400件となっており、この問題が非常に大きいことがうかがえます。
キャンペーンの実施事項としては、事業主へのリーフレットの配布、「労働時間相談ダイヤル」による長時間労働抑制等のための電話相談(11月22日実施。フリーダイヤル:0120-897-713)、使用者団体・労働組合への周知・啓発の協力要請などです。


 税制改正で家計への影響は?

 ◆「扶養控除」の廃止・縮小と「給与所得控除」の上限設定
政府税制調査会では、現政権の目玉施策である「子ども手当」や「公立高校の授業料無償化」などの家計支援の実施とバランスをとるため、所得課税の見直しによる増税を模索し始めています。
来年度税制改正の見直し案として浮上しているのが「一般の扶養控除の廃止」、「特定扶養控除の縮小」と「給与所得控除の上限設定」です。

 ◆具体的には?
来年度から支給が始まる予定の「子ども手当」(中学校卒業までの子ども1人あたり月2万6,000円[初年度は半額]の手当)との見合いで、所得金額から扶養親族1人あたり38万円を差し引く「一般の扶養控除」の廃止はすでに固まっています。
また、16歳から22歳の高校生や大学生等の特定扶養親族がいる場合に1人あたり63万円を差し引く「特定扶養控除」は、公立高校の授業料の無償化案に連動して、縮小が検討されています。
さらに、給与収入から一定額を差し引く「給与所得控除」に上限を設けることで、所得税の重要な機能である所得の再分配の効果を高めるとしています。

 ◆増税の負担が重くなる家庭も
これらのことを考えると、成年の扶養家族や大学生・浪人生を抱える家庭では、「子ども手当」や「公立高校の授業料無償化」の恩恵は受けられず、一般扶養控除・特定扶養控除だけが廃止・縮小となり増税は免れないことになります。
特定扶養控除の額を仮に38万円に縮小した場合、高校生の子ども2人がいる課税所得700万円の家庭では、所得税で年間約11万5,000円の負担増に、全廃した場合には約29万円の負担増になるとされています。また、給与所得控除に上限を設ければ、高額所得者はさらに負担が増えるということになります。
雇用や景気に不安が続く中、サラリーマン家庭の増税を急げば、これらの控除見直しに対する反発は免れないでしょう。「子どもを社会全体で育てていく」という考えは必要でしょうが、それに伴う財源の確保については慎重な検討が求められます。


 産業医の選任に対する助成金

 ◆他の事業者と共同での契約も可
常時50人以上の労働者を使用する労働者のいる事業場では、産業医の選任が義務付けられていますが、義務のない小規模の事業場において、産業医を選任して労働者の健康に関する活動を行おうとする事業者を支援する助成金として、「小規模事業場産業保健活動支援促進助成金」があります。
この助成金は、常用労働者数が50人未満の事業場の事業者が、他の事業者と共同または単独で産業医と契約を結び、その産業医に保健指導・健康相談等の保健活動をさせた場合に、その費用の一部を最大3年間補助する制度です。

 ◆「産業医」とは?
産業医とは、医師のうち、日本医師会から産業医の認定を受けた人や、労働衛生コンサルタント試験の保健衛生区分に合格した人等で、労働者の健康管理等を行う人のことです。
産業医の活動としては、「職場の見回りによる作業改善のアドバイス」、「健康診断結果に基づくアドバイスによる労働者の健康管理」、「長時間労働者への面接指導による健康防止対策」などがあります。
その結果、健康に対する労働者の意識が向上したり、生活習慣病の防止が図れたりするなど、快適な職場づくりにつながるといえます。

 ◆快適な職場づくりに役立てる
助成金の額は、労働者の人数に関係なく一定の額です。産業医による保健活動にかかった額(上限21,500円)×活動回数(年4回まで)=年間上限86,000円を3年間受けることができます。
長時間労働による精神疾患や過労死の問題が大きく取り上げられている中、「快適な職場づくり」は社員の定着率を向上させる効果があります。産業医の選任義務のない小規模の事業場において、助成金をうまく活用しながら快適な職場づくりにつなげてもらいたいものです。


 注目浴びる「介護」「グリーン」「地域社会」の3分野

 ◆「緊急雇用対策」の柱
政府の緊急雇用対策本部が、2010年度3月末までに10万人程度の雇用の下支えと創造を目指す「緊急雇用対策」を正式に決定したとの報道がありました。
この対策では、困窮者や新卒者などへの「緊急的な支援措置」と、将来的な成長が見込まれる「介護」「グリーン」「地域社会」の3つの重点分野における「緊急雇用創造プログラム」が2本柱となっています。
この「緊急雇用創造プログラム」では、「介護」「グリーン」「地域社会」の3分野で働きながら職業能力を高める雇用プログラムの推進などに取り組むとしています。

 ◆「介護分野」での雇用創造
介護分野では「『働きながら資格を取る』介護雇用プログラム」が創設されています。具体的には、地方自治体が介護施設に緊急雇用創出事業を委託し、介護施設側は求職者と有期雇用契約を締結、求職者は介護補助の業務を行いながら資格取得のための講座を無料で受講することができるというものです。
契約期間は、ヘルパー2級を目指す場合は1年間、介護福祉士は2年間で、雇入れ期間中の賃金と講座受講料には、委託事業費を充てるということです。
この他、「介護職員処遇改善交付金」の周知を通じた介護職員の処遇改善、ハローワークでの介護求人の開拓の重点実施などからなる「介護人材確保施策の推進」や「介護サービス整備の加速化」も行うとしています。

 ◆「グリーン分野」「地域社会分野」での政策
もう1つの「グリーン分野」とは、農林、環境・エネルギー、観光などを指します。直売所や農産品の地域ブランドの立上げ支援、太陽光発電の施工技術者の育成などが柱となっています。
また、「地域社会分野」では、NPO法人や社会企業家に保育事業を任せるなどの「社会的企業」の活用などが盛り込まれています。
この「緊急雇用対策」を契機として、これらの3分野が注目を浴びていきそうです。厳しい雇用情勢の中、一刻も早い雇用の安定が望まれるところです。


 「父親のワーク・ライフ・バランス応援サイト」開設

 ◆仕事と子育てを両立させるための情報を紹介
厚生労働省は、主に子育て期の男性労働者を対象とした「父親のWLB(ワーク・ライフ・バランス)応援サイト」(http://www.papa-wlb.jp/index.html)を開設しました。
このサイトは、父親も子育てができる働き方の実現に向けて、子育て期における父親の役割、育児休業取得の際の留意点のほか、両立支援に関する制度の概要、子育てにかかる経済的支援制度や各種相談窓口等の紹介など、仕事と子育てを両立させ、相乗効果を生み出すためのヒントがまとめてあります。

 ◆男性のWLBは少子化・労働力減少の改善に
現在、わが国では勤労者世帯の過半数が共働き世帯になっており、女性だけでなく、男性も子育てができる環境作りが求められています。男性の約3割が育児休業の取得を希望している一方、実際の育児休業取得率は1.23%に過ぎず、男性が子育てや家事に費やす時間については極めて低い水準となっています。
男性が子育てに関わることができないことは、男性の希望が叶えられないというだけでなく、女性に家事や子育ての負荷がかかることにより、女性の継続就業を困難にするとともに、第二子以降の出産意欲にも影響を及ぼし、少子化の原因ともなっていると指摘されています。
子育て世帯の「仕事と子育てを両立したい!」という希望に応えるとともに、女性が安心して働き続けるためには、男性の働き方の見直しや子育てへの積極的な関わりを促進させることが必要となっています。

 ◆育児・介護休業法の改正
このような流れを受け、本年6月に「改正育児・介護休業法」が成立しました。改正法では、父親の育児休業の取得促進を目的とした「パパママ育休プラス」や、出産後8週間以内の期間に育児休業を取得した父親に限って育児休業を再取得できる制度の新設、配偶者が専業主婦(夫)であっても育児休業を取得できる制度など、男女ともに子育てや介護をしながら働き続けることができる環境作りを目指した内容となっています。
仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)が実現した社会とは、老若男女誰もが、仕事、家庭生活、地域生活、個人の自己啓発など、様々な活動について、自らが希望するバランスで展開できる状態であると言われています。
男性の子育てへの積極的な参加と、ワーク・ライフ・バランスに対する企業のより一層の支援が期待されます。


 今話題の「介護職員処遇改善交付金」とは?

 ◆支給対象は?
厚生労働省は、「介護職員処遇改善交付金」を積極的に活用するよう求める事務連絡を、介護保険関係団体などに出しました。
この「介護職員処遇交付金」は、介護職員の処遇改善に取り組む事業者に対して、平成21年10月から平成23年度末までの間、計約4,000億円を交付するものですが、平成24年度以降も介護職員の処遇改善に取り組んでいく旨の方針を示しており、引き続き取組みを進めていくとしています。
交付金により賃金改善できる職種は、原則として指定基準上の介護職員、介護従業者、訪問介護員等として勤務している職員が対象ですが、他の職務に従事していても、介護職員として勤務していれば対象となります。ただし、訪問看護など、人員配置基準上、介護職員のいないサービスは対象外となります。

 ◆支給方法は?
この交付金は、介護サービス提供に関わる介護報酬に一定の率を乗じて得た額を、毎月の介護報酬と併せて交付し、事業年度ごとに事業者が提出する実績報告に基づき、余剰金が発生した場合には、その額を返還するものです。
また、交付金事業の年度区分は、当該年の4月から翌年の3月支払い分まで(12カ月間)とし、その交付金の額の根拠となる介護サービスは、原則として、当該年の2月から翌年1月までに提供された介護サービスとなります。
ただし、平成21年度および平成24年度については、交付金支給の始期および終期が異なります。

 ◆申請手続、その他の要件
申請手続は、交付金見込額を上回る賃金改善計画を策定し、職員に対して周知を行ったうえで都道府県に申請を行い、承認が得られれば、介護職員の賃金改善に充当するための資金が介護報酬とは別に毎月自動的に交付されます。
なお、交付金は、原則として申請があった月のサービス提供分から対象になりますが、当初については、平成21年12月中に申請した事業者に限り、10月サービス提供分からさかのぼって交付となります。
このほかにも、労働保険に加入していることや、交付金の対象事業者としての申請日の属する月の初日から起算して過去1年間に、労働基準法、労働安全衛生法、最低賃金法、労働者災害補償保険法、雇用保険法等の違反により罰金刑以上の刑に処せられていないことが支給要件となっています。

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